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日本最大のタクシーサイネージの次の一手とは―事業統合で市場シェア大幅拡大のIRISに聞く[インタビュー]

これまで互いにしのぎを削ってきた大手二社がサービスを統合し、日本国内の大部分のタクシーを押さえた巨大なサイネージ広告媒体が誕生した。

業界を揺るがすこの動きについて、当事者の一人である株式会社IRIS社 取締役COOの飽浦尚氏に話を聞いた。

(聞き手:ExchangeWire JAPAN 野下 智之)

 

 

B to B、BtoC問わず多くの企業が好反応

―この度発表された貴社と競合デジタルサイネージ事業との大型サービス統合の経緯についてお聞かせください

今年4月より、国内最大規模の配車アプリであるJapanTaxiと、株式会社ディー・エヌ・エーが開発した配車アプリであるMOVが事業統合し、社名が株式会社Mobility Technologies(旧・JapanTaxi株式会社)へと変わりました。この配車アプリの統合手続きについては現在も進捗中であり、同時並行でJapanTaxiとMOVが運営していたタクシーサイネージ事業についても統合を進めてきた次第です。

より詳しく申し上げますと、株式会社Mobility Technologiesと株式会社フリークアウト・ホールディングスの合弁会社である株式会社IRISが手掛けるタクシーサイネージ事業のTokyo Primeと、株式会社ディー・エヌ・エーのMOV事業におけるタクシーサイネージのPremium Taxi Visionが統合されました。この統合においてはIRIS社が主管となり、Tokyo Primeというブランド名は今後も維持されます。この統合により、当社サービスが保有するタクシーサイネージ数は競合社を大きく引き離す規模で日本最大かつ東京最大になりました。

 

―今回の事業統合により、貴社の広告事業の収益は大幅に拡大するのでしょうか。

タクシーサイネージ広告においては、サイネージを搭載したタクシーの保有台数と広告料金が比例します。広告配信先が多くなればなるほど、視聴者数が増え、広告枠の価値が上がるからです。

さらに売上への影響を図るに当たっては、東京などの主要地域を走行するサイネージ搭載タクシー数も重要な要素です。今回の統合によって東京の台数がさらに増えたことに対しては、ナショナルブランドやB to Bの広告主様より評価いただいています。さらには株式会社ディー・エヌ・エーのPremium Taxi Visionが得意としていた京阪神地区の台数が大幅に増えるので、関西に拠点を置く広告主様からの出稿が今後増えていくと見込んでいます。

 

広告以外の動画コンテンツ拡充に注力

―サービス統合によってその他にどんな変化が起こり得ると考えていますか。

統合によって当社提携タクシー台数が大幅に増加することで、営業活動は非常に進めやすくなります。この機会を活用して、今後はタクシーサイネージの質向上を追求していきたいと考えています。

もちろん今までもサイネージの質向上に向けての取り組みをないがしろにしていたわけではありません。ただし、競合企業との競争やマーケティング活動に多大なリソースを割かなければなかったことも事実です。今後は乗客に対してサイネージに配信される動画を視聴するメリットを実感いただけるような環境を整備することへの注力を強めていきます。

とりわけタクシーサイネージの画面上で流れる広告以外の動画コンテンツを拡充します。その一例として、動画制作企業として名高いワンメディア株式会社と共同して、タクシーサイネージを通じてしか視聴できない動画コンテンツの制作を行っています。

つまりタクシーに乗車したからそのついでにタクシーサイネージにも目を向けるというだけでなく、面白い動画が観たいからタクシーに乗るとまで思ってもらえるような環境を用意することで、タクシーサイネージの良さをアピールしていく予定です。

 

―今回の事業統合によって国内のタクシーサイネージ市場の大部分を占めることになったとのことですが、今後はどのように事業を拡大していく予定ですか。

将来的にはタクシー以外の交通手段にもアプローチできたらいいと思っています。移動体にサイネージを設置し、途切れることなく動画を視聴できるように安定稼働をさせるのは実は非常に難しい。その領域においては当社の技術力に一日の長があります。

交通手段には空港のシャトルバスなどのようなものも含まれますし、また今後は比較的大きな車体の相乗りタクシーなどが増えていくでしょう。こうした交通手段にもサイネージを導入して動画広告の配信先を増やしていくという構想を温めています。

 

コロナ禍以後は新形態の創出が必須

―タクシーサイネージ事業は、コロナウイルスの感染拡大を目的とした外出自粛の影響をまともに受けたのではないでしょうか。

正直なところ、4月から6月にかけては売上が相当規模で落ち込みました。緊急事態宣言が出たことで、タクシーの乗車人数自体が平時の3分の1ないしは4分の1になったというのが原因です。先に申し上げた通り、交通広告というのは乗客が多ければ多いほど価値が出るものなので、深刻な状況に陥りました。

ただ緊急事態宣言が解除されてからは、徐々にではありますが、乗客数が戻ってきています。訪日外国人旅行客が多い京都や福岡といった地域はいまだ見通しが厳しいとの声を耳にしますが、それ以外の地域では回復基調です。これまで通勤電車を主に利用していた方がタクシーを利用する機会が増え、経営層がより率先してタクシーに乗るようになっているようです。

 

―タクシーサイネージ広告事業についての今後の見通しはいかがですか。

B to Cの消費財メーカー様などは広告予算を減らしていると聞きますが、ソフトウェア系のサービス提供企業様やB to Bの広告主様は広告出稿を再開し始めています。

今後の見通しについては、私も分からない部分が大きいです。ただ感染者数が0名になるまで企業は経済活動を抑制するという方針であれば当社の事業運営は非常に難しくなりますが、最近では感染抑止と経済活動の折り合いをいかにつけるかを模索しようという方向で世の中が動いているように感じます。

当社提携タクシーの乗車回数に関するデータなどを見る限りにおいては、そのような社会的な理解の下では、タクシーは比較的安全な交通手段として捉えられているように見受けられます。つまり適切な対策が取られてさえいれば、満員電車よりも感染リスクが低いと評価されているように思います。もしそうであるならば、タクシーサイネージの広告媒体としての価値はむしろ今後上がっていくのではないでしょうか。

 

―コロナ禍への対応は、タクシーサイネージに関わらず、屋外及び交通広告全般にとっての課題となりますね。

サイネージ広告媒体の注目がようやく高まってきたタイミングで、コロナ禍に陥った印象は拭いきれません。業界全体で屋外広告の効果検証に対する取り組みや、オフィスビルのエレベーターホールへのサイネージ設置が進んでいた真っ最中であっただけに、残念な思いはあります。

私としては、かつてウェブサイトがいくつも立ち上げ始められたところに、AdSenseがそれらのウェブサイトを束ねてネットワークをつくっていったのと同じような動きがオフラインでも起こることを夢見ていました。コロナ禍により、この夢の実現に向けての様々な取り組みにブレーキがかかってしまった感はあります。

このような状況下においては、屋外及び交通広告商品のあり方についても再定義する必要が出てくるでしょう。これまでの概念だけに頼っていては、収益化は難しくなると思います。

当社としてはそうした課題を見据えた上で新しい形態の創出を視野に入れながら、タクシーサイネージ事業の発展に引き続き貢献していきたいと考えています。

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野下 智之

ExchangeWire Japan 編集長 外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。 2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。