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アプリ広告市場の課題と向き合い、クライアントとともに事業成長[インタビュー]

 

アドウェイズグループが提供する 全自動マーケティングプラットフォームUNICORNは、過去数年で急速に事業規模を拡大させてきた。その成長の背景には、同社が持つプロダクト思想が大いに関係しているようだ。

UNICORNの事業を一から立ち上げた、アドウェイズ代表取締役社長 兼 UNICORN CEO & Founder 山田翔氏および、同社Senior Marketing Consultant 金根佑 氏に、事業立ち上げの背景から、同社のプロダクト思想とその背景にある市場に対する向き合い方について、お話を伺った。

(聞き手:ExchangeWireJAPAN 野下 智之)

 

 

-自己紹介をお願いします

山田氏:UNICORNの代表 として、UNICORNの事業全体の今後のロードマップをメインに、市況感や世の中に必要なプラットフォームがなんであるかを考えるという役割をしています。
私は、アドウェイズの代表もしていますが、インターネット広告企業として広告代理事業 も担う同社と、 全自動マーケティングプラットフォーム であるUNICORNと合わせて市場全体にインパクトを出していくことができればと考えて経営をしております。

 

金氏:現在UNICORNのマーケティングコンサルタントと自社のマーケティングを担当しています。UNICORNが現在のデジタルマーケティングにおいて、どのような要素を課題として感じていて、それに対し行っている様々な取り組みを、ステイクホルダーや外部とコミュニケーションする役を担っております。
アドウェイズには8年前に入社し、海外事業を担当していました。その後一度アドウェイズを離れて米国のマーケティングデータ分析及び効果計測会社でAPAC展開を担当し、昨年からUNICORNに参画しております。

 

自動化で運用工数を減らせるプロダクトに

-UNICORNの開発背景についてお聞かせください

山田氏:UNICORNの構想は2015年頃に始まりました。当時アドウェイズではGoogleやFacebookをはじめとするメガプラットフォームの広告商品のほか、CPC型のアドネットワーク広告商品の販売が大きなシェアを占めておりましたが、その広告運用の調整でかなりの作業工数をかけており、社員が皆遅くまで仕事をしていました。これを自動化することで、運用工数を減らしたいと思ったのが、開発のきっかけです。

また、アプリ広告の領域ではクライアントのビジネス成長と相反するような出来事が多々見られました。アドフラウドや、ユーザーをリターゲティングし続けたり、誤タップを促すような広告の配信により、無駄に広告予算が使われるようなことを是正していきたいという想いが強くありました。

そこでこれらの想いを体現するために、RTBでの広告配信システムに着手し、広告効果の最適化をするために機械学習を活用したDSPを2017年に正式に提供開始しました。

 

-UNICORNの特徴や強みについてお聞かせください

山田氏: 私たちのプロダクト開発思想の根底には、クライアントの成長とともにビジネスを成長させるという考え方があります。クライアントにUNICORNを使ってもらうとビジネスがしっかりと成長するというということを担保できるような事業開発を進めているという点が強みです。
そして、メガプラットフォームが届かない領域のユーザーリーチの効率的な買い付けが可能なところも強みです。
また広告プラットフォームとして、ディスプレイ広告のほか、Apple社のApple Search Ads の買い付けも行うことが出来るのが大きな特徴です。(* 2021年9月9日に「日本初のApple Search Ads Partner への認定に関するお知らせ」を発表いたしました )

この結果、今ではGoogle、Facebook、TwitterなどのメガプラットフォームとUNICORNに出稿するような アプリクライアントが増えてきております。

 

-UNICORNの主なクライアント層についてお聞かせ下さい。

山田氏:UNICORNはもともとゲームアプリを提供されているクライアント 向けに特化して立ち上げたこともあり、クライアント構成におけるゲームアプリの比率が高いのが現状です。
機械学習を用いて広告配信をしているため、クライアントカテゴリが近いものを広告配信したほうがその効果は高まりやすくなります。したがって、まずはゲームカテゴリのクライアント案件に特化し、その後ゲームと相性が良い漫画アプリ、そして動画配信アプリへと、ターゲットとするクライアント層を広げていきました。

また、博報堂DY グループとの業務提携により、大手クライアント のブランド案件のご支援も増えつつあります。

 

プラットフォームの規制により市場は正しい方向に

-コロナ禍での広告主の広告出稿トレンドについてはいかがでしょうか?

山田氏:昨年の最初の緊急事態宣言の時期には、広告インプレッションがまず増えて、そして漫画アプリや動画配信サービスを提供する広告主による出稿が大きく増えました。
私たち自身の事業成長もあるので、コロナによるインパクトがどこまであるのかは定かではないのですが、一時ほどのその影響は感じ得にくくなっております。広告主は、足元の状況に合わせて投資判断をしているという印象です。

 

 

-IDFAの取得制限の影響についてはいかがでしょうか?

山田氏:私たちは、元々ユーザーを識別して追いかける広告に対して疑問を感じていました。ですので、ユーザーが識別できる環境下のみで勝負するという戦略は想定していませんでした。トラッキングの精度に影響が出るということであると大きな問題でしたが、これもプロバブリスティック・マッチングが効いている状況ですのでIDFAの取得率が低下してもそれほど大きな影響は出ていません。

私たちが観測している限りでは、媒体側のIDFA取得率を見ていると60%くらいは取得できているように見受けられます。

私たちは、クライアントの成長と人手をかけずにどうしたらいいのかということを目的として事業を進めています。
いま、プラットフォーム側による様々な規制が出始めていますが、これらは本質的に意味のない広告が出てきたことが引き起こしたことです。
私たちはこのことをネガティブなこととしてとらえておらず、正しい方向に向かっており、市場で戦いやすくなっていると理解しています。

 

-サード・パーティークッキーの利用制限への対策として、ファーストパーティデータを利用していこうという話がありますが、この方法は、アプリのIDFA利用制限に対する対策としても有望視されているのでしょうか?

山田氏:アプリ広告の場合においては、そこまでリターゲティングやリエンゲージメントが成熟しておらず、現状においてはそこまでファーストパーティデータの活用をするというような話には至っていません。
ですが私たちの目線では、まだインストールをしていないユーザーにしっかりと配信をしていく必要があるということから、インストール済ユーザーのデ リターゲティング(特定ユーザーを除外)のほか、リターゲティングも一定の割合で活用する必要性を認識しています。

例えばゲームユーザーは、ゲームをプレイしていても新しいイベントに気づけなかったりすることもあります。アプリの更新情報をしっかりと訴求していくということは重要であるので、ファーストパーティデータとの連携は今後必要性が高まってくるとは思っております。

今まではIDFAを軸にユーザーを識別して広告配信をしたりしなかったりということをやってきたのですが、IDFAが取れなかったり、リセットされてしまうこともあることから、ユーザーリストの管理をIDFVで行っていくという取り組みが徐々に増えてきているのではないかなと感じています。

 

 

広告効果測定とクリエイティブが課題

-アプリ広告の領域で注目されている業界動向についてお聞かせください

山田氏: 大きく二つあります。一つ目は、クライアントの広告費が必要なところにしっかりと投資されているのかということです。
広告効果測定については今後重要なテーマになってくると思っています。広告予算を本当に必要な投資に当てるということに向き合っているプレイヤーが少なすぎると私は感じています。
例えば動画広告の視聴エンゲージメントからのコンバージョンを評価されているプレイヤーが多いなかで、各社が定義するユーザーエンゲージメントのポイントが、どんどん前に向かっています。

エンゲージメントが付与された動画広告が、本当にアプリインストールの効果に結び付いたのかがなかなか言い切りにくいところがあると思っています。例えば動画が数秒再生されただけでエンゲージメントの評価がつけられた時、それがクリックスルーコンバージョンと果たして同じ価値なのかというような疑問です。ユーザーが視聴するだけのものと、クリックまでするものとではエンゲージメントの深さが異なるので、視聴だけの効果というものは、クリックの効果と比べて数十分の一程度の効果しかないのではないかと思っていますが、今はこれらが等しく評価されてしまっており、真っ当に取り組んでもあまり評価されないというような業界構造になっています。このことは大きな議論のポイントであると思っております。

これをしっかりと明らかにしていくということで行くと、エンゲージメントの評価を付けたらコンバージョンがとれるというような計測の体系ではなく、いま私たちが考えているところでいうと、配信の細かい部分、配信面からインクリメンタリティを評価して 、その広告枠がどれくらいそのキャンペーンに寄与しているのかをしっかりと認識 するということを、媒体やプラットフォームレベルでしっかりとやっていかなければ、正しい広告費用の配分は出来ないのではないかと思っています。
しっかりと広告効果が出る配信を実現できるプラットフォームになっていくことが大切だと思っています。

 

金氏:現状の計測における課題は、各社のエンゲージメントの付け方にばらつきがあるということが挙げられます。そのなかでもやはりユーザーが実際にクリックをしていないのにも関わらず、 各社の独自の基準に基づき、再生開始や数秒の視聴だけをクリックとして取り扱い、MMP(効果計測パートナー)側では実際の クリックと同等に評価されていることが課題であると認識しています。

 

【各社が定義するエンゲージメントポイント(UNICORN 調べ)】

出典:UNICORN

 

山田氏:上記の図でいうと、赤色い 〇の時点で各媒体はトラッキングツール側にビューが発生したという情報を送っており、ビューのカウントに使われています。
そして、青い〇がクリックのカウントに使われています。もちろんビューとクリックではクリックのエンゲージメントのほうが強いので、クリックが発生したプラットフォームがコンバージョンを獲得することになっています。これを見ると、大手A社 とB社 では、それぞれの発生地点が全く異なっています。

参考値 として私たちの感覚でエンゲージメントの数値を入れていますが、手前で発火すればするほど、同じ量の広告配信でもエンゲージメント を多く取れることになります。結果として他のプラットフォームからエンゲージメントを奪い やすくなります し、オーガニックユーザーへのエンゲージメントも付け やすいということにつながります。その結果本当に広告の効果があったかというところから意味が離れていくというイメージを持っています。

これにより、他のアドネットワークも、大手A社 やB社 に対抗するために、手前で計測をしなければ勝負にならないということで、どんどんとエンゲージメントのポイントを手前にしていくという動きが進んでいるのが現状です。ですが私たちは、かたくなにこれに対抗せず、動画は10秒再生された段階で始めてエンゲージメントのURLを起こして、クリックはクリックとして起こしています。そしてこれを前提としたCPIの良し悪しを、他のプラットフォームと比較してもらってきました。

私たちとしては、このエンゲージメントのポイントを手前にはしたくはないのですが、横並びで評価をすべきであるということを考えると、そういう対応をしない限り正しく評価をされないので、どうすべきかということを、クライアント と議論をし始めています。

 

金氏:MMPはその役割的に、広告配信には直接関わることが出来ず、あくまで広告プラットフォーム側が送ったデータを受け取り、アトリビューション判断を行います。そのため、実際に広告がどのようにユーザーに見られ、ユーザーがどう反応したかまでは役割上、把握することが出来ません 。そのような環境的な制約 が深く根付いており、今の状況 になっているのです。

 

山田氏:このように、どんどんと本質から遠ざかっているので、今の計測体系ではない計測の仕方、例えば一か月のうち広告配信をしない日を作り、その日に獲得ボリュームが落ちているのかどうなのかというような差分を見て各広告プラットフォームの価値を判断するような取り組みをしていかないと、何が起こっているのかが分からない状況になってしまいます。
広告プラットフォーム間でエンゲージメントの奪い合いをしているうちはまだいいのですが、クライアントにとって 最悪なのは、オーガニックの効果に対して広告効果が付与されていってしまうということです。これによりクライアントはお金を無駄に使う形になるので、クライアント のビジネスがうまくいかなくなり、我々も広告費をいただくことが出来なくなるというような悪循環に陥ってしまうことです。そこは絶対に避ける必要があると思っています。

二つ目は、クリエイティブに関してです。
現在アプリ広告の業界では、クリエイティブが軽視されている風潮があると感じています。
今は沢山のクリエイティブを作らなければならないというような考え方が主流ですが、もっとどういうユーザーにどのようなクリエイティブを届けるのかをしっかりと考えた、作り込まれたクリエイティブが増えるべきであると思っています。

もう少しクリエイティブに人の時間を使っていくということをやっていくべきであると思っています。そして、どうしたらユーザーに興味を持ってもらえるのかということを考えて広告配信するべきです。

クリエイティブにより刺さるターゲットも変わってきます。今配信しているクリエイティブがどのようなユーザー層に刺さっていて、まだ刺せていないユーザー層はどこなのかということが見えるプラットフォームがないので、クリエイティブの開発もまた難しいですが、そのような気付きを与えられる広告プラットフォームになっていきたいと考えております。

 

 

ユーザーに出会いをもたらす広告に

-今後UNICORNをどのようにしていきたいですか?

多くのユーザーに広告についての意見を聞くと「うざい」と言われると思うのですが、広告は本来、ユーザーが普段で合えなかったものに出会えるという、セレンディピティを与えられえるようなものであると思っています。ですので、そのようなことを実現できる広告プラットフォームになりたいと考えています。

ビジネスの規模を拡大するということは、当然重要なポイントにはなるのですが、それ以上に広告業界の在り方や広告自体の在り方を変えていって、そこの中心に僕らがいつつ、それで世の中が変わっていくことで最終的に僕らも利益が得られるというような形のビジネスを推進しながら業界を変えていくというようなことを、UNICORNが先導できるとすごくいいのかなと思っています。

もう一つは僕たちが影響を与えられる範囲が狭すぎると思っています。ゲームアプリのデベロッパー様とはコミュニケーションをしていくことで色々と変えていくことが出来ると感じていますが、それ以外の部分に関しては、まだまだご利用をいただいていないクライアント のほうが多いので、しっかりとこれからご利用いただけるように広げていくことで市場にインパクトを出せるようにしていきたいです。

ABOUT 野下 智之

野下 智之

ExchangeWire Japan 編集長   慶応義塾大学経済学部卒。 外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。 2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。 2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。