広告展開を含めた事業全体の分析に強み-Amazon は運用型広告市場といかに向き合うのか [インタビュー]

 

Eコマース大手のAmazonが運用型広告事業を拡大しているという。既にいくつもの広告配信プラットフォームが激しい競争を展開している中で、Amazonは運用型広告市場とどのように向き合うのか。10月末に来日した、Amazonが運営するDSPの責任者であるサラブ・シャロマ氏に話を伺った。

(聞き手:ExchangeWire Japan 長野 雅俊)

Amazonとはテクノロジー企業である

― 簡単に自己紹介をお願いします。

AmazonのDSPであるAmazon Advertising Platform(アマゾン・アドバタイジング・プラットフォーム、AAP)の責任者を務めるサラブ・シャロマと申します。普段はAmazonのシアトル本社に勤務しています。

AAPは、広告主様または広告代理店様がAmazonの広告在庫にアクセスできる唯一の運用型広告ツールです。またAmazonにおける閲覧・購入履歴などに関するオーディエンス・セグメント情報を活用したターゲティングができる唯一のDSPでもあります。さらには、AAPを通じた広告キャンペーンが、Amazonに出品している自社商品のオンライン売上に対してどのような影響を与えたかを計測することができるといった特徴もあります。

―「Amazonの広告在庫」とはすなわちAmazonサイト上の広告枠ということでしょうか。

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いいえ、それだけではありません。広告在庫には、私たちが一般的に「Amazonサイト」と呼んでいるショッピング・サイトに加えて、RTBによるアドエクスチェンジやSSPを通じた広告枠も確保しています。さらには各媒体社との直接的な買い付け契約も取り交わしており、各広告代理店は運用を徐々に始めているところです。よって、今では広告在庫は多様な構成となっています。広告在庫の詳しい内訳などは公表していませんが、日本全体で月間6500万人前後の総リーチ数があります。

― Amazonというと、いまだEコマースの最大手という印象が強いです。そもそもどのような経緯で広告事業への参画を始めたのでしょうか。

確かにAmazonと聞けば、まずはEコマースという言葉を思い浮かべる人が多いのでしょう。ただし、Amazonという会社は、テクノロジー企業であると考えています。過去20年強の間に、Eコマース、クラウドサービスのAWS、電子端末のFire タブレット(アマゾン・キンドル)など、様々なテクノロジーを各市場へと供給してきました。広告市場にもテクノロジー企業として参加しています。広告主という顧客に対して広告テクノロジーを提供するという以外に、その他の事業との違いはないというのが我々の認識です。

Amazonサイト上のあらゆる情報を動的に広告に反映

― 日本ではいつからAAPの展開を始めましたか。

Amazonが広告事業を開始してから既にかなりの時間が経過しています。Amazonのウェブサイトへの広告出稿自体は初期から受けつけていました。AAPのサービスを開始したのは米国では5年ほど前、日本ではその1年後です。

日本市場の主な特徴は2つ。まずはRTB対応の動画広告が米国などに比べてまだ十分に普及していないというか、これから活性化していくのではないかという印象を受けています。

もう一つは、「クリックはしなかったけれどもコンバージョンした広告」についての効果測定に対する意識がまだ低いような気がします。本来は、PV 、売上、顧客ロイヤリティといった項目は、クリックだけでなく閲覧数との関連性においても分析されるべきものです。ところが日本ではクリック以外の指標と関連付けた効果計測がまだ一般的ではない。AAPでは、「広告を閲覧した直後はクリックしなかったが、2週間後にその広告が宣伝していた商品を購入したユーザー」といった情報を広告主に提供することができます。このような形でキャンペーンの効果をより正確に把握するために、弊社ではより精度の高い分析方法を日本市場においても広めようと努めているところです。

― AAPを通じてどのような内容の広告が配信されているのでしょうか。

AAPの顧客となる広告主は2種類に大別できます。プロクター・アンド・ギャンブルやコカ・コーラに代表される「Amazonサイトで商品を販売している広告主」と、それ以外の広告主です。

前者は、AAPを利用することで、Amazonに掲載されている商品写真やカスタマー・レビューなどをバナー広告のクリエイティブに反映させることができます。また広告内に「カートに追加」ボタンを貼り付けることで、直接的に購買行動へとつなげることも可能です。これら一連の素材をユーザーに応じて動的に広告クリエイティブの内容へと反映させることができる点に特徴があります。

また後者の「Amazonサイトで商品を販売していない広告主」には、自動車メーカー、金融サービス、航空会社などが含まれます。最近では通信業界の広告主の方々の間で目覚しい成功事例が生まれています。

尚、Amazonサイトに出品しているか否かに関わらず、広告主の皆様には同じシステムとターゲティング・データをご利用いただくことになります。ターゲティング・データに関しては、Amazonにおける購入・閲覧履歴のセグメント情報が中心となりますが、広告主様がピクセルを自社のウェブサイトに埋め込んでいただけたら、そのデータを使ったリターゲティング施策も可能です。また、匿名化された広告主の顧客リストのデータを利用しての、あるいはDMP 連携によるターゲティングセグメント実装にも力を入れています。

「Amazonサイトに出品している/していない広告主」の各割合については公開していませんが、両域ともに順調に伸びてきています。

広告キャンペーンは広告だけの話に留まらない

― 広告と小売を直接的に結び付ける機能があるという点がAmazonならではですね。

ある飲料水メーカーの事例についてお話しましょう。弊社では、この会社が広告キャンペーンを開始する以前から、小売領域におけるお付き合いがありました。その間に我々が提供していたサービスの一つに、「リテール・レディネス(小売業を行う上での環境づくり)」の整備があります。小売業にとっては、大々的な広告キャンペーンを展開して多数のユーザーをランディング・ページ(LP)に誘導できたとしても、そのLP上でユーザーが購買活動を一切行わなかったとすれば、結局はお金の無駄遣いとなります。広告キャンペーンとは、広告の品質だけの話に留まらないのです。

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そこで我々は、約1年かけて同社の小売体制を整備するためのお手伝いをしました。小さなボトルを6本で1セットとして売るのか、それとも大きなボトルを単品売りするかの決定。商品の在庫の整備。適切な商品ラベルと商品説明の制作。カスタマーレビューの蓄積。これらがすべて揃って初めて効果的な広告キャンペーンを展開することができるのです。

この企業は、Amazonサイト上のカスタマー・レビューや「ショッピングカートへ追加」ボタンを広告クリエイティブへと動的に反映させる機能を最大限に活用することで、わずか1年の間に新規ブランドから飲料業界のリーダーへと成長を遂げました。このように、アマゾンは広告の効果分析だけではなく、広告展開を含めた小売事業全体の分析ができるという強みを持っています。

― 言い換えるならば、AAPは「Amazonサイト上で出品している広告主」がいわゆるダイレクト・レスポンス目的で利用する際に最も効果を発揮するということでしょうか。

AAPはブランド広告主の皆様にもご利用いただいています。多くの人が意外に思われるようですが、Amazonサイトに出品していない広告主も多数いますし、また出品している企業様がブランディングを目的として利用される機会も実は多いのです。

理由としては、Amazonサイトや多数の高品質の配信面を確保しているということや「AAP Video」という動画広告のプログラマティック配信プラットフォームを持っていることが挙げられます。現時点ではインストリーム動画の方がより注目されていますが、アウトストリーム動画に対する需要も徐々に増えてきています。

― Amazonが広告事業を本格化すれば、Google やFacebookといった企業との競争も熾烈なものになりますね。

正直なところ、他企業の動向について私から特に申し上げることはありません。Amazonという企業は、どの事業においても特に競合を意識せず、自社による顧客サービスの充実に注力してきたからです。広告事業においても、広告主や広告代理店のニーズの理解に努めている真っ最中です。AAPはまだまだサービスを向上できる余地があると信じています。

加えて、日本には世界有数の巨大なインターネット広告市場が存在しています。この市場で今後も堅実な成長を続け、日本オフィスを拡大していきたい。この記事を読んだ読者の中から、Amazonの日本オフィス拡充に参画してくれる人が生まれたらうれしいです。

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長野 雅俊

ExchangeWireJAPAN 副編集長
ウェストミンスター大学大学院ジャーナリズム学科修士課程修了。 ロンドンを拠点とする在欧邦人向けメディアの編集長を経て、2016年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 日本や東南アジアを中心としたデジタル広告市場の調査などを担当している。