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「収集データの種類もその用途も利用企業もまだまだ拡大していく」-CDP大手のArm Treasure Dataが描くデータ活用の未来とは[インタビュー]

導入の有無がデータ活用の本気度を占う試金石のような存在となっているカスタマーデータプラットフォーム(CDP)。ただ「データを格納する箱」であるということ以上に、その利用実態はよく分からない部分も多い。そこでCDP提供企業としては国内最大手とされるトレジャーデータに、データ活用の現在地と未来図について語ってもらった。
(聞き手:ExchangeWire Japan長野雅俊)

 

 

CDPの独立性と柔軟性が持つ意義

 

―自己紹介をお願いします。

 

若原氏:トレジャーデータ株式会社のマーケティングチームに所属し、主にイベント登壇やメディア対応を担当するエバンジェリストの若原強と申します。

 

堀内氏:マーケティング担当ディレクターの堀内健后です。

 

―改めて事業紹介をお願いします。

 

若原氏:カスタマーデータプラットフォーム(CDP)をSaaS型サービスとして提供しています。併せて、ビジネスパートナーとも連携しながら、このCDPの導入・運用支援も行っています。

 

当社のCDPの特徴は、独立性と柔軟性。CDPはあくまでもデータを格納する役割を担う箱ですが、様々なツールと連携させることによって利用価値が拡大します。そこで、特定のツールに依存せず、導入企業の既存の仕組みや多様な与件ともスムーズに連携させるために、システムの独立性と柔軟性を確保することを重視しています。

 

―データを格納する箱としてはDMPもよく利用されています。一般的なDMPと貴社のCDPの最大の違いは何ですか。

 

堀内氏:いわゆるアドテク業界で利用されるプライベートDMPですが、もう少し広く顧客理解のために利用するデータベースがCDPだと捉えていただければと思います。格納できるデータの量と種類を拡張し、広告配信以外にもマーケティングやCRMに活用すれば、CDPになると理解していただいて支障はないです。

 

もう少し具体的な違いとしては、当社が開発したCDPには、メールの配信ログ、広告ログ、Webログや購買データに加えてセンサーデータなども格納することができます。

 

一般的にプライベートDMPにおいては、導入時には想定していなかったデータを追加しようとなった際にそもそも対応ができない、または既存のデータ活用の仕組みと連携させることができないという事態が往々にして発生します。ただ当社のCDPには独立性と柔軟性があるので、あらゆるデータをあらゆるシステムに随時繋げることができるのです。

 

―最近ではソフトバンクグループ傘下のコンピュータチップ設計企業であるArm傘下に入ったことが話題を集めました。

 

堀内氏:財務基盤が安定し、組織が相当大きくなりました。以前は200人程度だったのに、今はArm全体で社員が6500人ほどいるわけですから。

 

また現状では当社はデジタルマーケティングを主戦場としていますが、Armの得意領域であるデバイスとの連携を通じたIoTへの展開も視野に入ってきました。日本は製造業が強く、家電からたくさんのデータが生まれているはずです。現時点で当社として事例はほとんどありませんが、この領域におけるデータ活用の発展の余地は大きいと思います。

 

さらにはグローバル展開も進捗しました。よってArm傘下に入ったことで、法人企業から信頼を得るに十分な組織形態となり、データ活用領域が広がったと言えると思います。

 

社内の理解を得るならコスト削減を入口に

 

―データ活用の必要性が喧伝されている一方で、その失敗例も多いと聞いています。原因は何だと思いますか。

 

若原氏:データ活用に限った話ではないですが、大きく分けて、「プロジェクトをきちんと始められるかどうか」「始めたプロジェクトがきちんと効果を発揮するかどうか」の双方に課題があると思います。とりわけ前者においてまず必要なのは、経営層など意思決定者の関与や理解。データ活用などの横断的なプロジェクトをボトムアップのみで進めるのはかなり難しい。

 

次に適切なスコープや目的の設定も重要です。データ活用はあくまでも手段。なぜデータ活用を行うかという目的が不明確なままプロジェクトを開始すると、後で紆余曲折を繰り返すことになります。

 

―「ボトムアップのみで進めるのはかなり難しい」とのことですが、CDP導入はトップダウンで進められることが多いのでしょうか。

 

堀内氏:いや、まずは現場でデジタルマーケティングに詳しい方が当社のCDPを使ってみたいと言っていただいたことがきっかけとなる例が多いです。そういった方は概してエンジニア気質のマーケターで、社内政治などにはあまり興味がないタイプだったりします。その人の同僚なり上司が社内の理解を広げてくれて、最終的に経営層やCMOの承認を得るというパターンが多いです。

 

一昔前であれば、社内のごく一部の人しか知らないままにCDPが導入されることもありましたが、今ではコンプライアンス部門やIT部門との確認や個人情報の取り扱いに関するガイドラインの整備などが求められるので、CDP導入に際して全社的な理解を得ることは必須となりました。

 

―CDP導入における「適切に設定された目的」としてはどんな例がありますか。

 

堀内氏:コスト削減を中心に据えることで成功している事例が多いような気がします。もちろん、最終的には顧客の新規獲得の効率化や顧客理解を深めることを目指してデータを活用するのですが、大手企業では何も実績がない状態でとりわけ現場が売上増を確約するのは難しい。「100億円儲かるから1億円のシステム費を拠出してほしい」と言える現場社員なんてまずいないでしょう。

 

一方で大手企業であれば、既に多くのコストが発生しているので、コスト削減する余地はあちらこちらにあるはずなのです。だから「コストを下げられるはずだからシステムを導入したい、そしてデータ活用がさらにうまくいけば売上増にもつながる」といった提案が企業体では比較的受け入れられやすいのではないでしょうか。

 

当社は初期費用が発生しないいわゆるSaaS型サービスを年間契約としてご提供しているので、上手くいけば1年でコスト回収はできると思います。

 

―データ活用を成功させるために、貴社ではどのような取り組みを行っていますか。

 

堀内氏:プロダクトとしてのCDPの価値を上げる以外では、当社のコンサルティング担当者がサポート体制をご用意しています。また大手コンサルティング企業と連携することで支援の幅を厚くしたり、また「トレジャーアカデミー」という教育プログラムの運営なども行っています。

 

あとは成功事例をできる限り広めたり、見込み顧客に既存顧客を紹介してヒアリングを実施してもらったりなど、思いつく限りのことを実行しています。

 

利用ログとデバイスデータに注目

 

―貴社では主にどのようなデータを扱っているのでしょうか。

 

堀内氏:収集データの多くはウェブログ、アプリログ、広告ログで、それらのデータを自社ウェブまたはアプリを経由したCRM目的で利用されることが多いです。ただ今後は利用ログの活用が増えていくと見込んでいます。

 

またやや目新しいものとしては、ログ分析を通じて特定のユーザーの購入意向をスコアリングしたデータを自動車ディーラーの営業担当者様が活用される場合があります。さらには店舗の適正在庫の計算にご利用いただいているアパレル企業様もいらっしゃいます。

 

―CDPないしDMP市場に関する今後の展望についてお聞かせください。

 

堀内氏:この市場はまだまだ拡大するはずです。当社の取引社数は約400社。一方で東証一部上場企業だけでも2000社以上存在します。上場するほどの事業規模を持ち、また少なくともB to C企業であれば、CDPを用いたデータ活用による恩恵は得られるはずです。

 

若原氏:利用企業数だけではなく、今後はデータの活用方法も拡大していくと思います。現在はデジタルマーケティングにおける購入前ないし利用前の閲覧データなどが主ですが、今後は利用ログやデバイスデータが流通してくるはずです。また商品開発にデータを活用する例も増えてくるでしょう。

 

また当社では、デジタルマーケティング以外での活用例として、「OUTPOST」といういわゆるスマートコンテナハウスの開発を進めています。「コネクテッド」と「オフグリッド」をキーワードとして掲げており、たとえどんな僻地であっても、センシング技術とネットワーク技術を通じて安全かつ安全な暮らしを提供し、一般的な生活インフラと切り離された状態でも水の浄化・循環技術や発電・蓄電技術などを生かして都会と変わらない利便性を実現しようとしています。

 

OUTPOSTのイメージ図

資料提供:トレジャーデータ株式会社

 

これらの取り組みを通じて首都圏一極集中にとどまらない新たな生活様式を提案しつつ、データが活用される領域も拡大させていくことができたらと願っています。

ABOUT 長野 雅俊

長野 雅俊

ExchangeWireJAPAN 副編集長
ウェストミンスター大学大学院ジャーナリズム学科修士課程修了。 ロンドンを拠点とする在欧邦人向けメディアの編集長を経て、2016年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 日本や東南アジアを中心としたデジタル広告市場の調査などを担当している。