AI企業のAppierが推進する人知を超えたクロスデバイス・マーケティング【後編】[インタビュー]

AI技術を用いたデジタル・マーケティング施策を展開するAppier。同社のソリューションを使ったクロスデバイスキャンペーンでクリック率を55%向上させたのが株式会社大塚家具だ。今回は、老舗企業がなぜAI技術に注目したのかといった経緯も含めて、同社営業企画部の海老原豊氏と野崎知香氏に話を伺った。

(聞き手:ExchangeWire Japan 長野 雅俊)

自分たちが理解していないユーザーにアプローチ

― 貴社がデジタル・マーケティングを展開する上で、AppierのAI技術に着目した理由は何ですか。

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海老原氏: 我々が獲得できないユーザーにアプローチできる技術であったというのが大きいです。大塚家具の既存のお客様というのは、50、60代の方々が多い。この年齢層の方々にご評価いただいているのは非常にありがたいのですが、一方で家具は毎日のように買い替えるものではないので、常に新規顧客の獲得が命題となります。ただその新規顧客となるべき若い年代の方々は、大塚家具に対して敷居が高いと認識しているということを我々も肌で感じていたのです。大々的なウェブマーケティングを実施する上で、少ない可能性にアプローチするというのは非常に難しい。そこで弊社がまだ理解しきれていないユーザーに対して、AIの技術を駆使してアプローチできるというところにメリットを見出しました。

新しい層を取り込むために、例えばバナー広告の配信を通じてインプレッションを追求していくという方法もあるとは思うのですが、費用対効果という意味では疑問符が付きます。またそのバナーを通じて弊社サイトにリンクいただいても直帰率が非常に高いということを既に経験しています。もしかすると無駄なクリックを発生させているに過ぎないのかもしれないと以前から感じていたのですね。

野崎氏: 最初はGoogleやYahoo!のバナーの代わりになるものとして検討を始めました。今でもGDNやYDNを利用してはいるのですが、やはり細かい部分のチューニングには人の手が回らないところもあるということで、AI技術の活用についての話が出始めたと記憶しています。

海老原氏: 我々としてはやはりお客様に実際に来店していただき、弊社のファンになっていただく、商品をご購入していただく、というのが最終的なゴールになるのですが、通常のバナー配信だと結局のところ誰がクリックしているのかが分かりにくいという悩みを抱えていました。個人の特定までいかなくても、年代、性別、興味・関心といったある程度の状況がつかめて、なおかつ我々が想定したターゲットとの検証ができれば良いのにという思いはありましたね。

最初はデジタル事業内の小さな試み

― AI技術は学習期間を要するため、成果が出るまでに一定の時間がかかるとも聞きますが、貴社では短期で結果を出すことは求めていなかったのでしょうか。

海老原氏: これまで弊社では、新聞やチラシを始めとする紙ベースのプロモーションに比重を置いてきました。デジタル広告に比べて、紙媒体に投下する額というのは桁違いに大きい。Appier様のソリューション導入も、あくまで比重の小さいデジタル領域における小さな試みという位置付けであり、社内でそれほど高い関心を持たれていなかったというのが実情です。

野崎氏: 正直なところ、つい最近まで、目の前にある最低限の範囲でしかデジタル領域の広告運用は行なっていませんでした。今では社内の理解も深まり、EC事業部も立ち上がり、社内の理解が大分変わってきたという印象です。

海老原氏: またAppier様にはCPCを固定した上で施策を進めていただきましたので、我々としても社内の承認を取りやすかったというのもあります。想定値を出していただくことは多いですが、なかなかCPCを保証してくれる運用メディアさんはいないので、これは助かりました。また何より、クリック率の向上という形できちんと成果が出たのが社内説得のための何よりの材料になりましたね。

― 実際にAIを導入してみて、その機能に不安を覚えることはなかったのですか。

海老原氏: 学習期間となる初期の2週間は、本当に色々なところにアプローチして試行錯誤を繰り返しているのだなというのは見て取れました。非常にロジカルな思考が働いているというのは実感しましたね。3週目以降からは数値が安定してきましたので、特に不安というのは覚えませんでした。

― キャンペーンの対象は若年層に限定したのですか。

海老原氏: 結果的に若年層がクローズアップできたのですが、限定したわけではありません。弊社の主要顧客層となる50、60代の方々は、紙媒体に接触する機会の方がずっと多い。だからデジタル・マーケティングを効率的に行えば、自ずと若年層を取り込むことができるという見込みは持っていました。とりわけ30、40代の第一次住宅取得層からは、トータルな需要が生まれやすいので、その層を取り込めたのは大きな収穫です。

― クリック率の上昇は実際の来店数または売上に寄与しましたか。

海老原氏: ウェブの閲覧数が上がると、来店数も上がるという傾向は見て取れます。だから恐らく相関関係はあるでしょうという言い方はできると思いますが、実際の購買にどれだけ影響を及ぼしているかを突き詰めていくと、正直なところまだ答えは出ていません。弊社では2016年にEC事業部を発足させたので、今後は売上との相関関係をより緻密に分析していくことができたらと思っています。

AIに代わって人間が説明する

― AIを導入することで新しく必要になった業務などはありますか。

野崎氏: 業務というか、AIが何をしようとしているかを理解する、というのはこれまでになかった頭の使い方をしているのかもしれません。きちんと理解しなければ、社内に説明するのが難しくなるので。

海老原氏: 「これはAIがやったことなので」「とにかくAIはすごいんです」といった一言で済ますわけにはいかないですからね。せっかく高度なテクノロジーをご提供いただいても、自分たちの理解が追いつかなければ少なくとも社内に浸透させるのは非常に難しいです。だからまずは我々が研鑽を積まなければならないというのは確かにそうですね。

野崎氏: あとは従来のバナー広告は、面を買っていればどこに出るのか分かるので掲載イメージが簡単に描けますが、AIによる運用はいつどこに広告が出るのか事前に把握できないので、実際に出た広告のキャプチャを取るのが難しいというのもあります。社内にどのサイトにどう出るのかを説明する必要がありますから。

― 今後AI機能に求めるものは何ですか。

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野崎氏: 弊社では各時期に合わせた営業施策を用意しているのですが、キャンペーンの状況次第では追加施策も必要になってきます。広告を出そうにも、紙媒体だと締め切りが早いので、まずできない。そこでデジタルとなるわけです。ただ広告代理店さんが営業している日であれば電話をして運用についての相談ができますが、例えばゴールデンウィークの連休に入ってしまうと連絡が取れないということもあり得ます。だから追加のオーダーをしなくても、AIのロジックを使うことで、状況を見ながら自動的に最適化してくれるという風になったらいいですね。

海老原氏: 例えば弊社ウェブサイトにあるFAQページで扱っているような案件については、AI機能を通じて、お客様の事情を踏まえたより適切な提案をすることができたらと思っています。大塚家具が提供しようと考えているのは「上質な暮らし」。家具販売はあくまで手段であって、本当に提供したいのは「暮らし」なのです。ただ今のECサイトが提供しているものは、まだ「モノ」に過ぎません。そこに大塚家具としての思いや考え方というものを出すことができたら理想的だと思います。

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長野 雅俊

ExchangeWireJAPAN 副編集長
ウェストミンスター大学大学院ジャーナリズム学科修士課程修了。 ロンドンを拠点とする在欧邦人向けメディアの編集長を経て、2016年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 日本や東南アジアを中心としたデジタル広告市場の調査などを担当している。