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「デジタルマーケティング」から「マーケティングのデジタル化」へのシフトが進む今、考えるべきは何か?―Ad:tech Tokyo 公式セッションレポート

2022年10月20日(木)・21日(金)、コムエクスポジアム・ジャパンがアジア最大級のマーケティングイベント「ad:tech tokyo 2022」を開催。オフィシャルカンファレンスのData & Technology トラックでは「デジタルが浸透した社会におけるデジタルマーケティングとは?」と題したパネルディスカッションが開催され、株式会社朝日広告社の木本 緑氏、株式会社BICP DATA 渡邉 桂子氏、Rokt合同会社の山中 理惠氏、六甲バター株式会社の宇土 沙央里氏が議論を交わした。(Article Sponsored by Rokt

 

公式発表によると、本イベントには2日間で8,301人が来場。キーノート、公式セッション、展示会場といった多様なコンテンツに触れようと、国内のデジタルマーケティング関係者たちが集った。

 

デジタルマーケティングの過渡期

イベント初日に開催された本セッションでは、株式会社朝日広告社の広告プロデューサーである木本 緑氏をモデレーターに据え、データ活用コンサル、グローバルテクノロジーベンダー、事業会社マーケターという異なる立場にある登壇者が、デジタルマーケティングの現場が直面する課題についての考察と、デジタルマーケティングの未来形についての議論を実施した。

 

データ活用戦略策定を支援する株式会社ビーアイシーピー・データ代表取締役の渡邉 桂子氏は、「コトラーのマーケティング5.0」を引用し、現在はデジタル化が急速に進んだ「マーケティング4.0」から、人間のためのテクノロジーを志向する「マーケティング5.0」の時代への過渡期にあると言及。デジタル技術を駆使しながらも、デジタル特有の無機質さや複雑さを感じさせずに顧客目線でマーケティングを展開することに苦労する事業主が多いとの現状を指摘した。

 

Rokt合同会社のゼネラルマネジャーである山中 理恵氏は、かつてはデジタルのタッチポイントにおいてのみデジタル施策が活用されてきたが、現代ではリアルとデジタルが融合してきていることに注目。マーケティングにおけるデジタル技術の活用領域が飛躍的に拡大しているとの認識を示した。

 

これらの発言を受けて、従来の「デジタルマーケティング」から「デジタルが浸透した時代におけるマーケティングのデジタル化」への移行が進みつつあるとの点で各登壇者の意見が一致。現在進行形で起きつつあるこの変化についての議論が以降も続いた。

 

あちこちで起こる分断

六甲バター株式会社マーケティング部の宇土 沙央里氏は、顧客体験において「サプライチェーン上での分断化」による弊害が起きていることを問題視。「SNSで見た商品を買いたいのにメーカーに問い合わせても売り場がわからない」「ブランドについて詳しく知りたいけど店頭で聞いてもわからない」といった状況が多発する現状を指摘した。同氏は、これらの事態が発生するのは、販売チャネルの分断により商品データ、物流データ、顧客データが統合されておらず、シームレスな顧客体験という目線で設計されていないからであると分析した。

 

渡邉氏は、社内における組織の立場の違いにより、データ活用における対応が異なることを指摘。マーケティング部門が活用を目指しても、情報システム部門は情報セキュリティの観点からデータの保護に重きを置き、リーガル部門はリスクを極力低減させるためのデータ管理に重きをおくため、データ活用のために、必要以上に保守的になったり、社内説得のための負荷が増大したりといった状況が多発していることを指摘した。

 

加えて木本氏は、マーケティング部門の中にも分断があり、ブランド、販促、デジタル、宣伝それぞれの立場ごとに異なる代理店と連携、異なるKPIを持つことを指摘。広告・販促という領域に限定しても、分断が発生していると述べた。

 

メーカー、顧客、支援会社などに関わる様々な分断

資料提供: Rokt

 

分断をいかに乗り越えるのか

それでは、これらの分断はどのように解消すべきなのか。渡邉氏は、企業の理念や共通目標が鍵を握ると主張。この発言を受けた木本氏は、従来の広告代理店は媒体の枠売りを通じて短期的な利益の追求をしてきたと振り返りつつ、クライアント企業のあるべき姿を広告領域にとどまらない大きな視点で捉えた上で、データ解析も含めたマーケティング支援を行うことの重要性を訴えた。

 

これに対して宇土氏は、売上を追求することで顧客視点からの乖離が起きることは往々にしてあると同調。短期的な売上目標が部門ごとのKPI設計につながると、ユーザーとの乖離はさらに広がるとの考えを示した。これを避けるために顧客理解を深めることを目的として、コミュニティサイトを立ち上げるなどの工夫を行っているという。いずれの登壇者も、マーケティングの分断を乗り越えるためには顧客を思う「熱意」が重要である、という点で意見が一致した。

 

リテールメディアに活路

続いて山中氏は、昨今のプライバシー保護強化がマーケティングに与える影響について言及。デジタルマーケティングの最大の特徴は、データを活用することで的確なターゲティングやアトリビューション計測ができる点であったにも関わらず、データ取得制限が強化されたことで大きな課題に直面しているとの考えを述べた。

 

そこで山中氏は、小売業者が消費者から適切な同意を取った上でデータを活用する新たな事業形態である「リテールメディア」の存在感が今後高まっていくと予測。日本市場では小売業者のデータ活用はPOSデータなどの領域に留まっているが、米国などではデジタルとアナログを結ぶカスタマージャーニー全体の最適化手法として既に活発に利用されており、検索、SNSに次ぐデジタル広告の「第3の波」として注目されていると報告した。

 

資料提供: Rokt

 

さらに山中氏は、リテールメディアが成熟すれば、小売業者はメディア事業を営むことができるようになり、広告主は適切なターゲティングを実現し、消費者はプライバシーを侵害されることなく自分の趣味嗜好に合った広告とのみ接することができるようになると説明。従来の「デジタルマーケティング」とは明確に区別される「マーケティングのデジタル化」が実現した際には。真の意味で「三方良し」の仕組みが構築し得るとの期待を述べた。

 

デジタルが浸透した社会におけるマーケティングの将来

デジタル化が急速に進み、ともすればデジタル化が目的化してしまう「デジタルマーケティング」の時代から次の活用段階である「マーケティングのデジタル化」時代への過渡期にある現状において、最も重要なのは、顧客を理解し、顧客の目線でマーケティングを展開することである点について、登壇者全員の意見が一致。そのために、リテールメディアのような新たなデータの活用や、社内のデータ活用を推進するために、ありたい姿を明確にして部門間での協力を推進する活動、さらには代理店も短期的な収益視点からクライアントのビジネスの根幹に関わり、クライアントと並走し支援する活動へと変化することが重要であることが述べられた。

ABOUT 長野 雅俊

長野 雅俊

ExchangeWireJAPAN 副編集長
ウェストミンスター大学大学院ジャーナリズム学科修士課程修了。 ロンドンを拠点とする在欧邦人向けメディアの編集長を経て、2016年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 日本や東南アジアを中心としたデジタル広告市場の調査などを担当している。