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中小・ベンチャー企業、地方企業のアドテク活用のこれからと、ネットビジネス課題解決に向けた業界支援の取り組み [インタビュー]

中小・ベンチャー企業、地方企業のネット広告市場は、インターネット広告市場における今後の大きな伸び白である。一方で、地方は東京と比べ情報が限定されていることや、中小・ベンチャー企業においては人材やノウハウが不足し、ネットビジネスへの投資を拡大させることに対する心理的・物理的なハードルも大きい。

オプトホールディング 代表取締役社長グループCEO鉢嶺 登氏と、ソウルドアウト代表取締役社長 荻原 猛氏に、中小・ベンチャー企業、地方企業のネット広告市場の現状と課題、該当領域の企業が抱える課題支援に正面から向き合うことを目的に設立されたネッパン協議会(※) の取り組みなどについて、お話を伺った。

※正式名称は、一般社団法人 中小・地方・成長企業のためのネット利活用による販路開拓協議会

(聞き手:ExchangeWire Japan 野下 智之)

伸び白は3000億円超の中小・ベンチャー企業、地方企業のネット広告市場

― 中小・ベンチャー企業、地方企業のネット広告市場の成長性についてお聞かせください

荻原氏 東京を除くネット広告市場を地方ネット広告市場とすると、3000億円超の伸び白があると考えています。
広告市場全体のネット広告市場比率は、東京は約16%ですが、地方は全体の4%、1196億円の規模に過ぎません。今後この比率は東京と同じ水準になるとみています。足元の成長率は、前年比プラス10%~15%程度でしょう。
当社既存クライアントのネット広告支出は、年間で前年比+27%増になっており、地方の広告主もネット広告への投資を増やしていることを実感しています。

― 地方のネット広告主が抱えている課題とはどのようなことでしょうか。

荻原氏 採用から育成を含めネット広告を使う組織を作れるかどうかという点です。また、企業の役員陣がこれからデジタルの世界で伸ばしていくというコンセンサスが重要ですし、リテラシーも求められます。ただし、これらの条件を満たしてネット広告を使いこなせる企業はかなり数が少ないのが現状です。

アドテク普及は大企業向け市場の2、3年遅れ、適正コストは2割

― 中小・ベンチャー企業、地方企業のネット広告市場では、アドテクはどのように位置づけられているのでしょうか?今むしろこの領域でこそ、よりアドテクが求められているのではないかとも感じるのですがいかがでしょうか。

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荻原氏 アドテクに本気で取り組みたいと思っている会社とそうでない会社とは二極化しています。
事業に占めるネット比率が高ければ高いほど真剣になりますので、アドテクを活用していこうと考えています。ただし、アドテクと言ってもDSP、DMPなどというものではありません。顧客DBをしっかりと一元化し、DMPにつなげてターゲティング配信をするというような世界観は、皆さん取り組みたいと思ってはいるものの、これらのテクノロジーを使って実現し得るまでコストが下がるのはまだ先の話です。大企業が使っているテクノロジーが、中小・ベンチャー企業、地方企業に普及するのは、価格が大企業向けの2割程度の水準に下がる必要があると感じています。期間にして、2、3年遅れでしょうか。

― 中小・ベンチャー企業、地方企業向けに提供されるプロダクトを作る上で、注意すべき点は何であると思いますか?

荻原氏 二つあります。一つ目は、低価格でかつサポートが付いていること。世の中のサービスは、一般的には高価格でサポート付き、または低価格または無料でサポートなしというのが一般的です。しかし中小・ベンチャー企業、地方企業向けには、低価格でサポート付であることが必要です。私たちはこれを「魔のセグメント」と呼んでいます。誰もやりたがらないのですが、市場は確実にあるのです。

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二つ目は、シンプルでとても使いやすいこと。「とても使いやすい」プロダクトでなければ絶対に浸透しません。機能を分解して提供するのは駄目で、パッケージ化をすることが大切です。あとはシンプルに伝えるだけです。とにかく「わかりやすい」と言ってもらうことのために集中すべきで、「技術が向上しました」や、「最先端です」ということなどは、正直二の次です。

テクノロジーを使った革命は、東京ではなく地方から

― 中小・ベンチャー企業、・地方企業は今後どのようなスタンスでネット広告、アドテクを活用していくべきでしょうか。

荻原氏 市場は絶対に伸びていきます。現状を表すと、まさに「マーケティングの民主化」が起こっています。テクノロジーの進化は、One to Oneマーケティングを、精度を高くしてくれました。広告予算が少額のお客様でも、広告を出稿できるようになったのはものすごく意義のあることです。このような波があるので、中小・ベンチャー企業、地方企業の方もどんどんテクノロジーを活用していただきたいです。効率的に使えば少額のお金でも確実にリターンを得ることが出来、成長の機会をうまく利用いただければ嬉しいです。革命というのは地方から始まります。東京からは革命は起きにくいです。地方には、私たちが思っていることとは真逆のことをやるような企業もいます。東京と交じりあわない新しい発想と、テクノロジーを融合してもらえれば、うまく地方の発展につながっていくのではないかと思います。

根底には「クライアントのデジタル化支援こそが国力を上げる」という思想

― 次に、オプトグループが発起人となり、中小・ベンチャー企業、地方企業向けのネットビジネスを支援しているネッパン協議会について、設立の背景をお聞かせください。

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鉢嶺氏 インターネットの普及により産業革命が起こり、すべての企業がデジタル化なしには生き残れなくなってきています。
私たちのクライアントのデジタル化支援をすることが、将来の日本の国力を上げるというのが、まずベースの考え方としてあります。
オプトグループでは、大きく分けると大手企業はオプトが、そして中小・ベンチャー企業、地方企業はソウルドアウトがそれぞれ中核企業として応援をしています。
ソウルドアウトが支援している中小・ベンチャー企業、地方企業の悩みを聞くと、圧倒的に多いのが“販路開拓”、“売上拡大”です。インターネットを使って売上を上げることが出来れば、皆さんに一番喜んでいただけるであろうということで、ネッパン協議会を設立しました。

オプト創業時からずっと言っていますが、マーケティングの大きなトレンドにおいて、企業から個人へとパワーシフトが起きています。マスマーケティングからOne to Oneマーケティングへ。企業のマーケティング担当者がPCから手軽にユーザーとダイレクトにコミュニケーションを取ることが出来るようになっていく。私たちは今、この変わらない大きなトレンドをとらえることが必要なのです。

全国50万社のネット広告活用実現が目標

― 中小・ベンチャー企業、地方企業のネットビジネス全般について、今どのようなフェーズにあると理解すべきでしょうか。

鉢嶺氏 自社サイトがようやく集客機能を持ち始めてきた段階といえるでしょう。世の中の260万社の法人のうち、ホームページを持っているのが50万社ですが、実際に集客機能を果たしているのは10万社に過ぎません。オンライン経由で、セルフサービスで広告を出稿しても、ノウハウがないことを理由に途中で辞めてしまうというクライアントが圧倒的に多いのが実状です。ここを私たちの方でサポートすることで、何とか継続して利用してネット経由の売上拡大に貢献したい。ホームページを持つ50万社の方全員がネット広告を使えるようにしてあげることが、私たちの使命であると思っています。

求められているのは交流の場

― 参画している会員企業は何社くらいですか?また、どのような企業でしょうか。

鉢嶺氏 現在約570社に参画いただいております。業種と業態はバラバラですが、例えば通販のように、ネットで事業をしている企業が多く、企業規模は様々です。

― どのようにして、企業の参画を呼び掛けているのでしょうか。またどのような支援を行うのでしょうか。

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鉢嶺氏 2017年までは、主に地銀、信金といった金融機関から多くご紹介いただきました。ビジネスでインターネットを使っているけどうまくいかない、あるいはこれからやってみたいと考えている企業を対象に、ネッパンの賛助企業であるネット企業と一緒にセミナーを開催するなどの啓蒙活動を行ってきました。

2018年からは新たに、月間30万円以上をネット広告で使われているお客様を中心に、年会費制でプレミアム会員を募集することになりました。

お陰様でネッパン全体の会員社数は増えましたが、その中でもネットビジネスへの取り組み度合いは企業によって様々です。ある程度ネットに本気に取り組んでいる方々同士が交流いただく場を設けたほうが良いということから、この仕組みを取り入れました。

プレミアム会員企業向けには、年に一回の総会、年に3回のセミナー、海外視察ツアーをご提供する予定です。
セミナーでは、地方と東京との時間差を埋めるために、東京の最新のインターネットを使った成功事例を出来る限り早めに地方の会員企業に提供をしてまいります。また、2018年の海外視察ツアーは、スマホ先進国の中国を予定しています。それ以降も、賛助企業でもあるGoogleやFacebookなどから中小・ベンチャー企業、地方企業の皆さんを連れて来て欲しいと言われていますので米国シリコンバレー視察なども視野に入れています。

現時点で既に約100社近くにのぼるプレミアム会員には、地方の大手企業も含まれますが、多くはECのビジネスに取り組んでいる中小・ベンチャー企業です。ソウルドアウトのクライアントにも多くご参画いただいています。

一般会員の方がプレミアム会員の方の取り組みを近いところでご覧になられて、刺激になればとも思っています。

1万社の輪を目指して

― 今後の目標会員数どのくらいにされたいとお考えですか?

鉢嶺氏 一般会員については、1万社集まれば理想的だねという話をしています。ですが今では全国津々浦々、インターネットを使わない人はいません。1万社とは言わず、100万社にまで会員の輪を広げられればいいなと、夢を思い描いています。

プレミアム会員については、特に目標は定めず、まずは約100社からスタートしたプレミアム会員の方々にしっかりと満足をしていただき、口コミで評判が広がっていくのが理想だと思っています。
まずは、今年11月に実施する年次総会を盛り上げて、大々的な会にしたいですね。

ABOUT 野下 智之

野下 智之

ExchangeWire Japan 編集長   慶応義塾大学経済学部卒。 外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。 2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。 2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。