CPIだけでは語れないアプリマーケティング戦略 By 林 宜多氏 (AppLovin日本法人代表取締役) |WireColumn
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on 2017年10月10日 in言うまでもなく、モバイルアプリのマーケターがマーケディング活動を進める上で「ユーザー獲得コスト(アクイジション・コスト)」を考慮することは重要です。このユーザー獲得コストを考える時、多くのマーケターがCPI (Cost Per Install=インストール単価)に依存している傾向がみられます。しかしながらCPIは、ユーザー獲得コストを考える上での1つの要素にしかならないのです。本コラムでは、ユーザー獲得コストに影響を与える要因についてご紹介します。
CPIに反映されないユーザー獲得コスト
マーケターのゴールは、「すべて」のユーザーを獲得することではなく、「適切な」、つまりエンゲージメントの高いユーザーを獲得することです。この目的を達成するためには、ユーザーがアプリを発見する経路を特定し、最適化する必要があります。大半のマーケターはApp StoreやGoogle Playなどのアプリストアを主要な経路として、最適化に力を注いでいると思われます。ところが、ユーザーがアプリを発見する経路はアプリストアだけではないのです。
ユーザーはモバイルでのネットサーフィン、SNSの使用、動画視聴、そしてほかのアプリの中など、さまざま場所でアプリを発見します。なかでも、ユーザーがアプリを発見するときに大きな役割果たしているのは検索エンジンです。アプリのカテゴリーによっては、検索エンジンがアプリを発見する経路の60%近くを占める場合があります。しかし、検索エンジンで発見されやすくなるにはSEOやSEMといった活動が貢献しているのですが、これらのコストがCPIに反映されることはほとんどありません。
また、モバイル広告効果の測定・分析ソリューションを提供する米国企業TUNEでは、世界中のアプリインストールの90%超が検索エンジンやSNSなどを経由したオーガニックなものであると分析しています。さらに、広告宣伝費などのコストを投じてアプリインストールを獲得した場合、同時にその約1.5倍の数のオーガニックなインストールが得られることが明らかになっています。すなわち、広告宣伝費などのコストをかけて10,000インストールを獲得できた場合、同時にその1.5倍の15,000インストールが得られ、合計で25,000インストールが獲得できることになります。しかし、このオーガニック経由のインストールもCPIでは反映されません。
【オーガニック経由でインストールされたアプリの割合】
参照:TUNE社 HP
また、アプリのカテゴリーによっては、独占的ポジションを得ているためユーザー獲得に投資する必要がないアプリもあれば、ユーザー獲得に莫大な費用をかけざるを得ない分野もあり、CPIだけでは測定できないものもあります。
以上の理由から、ユーザー獲得コストを語る上で目安とするのがCPIだけでは不十分なのは明白です。
真のユーザー獲得コストを測定する方法
真のユーザー獲得コストは、ユーザーがアプリをインストールしてから数日または数週間のうちに再びアプリを使用するかどうかで決まります。モバイルアプリ向けのマーケティングオートメーションを提供する米国企業Appboyによると、App StoreやGoogle Playのランキングで上位60位以内に入っていないアプリでは、例えユーザー獲得にコストをかけたとしても、ユーザー維持のために何らかの手を打たなければ90日以内にアプリから離れてしまうことを指摘しています。そのためアプリを一度使ったあとに離脱してしまったユーザーを呼び戻すためには、ユーザー体験を改善するなどの戦略を練る必要があります。
一方、定着したユーザーについては、LTV (Lifetime Value=顧客生涯価値)と照らして真のユーザー獲得コストを測るデータを集めるべきです。これはPR、SNS広告、パートナーシップ構築、ダイレクト又はチャネルセールスなどにかかった費用のほか、サードパーティーからデータを得るための費用、プログラムプラットフォームや仲介サービスを利用する費用などを指します。
変動するユーザー獲得コストの指標
ユーザー獲得コストを測定する指標には、状況によって変動するコストもあります。例えばオーストラリアでユーザーを獲得する場合とアメリカでユーザーを獲得する場合では、オーストラリアのほうがほとんどのアプリでユーザー獲得コストがアメリカよりも高くなります。これはゲーム企業各社がUSでゲームをローンチする前にオーストラリアでベータテストするためで、KPI計測のために一定のボリュームを獲得するためにCPIも高くなるためです。
また、iOSとAndroidなどプラットフォームごとにもユーザー獲得コストが異なります (iPhoneユーザーはCPIがより高くなる傾向があります)。他にもFacebookやTwitter、Googleに同じターゲット層にリーチする場合でも、ユーザー獲得コストは変動します。
加えて、ブランドの認知度もユーザー獲得コストを決める重要な要素です。ブランドの認知度が高ければ、ユーザーのアプリ発見からクリックスルー率(広告から広告主のコンテンツに移動する割合)やコンバージョン率(インストールや会員登録など)が向上されるなど、あらゆる部分で効果が現れます。TV CMと連動してモバイルマーケティングを実施することでパフォーマンスが大きく向上するため、そういったパフォーマンスが上がっているタイミングで投資を拡大することで飛躍的にユーザー数を伸ばすことができる事例も多くあります。
さらに、ユーザー獲得コストは市場環境の影響を容赦なく受けます。米国のテックメディアVentureBeatは、「モバイル広告のエコシステムが活性化すればするほど、広告主はより自社のターゲットに合ったユーザーを獲得するために莫大な予算をモバイルにつぎ込んでいる」と指摘しています。このエコシステムの中では、例えば競合他社がFacebookの広告費用を増やすと、ターゲット層が同じである自社のユーザー獲得コストも跳ね上がってしまうのです。
最後に
ユーザー獲得コストは、CPIのように1つの物差しだけで測ることはできません。アプリマーケティングコストの低下を期待して待つのではなく、できるかぎり市場環境に惑わされることなく、ROIが高くなるような施策をコツコツと実施していくべきかと思います。もちろん一番重要なことは、ユーザー体験を改善し続けることです。 AppLovin社のHPはこちら
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ABOUT 林 宣多 (はやし・のりかず)
AppLovin日本法人代表取締役
GREE、Yahoo! Japanでの広告プロダクト立ち上げ後、米国に拠点を移し、設立直後のAppLovinに参画する。AppLovin本社の営業責任者として事業の成長をけん引した後、2016年4月にAppLovin日本法人の代表取締役に就任する。