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マーケティングへのロジカルなアプローチでビジネスを拡大-skyticketのプロモーション戦略について- [インタビュー]

航空券やホテルなどの旅行予約の総合プラットフォームとして急速に成長しているアプリ・skyticket。現在そのskyticketでは、更なる成長に向けてアプリビジネスへの投資を拡大している。今回はskyticketを運営する株式会社アドベンチャーでマーケティングを統括する寺澤玲緒氏に、ビジネスの現状とプロモーション戦略、広告を使ったアプリプロモーションへの期待と課題などについて、skyticketのアプリプロモーションを支援するAppLovin日本法人代表取締役の林宣多氏が聞いた。

業績拡大の秘訣は、広告宣伝費への積極的な投資

― 林氏 skyticketの提供サービスについて簡単に教えてください。

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寺澤氏 skyticketが提供しているのは、旅行の総合予約プラットフォームです。いまは航空券の予約が主力ですが、そのほかにもホテルやレンタカー、フェリー、Wi-Fi、観光ガイドなどのコンテンツにまで拡大しています。当社skyticketのサービスは航空券の予約販売に始まり、2017年で10周年を迎えました。2014年末のマザーズ上場を経て、着実なマーケティング戦略なども実り、近年当社のサービスが大きく認知されはじめていると感じています。

― 林氏 旅行業界では、同様のサービスを提供している老舗や競合のアプリやサイトが多い中、skyticketが業績を飛躍的に伸ばすことができた要因はなんですか?

寺澤氏 他社に比べて広告・SEMやA/Bテストなどの先進的なマーケティング活動へ積極的に投資していることがその理由のひとつとして挙げられます。当社は売上に対するマーケティングの予算比率が高く、旅行業界の中の広告費率ランキングでもトップクラスです。毎月の予算はその都度代表と話し合って決めていますが、現状では事業で得られた利益のほとんどを広告宣伝を始めとするマーケティングに投資しています。マーケティングに予算を惜しまないことは当社代表の方針で、これが功を奏して他社との差別化に成功したのでしょう。

また、上場後は人材獲得にも力を入れており、この1年で社員数を倍以上に増やすことができたのも、事業を拡大できた要因だと思います。

― 林氏 御社のマーケティングは、エージェンシーを間に入れずに、そのほとんどをインハウスで実施していることも特徴的です。

寺澤氏 代理店を介さずインハウスで広告を運用するメリットは、マージンの節約はもちろん、運用やクリエイティブに関するノウハウを媒体から直接吸収して、自社に蓄積できることなどが挙げられます。

弊社の広告マーケティングの運用とクリエイティブ制作は私とアルバイトのアシスタントのほぼ2人体制で行っているのですが、特にAppLovinを始め、近年主流のWeb広告媒体は運用がかなりの部分が自動化されていることにより、運用コストがそれほど高くないことと、代理店を介さず媒体企業の担当者と直でつながり連携することで、運用に関する深いアドバイスやノウハウをいただけることもあり、結果として代理店に委託した場合と同等か、それ以上のパフォーマンスを挙げることに成功しています。

「絞って大量投資」が、skyticketのプロモーション戦略

― 林氏 skyticketが取り組むプロモーション施策全般についてお聞かせください。
また、プロモーションは、オンライン・オフラインで、どのようなチャネルをどのくらいの割合で使っていますか?

寺澤氏 プロモーションには、毎月4〜5億円ほど使っています。オンラインのプロモーションは一昨年くらいまではリスティング広告をメインで使っていましたが、昨年からアプリのインフィード広告にも注力するようになり、今では広告費全体の1/3~1/4程度を占めるようになりました。オフラインのプロモーションは2017年の夏から本格的に始めたので、まだ割合として少ないのですが、タレントの玉城ティナさんを起用してJRのトレインチャンネルなどに動画を配信しています。

― 林氏 たとえば、リスティング広告だとコンバージョンに近いユーザーを確実に獲得することが目的であったり、それぞれのチャネルに期待するKPI (Key Performance Indicator: 重要業績評価指標) は違うと思いますが、アプリ広告のKPIの考え方ついてお聞かせください。

寺澤氏 おっしゃる通りで、リスティング広告とアプリ広告では、KPIは異なります。リスティング広告は、CPA(Cost Per Acqusition: 申込あたりの広告費用)をKPIに設定し、CPAを最適化することを目的としています。一方、アプリ広告ではCPI(Cost Per Install: インストール単価)をKPIに設定しています。アプリ広告がオンライン全体の広告費を占める割合が高まっている理由は、アプリユーザーのリピート率がWebに比較して高く、ユーザー単位で長期的に見た時のLTV (Life Time Value: 顧客生涯価値)がより高いからです。また、アプリでは、インストール後に広告媒体からの申し込みにつながる割合はもちろん、そのユーザーが月に何回アプリを利用しているかなどのリピート率やよく行く旅行先などといった、よりパーソナルな情報まで追うことができるので、今後は個々のユーザー情報や行動履歴に合わせたプッシュ通知を入れたり、UIを最適化したりするなど、アプリならではの施策でLTVを最大化していきたいと考えています。リスティング広告は目の前のCPAを指標にしていますが、アプリ広告ではいかにCPIを安く押さえ見込みユーザーを囲い込み、長い目線でロイヤルユーザーへと成長させていくかということを重要視しているのです。

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― 林氏 Applovinなどの広告プラットフォームはどのくらいの種類を使っていますか?また、skyticketが運用するモバイル広告の中でAppLovinのプラットフォームの活用方法や、採用した理由を教えてください。

寺澤氏 当社では一定の消化ボリュームが出そうなものと、効果が出そうなサービスは基本的に何でもチャレンジしてみようというスタンスです。大体のオンライン広告メニューは試しましたが、最近では獲得コストが安く、月1千万円以上消化できるメニューに絞り込んでいます。その結果、現在はAppLovinの他にFacebook、LINE、Twitterなどのソーシャルメディア系のプラットフォームを主に利用しています。

AppLovinはソーシャルメディア系と比べて自動化が進んでおり、こちらで運用の手間をかけずに効果と規模を維持してくれていると感じています。当社では、先に述べた通り、現在広告運用はほとんどをインハウスで行っているので、AppLovinは手間をかけずに広告配信のスケールアップをできるというメリットから採用しました。

― 林氏 運用とキャンペーンを設定するところからすべて自社で行うことで、どんな印象がありましたか?

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寺澤氏 実際に運用を始める前は、安定するまでにクリエイティブを何本作ればよいのだろうなどと考えていましたが、これについては案外とすんなりいったという感じがしています。最初の1本で想定通りの数字が出たので、初期のクリエイティブ精査にはほぼ手間がかかりませんでした。

キャンペーン開始から2週間ほどでCPIも安定し、他媒体と比較してクリエイティブなども最小限の調整で目標としていた数字を達成することができました。
現在も頻繁なクリエイティブの差し替えを必要とせず、安定して成果を出し続けてくれているので運用面でもとても助かっています。

― 林氏 クリエイティブの観点でAppLovinと他媒体とで何か違いを感じている点はありますか?

寺澤氏 特に大きな違いは感じていません。ソーシャルメディア系で効果があるものは、AppLovinでもうまくいっています。

― 林氏 今後、何か取り組まれたいことはありますか?

寺澤氏 大きなテーマは「海外進出」です。2017年の夏ごろから一部の国でテストマーケティングを行ってきましたが、獲得コストの安さや購入につながる割合に一定の手応えを感じることができました。その一方で入金率を高めるために現地で使われている決済方法を漏れなく取り入れていく必要があるなど、課題も多く見つかりました。2018年にはそういった課題を解決した上で、アジアや英語圏を中心に、本格的なマーケティング展開を開始したいと考えています。

攻めるときに攻めることが出来るのが強み

― 林氏 旅行業界に限らず、キャンペーンでうまく認知されてCVRが上がる時や、収益を最大化できるタイミングがあった時に、マーケティング予算などに制限があると、その時にスケールを最大化できません。しかし、御社はKPIに見合った投資は制限なく実施する、というマーケティング方針である点が印象的です。

寺澤氏 skyticketのマーケティング戦略は、KPIが満たせるならば広告投資を積極的に行うことが特徴的です。日本企業の多くは一定期間ごとの予算ベースで動きますが、それでは攻める時と攻められない時の根拠がロジカルではなくなってしまっています。当社は攻めるべきときに攻めることが出来る、スタートアップらしい広告投資をしています。これによりskyticketは旅行アプリとしてカテゴリランキング1位を獲得するなど、競合他社に先行してアプリのシェアを伸ばしていくことに成功しました。

現在では運用面での獲得効率の最大化を目指しつつ、アプリ内でのA/BテストによるCVRの改善や、先に述べたアプリならではの施策を行っていくことで、いかにROI (Return on Investment: 投資した資本に対して得られた利益) を最大化していくかという段階に来ています。

― 林氏 今後も100億円規模の広告投資をされるとのことですね。

寺澤氏 広告投資の規模はその時々の状況を見て柔軟に変えていきますが、今後は主にブランディングを目的としたオフライン広告への投資も増やしていきたいと考えています。オフライン施策は現在、交通広告が中心ですが、いずれはテレビCMへの出稿もするかもしれません。

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― 林氏 テレビCMによりユーザーの認知が高まると、CVRが上がるためオンライン広告のKPIも変わるかもしれませんが、予算の消化ボリュームがいま以上にとれるようになります。認知を上げたり、よいイメージを持ってもらったりするためのブランディングは、オンライン施策に良い意味で寄与してくれます。

寺澤氏 当社のユーザーで最も多いのは20代~30代です。テレビCMはユーザー数だけではなく年齢層も広げてくれると思います。これまでは今後大きなボリュームゾーンとしての成長が期待できる10代~20代のユーザーをねらって、玉城ティナさんという若年層に人気のモデルさんを起用していましたが、今後は幅広い世代をターゲットにしたマーケティング戦略に切り替えていくつもりです。

― 林氏 デジタルで今後取り組まれてみたい施策などはありますか?

寺澤氏 サービスの性質上、1ヶ月以上アプリを起動しない休眠ユーザーがとても多いので、そういったユーザーに対していかにアプリのアクティブ率を上げるかの施策や、ユーザーが旅行に行きたくなり、航空券やホテルの料金を調べようとしているタイミングでいかに適切な通知を送れるかといった施策にとても関心があります。

将来は日々送られてくる膨大な量のアプリの利用データと、A/Bテストや機械学習など、近年注目されている技術を組み合わせることで、ユーザー個々の利用スタイルに合わせた適切なUXを提供することが可能になると考えています。

ABOUT 野下 智之

野下 智之

ExchangeWire Japan 編集長   慶応義塾大学経済学部卒。 外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。 2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。 2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。