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コネクテッドテレビ広告の現在地と期待値[インタビュー]

サイバーエージェントグループのAJAと、ソニーグループのSMNは、デジタルインファクトと共同でコネクテッドテレビ広告市場を調査し、その結果を公表した。

今回両者が調査を共同で実施した経緯や、調査結果などについて、AJA 代表取締役社長 野屋敷 健太氏、調査実施時にSMN 執行役員としてSMN側で調査をリードした、グループ会社 ネクスジェンデジタル 代表取締役社長 谷本 秀吉氏にお話を伺った。

(聞き手:ExchangeWireJAPAN 野下 智之)

 

コロナ禍で市場トレンドは上位にシフト

-今回コネクテッドテレビ広告の市場調査を実施した背景についてお聞かせください。

野屋敷氏:コロナ前とコロナ後でコネクテッドテレビ広告を取り巻く市場環境が、大きく変化したのではないかという仮説がありました。市場規模はもとよりユーザー数や利用時間がとても大きく増加したと認識しております。

コネクテッドテレビ広告の市場調査結果はSMNさんが2020年10月のタイミングでリリースされておりました。ですので、普通であれば出すことを諦めたのかもしれませんが、我々の場合、こちらをベースにいい意味でのアップデートが出来れば業界の皆様方にも喜んでお使いいただけるのではないかとも思い、SMNさんにご一緒しましょうとお声がけさせていただきました。

 

谷本氏:2020年10月に日本市場におけるコネクテッドテレビ広告という市場を定義し、その市場を予測するという調査をデジタルインファクト社とご一緒しました。

米国に端を発するコネクテッドテレビの隆盛や、OTT市場の盛り上がりを見るにつれて、この領域は日本においても大変注目すべきであるということで、国内コネクテッドテレビ広告の市場規模を初めて世に出しました。ほどなくしてこのデータはデジタル広告業界で大いに注目を集めると同時に、各所でお使いいただきました。実際に数ある業界イベント、メディアでとても多くこのデータを引用していただいているのを目にしました。

我々は2020年9月に大手4テレビメーカーのコネクテッドテレビ視聴ログデータを活用した広告ソリューション「TVBridge」をリリースしました。

AJAさんから今年はコネクテッドテレビ広告市場調査を一緒にしませんかというお声がけをいただいたタイミングでは、我々も市場データをアップデートしたほうが良いとちょうど思っていたので、ありがたい話としてご一緒させていただくことにしました。

 

 

-調査を実施して得られた結果についてお聞かせください

野屋敷氏:今回得られた調査結果は、2020年にSMNさんが出された推計・予測値を大幅に上回るものでしたが、肌感覚としては想定通りでした。ABEMAやTVer、YouTubeなどの視聴ボタンが付いたテレビのリモコンが普及するなど、コネクテッドテレビを視聴するためのインフラが整備されてきたことに加えて、コロナ禍で巣ごもり需要が増えてユーザーの時間の伸びなどを含めると、まったく違和感ありません。むしろもう少し伸びてもいいのではないかと期待をもって見ております。

サイバーエージェントが広告主として広告出稿をすることがありますが、あるとき動画広告をスマートフォンに配信した場合と、コネクテッドテレビに配信した場合の効果差を検証したことがあります。

アプリプロモーションにおいて、コンバージョンレートを出してみたところ、コネクテッドテレビのほうが平均して3倍から5倍ほど高いという結果が得られました。これはおそらくテレビ端末は画面が大きく、また手元にスマートフォン端末があるので検索されやすい環境にあるからなのでしょう。

このようなこともあり、アプリ広告主によるコネクテッドテレビ広告の出稿は増えてきております。広告主側の需要動向からも、市場の拡大は大いに期待することが出来ます。

 

 

谷本氏:想定通り前回の調査結果から大幅に上振れしたという結果になりました。

我々が2020年10月に初めてコネクテッドテレビ広告市場調査の結果をリリースした時には、コロナ禍ではあったものの、コロナの影響を受けたユーザー行動の変化が、市場規模に加味されているというわけではありませんでした。予測もある程度オーガニックにどの程度伸びるのかというところを反映しておりました。しかしコロナの影響で視聴者の流れが相当大きく変わったであろうという気配を感じていました。

例えばAmazonが米国でFire TVを出しヒットしたことなどを見聞きすると、若者を中心としたテレビデバイス回帰がおこり、その消費行動はコロナの影響も受け加速した現象であろうと感じました。

 

 

コネクテッドテレビ広告が持つ二つの出稿文脈

-動画媒体における、コネクテッドテレビへの広告配信比率は高まりつつありますが、広告主からの指定配信によるものが主流となりつつあるのでしょうか?あるいは、デバイスを指定しないで配信をした結果、自然にコネクテッドテレビに寄っていっているのでしょうか?

野屋敷:私の主観では、正直なところ自然にコネクテッドテレビに配信が寄りつつあるという印象です。やはりまだまだ欧米と比べると日本のほうが取り組みは遅れており、コネクテッドテレビの位置付けが曖昧になってしまっているという印象です。

テレビ端末で見る広告であるということから、テレビCMの延長でとらえるべきか、デジタル広告の延長でとらえるべきか。広告主の組織は、マスとデジタルとで広告媒体を取り扱う組織が分かれています。どちらの組織でコネクテッドテレビを取り扱うべきかが、まだ正解がないという状況です。

 

 

谷本氏:2年前に調査をしたときは、まだコネクテッドテレビに対する反応として、時期尚早であるという声が、大手広告主や広告会社などから挙がっていました。その後変わりつつあるという印象はあるものの、コネクテッドテレビを狙って広告を配信するという取り組みは、まだまだ少ないという印象です。

 

 

野屋敷氏:そうですね、まだこれからという印象です。一方で、外資系の広告主の場合、そもそもOTT向けの広告予算を持っている企業もあります。日本国内では、まだこれからの動きになってくるのでしょう。

 

 

谷本氏:私が代表を務める会社は、SMNの連結子会社で統合デジタルエージェンシー事業を行なっていますが、最も取り扱いが多い動画広告はやはりYouTubeです。

YouTubeはコネクテッドテレビへの配信を指定することも出来ます。我々が運用するときには多くの場合、デフォルトでスマートフォン、PC、コネクテッドテレビの全デバイスに配信することが出来るように設定をしておりますが、今後、テレビデバイス配信向けのクリエイティブ周りの攻略方法が見いだされ、コネクテッドテレビに絞った広告配信が増えてくると思います。

ユーザーがコネクテッドテレビをより視聴されるようになり、事業者がコネクテッドテレビ向けの広告商品を用意し、そしてマーケターがこれを活用してコネクテッドテレビを視聴するユーザーとコミュニケーションをとるという認識が強くなってくれば、恐らくは現状から変わっていくのではないでしょうか。

また、日本ではコネクテッドテレビというとYouTubeの存在が他を圧倒し、市場を凌駕していますが、米国でのシェアは4割程度と聞きます。これは、他の大手プレイヤーの存在も大きいからです。日本においてもABEMAやTVerのようなプレイヤーが着実に伸びてきておりますし、今後市場の環境も大きく変わっていくのではないでしょうか。

 

 

野屋敷氏:テレビのリモコンにABEMAやYouTubeのボタンが搭載されるようになってから久しいですが、今ではテレビというデバイスの中で地上波を見るか動画配信サービスを見るか、という状況になってきており、もはや最初にテレビを付けたら地上波が流れるという状況ではなくなってきています。

ユーザーの視聴時間がコネクテッドテレビに移ってくれば、広告予算も必然的にシフトしていくのではないでしょうか。

 

 

データ活用とコンテクスチュアルターゲティング配信に注目

-5年後の市場規模をアグレッシブに予測しましたが、この数字の達成は容易でしょうか?

谷本氏:OTTで提供されるコンテンツによるところでしょう。今年予定されているワールドクラスのスポーツイベントがABEMAで全試合の放映権を獲得されたことは、市場の環境を大きく変えるキラーコンテンツの一つではないかと思われます。要注目であるといえるでしょう。

 

 

野屋敷氏:ユーザーからすると、地上波もOTTも垣根はそれほど意識していないのではないでしょうか。コネクテッドテレビ広告市場が数千億円規模に達するのは、普通の流れであるといえるでしょう。

 

 

-今後コネクテッドテレビの領域で注力していかれることについてお聞かせください

谷本氏:コネクテッドテレビ広告の魅力は、視聴データの活用です。視聴データを活用することで、広告効果の可視化をすることが出来ます。今まで見えなかったところを見える化するということは、広告主にとってテレビデバイスに対する評価や位置づけが変わることになるでしょう。

データを活用することで、テレビユーザーにおけるオンターゲット率もわかりやすくなってきます。コネクテッドテレビは、単にデジタル広告の配信先ということではなく、データを取得することが出来ることで、広告のアロケーションにも活用することが出来るという価値もあります。

また、コネクテッドテレビ広告の普及は、広告主にとってテレビというデバイスに広告を出稿するということに対する敷居が下がり、チャレンジしてみようというきっかけや動機につながっていくと思います。

SMNグループとしては、このような視聴データと広告効果が可視化されていくことで、マーケットの需要が動くと考えております。そのあたりに注力をしたサービス開発と提供をすることに注力できればと考えております。

また、コネクテッドテレビ視聴ユーザーのスマートフォンとデータでコネクトさせることが出来ると、ユーザーをある程度特定することが出来るようになります。そうすると広告の出し分けに使えてしまうことができます。これまでテレビCMでは動かしえなかった要素を、動かすことが出来るようになっていくので、このあたりにも注目しています。

 

 

野屋敷氏:当社では、今年2月にコネクテッドテレビに特化した動画広告「インクリー」の提供を開始しました。コネクテッドテレビにフォーカスしたプロダクトを引き続き強化してまいります。

日本においてはOTTの活用事例において成功パターンがまだ確立されておらず、そこを何とか出したいと考えています。その中で確立させたいことの一つに、コンテクスチュアルの要素があります。視聴するコンテンツといっても、例えばABEMAの中でジャンルが仮に20あった時、その中で野球を見ているのか、アニメを見ているのか、恋愛を見ているのか・・などどこのコンテンツをユーザーが見ているのか。目的視聴が強いからこそ、このタイミングでこのコンテンツを観ようとしているから、どのようなコミュニケーション設計にすべきなのか、というものは狙って形にしていきたいと考えています。

 

ABOUT 野下 智之

野下 智之

ExchangeWire Japan 編集長   慶応義塾大学経済学部卒。 外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。 2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。 2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。