スマートスピーカーとビジネスの今後を見通す[インタビュー]

対話型の音声操作に対応したスマートスピーカーが、世界的に普及し始めている。日本でも認知度が高まりつつあるスマートスピーカーの利用実態について、電通デジタルは2018年末に調査を実施し、このほど結果を発表した

調査結果から見えてくる日本における普及状況や、音声サービス領域におけるビジネス展開の可能性について、同社デジタルトランスフォーメーション部門 デジタルコンサルティング事業部データ戦略グループ、プランナーの小川達也氏と、同プラットフォーム戦略グループ、コンサルティングマネージャーの佐々木祐輔氏にうかがった。

(聞き手: ExchangeWire Japan 野下 智之)

調査の背景を教えてください。

グラフ1:スマートスピーカーの認知度

出典:電通デジタル

小川氏:スマートスピーカーに代表される音声UIは世界的規模で広がり、ハードだけでなく、スマートフォンにおけるアプリケーションに該当するスキルも増加しつつあります。ただ、実際に日本での利用実態はどのような状況なのかを知ろうとしたところ、十分な調査レポートが見当たりませんでした。そこで、音声サービス領域における企業のビジネス展開にヒントを得ることを目的に、電通デジタルでスマートスピーカーの利用実態の調査を実施しました。

調査結果はどのようなものでしたか。

グラフ2:スマートスピーカーの所有状況

出典:電通デジタル

小川氏:調査結果発表後は様々なメディアで掲載され、多くの方の目に触れることで、反響も大きかったです。なかには、「まだ6%しか普及していないんだ」という反応もあったようです。この数字が小さいのか大きいのかは議論が分かれるところだとは思いますが、いずれにせよ、まだ市場形成の始まりの段階にあることは間違いありません。

保有者のユーザー像は、比較的年収が高い30~40代の男性層が多く、情報感度の高いガジェットを好きな層であることが見えてきました。

写真2:小川達也氏様々なスキルを使いこなせているイメージですが、とりあえず買っただけという人も混ざっていて、ただの音楽スピーカーと化しているユーザーも多数存在していました。

しかし、そのように使用用途が音楽鑑賞だけだとしても、使い始めることで習慣性が生まれ、ただ置いているだけで使っていないという人は少なかったです。

また、使い続けている人は、スマートスピーカーのスキルを提供している企業やサービスに対してポジティブな興味や関心を持っていることも分かりました。企業がスキルを通じて日常的に生活者と接することでエンゲージメント形成につながるという結果は、本調査のひとつの大きなポイントだと思っています。

スマートスピーカーの広告媒体としての可能性は、現状どのくらい期待されているのでしょうか。

小川氏:現在はまだ、スマートスピーカー自体をどのようにしてより良いものにするか、それを考えているフェーズだと感じています。音声UIベースのメディアや、広告配信への活用が始まると思いますが、本格的に移行しているような感覚はないですね。

佐々木氏:普及率が約6%であることからも、まだテクノロジーとしてインフラ化していない黎明期といえると捉えています。広告配信としての本格利用は、チャネルとして成熟し、配信ボリュームが一定の規模を獲得してからと考えると、まずは普及率を上げることからですね。インフラ化に至るような要素を踏まえてサービス化し「購入して家に置きたい」と思われる存在にならないといけない、その段階です。

ちなみに、日本全国のラジオ番組を聴けるサービス「radiko」は、スマートスピーカーのスキルとしても提供されていますが、DMPを活用しながらユーザーの属性・嗜好性に合ったターゲティング配信「ラジコオーディオアド」を開始しています。今後はスマートスピーカーの検索履歴や起動したスキルカテゴリなどのアクチュアルデータから嗜好性を踏まえて、オーディオアドの出し分けを行っていくかもしれませんね。また、画面付きのスマートスピーカーも登場しましたが、テレビ同様、画面内に表示される広告は家庭の内部へと入り込んでいくことでしょう。

スマートスピーカーは、直接お客様に対してリーチできるチャネルであることへの期待値は高く、ユーザーにどう訴求できるのか、または自社事業にどう活用できるのか、クライアント企業からの相談は徐々に多くなっています。

具体的にはどのような相談が寄せられているのでしょうか。

佐々木氏:具体的な相談内容をお伝えするのは難しいのですが、既存事業の進化や新規事業の開発を模索してご相談頂くことが多いです。呼びかけに対してただレスポンスするだけのスマートスピーカーや音声UIサービスではなく、そこから得られる感情データや周辺環境の認識など、テクノロジーが有する様々なデータやリソースを掘り起こし、組み合わせて、サービスをより楽しく充実させるような進化にトライしています。

スマホの黎明期に重ね合わせて想像すると、スマホの登場でアプリが増えていったように、これからスマートスピーカーのスキルも広がっていき、市場が急速に拡大してくるイメージもあります。

小川氏:米国では、Amazon Alexaのスキルの数が40,000くらいあるそうです。対して日本は、2,000を超えたくらいですが、今まさに加速度的に増えています。ただ、お楽しみ系のスキルが多いかなという印象は受けますね。携帯電話用のアプリが出始めた頃もやはりゲームを作るのがスタートラインでした。ハードの特性を活かした楽しみ方を模索するにはゲームは取り組みやすいと言えますが、それは生活に入り込んでいるというよりワンポイントで使うケースが多いもの。むしろ提供側が自分たちの知見を得る目的で作っているような場合もあります。スマートスピーカー用のスキルにおいても、類似した状況があるのが日本における主な現状ですが、今後は変化していくでしょう。

写真3:佐々木祐輔氏佐々木氏:米国の40,000スキルと比較して、日本の2,000スキルは少ないですよね。数が少ないと、なかなか競争も生まれません。

競争が起きないと、生活者に選ばれるための創意工夫も生まれず、いつまでも生活者の期待を超えることができません。そのため、まずサプライヤーが増えていくことは大前提だと考えています。

勿論サプライヤーも市場性が見込めない限りは参入できないという現実問題はあります。今後、より多くの企業がチャレンジできる環境を整えられれば、サプライヤーが増えることで良い意味での競争が起き、より良いサービスが生まれるでしょう。その結果普及が進み、スマートスピーカーのチャネルとしての成熟度が上がっていくのではないでしょうか。

Amazonの取り組みとしても、人気の高いスキル開発者へ報奨金を与えるといった話も出てきています。

今後の日本のスマートスピーカー市場がどうなっていくかを知る上で、ベンチマークにすべきは、やはり欧米のマーケットなのでしょうか。

佐々木氏:便宜上、Amazon Echoに限定してお話いたしますが、Forrester社の調査によりますと、米国のAmazon Echo発売から1年後の世帯普及率は約5.2%でした、個人普及率に割り戻すと2.0%~5.2%となります。日本のAmazon Echo発売から9カ月後の普及率は2.4%であり、米国の普及推移と乖離していないなというのが印象です。

ただ、残念ながら未来の話はどこまでいっても推測の域を出ません。少なくともマーケットが広がるためには、音声を起点にした生活者の満足を得られるようなユーザー体験の提供が求められています。

グラフ3:米国におけるスマートスピーカー普及世帯数

出典:「Forrester Data: Smart Home Devices Forecast, 2017 To 2022 (US)」より電通デジタルにて加工

Amazon Echoに画面付きのものが登場しましたが(Amazon Echo Show)、音声と画面を組み合わせたデバイスと捉えると古くからはテレビが代表的なものですよね。一見、Amazon Echo Showに新しさがないようにも思えますが、これこそ起点の違いだと考えています。画面に音声が付いたのではなく、音声を起点にユーザー体験を考えていたところに、画面が付くことによって見えてくる新しい体験価値があり、これに気づき、どう具体的なサービスに落とし込めるかが問われています。

小川氏:欧米との比較で言うと「日本人はスマートスピーカーに話しかけるのは恥ずかしいと感じるのではないか。」という仮説の話はよく聞きますが、今回の調査結果では、そう感じているのは所有者の20%程度でした。しかし、だからと言って、そのまま欧米と同じようなスキルを開発するのではなく、日本人のライフスタイルにあわせて考えてみるのも必要なプロセスかと思います。

例えば、スマートスピーカーを家全体のハブにしたスマートホーム化が進んでいますが、入浴好きな日本人の習性を考えれば、お風呂にスマートスピーカーがあればどう生活が楽しいものになるかと考えるのはどうでしょうか。親子で一緒にお風呂に入って楽しく過ごすためのスキルや、その時間を子どもが自分の体に向き合う機会にできるようにするスキルなど、ベンチマークよりもターゲットにきちんと合ったように考えるということに尽きると思います。

調査結果では、Google Home 、Amazon Echo、LINE Clovaの3つが大半を占めています。どのデバイスが一番伸びそうと感じますか?

小川氏:今の段階で明確に一番を決めるのは難しいと思っています。各社それぞれ、スマートスピーカーと既存のサービスとの連携を打ち出しています。 Google Home なら Google で調べものができて、Google Map との連携で位置情報やお店をチェックできますし、Amazon EchoならAmazonで買い物ができたり、Prime Musicで音楽を流したりできます。そういう各社の違いは生活者から見られているような気がしますが、それは、すでに持っているアセットを活用して広げるという最初の段階だからだとも思います。ただ、iPhoneとAndroid の両方で使えるスマートフォンアプリのように、企業がデバイスを限定しないスキルを出していくと、均されていくのかなとは思います。

佐々木氏:Amazon Echoは、Amazonという強力な販売チャネルがあることが優位ですね。普段のAmazonでの買い物の動線の中に、自然に入ることができ、セールやキャンペーンなどを通じたプレミアム価格をきっかけについつい買ってしまうということも容易に想像ができます。そこはAmazon Echoの強みであると思います。

今後、スマートスピーカーの課題になりそうなことは何でしょうか。

佐々木氏:まず価格帯は5,000円くらいのものもあり、既に比較的安くなっており、購入時の壁にはならないでしょう。各社、戦略的な価格設定を行い、普及を進めているイメージです。普及が進んだ後、先ほど申し上げたとおり、広告モデルなど企業から収益を得るモデルが検討されていくでしょう。

小川氏:音声UIという領域で言うと、現状の大きな競合はスマートフォンかと思います。例えば Siriが更に便利になると、わざわざ据え置きのハードを部屋に置かなければならないのか、というユーザーの発想にもつながります。デバイス特有の強みを生かすような体験ができないと、やはりスマートフォンというデバイスが優位であるという感じはします。

佐々木氏:そう考えると、Google Home はAndroidと連携ができるから、補完関係にもなりえますね。

小川氏:確かにそうですね。海外で使われるスキルで、まだ幼くてスマートフォンを使いこなせず字もあまり書けない子どもが、外出先の母親に対して音声で「お母さんお菓子買ってきて」など呼びかけると、母親のスマートフォンに通知がくるようなスキルがあるようです。そういう風に、家の中だけの体験ではなく、家と外、親と子ども、スマートフォンとスマートスピーカーを繋げるような体験をひとつのポイントにすれば、競合関係から協力関係にしていけるのかもしれません。

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野下 智之

ExchangeWire Japan 編集長

外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。 2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。