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「収益化に向けたビジネスの土壌は整った」popInが語るレコメンドエンジンとネイティブ広告市場の未来 [インタビュー]

記事内容に対するユーザーの満足度を測るために、記事の読了状況を計測する「READ」を開発したpopIn。自社製のレコメンドエンジンサービスと合わせてサービスを提供することで、急成長を続けるネイティブ広告市場の囲い込みを図っている。

これら一連の商品・サービスの内容に加えて、レコメンドウィジェット型ネイティブ広告の市場規模やトレンドまたその未来について、popInの取締役を務める向井雄一氏にお話を聞いた。

(聞き手: ExchangeWire Japan 野下 智之)

(ライター: シード・プランニング 長野 雅俊)

レコメンドウィジェット型ネイティブ広告市場はわずか1年で急伸

― 自己紹介をお願いします。

photo12014年9月よりpopInに参画しています。それまではCriteoでリターゲティング広告を扱うデマンドサイドのセールス担当として、広告主様の戦略を立案する業務に携わっていました。その前は、ターゲッティング(現INCLUSIVE)という会社でメディアサイドの収益化支援に従事しています。さらにその前には新卒でリクルートに勤務。popInが4社目となります。

― ネイティブ広告の普及状況についてお聞かせください。

「ネイティブ広告」と一口に言っても実際にはいくつかの異なる形態があり、日本インタラクティブ広告協会(JIAA)の定義では3種類に分けられます。一つがレコメンドウィジェット型で、popInが強みとしているもの。そのほかにインフィード広告や、媒体社様が提供されているタイアップ広告が存在します。レコメンドウィジェット型のマーケット規模は、月15億から20億円ぐらいですね。

― 15億から20億円もありますか?

はい。弊社だけで数億円ほどの規模を持ち、それ以外にもOutbrain、Yahoo!コンテンツディスカバリー、loglyといった競合企業及びサービスがあるので、単純計算すると15億から20億円ぐらいになるでしょう。マーケットはここ1年で4、5倍に成長しているのではないでしょうか。

― 市場が急激に拡大した背景についてお聞かせいただけますか。

出稿サイドのデマンドが増えてきていることに加えて、サプライサイドのメディア様も何かしらのレコメンドエンジンを入れており、サイト内の回遊を増やしつつ、収益を上げたいというニーズが高くなっているのが要因だと思います。ニュースサイトやコラムサイトといった、我々がレコメンドエンジンを提供できる記事型のコンテンツを配信する国内サイトの総計PVが恐らく月間230~250億ほど。そのうちの約150億をYahoo!ニュースが持っていて、残りの約80〜100億をその他のメディアで分け合っている状況だと認識していますが、その中で大手メディアはほぼ何かしらのレコメンドエンジンを入れていると思います。

― ネイティブ広告の効果計測は依然クリックやコンバージョンが中心と見受けられます。

広告担当者の方々が従来の指標を参照している場合、我々から違う指標で見てみましょうといったお話をしても、受け入れられづらい場面は正直まだありますね。だからスピードを重視するならば、今までどおりの指標を使い、クリックやコンバージョンをこれだけ改善しますよといったお話をした方が伝わりやすいということがあるのでしょう。またセミナーや発表資料の場では、クリックやコンバージョンを示した方が受け入れられやすいという面もあると思います。ただ弊社のクライアント様の中には、顧客とのエンゲージメントをいかに高めるかということを考えている企業が既に多数いらっしゃいます。

― 広告の効果計測のトレンドに変化の兆しが出ているということですね。

1、2年前から使われ始めた指標としては、読了率に加えて、ユーザーが特定のサイトの中をどれほど回遊しているか、滞在時間、広告を通じて来たユーザーが1、2週間後に自然検索で来てくれているかどうかを示す再訪率といった形で効果を計測されているクライアント様が多くいらっしゃいます。実際に、単純にバナー広告から連れてきたユーザーと、レコメンドウィジェットが連れてきたユーザーで再訪率やサイト内の回遊率に違いが出ることが多々あります。

― ネイティブ広告の利用法自体も今後変わってきそうですね。

混同しがちなのですが、ネイティブ広告とコンテンツマーケティングは異なる概念で、ネイティブ広告というのはあくまでも広告枠の定義です。一方でコンテンツマーケティングはクライアントが策定するマーケティング活動の基本概念です。この基本概念を取り入れるクライアントは昨今かなり増えてきており、ネイティブ広告の使われ方も今後変わってくるでしょう。今まではネイティブ広告という枠をバナー枠と同じように捉えて、その中に広告のランディング・ページをそのまま配信し、クリック、コンバージョンさせるという使われ方が多かった印象があります。しかし現在はコンテンツマーケティングの一環として、記事閲覧意欲の高いユーザーを自社が作っているコンテンツページへ呼び込みたいというニーズが高まってきており、このニーズとネイティブ広告は非常に相性が良いのです。バナー枠よりも、レコメンドウジェットを通じて特定されたユーザーを自社のコンテンツへと導くという使われ方は今後ますます増えていくと思います。

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【READの管理画面】

― 貴社ではPVの質を計測する指標READを開発されました。どのようなものであるかをお聞かせください。

端的には「記事型コンテンツの閲覧度合いを読了率として数値化したもの」という説明になると思います。どこからどこまでが記事本文であるかを認識し、そして本文が目に見える状態で表示されているかどうか、表示されている情報量に対して正しい時間をかけてスクロールしているかどうかを見ているところが新しいと思います。

― サービス利用対象者はどのような方々ですか。

広告主様自身がコンテンツを作る時代なので、いわゆるオウンド・メディアと呼ばれるタイプのコンテンツと、従来型の媒体社様が作るコンテンツでは見た目も内容も違いません。そのため、両者に対して同一プロダクトを提供している状況です。

― 具体的にはどのような広告主や媒体社が利用していますか?

広告主様の側だとKDDI様や資生堂様からご利用いただき、メディア様では小学館様や ロイター様、メディアジーン様(※)などに使っていただいています。
※READのみの利用

― READは有償で提供しているのですか?

photo2弊社と取引がある企業様は、READを無料で使っていただけます。ただDMPと接続する場合は料金を多少いただいておりまして、実際にそういう使い方をされているクライアント様もいらっしゃいます。弊社で取っている読了率データを、クライアント様が持っているプライベートDMPに返すことでサード・パーティ・データと組み合わせ、次のマーケティング活動に生かしていくといった利用の仕方などが該当します。

― それは広告主側の事例となりますか?

広告主様側です。またはDSPと接続して、ある記事を50%以上読んでいるユーザーにだけターゲット広告を配信するなどの形があります。例えば、まずはあまり広告色の強くない、いわゆるコンテンツとしての記事を広く配信する。その記事を10%しか読まずに離脱したユーザーは、その記事を配信した会社なり、その会社が提供するサービスに興味を示さなかったと判断します。そして、読了率が50%または70%以上のユーザーだけを抽出し、そのユーザーのみにターゲット広告を当てて購入につなげていく、といった使われ方はありますね。一方のメディアサイドの使われ方としては大きく2つ。一つは媒体資料、セールス・シートに入れて、自社のメディアにはこれほどのコアのユーザーがいますよと表現するために使っていただく。例えばPVが100万しかなくても、読了率が平均70%であるとすれば、すごくコアなユーザーがいると示すことができるかもしれません。また各メディアの編集部で読了率の高い記事を書くことができるライターさんを評価するといった変化が出てくる可能性もあります。

― 貴社のソリューションを導入している方はすべてREADをお使いになっているのでしょうか。

レコメンド機能の中にREADが内包されているので、弊社のレコメンドをご利用のメディア様はすべてREADを使っていただいているということになります。そしてREAD単体でのご提供もしており、そちらはより幅広い層に使ってもらっています。レコメンドエンジンを導入していただいているのが大体300社ぐらいで、READのみの提供を含めると400社ぐらいになると思います。

― READだけを利用するという方々は、メディアにも広告主にもいるのですね。

はい。その場合はゲームや音楽のストリーミングサービスでよく見られるフリーミアム・モデルになっていて、READという基本サービスは無料で使えるけれども、レコメンドエンジンを使うときは広告も配信させてください、というモデルになっています。ですので、まずはREADを通してお付き合いさせていただき、その後「実はこんなソリューションもあるんですよ」「レコメンドエンジンを使いませんか」といった提案をするという、その2段階のプロセスを経て顧客を増やしてきました。ただ今ではレコメンドエンジンの会社としての認知度も向上してきたので、最初からレコメンド機能を導入したいという問い合わせの方が増えてきました。

シェア拡大に向けて。全工程にわたるサポートが鍵に

― 今後はどうやってシェアを伸ばしていくつもりですか。

photo3一つは台湾と韓国を皮切りとして始めた海外展開に期待しています。国内においては、コンテンツマーケティングの企画段階からご提案させていただくということに引き続き注力していきたいです。従来は「クライアント様が作ったコンテンツを弊社のネットワークに配信しませんか」というスタンスで各企業様とお付き合いさせていただいていましたが、最近では「そもそもどんなコンテンツを作るべきか」といったご相談が増えてきました。現在はお付き合いのあるメディア様が300以上ありますので、その中からその時々の目的に適した媒体を探し出し、媒体とセットで企業様にご提案することが可能です。このような形でコンテンツマーケティングのより多くの工程でサポートが提供できるという強みを今後伸ばしていきたいと思っています。

― レコメンドィジェット型のネイティブ広告市場は、近々に飽和していくのでしょうか。

今後は広告主側のニーズをどれだけ汲み取っていくかがテーマとなるでしょう。収益性をいかに上げるか、という意味ではマーケットはさらに伸ばすことができると思います。言い換えれば、広告ビジネスを行う上での土壌は既に整ったということ。レコメンドウィジェット型ネイティブ広告は、何といってもネットワークありきのビジネスなので、より多くのメディア様に接続できているプラットフォームに広告主は集まってきます。今後レコメンドィジェット型ネイティブ広告サービス提供企業は、淘汰が進んでいくでしょう。

― 新規のマーケット参入というのはまだありそうですか。

新規参入があるとすれば、インフィード型の事業者が考えられます。レコメンドウィジェット型の参入はもはや難しいと思います。レコメンドエンジンは、メディア様のサイト内の回遊率をコンマ数パーセント単位でいかに改善できるかという世界なので、やはりそこのノウハウは長くやっている分、既存のプレイヤーに強みがあります。後発で参入するのは相当厳しくなってくるのではないでしょうか。

ABOUT 野下 智之

野下 智之

ExchangeWire Japan 編集長   慶応義塾大学経済学部卒。 外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。 2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。 2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。