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ファーストパーティデータを活用してサイト内外で一貫した顧客体験を実現―CXプラットフォームのKARTE[インタビュー]

CX(顧客体験)プラットフォームとしてオンサイト上での顧客行動データの解析と活用に強みを発揮してきたKARTEが、ついに広告ソリューションとの連携に本腰を入れ始めた。Cookie規制下におけるファーストパーティデータ活用の模範事例となるのか。アドテク市場が抱える本質的な課題を含めて見解を尋ねた。
(聞き手:ExchangeWire Japan長野雅俊)

 

ウェブ接客からCXプラットフォームへ

 

―自己紹介をお願いします。

 

牧野氏:執行役員 CTOの牧野祐己と申します。2015 年にKARTEの運営元であるプレイドに参画し、データ分析エンジンの研究開発を担当しています。

 

鷹嘴氏:2月に発表した「KARTE Signals」の事業責任者を務める鷹嘴昌弘です。自社サイトを訪問・利用するユーザーのファーストパーティデータをサイト外での体験向上に活用するためのサービスとして展開しています。

 

―事業概要をお聞かせください。

 

牧野氏:KARTEはもともと円滑なウェブ接客を行うためのツールとして誕生しました。訪問客の様子や雰囲気に合わせたきめ細かい対応ができるリアル店舗と同じような接客をウェブサイト上でも実現したいとの思いを込めて本事業を開始しています。

 

ただ本事業が成長していくにつれて、解析データが増加そして多様化し、それらのデータに基づき展開できるアクションの種類も増えてきました。現在では、様々なデータに基づき、顧客とのコミュニケーションの円滑化を図るためのCXプラットフォームとして、コンテンツやページ自体のパーソナライズ、チャット、レコメンド、アナリティクス、プッシュ/メール/LINE送信など各種の機能を提供しています。

 

 

レコメンド機能一つをとっても、たくさんのコンテンツを読み漁るのかそれともじっくり読み込むのかといったユーザーの特徴に合わせて、コンテンツの選択と表示方法の細かい調整ができる点に特徴があります。

 

CookieとID情報に基づきユーザー行動を把握

 

―それら各機能は個別に販売しているのですか。

 

牧野氏:いいえ、一部の特殊な機能以外はすべて包括したパッケージとしてご提供しています。当社としては、オンライン上の顧客行動をリアルタイムに捉え、解像度の高い顧客理解を実現するのが最も重要な点であり、何が最適なアクションとなるかについてはあくまでもご利用企業様のニーズや分析結果次第であると考えています。

 

よって料金体系に関しても、ウェブサイトのユニークユーザー数に応じた従量課金であり、利用する機能数は特に限定していません。社内外のあらゆるデータを統合して利活用できる「KARTE Datahub」などの一部の機能以外は、基本的には一つのパッケージに含まれています。

 

―貴社では顧客行動をいかに把握しているのですか。

 

牧野氏:ユーザー固有のID情報が分からない場合は、ウェブブラウザのCookieなどに基づきユーザー行動を解析します。各社のウェブサイトを直接的に訪問したユーザーなので、サードパーティCookie規制の影響は受けません。

 

さらには会員データの解析も行います。サイト運営者自身も購買データや登録データを管理しているものの、ユーザーの行動データを適切に取得してかつ分析まで行うというのは実は非常に難しい。お試し期間終了後にすぐ離脱するユーザーなのか、ヘビーユーザーなのかを区別し、それぞれに対してアクションを設定するという作業を人力で行うのは手間がかかります。

 

そこで当社では、プログラミング知識を持たないご担当者でも使いやすい多様なテンプレートをご用意しています。エディター機能を通じて、文言の修正や細かな挙動の変更といったカスタマイズ作業を行うことができます。

 

加えてエンジニアが管理画面上でJavascript、HTML、CSSなどのコードを書き加えることも可能です。細かな設定や運営作業を代行するパートナー企業をご紹介したり、当社が自ら新たな機能を追加することもできますので、ありとあらゆるご要望にお応えできる環境が整備できていると言っていいと思います。

 

―サードパーティCookie規制だけに限らず、個人情報保護など、プライバシーをはじめとした個人の権利や利益の保護の強化が図られています。

 

鷹嘴氏:データ取得に関しては、基本的に、ご利用企業において、そのエンドユーザーから承諾を得るなど必要な措置を講じていただくことになっています。もっとも、弊社では、可能な範囲でそのサポートをさせていただいています

 

CX市場の定義とは

 

―CX市場なるものの実態が捉えにくい印象があります。CRM市場と相似関係にあるのでしょうか。

 

牧野氏:デジタルマーケティング市場は大きく「集客市場」と「接客市場」に二分できると思います。集客市場はいわゆるアドテクを扱う広告関連事業であり、接客市場はサイト流入後のユーザー行動のアクションや解析が主です。当社が注力するCXは主に後者に位置付けられます。

 

CRMもウェブサイトを通じて取得したデータを主に扱うのであれば同じく接客市場に属しますが、営業支援システム(SFA)まで含めるとなると、リアルな世界での営業活動が主な対象となるのでCXとの共通点はかなり少なくなります。

 

ともかく、コンバージョンに最も近い位置でファーストパーティデータの活用が積極的に行われる場が、狭義のCX市場と言えるのではないでしょうか。ただし、あらゆる顧客接点を広義のCX市場として定義づけることもできるかと思います。

 

その意味においてであれば、オンサイトマーケティングやウェブサイト上のデータ解析などを行う事業者と当社は競合となる場合があります。また当社はCRM、MA、プッシュ通知、メール配信なども手掛けているので、集客市場の事業者とも競合する可能性はあります。

 

アドテクとの連携に乗り出した理由

 

―貴社ではファーストパーティデータと広告ソリューションとの連携を開始しました。

 

鷹嘴氏:KARTEの解析基盤としてBigQuery™を活用してきた実績などが評価され、当社は2019年11月に Google からの資金調達を受けました。これをきっかけとして、またサードパーティCookie規制が今後ますます強化される未来を見据えた上で、ファーストパーティデータの広告活用に向けた本格的な検討を開始しました。

 

ただ既に申し上げた通り、当社の根幹事業はCXつまりユーザー体験の向上です。一方で、従来のアドテク市場では、広告関連事業者向けのソリューションが偏重されていたように思います。つまり短期的なコンバージョン最適化技術ばかりがもてはやされ、中長期的なブランドと消費者との関係構築には十分に取り組むことができていなかったのではないかという反省があります。そこで広告分野において、消費者自体がメリットを感じられるデータ活用の仕組みを構築することこそが当社の差別化になると考えました。

 

―「広告分野で消費者がメリットを感じられるデータ活用」とはどのようなものですか。

 

鷹嘴氏:例えば、自分があまり興味のない商品等が表示されないようになることが考えられます。当社では、顧客データや行動データ、オフラインデータなどそれぞれ分断されているデータベースを統合する「KARTE Datahub」を運営しています。KARTE Datahubを通じて各媒体にファーストパーティデータを送信する「KARTE Signals」の提供を開始したことで、Cookieに依拠せずにコンバージョン計測ができる各媒体のコンバージョンAPIを容易に利用することが可能になりました。

 

第一弾として Google 広告・Facebook/Instagram広告への提供を開始しましたが、今後はその他の媒体やDSP及びアドネットワークも対象に追加していきたいと考えています。

 

―各媒体のコンバージョンAPIはKARTEがなくても利用できるのではないでしょうか。

 

鷹嘴氏:各媒体のコンバージョンAPIは公開されているので、その仕様にきちんと則ればCookieに依拠しないコンバージョン計測環境は誰でも構築可能です。ただし、APIの仕様を理解して、データを格納する箱をつくって、そこにAPIをつないで、といった作業に膨大な時間と費用がかかります。このように、広告事業とデータ活用は本来的には相性が良いにも関わらず、実装段階において連携が困難であるというのが大きな課題です。

 

一方のKARTE Signalsであれば、顧客データを当社システムに連携させるのに最短1時間。テンプレートを用意しているので、SQLを書かずともデータの整形と結合ができます。費用も数分の一に減らすことができるはずです。

 

―これまでCXツールとしてKARTEを利用してきた担当者は必ずしも広告事業に精通しているわけではないですよね。

 

鷹嘴氏:確かにCRM事業と広告事業ではそれぞれ担当者が分かれている場合が多いと思います。ただし、例えば従来のKARTEにおいても経営層と現場がそれぞれ別目的でご利用になる場合もあり、むしろ異なる担当者が一つのプラットフォームを利用できることこそが当社のようなSaaSツールの強みであると思います。

 

牧野氏:KARTE Signalsには、効率化や省力化だけではなく、ファーストパーティデータを活用することで生まれる新たな知見を得ることができるという利点があります。とりわけKARTEでは、従来の「ユーザーが何をしたか」を示すイベントだけではなく、例えば「コンテキストイベント」と呼ばれる独特の仕組みを通じて、ユーザーが「今どういう状態か、どういったことをやろうとしているか」を判断することができます。この仕組みを通じて得られた知見を広告に生かすことは当社だからこそできることだと自負しています。

 

またKARTE Signalsはユーザーとのファーストコンタクトとなる広告体験を向上させるという意味において、これまでの当社がサイト内の行動分析を通じて蓄積してきたノウハウをサイト外へと応用する試みでもあります。企業やブランドがサイト内外で一貫した顧客体験を提供するための必須のツールとして成長させていきたいです。

 

ABOUT 長野 雅俊

長野 雅俊

ExchangeWireJAPAN 副編集長
ウェストミンスター大学大学院ジャーナリズム学科修士課程修了。 ロンドンを拠点とする在欧邦人向けメディアの編集長を経て、2016年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 日本や東南アジアを中心としたデジタル広告市場の調査などを担当している。