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脳科学を使ってスマホ動画広告を提案 [インタビュー]

 
 

CMerTVが2017年11月にリリースした、スマホ動画広告のCM 効果を脳科学で検証した調査結果について、CMerTV 執行役員の 羽永太朗氏に解説していただいた。

(聞き手:ExchangeWire Japan 野下 智之)

調査の主旨はテレビVSスマホではなく、テレビ&スマホ

― 今回の調査リリースの背景についてお聞かせください。

羽永氏 レクサスインターナショナル(以降レクサス)様より、テレビとデジタル広告の掛け合わせはどのようなものがよいのかという相談をいただいたことがきっかけです。そこでビデオリサーチさんに参画いただき、テレビのリーチカーブ(投下金額に対して何%がリーチするか)をレクサス様のターゲット用に作りました。コアターゲットは30歳から59歳の男性ですが、そこに年収などの条件が入ってきます。これにスマホを掛け合わせた手法を作れないだろうかと考えました。
実験は、ニューロマーケティングに携わっている株式会社NeU(東北大学と日立ハイテクノロジーズの合弁会社)さんとご一緒させていたくことになりました。同社はこれまでにもニューロマーケティングを用いて子供用の玩具を作るなどの取り組みや、化粧品メーカーとの取り組みなどの実績があります。

写真2

調査の主旨は、弊社スマホ動画広告「PerfectView™Network(以下、PVN)」がテレビ広告の補強機能としてどのように働くのかを調べることです。ただ、テレビVSスマホの構図にはしたくはなく、あくまでテレビ&スマホの調査です。テレビ動画広告とスマホ動画広告それぞれにおける視聴の際の脳活動を測定することが目的です。

― 調査の内容についてお聞かせください。

図1

出典:CMerTV

まず、調査設計は以下の通りです。

◆対象視聴者
30~50 代の男性、車に興味を持つ高所得者層 計 44 名

◆実施時期
2017 年 10 月

◆方法
① 視聴者は事前に CM を含む TV 番組(録画)を自宅で 1 回視聴
② 後日計測会場に来場いただき、TV 番組中に CM を視聴する群(以下、TV群)とスマートフォンで CM を視聴する群(以下、スマホ群)に分け、「関心・共感に関連する脳活動」、及 び「記憶に関連する脳活動」を計測。
③ TV 視聴時は、普段 TV を見る時に近い環境にて番組を見てもらう間に CM を視聴してもらった。スマホ視聴時は、サイトを閲覧中にPVNで CM を視聴してもらった。

一般的にキャンペーンではテレビCMを使われる広告主様が多いので、調査においても1度目は被験者にテレビCMを見てもらいました。レクサスさんのテレビCMが含まれる30分間のテレビ番組が収録されたDVDを被験者の自宅に送付し、予め見てもらったうえで、計測会場に来てもらいました。

その後計測会場で、2回目の接触デバイスがテレビである被験者と、スマホである被験者とに分けて、それぞれのデバイスで広告を見せて脳を計測しました。計測した内容は、「関心があるか関心がないか」「記憶しているか記憶していないか」というものでした。

テレビには受動的、スマホには能動的

図2

出典:CMerTV

この際、左側がPVNで見た時の脳活動、右側がテレビで見た時の脳活動です。真ん中の線がゼロ(平常時の値)です。PVNで見た際には、基本的に波形が右に上がっていきます。脳活動がポジティブに見えています。テレビはゼロから下の方に動いています。これは脳活動をあまりしていないという判断です。テレビCMの際に脳があまり活動していないので、記憶をあまりしていないということです。だからこそ長時間視聴し続けることができます。
図3

出典:CMerTV

「記憶」に関しては大きな差は出ず、コストパフォーマンスで考えればテレビの方が圧倒的短期間でリーチできますし、CPMも安いです。ただ問題は興味関心度合いの波形です。スマホに関しては右肩上がりです。検索したり記事を読んだりしている時は脳が活性化しているので、共感・感心しやすいといえます。

テレビを見ている時は、受動的に物事をとらえているので、あまり脳が動いていません。だからこそ見続けられ、ながら作業もできるのです。ですが、このような時にCMを当ててもあまり効果は上がらないでしょう。記憶や興味の度合いが下がってしまうからです。

実際のフリークエンシーに関していえば、スマホはリターゲットも含めて複数回当てることができるので、今回は一定時間以内に3回当てました。1回目よりは2回目の数値が上がり、3回目は数値が下がりましたが、トータルでいえば右肩上がりです。広告が1か月くらい配信されると考えれば、4回目、5回目になっても上がる可能性があります。

記憶に関しては、回数が上がれば上がるほど右肩上がりです。フリークエンシーが多ければ多いほど広告は覚えられます。ただし、感情は別です。「知っているけど嫌い」なものもありますので、20回、30回と当て続けたら、人の心理は興味関心と併せて変わってくることもあります。

わたしたちが調べたかったのはフリークエンシーのアロケーション処理、もっと言えばテレビとデジタル広告のアロケーションです。例えば、あるキャンペーンではテレビCMを7回当てたほうがいいか10回当てたほうがよいか考えていたとします。その考え方は正しいのですが、テレビでは当たらない層が生まれたり、テレビでは伝わらない情報があったりしますので、そうした点については、ほかのデバイスで補わなければならないということが、今回の調査からは見えてきたといえます。結果として、テレビとスマホを一緒にやることが重要だといえます。

脳活動をプロモーション提案に

― 今回の結果を、今後はプロダクトに落とし込んだり、営業施策に落とし込んだりされるのではないかと思いますが、具体的にはどのように展開していくのでしょうか?イメージをお聞かせください。

写真3

羽永氏 CMのどの部分に脳波が反応したかのデータがとれているので、クリエイティブチェックをして、広告のA案とB案のどちらを選択するかの材料にすれば面白いと思っています。また、反応された部分にアレンジを加え、どういうキャッチコピーに反応しているかによって、テロップやナレーションを変えれば、よりCMの質を上げていくいことができます。これらをつなぎあわせて、次のクリエイティブに生かせますので、クォーターに1度調査をすることによって、よいものをつくったり、ABテストの結果でよかった方を全国放送したりといったこともできるでしょう。

また、配信面との相性もあります。タレントさんの好き嫌いなどでも脳血流は変わります。ですから、見ている人の好きなタレントが出ている番組のCMにタレントを出せば脳血流も上がります。ですから、たとえばスポーツ選手を使ったCMをスポーツ番組に使うとよいでしょう。

― 今回の調査結果を受けての提案は、広告主にされているのでしょうか。

羽永氏 はい、すでに提案しています。やはり宣伝部のかたは気にされており、感性でつくっているクリエイティブを数値化できるのはよいと思われているようです。アンケートベースでAかBを決めるのは「本当の声」ではなく、バイアスがかかっていることが多いため、数値化してはっきりさせることに興味が持たれているようです。

また、CM好感度調査にもある程度の裏付けができるのではないかと考えています。今後、スマホに関しては、関心のある記事を閲覧、検索する中で見るということで、脳活動のトレンドが基本的に上昇する傾向があります。また、ニューロマーケティングの評価を行えばより効果的なCMを提供できると思います。スマホ使用による脳の活性化を上手にとらえて戦略化できればよいですね。

ABOUT 野下 智之

野下 智之

ExchangeWire Japan 編集長   慶応義塾大学経済学部卒。 外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。 2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。 2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。