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デジタル広告のようにテレビCMをバイイング-「PORTO tv」ローンチの意義[インタビュー]

 

CARTA HOLDINGSグループ会社、VOYAGE GROUPのブランド広告向けアドプラットフォーム「PORTO(ポルト)」が、テレビCMを対象としたマーケティングプラットフォームの提供を開始した。「テレビCMのデジタル化」は今後どこまで進むのか。

 

 

サービスの開発背景や詳細について、VOYAGE GROUP取締役の土井 健氏、ブランド戦略室 室長 吉濱 正太郎氏、PORTO tv事業本部 プロダクトグロース部 部長 川瀬 智博氏にお話を伺った。

(聞き手:ExchangeWire JAPAN 野下 智之)

 

 

テレビCMの効果をCPM換算する意義

―この度発表された「PORTO tv」の概要についてお聞かせください。

土井氏:PORTO tvは、テレビCMの効果をデジタル広告と同様にCPA、CPM、CPIに換算して計測することでPDCAを回すことを可能にする次世代型TVマーケティングプラットフォームです。これまで一度もテレビCMを出稿したことがないけれども、デジタル広告は大量に出稿してきたという広告主様にご活用いただくことを想定しています。

メディアプランニングに当たっては、掲載期間、ターゲット層、エリア指定をすることで、出稿前にシミュレーションをすることができます。先ほど申し上げた通り、テレビCMの一般的な効果指標であるGRP(延べ視聴率)に加えて、デジタル広告特有の指標であるインプレッション、CPM、CPCV などでも効果を把握することができます。

 

―テレビCMの効果をデジタル広告の指標で計測する意義は何ですか。

土井氏:「テレビ広告は出稿してしばらく経たなければその効果が分からない」という現状が、長らく課題とされてきました。PORTO tvのシミュレーション機能を活用することで、この不安はある程度まで解消することができます。

またテレビ広告を出稿したことがない広告主様の多くは「テレビCMは高額」というイメージを持たれているかと思います。ただ実際には、地域指定をすれば数十万円から出稿することができます。加えてその効果をCPMなどのデジタル指標に換算してみると、他の動画広告媒体と比較して、「テレビ広告って意外と安い」と実感することもあるはずです。

さらには、ほぼ即日での効果測定が可能になったことで、デジタルマーケティングと同様に高速でのPDCAを回すことができるようになりました。例えばCPMを安く取ることができる地方でテストマーケティングを実施した後に、関東で本格的なマーケティングを展開するということが今後は可能になります。

 

 

―デジタル広告におけるメディアプランニングの手法をテレビCMに適用したということですね。

土井氏:「デジタルの当たり前をテレビに」というのが本プロダクトの理念です。プランニングだけでなく、テレビCMに関わるPDCAをこのマーケティングプラットフォーム上で回すことができます。

Doの実行段階においては、ダッシュボード上でテレビCM用の動画クリエイティブを発注することができます。制作プランは3段階に分けて用意。文字、静止画、アニメーションを組み合わせるだけの簡易なものから、タレントをキャスティングした上で海外のロケ地で撮影するような本格的な映像まで対応可能です。

またCheckの評価段階では、ビデオリサーチ社の実績視聴率データをレポートとしてダッシュボードに反映しています。テレビCMの放映後の数分後に例えばアプリのダウンロード数がどれだけ増えたかを計測し、通常時と比較することでテレビCMの効果を推定します。テレビCMの効果には時間差があるため、それを精緻に判別するためにも機械学習を用いた推定モデルを採用しました。最短で翌日、遅くとも翌々日に実績レポートが表示される仕組みとなっています。

この機能を用いることで、エリア、局、番組、クリエイティブといったあらゆる軸でのテレビCMの費用対効果を可視化できるようになりました。Actionの改善段階においても、データに基づいた提案作成ができるようになります。

 

テレビCMの価値を再定義

―PORTO tvの開発経緯についてお聞かせください。

土井氏:構想自体は一昨年からありましたが、事業が本格的に始動したのは2019年初期です。時期をほぼ同じくして電通グループのサイバー・コミュニケーションズとVOYAGE GROUPを経営統合させたCARTA HOLDINGSが誕生しました。これまで新規事業を次々と開発してきたベンチャー企業としてのVOYAGE GROUPと、テレビCMに関するありとあらゆる知見を蓄積してきた電通グループの良いとこどりを実現した事業になるはずです。

 

―販売方法についてお聞かせください。また、主な顧客対象はどのような広告主になるのでしょうか。

土井氏:当社が広告主様に対して直接販売していくことになります。これまでテレビCMを出稿したことがない、スタートアップ、D2C、中小規模の企業様などを想定しています。例えば近年ではデジタル広告のみに年間1億円を投下する広告主様は決して珍しくありません。この1億円のうち2000万円をテレビCMに振り分けるという動きは考えられます。

尚、2019年にインターネット広告費がテレビメディア広告費を追い抜きましたが、テレビ広告費が近年落ち込み気味なのは、その価値を伝え切れていないという面が多分にあると思います。デジタル広告の出稿主様にとってテレビCM出稿のハードルが高いという課題さえ解決できれば、より包括的かつ効率的なマーケティングを展開できるようになり、広告市場全体の成長にも寄与できるはずです。

 

川瀬氏:「PORTO tv」のリリースにより、これまでデジタル広告しか出稿経験のない広告主様にテレビCMに出稿していただくことで、意外とテレビCMというのはお手頃でコストパフォーマンスが良い媒体であるということを、気づいていただけるであろうと期待しています。

 

 

国内で新たに事業を始めようとしている企業様が効率的に広告予算を投下して、事業を伸ばしていっていただきたい。

今回のリリースにより、テレビCMの価値の再定義ができ、かつ企業の成長を支援させていただけることを願っています。

 

―どこから予算を取ってくることになりそうでしょうか。

川瀬氏:最初は、広告主様の媒体別の予算配分を変えていただくところから始まることになりますので、恐らくはデジタル広告から予算を取ってくることになるでしょう。ただし、広告主様がテレビCMの出稿をしたことが事業成長につながれば、長い目で見れば広告予算の増額につながるので、デジタルを含む広告市場全体にとってもポジティブなことであると見ております。

 

メディア横断の鍵を握るのはテレビCM

―テレビCMとデジタル広告を結びつける試みとしては、OTTと総称される動画配信サービスも注目されています。

吉濱氏:テレビCMのデジタル化やOTTの普及に向けての取り組みが進めば、デジタル広告とテレビCMを横断した予算配分の最適化が進みます。テレビCMの効果に関するデータを踏まえた上で、オンライン広告での純増リーチをいかに確保するかといった施策の検討もしやすくなるはずです。

 

一方でオンライン広告ではcookieやIDFAの制限がますます強化されていく見込みなので、これらのトラッキング技術に依存することなく、あらゆる情報をかき集めてユーザーに関する情報を推定する仕組みをこれから整備しなければなりません。

これらの課題が解決すれば、広告主様はオンラインかオフラインかを検討する必要もなく、純粋に広告効果が高い媒体に広告が配信される様子をただ見守るという環境を構築できるのではないかと思います。

 

土井氏:最終的には広告主様がKGIとKPIを設定したら、「あなたに最適な広告プランニングはこれ!」というメニューが出て、OKを押せば広告が様々なメディア形態に効率的に配信されていく仕組みを作りたい。テレビCM、ウェブ、アプリ、オーディオ、DOOH、OTTといったありとあらゆる広告形態から最適な組み合わせと広告予算の配分が自動的に提案されるような設計が理想です。競合事業者も全く同じような構想を描いているとは思いますが、当社こそがこの理想を最初に実現できると信じています。

 

吉濱氏:「ありとあらゆるメディアを横断して広告を配信する仕組み」を整備する上で、やはり重要なのはテレビCMです。電通グループが圧倒的な強みを持ち、また大手広告プラットフォームがまだ本格的には着手できていない領域だからです。テレビCMとオンライン広告を統合する力を持つのは、もしかすると日本国内では当社グループだけなのかもしれません。

 

 

 

ABOUT 野下 智之

野下 智之

ExchangeWire Japan 編集長   慶応義塾大学経済学部卒。 外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。 2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。 2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。