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Yahoo! JAPANに聞く、DPF取引透明化法への対応[インタビュー]

特定デジタルプラットフォームの透明性及び公正性の向上に関する法律(以降、DPF取引透明化法)は、デジタルプラットフォームのうち、特に取引の透明性・公正性を高める必要性の高いプラットフォームを提供する事業者を「特定デジタルプラットフォーム提供者」として指定し、規律の対象とするものである。
2020年5月27日に成立し、2020年6月3日公布された法律であり、2021年4月より大規模な総合物販オンラインモール及びアプリストアを対象として運用を開始したが、2022年7月に、規制対象にデジタル広告事業が新たに追加された。

本件について、業界関係者より内容の問い合わせを多く受けているという、ヤフー株式会社マーケティングプラットフォーム統括本部 トラスト&セーフティ本部 ポリシー室長 中村 茜(なかむら あかね)氏(写真左)と、政策企画統括本部 デジタルプラットフォーム政策室長 坂下 奈津子(さかした なつこ)氏(写真右)にお話を伺った。

(聞き手:ExchangeWireJAPAN 野下 智之)

 

-自己紹介をお願いします。

中村氏:私は広告事業部門で広告の掲載基準などの広告サービス品質に関連するガイドラインの制定や周知啓発をする部署の責任者をしております。

坂下氏:私は政策企画統括本部という部署に所属しており、政策渉外の仕事をしております。担当しているのは取引透明化法で、先にオンラインモールについて対応を進めてまいりましたが、その経験を活かしてデジタル広告についても対応をしております。

 

-DPF取引透明化法の対象に、デジタル広告が追加されたとのことですが、その内容についてお聞かせください

坂下氏:今回DPF取引透明化法自体が改正されたということではないのですが、対象事業として、従来のオンラインショッピングモールとアプリストアに、新たにデジタル広告事業が追加されました。

当社ではYahoo!ショッピングなどのオンラインモール事業を運営しており、この法律に則って、取引条件の情報開示や運営における公正性の確保のための自主的な整備、そしてこれらの取り組みに関する年一度の政府への報告などに対応をしてまいりました。
そして今後これらの対応は、デジタル広告事業においても同様に求められることとなり、当社でも現在対応を進めております。
対応すべき内容は、基本的な点においてはオンラインショッピングモールと変わりありません。

 

―今回デジタル広告分野が追加されたことの背景・理由についてお聞かせください

坂下氏:プラットフォーマーの広告ビジネスにおける課題が浮き彫りになってきたのであろうと思われます。今や、デジタル広告は、大手企業から中小企業まで、すべての企業にとっての顧客アクセスのためのインフラであるからこそ、例えばルール変更がある場合にはしっかりと事前開示をするというような配慮をしていく必要があるというようなことが言われるようになってきたのです。

他方で、高度なデジタル技術を駆使するというのが、デジタル広告取引の特長です。ややもすればブラックボックスととらえられてしまわれかねないことから、透明性を高める必要があるということとなります。

また、アドフラウドについては、その手口も日々進化しています。これに対してもしっかりと対応をしていくことが求められています。テクノロジーを駆使する事業であるが故の特殊性があり、その課題に着目されたことが今回追加されたことの背景であると考えられます。

 

-このことにより、具体的に広告プラットフォーマーはどのようなことが義務付けけられるのでしょうか?業界において、従来のデジタル広告の取引から何か大きく変わることはあるのでしょうか?

坂下氏:今回のことで、そこまでドラスティックな変化はないと思われます。例えば情報開示については、当社に限って申し上げると従来約款やヘルプページなどにおいて、相当取り組んでまいりました。したがって、一から対応をするというようなことは現状においてはないと認識しています。

今回大手各社において情報開示が義務付けられたことで、業界全体で更なる情報開示に向けた機運が高まっていくのではないでしょうか。

 

-広告取引の透明化に向けた、貴社のこれまでの取り組みについてお聞かせください。また、今回のことを受けて、貴社で何か新たに実施取り組みをされることがありましたらお聞かせください。

中村氏:広告掲載基準をしっかりと開示することです。広告掲載基準の本文だけでは分かりにくい部分もありますので、より具体的な事例の解説や、皆さまが学んでいただけるようなラーニングポータルをご用意したり、解説動画を充実化させるなどにより、当社のガイドラインをより詳しく分かりやすくお伝えするということに注力しています。

広告審査をした結果、掲載をお断りする場合に、どの基準に抵触してしまったのかをしっかりと分かりやすくお伝えしていくことも、引き続き取り組んでまいります。
また、広告掲載基準も含めガイドラインを変更する際には、その内容について分かりやすくお伝えし、また適用開始前に、皆様に準備をしていただく時間を取っていただけるような、余裕を持った浸透期間を設けるということもしておりましたが、これに関しても引き続き取り組んでまいります。

Yahoo! JAPANでは、広告品質のダイヤモンドという考え方を掲げ、アドフラウドやブランドセーフティーへの対応も行っておりました。また半年に一度透明性レポートという形で広告サービスの審査実績をしっかりと開示することに取り組んでおりますが、今後も継続していきたいと考えております。

また、Yahoo! JAPANでは2021年7月に有識者会議を発足し、有識者の先生方から情報開示についてどのようなことが私どもに不足しているのか、どういったことを今後取り組むべきかということについて、ご意見をいただいております。

そして、今年3月に提言書を有識者の先生方からいただきました。提言の中には、「広告アカウントの審査基準を公開したほうが良いのではないか」というものがありましたが、この提言を受けて、Yahoo! JAPANでは、広告アカウントの審査基準 を公開いたしました。

そのほか、アドフラウドなどの難しい言葉についての説明を追加するなどの対応を行ってまいりました。

透明化法の精神は、広告主と相互理解しながら、広告主の声をしっかり伺ってよりよいプラットフォームを作っていくというものです。これは、私たちが競争の激しいデジタル広告業界において広告主からの信頼を維持・確保しながら、よりよい広告サービスの提供によって社会の発展に貢献していくために、持っている視点である。単なる法律対応ということではなく、自分たちのビジネスの観点でも、情報開示や相互理解により一層努めていきたいと考えております。

ABOUT 野下 智之

野下 智之

ExchangeWire Japan 編集長   慶応義塾大学経済学部卒。 外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。 2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。 2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。