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OTT市場黎明期での市場参入でコアなファン層を獲得-Dplayを立ち上げたディスカバリー社の広告戦略とは[インタビュー]

アプリ広告市場において、動画配信サービスの存在感が増してきた。新たに日本市場に参入したのが、ドキュメンタリー番組の放映で知られるディスカバリー社。動画アプリの利用率がまだ低い日本市場でどのような広告サービス形態があり得るかについて、同社とその事業パートナーを務めるサイバー・コミュニケーションズ(CCI)に話を聞いた。(聞き手:ExchangeWire Japan長野雅俊)

市場形成期の段階での早期参入

 

―自己紹介をお願いします

 

ヤン氏:ディスカバリー・ジャパンのプロダクト戦略&マーケティング部でシニアディレクターを務めるジェニー・ヤンと申します。PCやモバイルアプリを通じた動画配信サービスである「Dplay」に加えて、CS放送の「ディスカバリーチャンネル」や「アニマルプラネット」などを含めたマーケティング業務全般とDplayのプロダクト戦略を統括しています。

 

坂元氏:サイバー・コミュニケーションズ(CCI)のブロードキャスティング・ディビジョンに所属する坂元詩織と申します。主に放送局のデジタル領域におけるコンサルティングを担当し、放送事業者様の課題解決に向けたソリューションの企画、開発、販売及び運用を行っています。

 

-Dplayを日本市場に展開するに至った経緯をお聞かせください。

 

ヤン氏:日本のOTT市場はまだ黎明期です。定額制動画配信サービス(SVOD)の利用率は米国で60%、欧州では50%と言われるのに対して、日本ではまだ10%に過ぎません。このような市場形成期の段階で早期参入を果たしたいという思いがありました。

 

またディスカバリー社は、年間8000時間のオリジナル番組を制作し、累計では30万時間分の動画コンテンツを保有するドキュメンタリー分野では最大規模の企業です。これまで日本市場ではCS放送の「ディスカバリーチャンネル」と「アニマルプラネット」を通じてそれらコンテンツの一部を放映してきましたが、グローバル規模ではそれ以外にも50超のメディアブランドを運営しており、まだ紹介しきれていないコンテンツが多数あります。放送枠が限定されたテレビを通じて紹介できるコンテンツは限定されるので、デジタルプラットフォームを活用したいと考えた次第です。

 

とりわけ近年では日本の人々の視聴形態が変わり、テレビからデジタルへの移行が進んでいる最中にあります。日本市場への進出には最適なタイミングであると判断しました。

 

―動画配信サービス形態としては、有料で広告が入らないまたは極端に少ないSVODと、無料で広告が入るAVODに大別されます。Dplayではいずれの収益化モデルを採用しているのでしょうか。

 

ヤン氏:両者を並行して提供するハイブリッド型モデルを採用しています。2019年9月からAVOD、2020年3月からSVODを立ち上げました。

 

尚、現時点における日本市場はAVODが主流であると認識しております。将来的にSVODがどれほど浸透するかは未知数。こうした状況を鑑みた上で、まずはAVODを通じてDplayの認知を拡大し、コアなファンをつかみたいと考えています。

 

競合VODとの差別化要因を多数用意

 

―放映内容が同じだとしても、SVODとAVODでは視聴者層や運営のノウハウが大きく異なりそうですね。

 

坂元氏:あくまでも一般論となりますが、AVODはマス向けのコンテンツとの相性が良いという考え方があります。その為、実際のAVODにおける広告配信ではターゲティングを掛け合わせるなど、訴求内容に合わせ精度を高める施策を実施します。

 

一方、SVODにはよりロイヤルティが高いコアなファン層が集まるので、その層に向けた商材に向いているのではないかと考えております。例えば科学、テクノロジー、高級車などに関連した商材では、SVODを通じたマーケティングが効果を発揮する場合があります。

 

 

―日本市場で流通しているその他のAVODとはどのように差別化を図っていますか。

 

ヤン氏:まず、ショートフォーム(短尺)のUGCコンテンツを主としたYouTubeとの違いは歴然としています。ディスカバリーはプロの映像制作者たちが手掛けたロングフォーム(長尺)のコンテンツを専門に扱っています。

 

またTVerやAbema TVなど、ニュース、ドラマ、バラエティまで様々な種類のコンテンツを網羅した総合型メディアと比べると、Dplayはドキュメンタリーというコンテンツに特化しているので、エンゲージメントの高いコアファンを囲い込むことができます。

 

 

 

もう一つの大きな違いは、Dplayはすべて自社コンテンツであるということ。様々な映像配信プラットフォームからの提供を受けて成り立つコンテンツアグリゲーターとは一線を画します。

 

さらにリニア配信を通じてテレビ放送と似たような経験を視聴者に提供する動画配信サービスもありますが、Dplayはオンデマンドサービスであることも大きな違いとなっています。

 

ブランドスタジオ機能を独自の強みに

 

―Dplayの広告媒体としての差別化要因は何ですか。

 

ヤン氏:ターゲティングされた良質なユーザーがそろっており、インストリーム広告フォーマットを含めて多彩な広告メニューを用意していることが一つ。さらにブランドソリューションを提供していることが大きな特徴です。つまり広告主のブランド醸成に活用いただけるディスカバリーならではの映像制作の受注をはじめ、番組で背景や小道具の一つとして特定の商品を用いるプロダクトプレイスメントや、本格的なインタビュー特集の中で広告主様のサービスを取り上げるといったことなども行っています。

 

ちなみに多くのいわゆる有料チャンネルでは、収入の大部分を視聴料が占め、あとは広告枠を販売するだけという場合が少なくありません。広告主向けの番組作りは、テレビ通販以外に実施していないというのが一般的ではないかと思います。一方で当社はクリエイティブソリューションにも注力していることで大きな差別化が図られています。

 

―ブランドスタジオ機能を有しているということですね。

 

ヤン氏:もちろん、メディア単体としての価値を高めていくことにも注力しています。これまでディスカバリー社が提供するコンテンツの視聴者は男性が多かったので、Dplayの立ち上げに際しては、ライフスタイルやフード&トラベルといった女性からの関心を集めやすいカテゴリーを追加しました。これまではテクノロジー企業様やBtoB企業様からの出稿が特徴的でしたが、今後はFMCG(一般消費財)関連の広告商材も増えると期待しています。

―いまだ黎明期にある日本のOTT市場において、マーケティングを行うに十分な広告在庫を用意できるのでしょうか。

 

ヤン氏:Dplayはあくまでもディスカバリー社によるメディアミックスの一部分に過ぎません。さらにCS放送とBS放送(BS11を通じた一部枠)があり、加えてデジタルプラットフォームとしては、YouTubeチャンネル、Facebook、Twitterもあります。すべて合わせると、日本市場で月間1000万人以上にリーチできるメディア規模となります。

 

坂元氏:アプリだけではなく、CS放送、BS放送、SNSにも合わせて配信できるというのは非常にユニークだと思います。とりわけ現在は第5世代移動通信システム(5G)の導入や延期が決まった東京五輪に向けて、テレビとデジタルの融合が様々な観点から検討されています。既に両方の側面を持ち合わせているDplayは、非常に魅力的な媒体であると思います。

 

 

 

―OTT領域における広告配信においてその他に課題はありますか。

 

坂元氏:メディアレップとしての立場から申し上げると、広告主様や広告会社様はアドベリフィケーションへの関心を高めており、ブランドセーフティ、ビューアビリティなどに関するお問い合わせも増えてきているように思います。さらに、それらを担保した広告配信の後に、ブランドリフト調査を通じて広告の効果検証をする事例も増えています。つまり、質の高い広告在庫を提供するだけでなく、その効果をいかに可視化できるかが求められていると考えております。

 

ヤン氏:サービス規模及びリーチの拡大に向けて、当社ではマーケティングコンテンツパートナーとの提携にも注力しています。直近の例としては、自動車総合ニュースサイトであるレスポンスのサイト上に当社のクルマ専門チャンネルである「MotorTrend」の特設サイトをつくるなどしています。同様の試みをアウトドア、フード、トラベルといった分野においても展開していく予定です。

ABOUT 長野 雅俊

長野 雅俊

ExchangeWireJAPAN 副編集長
ウェストミンスター大学大学院ジャーナリズム学科修士課程修了。 ロンドンを拠点とする在欧邦人向けメディアの編集長を経て、2016年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 日本や東南アジアを中心としたデジタル広告市場の調査などを担当している。