アプリ開発は新規事業の立ち上げと同義である-YouAppiが説くアプリ・マーケティング [インタビュー]

欧米に比べて遅れていると指摘されてきた日本のスマートフォン市場が成熟したことで、モバイルアプリの利用者は増加した。一方で、多くの企業がアプリ・マーケティングに苦労しているという。一体何が問題なのか。イスラエル発のアプリ広告配信プラットフォームであるYouAppi創業者に話を聞いた。

(聞き手:ExchangeWire Japan 長野雅俊)

アプリはやがて日常生活の一部になる

― 自己紹介をお願いします。

モシェ・ヴァクニンと申します。米大手電話会社のAT&Tにてエンジニアとして勤務した後に出身国であるイスラエルに帰国し、2000年より起業家としての活動を始めました。2011年に立ち上げたYouAppiは私にとっては3つ目の会社です。各企業がアプリ事業を持続的に営むための支援を目的とした人工知能型アプリ広告配信プラットフォームを運営しています。

― エンジニアから起業家へと転身したきっかけは何ですか。

2000年当時は大企業が軒並みインターネット技術を使った取り組みに本格的に着手し始めたころで、新たな関連テクノロジーが次々と生まれた時代でした。だから私もイノベーションを起こす側になりたいという思いを強く持つようになったのです。

またその後モバイル端末の発展を目にしながら、アプリは必ず大きな市場になると確信し、YouAppiの創業に至っています。実際にアプリ市場は今では巨大な規模になりましたが、まだまだ発展の余地があるというのも事実です。何しろ、世界の人口の半分はまだアプリを利用していないのですから。アプリにまつわるイノベーションは今後も続き、あらゆる場面で様々なアプリが利用されることで、やがては日常生活の一部になると思います。

アプリの設計・開発作業のみでは完結しない

― 貴社の紹介をお願いします。

写真2

YouAppiは、12カ国に160人の社員を有する、アプリ広告配信プラットフォームを提供する企業です。注力するのは、広告主様が望む結果をもたらすためのテクノロジーの開発。配信量の大きさを謳う競合企業も存在しますが、我々は量ではなく質にこだわりたい。我々自身が開発したプロプライエタリのテクノロジーを用いながら、広告主が費用対効果を実感できるプラットフォームとなるべく努力しています。こうした事業形態のために、当社の売上は緩やかに伸びてきましたが、非常に安定しているという特徴があります。

また当社はアプリのプロモーションのみに特化しているということも特徴として挙げられるでしょう。競合企業の多くがスマートフォンやその他のインターネット広告に関する業務を並行して行っているのとは対照的です。

アプリ事業は、もはやアプリの設計・開発作業のみでは完結しません。アプリを一つつくるということは、一つの新規事業を立ち上げることとほぼ同義です。運営に当たっては、高度な専門性が必要とされるようになっています。

― ただし、まさに「アプリを開発するだけで完結」している企業がいまだ多いとも聞きます。

私もいまだそのような企業が多いと感じています。一方で、アプリをきちんとした事業として位置付けた上で運営する企業もようやく少しずつ増えてきました。

数年前の米国でも同じような状況でした。大企業でさえ、とにかく「アプリを開発すること」を自己目的としたアプリ開発に終始していましたが、現在では大半が事業化しています。日本でもいくつかの名だたる大企業がアプリを起点とした新規ビジネス構築に既に乗り出しているので、この動きはますます加速するでしょう。

― アプリ・マーケティングに頭を悩ます企業は多いのではないでしょうか。

考えてもみてください。200万人のiPhoneユーザーと、200万人のAndroidユーザーがいるとして、一つひとつのスマートフォンに数十のアプリがインストールされる。そしてそれぞれのユーザーにインストールされることを待ち構えているアプリがこの世の中にはそれこそ無数に存在するのです。プロモーション施策なしで、ユーザーの方から特定のアプリを見つけてもらうというのはほぼ不可能です。もちろんユーザーに受け入れてもらうためには利便性の高いアプリを開発しなければならないのですが、それだけでは十分ではないというのがアプリ運営の難しいところ。ユーザー獲得のためには多大な投資をしなければなりません。

―「多大な投資」とは、一般的にはどれほどの規模を指すのでしょうか。

写真3

アプリの種類によっても異なります。例えばEコマースであれば、必要なのはユーザーの絶対数ではなく、定期的に商品を購入してくれる優良ユーザーです。100万人のユーザーがいたとしても、彼らが一切買い物をしなければ、ビジネスとして意味をなしません。一方でゲーム・アプリは500万人~1000万人規模でのユーザーの絶対数が必要です。このように、どういった種類のアプリであれば、どの程度のユーザー獲得が必要で、そのために何をすべきかといったノウハウの提供も当社のサービスには含まれています。我々が有する広告在庫には適さないと判断した場合には、その他の配信プラットフォームをおすすめすることもあるほどです。

本当に「日本市場は遅れている」のか

― 日本市場での取り組みについてお聞かせください。

早い段階から日本企業との取引はありましたが、正式にオフィスを開設したのは2016年10月。日本オフィスに9名が在籍し、イスラエル本社に2人の日本人スタッフが勤務しているので、合計11人体制です。日本で取引がある広告代理店は28社。ゲーム、漫画、Eコマースが中心です。グローバルでは、これらに加えUberなどに代表される交通系のアプリや、食品や日用品などの配達系アプリの運営企業より広告を出稿いただいています。

当社にとって、日本は北米に続いて2番目に大きな市場です。毎年100%前後の成長率を見せており、今後数年で一層の拡大を見込んでいます。

― アプリに関しては「日本市場は遅れている」という声もよく耳にします。

日本のアプリ市場が成熟しつつあるのは間違いないです。主要アプリが次々と新機能のアップデートを繰り返し、エコシステムの深い理解に基づいたユーザー獲得の手法も随分と洗練されたものになってきています。

ただ「日本市場は遅れている」とする見方について理解できる部分もあります。スマートフォンが誕生する前に、日本の携帯電話市場は一部のごく限られた通信事業者によってほぼ独占されていました。iPhoneやAndroidが登場して以降も、この一部の通信事業者が提供するフィーチャーフォンの利用を続ける人が多く、また現在も一定数いるのではないでしょうか。日本のフィーチャーフォンの性能は非常に良いとは思いますが、やはりスマートフォンには劣るし、利用できるアプリの数も限定されます。こうした状況を受けて、日本のアプリ市場は米国ほど急激には伸びなかったのでしょう。

しかしながら、米国市場の発展が例外的に著しかったと捉えることもできます。米国と比べれば、欧州やその他のアジア諸国のアプリ市場も遅れています。そして米国に比べてどれだけ遅れているかということが大した問題になるとは思いません。

― 市場の成熟度以外での日本市場についての印象を教えてください。

日本人はブランド志向なのではないでしょうか。他のアジア諸国には、ブランドに対して全く関心を示さない国もあります。また米国もごく一部の富裕層を除けば、ブランド商品には目もくれない。ところが日本はいわゆる富裕層だけでなく、中間層と呼ばれる人々もブランド商品を好む。例えば机や椅子といった日用品でも、ある程度の知名度のある企業の商品を購入しようとする傾向にあると感じています。

アプリを通じたブランディング施策はもはや珍しくない

― 貴社ではどのようなアプリ広告配信案件を扱っていますか。

事業の根幹を成すのはCPIの獲得型アプリ広告ですが、最近ではリエンゲージメント広告やブランディング目的の動画広告案件も扱うようになりました。我々としては「360°マーケティングプラットフォーム」として、モバイルアプリを通じたあらゆるマーケティング施策に対応できる体制が整ったと考えています。

現時点ではまだ当社の広告収益の90%弱がCPI案件で、10%弱が動画広告、数パーセントがリエンゲージメント広告という構成になっていますが、動画広告はすぐに15%程度を占めるようになると見込んでいます。

― アプリを通じたブランディング・キャンペーン事例はどれほどあるのでしょうか。

写真4

これまでブランディング・キャンペーンというと、いわゆるプレミアム・メディアと呼ばれる大手全国紙などごく一部の名の知れた媒体上のみで展開される傾向にありました。しかし、そうした旧来のプレミアム・メディアの読者数が減少し、代わって写真共有アプリや音楽配信アプリなどの利用時間が増えています。大事なのは、あくまでもユーザーの質であって、良質なユーザーは必ずしも歴史ある媒体ばかりに集まるわけではありません。

米国ではブランディング・キャンペーンによく用いられるCPMで、しかも20、30ドルといった価格帯でゲーム・アプリ内広告に予算を投下している企業が多くあります。アプリを通じたブランディング・キャンペーンはもはや決して珍しいものではありません。

イスラエルのスタートアップ企業との付き合い方

― 近年ではアドテク領域に限らず、イスラエルのスタートアップ企業による日本進出が目立ちます。

まずイスラエルのスタートアップ企業が10年前に比べて格段に増えました。かつてイスラエル企業の売り込み先と言えば米国で、一方の米国のベンチャー・キャピタルも頻繁にイスラエルへと買い付けに来ていました。その方式が上手くいったので、日本を含む他国へも展開しようと考えたイスラエル企業が多く存在するのでしょう。

ただイスラエル側の変化だけでなく、日本企業がイスラエルを含む外国企業に対してよりオープンになったという側面もあると思います。

― 米国とイスラエルのように、日本とイスラエルも良いパートナーシップを結ぶことができると思いますか。

イスラエルのスタートアップ企業は、進出国の文化を随時学んでいく必要があります。そして日本人は少ししっかりし過ぎているのでもうちょっといい加減になった方がいいのではないでしょうか(笑)。ただ実際にお付き合いをさせていただいた素直な感想としては、日本企業の動きは私が以前聞いていたよりもずっと迅速であるとの印象です。日本とイスラエルに限らず、異文化同士が関係を結ぶには、お互いが少しずつ歩み寄ることが必要なのでしょうね。

タグ

ABOUT 長野 雅俊

長野 雅俊

ウェストミンスター大学大学院ジャーナリズム学科修士課程修了。 ロンドンを拠点とする在欧邦人向けメディアの編集長を経て、2016年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 日本や東南アジアを中心としたデジタル広告市場の調査などを担当している。