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独自の検索広告プラットフォームに向けて-Yahoo! JAPANの取り組み[インタビュー]

 

Yahoo! JAPANは、今年4月から、オンライン経由で、初めて検索広告を利用する広告主に対して、10,000円分の広告費を支援する施策を発表した。

「検索広告」10,000円分の広告料金プレゼントについて

 

この取り組みについての詳細および、同社の検索広告ビジネスの現状や今後について、Yahoo! JAPANの検索広告のサービスマネージャーとして、事業全体を統括する大町一輝氏にお話を伺った。

(聞き手:ExchangeWire Japan:野下 智之)

 

2015年以降は、総合通販系ECと旅行が成長をけん引

―直近の検索広告の需要動向についてお聞かせ下さい。
コロナ前の概況としては、少し遡って2015年頃からEC系事業者やOTAなど旅行関連事業者のご利用が増加しました。

2018年に当社の広告品質に関するポリシーの強化により、広告の品質改善を実施し公式サイトと誤認するような広告などを取り締まり、広告主様にとっても検索ユーザーにとっても良質なメディアを目指した結果、効果を広告主様に実感いただき継続してご利用を拡大いただきました。

この頃よりEX系事業者や旅行関連事業者の取り扱いがオンライン経由で加入された中小企業の広告出稿の拡大よりも強くなりました。検索結果の表現の変更なども実施し、戦略の変更に伴い当社の検索広告売上は2015年~2016年にかけてマイナス成長となっておりましたが、2017年以降、2019年まで成長を続けております。

2020年2月~3月にかけてコロナウイルスの影響が見え始めました。まず2月の段階で、旅行関連の広告主が海外旅行の需要急減による影響を受け、続いて国内需要の落ち込みも顕著となりました。そして飲食店の落ち込みが始まり、その後アルバイトの募集などが縮小する影響で人材系事業者の取り扱いも減少、旅行、人材系の広告主による出稿に大きな落ち込みがみられました。

 

コロナ禍での出稿動向と、Yahoo! JAPANの取り組み

―通販系事業者は引き続き広告出稿は伸びているのでしょうか?

オンライン通販事業自体は成長していたと思いますが、事業成長に連動して広告出稿が伸びているとは言えない状況です。主な理由としては、マスクに象徴されたように広告訴求をせずとも品切れになるまで需要があったり、外出を促してしまったりするため広告訴求が適切な時期ではないケースや物流が滞っている場合もありました。一方で、コロナ禍でお取り扱いが著しく成長したのはVOD系事業者でした。外出を控え在宅時間が増えるため需要が増加したため、自宅での過ごし方の検索に連動した広告としてご活用いただきました。

 

―1万円支援キャンペーン実施の背景についてお聞かせください

検索広告は継続して成長を続けています。コロナウイルスの感染拡大により、先述した旅行系事業者、飲食店系事業者や人材系事業者において、大手のお客様のみならず古くから検索広告をご利用いただいている中小事業者様が経営に少なからずダメージを受けています。

Yahoo! JAPANが運営する、検索広告は、幅広い業種の広告主の方に使っていただいておりますので、広告出稿のトレンドから幅広い業種の動向を知ることができます。これらの動向から事業者の方々の厳しい経営状況をうかがい知ることができたので、何か手助けをすることができないかということで、新たにYahoo! JAPANの検索広告を使って検索結果面でアピールをしてほしいと思い、今回の取り組みを始めました。

 

―今回1万円分の広告を無償で提供するのは、新規広告主のみということですね?

はい、そうです。既存のお客様に対しては、当社の営業担当からサポートをさせていただいておりますので、このキャンペーンは新規の方に限っております。既存のお客様には広告の使い方の改善方法をお伝えすることで、よりコストを抑えてお使いいただけるような取り組みもしております。

 

―1万円の支援を受けるための条件は設定されていますか?

オンライン経由で新規にアカウントを開設いただくという以外は特に制限を設けておりません。ただし、新規に申し込みをいただくには、デポジットを入れていただく必要があります。従来はアカウントの開設に当たって、最低3000円をデポジットしていただく必要がありましたが、キャンペーン期間は支援分の1万円を使い捨てていただいてもいいので何か力になりたいという点から、1000円に引き下げました。

 

―開始以降どの程度の申し込みを受けていますか?

既に3桁に近い事業者の方より申し込みをいただいております。例えば社会保険労務士さんが、中小企業向けの雇用調整金に関する相談を受けることを訴求する広告を出稿されたりというような、昨今の社会情勢を反映した使われ方をしているケースもあります。あるいは個人でブログを紹介したり、お店が通販を始めたときの訴求をするなど幅広くご活用いただいています。

今回の施策については、これを機に継続してお使いいただかなくても、1万円分を使い切ったらご使用をやめていただいても、当社としては差し支えないという考えのもとで始めました。実際に半数近くのお客様はそのようにご利用いただいています。Yahoo! JAPANがこのような取り組みをして個人事業主の方や中小企業を支援させていただいていることを、知っていただけるだけでもいいと考えております。

 

―今後しばらくはこの施策を継続される予定ですか?

当初は6月末までを想定しておりましたが、これを延期して昨今の情勢を見つつしばらくの間は様子を見ながら続けていこうと考えております。

 

手間なく運用できる広告プラットフォームに

―Yahoo! JAPAN全体として、広告プラットフォームをYahoo!広告への統一を打ち出されていますが、検索広告と他の広告プロダクトとの具体的な統合も始まっているのでしょうか?

代理店様広告主様からも要望をいただき、社内では検討を重ねています。
設定や運用で触れていただく画面の体験も現在はプロダクトにより異なるので、体験~管理まで差異なく出来るように議論を続けています。

 

 

 

―その他に何か、検索広告の施策として取り組まれていることはありますか?

今後はYahoo! JAPAN独自のデータや体験を提供できるような機能を作っていきたいと考えています。例えば外部のDMPとYahoo! JAPANユーザーの属性を掛け合わせた連携による広告配信などもその一例です。

あとは、広告主向けに、広告運用の一部を自動化できるような機能を導入していきたいと考えております。

昨今、様々な広告プラットフォームが増えてきています。連動して、運用や作業が必然的に増えていきます。運用者にとって、効果に加えて運用効率も重要な指標となっており、手間のかかるプラットフォームには時間を割きづらくなっていきます。検索広告としては、広告運用にかかる手間をどんどんと小さくさせていきたいと考えております。

レポートを手元にダウンロードする時間をキーワードや広告文のメンテナンスに充てられるようにしたり、効果改善までの道のりを短くすることで継続して触れていただき、活用の幅を広げていただけるのではないかと思っております。

 

ABOUT 野下 智之

野下 智之

ExchangeWire Japan 編集長   慶応義塾大学経済学部卒。 外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。 2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。 2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。