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第三のリタゲ広告プラットフォームが挑む市場の攻めどころ[インタビュー]

リターゲティング広告というと、多くの方の中で大手事業者の名前がすぐに思い浮かぶであろう。

だが近年、この領域で成長を続ける事業者がいることを忘れるべきではない。RTB Houseで営業をリードする高橋君成氏と、顧問として参画している上野正博氏にお話を伺った。

 

(聞き手:ExchangeWire JAPAN 野下 智之)

 

市場が求めていた第三のリタゲ広告プラットフォーム

-お二人がRTB Houseに参画した背景をお聞かせください

高橋氏:私はリクルート、Criteoなどを経てRTB Houseに日本人社員1人目として参画しました。現在は日本全体の売上責任やPR活動を責任範囲として従事しています。

元々Criteo時代から「いつか外資系の立ち上げをしてみたい」という想いがありました。そこで前職で働いていた2017年10月頃に、今の上司にあたるAPAC MDから連絡をいただき、入社をしました。

もちろんリターゲティング広告市場という市場はすでに日本では飽和状態になっており、今このタイミングからなぜ参画するのか、と周囲からは疑いの目を向けられましたが、「人生は一度きり」というのが人生の根底にあるので、飛び込んでみよう、というチャレンジの想いが強かったです。

入社してからはオフィスの立ち上げや日本語の契約書作成、代理店探しなど日本展開における準備を進めてきて、現在に至ります。現在日本のオフィスには27名の従業員が在籍するまでに成長しました。

 

上野氏:私は2019年1月からRTB Houseの顧問として活動しています。それより以前に、RTB HouseのAPAC MDから「日本の事業が伸びているのだが色々とアドバイスをもらえる立場になってほしい」といわれました。最初は、前職の直接的な競合にあたる会社でもあり、流石に難しいということでお断りました。ただし、その後も気になっており、当時すでに入社していた高橋にプロダクトのことを詳しく説明してもらったのです。説明を聞いていたら、その技術が優れていることに気づきました。

この技術で一番面白かったのは、他の大手リターゲティングプラットフォームが良質であると判断しないユーザーをRTB Houseは良質と判断するという点です。このため、他のプラットフォームと比べてそれほどユーザーのカニバリゼーションが起こらないのです。また媒体から買い付けるCPMの水準も高い。ですので媒体社にとって、新たにRTB Houseを導入していただくことで新しい収益が得られるソリューションであることを見出しました。広告主にとっても新しいユーザーにリーチすることができる機会を得られる。これであれば業界のお役に立つことができると思い、現在事業を手伝っています。

私の役割は主に広告会社の幹部の方などとのネットワークの構築です。最近は営業会議にも入って、営業レポートに対するフィードバックなどをしています。

 

強みはDeep Learningを軸にした技術

-RTB Houseのリターゲティングプラットフォームとしての強みや差別化ポイントをお聞かせください。

高橋氏:Machine Learningではなく、Deep Learningを軸にした広告配信技術を持っていることが一番の強みです。また、そのエンジンから、CPAやROASの保証ができる課金プランも提供しています。つまりよりコンバージョンに重点を置いた配信をしているので、より優れたエンジンを持っていないとこのビジネスモデルは成立しません。そのほかにもキャンペーン設計を柔軟にできるところが外資系のDSPに比べると差別化になると思います。もちろんなるべく手を加えずに配信をすることで学習のスピードが早まることは多いです。ですが、日本においてはリターゲティング広告を多くの広告主が1回以上はトライされている状態で、リターゲティング広告に対しての評価は各社決まっている印象を受けています。

「この条件だったらもう一回トライしてみたい」「本当はこの条件でリターゲティング広告をトライしてみたかった」というお声を最近は特にいただくことが多いです。

当社の業績は、他社と比べてみても利益率が高いのですが、媒体社や広告主に高い利益還元をもたらしてなおも会社の利益率が高いということは、エンジンが優れていることを何よりも証明している事実であると考えています。

直近で月数千万円の出稿をいただいている企業様に協力いただき、他リタゲ事業者との乖離について調査を行いました。内容としてはRTB House経由のCVのアトリビューションを調査し、そのCVはどこが貢献していたか、を調べてもらいました。そうすると全体の約40%がどこのアトリビューションにもつかなかったCVであることがわかりました。このことから広告主にとっても新しいCVユーザーを連れてこられる、という成果がみてとれます。

 

上野氏:ほかの国ではEコマースを筆頭に、アパレルのお客様が多いのですが、日本では金融や人材、不動産など独自の業種も多いのです。したがってエンジンがデータを学習してきた素地がないので、日本独自でこれらの業種のお客様を数多く開拓し、エンジンにも学習をしてもらうことが必要でした。

 

-広告主側のCPAに対する要求水準が高くなると、今度はボリュームが取れなくなると思いますが、広告主はそのことを理解しているのでしょうか?

高橋氏:CPA課金であることをお伝えすると、高い要求を求められるケースはあります。

 

上野氏:過度に高い目標を求められると、元々目標としていた獲得件数には遠く及ばなくなりますし、結果的に平均のCPAは下がらないという結末を迎えてしまいます。そのあたりはご理解いただいて判断していただくことが必要です。

 

高橋氏:最近は私たちの啓もう活動もあって、そこまで無理な目標を設定されるお客様も少なくなりました。

また今では、既に大手事業者がリターゲティング広告市場の土壌を作ってくれていたことで、広告主も広告代理店が大手広告プラットフォームに続く第3のリターゲティングDSPとして、当社を選んでいただけることが多いです。

 

営業戦略も、日本での成功の秘訣

-導入件数はどのくらいになるのでしょうか?また今後どのくらいの導入アカウント数を目指すのでしょうか?

高橋氏:現時点で数百アカウントに導入していただいています。

 

上野氏:リターゲティング広告が一定の効果を得るには、広告主側が一定の規模以上である必要があります。ですのでアカウント数が多ければ多いほどいいとは限りません。ターゲットリストが仮に10000社あったとしても、上限を決めておく方が営業戦略上望ましいということもあります。これは当社に限らず広告事業者全体に言えることです。

ただし今後マーケティングファネルの上位レイヤーで新規のお客様を増やすための広告プロダクトの取り組みを進めていけば、より多くのターゲットを視野に含めることができるようになってくるでしょう。

 

-多くの事業者が既に参入していた日本市場において短期間で急成長を遂げた理由についてお聞かせください。どのような戦略が成功したのでしょうか?

高橋氏:まずは営業戦略として大手広告主のみを狙っていく、という戦略がはまったのかな、と思います。規模としては100万UU/月間以上の広告主のみを日本進出後の2年間は主ターゲットにしていました。それはもちろんDeep Learningという特性からより多くのデータ量(ここではユーザー量)、また多くの商品データを保有する企業こそパフォーマンスを発揮できると思っていたのがあります。

また、大手広告主で成果を出すことで、売り上げのインパクトも大きく、扱っていただく代理店の目に止まりやすい、というのがありました。

最初はもちろん聞いたことのない媒体名で、しかもリターゲティング広告ということから敬遠されてしまっていましたが、地道な営業努力のおかげで今では多くの代理店から注力商材として扱っていただけるようにまでなりました。

 

上野氏:営業もさることながら(笑)、やはり技術には素晴らしいものがありますね。

 

-直近のリターゲティング広告需要について、コロナ感染拡大による影響なども併せて、お聞かせください。

高橋氏:3月以降から広告を取り巻く環境は大きく変わっています。業界として一部の職種を除く人材、旅行は停止になりました。一方で、オンラインショップを持っているEC系企業では巣篭り需要のおかげで、リターゲティング広告を配信しなくてもユーザーが買い物にくる現象が発生しています。そのためリターゲティング広告予算自体は4月以降現象傾向をたどっており、8月くらいまでは季節性もあったため予算は抑制されていました。

ただ、広告主のマーケティング担当者とお話をしていると、この期間にリーチできたユーザーをしっかりと囲い込むためにもリターゲティング広告はむしろ重要になってくる、というお話もいただきます。9月以降は、人材や旅行も含めて出稿が戻ってきており、年末にかけて回復基調にあります。

当社がCPA課金であるということもあり、出稿を再開するにあたり手始めに当社に出稿しようというようなお考えをお持ちの広告主も増えてきています。

 

上野氏:本当によくわかっているお客様は、コロナ禍で在庫が増えたことでCPMが下がったことで、逆に広告在庫を積極的に買い付けるというケースも多々ありました。

 

クッキーレス事態に向けた取り組みとは?

-GoogleやAppleなどの大手プラットフォームによるプライバシー対応強化を背景に、リターゲティング広告の今後については厳しい見通しも示されています。業界各社はどのような対応を取っていくと思われますか?また貴社はどのような対応を取っていかれるおつもりでしょうか?

高橋氏:まだ会社から公式見解が出ていないので確たるお話はできませんが、プラットフォームの対応に合わせる対応と、法律にあわせていく対応の2つが業界各社に求められていると思います。これは日本国内の話ではなく、GDPRやCCPAが絡むためグローバルの議論が必要になります。日本で個人情報保護法に対して対策をとれたとしても、プラットフォームへの対応ができていなかったらいけませんし、逆も然りです。

RTB HouseとしてはGoogleやAppleらプラットフォーマーとの検証を進めながら技術的対応を進めています。

ただしAppleのITPなどについては一部対策を講じるのを諦めている箇所もあり(※SafariについてはRTB Houseとしては対策を立てていないため、現状ほとんど配信されない)、そのあたりのビジネスとしての強弱をつけています。また、クッキーレス社会に対応したプロダクトの開発も進めており、対応としては万全に進んでいます。

 

上野氏:この質問は私たちにとっては非常に厳しいものですね。これは当社に限らず業界全体に影響を及ぼすことです。実際に始まってみないとどうなるかはわからないです。ターゲティングができなくなるということは、効率が落ちることです。広告主に対して今まで1万円でCPAを保証できたいたことが近い将来できなくなるということは、明らかに広告主にとってデメリットです。このままだとゆくゆくは広告主の間で「インターネット広告は効率が悪いから違うことに予算を割こう」という議論になるかもしれません。それを良しとするかということです。

またそれによりメディアもCPMが下がり、広告収入が減ってしまうことになります。

これを日本や海外の政府、社会が今後どのように評価、判断するかということでしょう。

ABOUT 野下 智之

野下 智之

ExchangeWire Japan 編集長   慶応義塾大学経済学部卒。 外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。 2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。 2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。