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若きThought Leaders、アドテク市場の現在と今後を語る[インタビュー]

過去5年間のアドテク市場を振り返ると、GAFAによる市場席巻とともに進んだ事業者間買収と合併による、カオスマップの非カオス化の進展であったといえよう。日本国内においても同様に、「アドテクは終わった」、「アドテクでは戦えない」と業態転換を図る事業者もいれば、アドテク業界から去る人もまた、少なくはない。

国内外にかかわらず、成熟市場感のあるアドテク業界において、欧州ではアドテク事業者を対象とする専門の投資ファンドFirstPartyCapitalが立ち上がった。FirstPartyCapitalは、現在日本を含む世界中から資金を集めて、欧州を中心とする有望なアドテク事業者数十社に対する投資を行っている。

同ファンドには、ExchangeWireのファウンダーCiaran O'Kaneも関わっており、日本での投資家の獲得を進めており、すでにこの業界に精通している日本の投資家からの関心を集めているという。

この領域における日本の投資家は、市場の現状をどのようにとらえ、どこに成長を見出しているのか。

株式会社アドウェイズ 代表取締役社長 山田 翔氏(写真右)、ならびにGlobalive株式会社 代表取締役社長 梅野浩介氏(写真左)に、お話を伺った。

 

(聞き手:ExchangeWireJAPAN 野下 智之)

アドテク市場は成熟していない

―アドテク市場の現状認識についてお聞かせください

梅野氏:グローバルでは欧州を筆頭にユーザープライバシーの重要性がますます進んでいます。欧州においては、Metaがプライバシーを守らなかったことにより4億ユーロを課されたり、米国では国がGoogleを提訴しました。そしてW3CがGoogleのトピックスAPIの提案を却下するなど、プライバシーを守っていない事業者に対してペナルティーを課す動きが加速しています。

このような状況下で、色々な国・州がプライバシーを保護する法律を整備していくなか、アドテク事業者はどのように市場で勝負していくのかということが、過去2,3年以降のホット・トピックスとなっています。それに対して、どのようなソリューションを誰が提供するのか。これに関連してスタートアップを含め各アドテクベンダーが次々と出始めているという、面白い局面にあると思っております。

アドテク市場は成熟しているという文脈で語られることもありますが、そのようなことはなく、ことプライバシー保護周りは、高い成長局面にあると思っております。そして個人的に欧州発のアドテク事業者の取り組みは面白いと思っております。GDPRが2018年頃に開始され、欧州は世界で最も早くプライバシー保護を目的としたユーザー情報の利用制限がかかりました。それに対するソリューションがここ2,3年の間に欧州で出てきており、ここにイノベーションが起こっています。

 

山田氏:アドテク市場を俯瞰的に見ると、プライバシー保護に関わるかかわる一連の規制の流れを受けて、業界全体が従来作り上げてきたサードパーティークッキーやユーザー識別子を活用した、いわゆるクッキー/IDベースの広告ビジネスが出来なくなることへの恐怖感と、サードパーティークッキー利用規制による広告ビジネスのやりにくさを感じておられるように見受けられます。

これについて私は、業界全体がデジタル広告のあり方をしっかりと考え直すべきタイミングであるということを、認識すべきだと思うのです。すなわち、なぜ今プライバシー保護に関わる規制がかかるのかということをしっかりと理解し、この状況を踏まえて商機がどこにあるのかに着目をしたうえで、ビジネスを構築していくべきなのです。

規制とはそもそも、人々が出来るだけ等しく便益を得られるために作られるものであるはずです。そして、世の中が理想とする、あるべき方向に向かうためのものです。

従来のデジタル広告エコシステムにおいては、ユーザーだけが勝手に利益を奪われていました。広告事業者に、勝手にプライバシー情報を収集され、これをもとに勝手にターゲティング広告の配信を受けているものの、それに見合ったベネフィットを受けきれていません。しかし、現在広がっている規制とはこの状況を改善するためのものです。

それに対して、従来のクッキー/IDベースに依存した広告ビジネスがなくなりゆくことに抗うような技術の開発・投資をするという動きもみられます。このことには少し違和感を覚えています。

一方で、グローバル市場では、「広告のあるべき姿を考えたときに、どのようなソリューションが必要であるのか。」ということを考えて動きだしているように見受けられます。日本においては、そのような事業者はまだ多くはないため、目を向ける先を少し変える必要があると感じております。

アドテク市場は成熟しているとも言われておりますが、これは従来のクッキー/IDベースに依存した枠組みにおいてです。今の状況は、成熟しているというよりは、硬直しているという状況でしょう。

 

 

注目は、プライバシーバイデザイン、リテールメディア、CTV、計測、データクリーンルーム

―アドテク市場における成長領域について、お聞かせください

梅野氏:欧州で今流行っているのが、プライバシーバイデザインという言葉です。プロダクトをデザインする際に、ユーザーのプライバシーをどのように保護するのかということについて、プロダクトの企画・制作プロセスでしっかりと折り込むことになっています。この領域は成長余地があると思っております。

また、私はAmazonに在籍していたこともありますが、リテールメディアは非常に面白いと思っており、広告大手の中でもGoogleやMetaなどの成長がスローダウンしている中で、Amazonが台頭しているのはこのリテールメディアが一つの要因です。Amazonが持つ購買データや広告プラットフォームがその強みや成長を支えるなかで、Amazon以外の元々小売業から始まったウォールマートのような事業者がTheTradeDeskと提携するなど、今デジタルに移行していこうとしている領域が注目を集めています。

一方日本では、Amazon、楽天、ヤフーショッピングなどが代表的ですが、小売業由来の事業者については取り組み始めているものの、イノベーションを起こすというところではこれからであろうと思います。

リテールメディアを支えるテクノロジーについては、個人的には国内事業者への期待もしているものの、様々な環境を考えると海外事業者のほうが強いと感じています。海外事業者は、資金調達からR&Dの開発費用まで桁違いなので、国内事業者はどのように戦っていくのかについては注目しています。

 

山田氏:まず、クッキー/IDの廃止に対応して、コンテキストターゲティングのような、ユーザーの状態を識別しない広告配信や、ユーザーに同意を得たうえで識別をし広告配信をするためのテクノロジーが成長していくのではないかと思います。

また、広告効果の計測・評価において、ユーザーを識別せずに全体評価をおこなうMMM分析が注目されており、これに関連するソリューションが今後出てくると感じています。

CTV(コネクテッドテレビ)の領域においても、データが蓄積されてくることで、MMM分析が有効になります。CTVへの広告配信が伸びてきており、その広告効果を測定するソリューションなども、今後需要が伸びてくることでテクノロジーに対する期待も高まってくるでしょう。

 

梅野氏:個人的に注目しているのは、色々なところに細分化されているものをどのように一つにまとめて分析し、効果測定をし、そして配信に活かすかというところをグルグルと回していくかというところで、広告主側、媒体社側双方でデータクリーンルームがベースになるのではないかと注目しています。

ですがその活用について具体例がまだない状態で、日本はこれからです。そこで、当社では海外の事業者と話をしながら、現在事例を集めています。

 

山田氏:これまで話に出てきた成長領域については、今のところ海外事業者がマーケットを主導しているという印象は拭えません。国内では上場企業を含めてアドテク市場への事業注力や投資を止めてしまった事業者も多いと感じております。また、スタートアップにおいても、広告以外のテクノロジーに目が向いているという印象を持っています。

国内では我々が先行事例となるような活躍をし、この領域での取り組みが活性化すればよいと考えております。

海外のアドテク事業者は、世界中から多くの投資と人材を呼び寄せて、開発を進めています。これに国内事業者が戦っていくうえで、テクノロジーそのものにおいてはハンディキャップがあると言わざるを得ないですが、我々はお客様に支持をいただくためには、テクノロジーそのものが先進的であることもさることながら、テクノロジーを活用してどのようにプロダクトをデザインして、活用していただくことができるかが大切であると思っています。

例えば機械学習一つをとってみても、データをどのようにエンジンにインプットさせるのかが定まっていなければ、そのエンジンがどれだけ優れていても役に立ちません。

このような観点において、当社の「UNICORN」は、海外大手アドプラットフォームと戦っても勝機があると感じています。まだまだ国内事業者が勝負できる環境は残されています。

 

ポストGAFA時代のアドテク業界に先行投資をして市場を活性化

―お二人がFirstPartyCapitalへの投資を決められた理由についてお聞かせください

梅野氏:私はCiaranのビジョンに感銘を受けました。彼はGAFAによるウォールドガーデンに対してこれまで異を唱えて、ExchangeWireというメディアを通してそれを情報発信してきました。そして情報発信にとどまらず、プライバシーバイデザインを作っていく会社にしっかりと投資をしていくということについて、言っていることと行動とが伴っていて面白いと思っています。

GoogleやMetaが各地で訴訟を受けているなかで、時間はかかるかもしれませんが少しずつウォールドガーデンの壁が崩れてきているのではないか。彼もそのように言っています。

そのタイミングで、FirstPartyCapitalが投資している会社は伸びるチャンスがあるのではないかと思っているのが理由の一つです。また、私が海外からソリューションを日本に持ってくるという仕事をしているなかで、海外のファンドに投資をすることでいち早く情報を得られるということにメリットがあるということは二つ目の理由です。

 

山田氏:私の考えも梅野さんと似ているところがあります。この業界は、ウォールドガーデンの台頭により、国内事業者の多くが将来を諦めざるを得なかったという側面もあると思っています。ですが、我々が出来ることも多いと信じています。FirstPartyCapitalもそのような想いを持つ団体であり、そこに共感しました。

また、アドテク市場における魅力的な投資先がほぼないという状態が、ここ数年続いてきましたが、海外で新しい動きが出始めてきていると感じていた矢先に、FirstPartyCapitalは、今後アドテク市場において注目を集めるであろう領域の企業を、投資先として幅広くカバーしていました。

我々にとっては、「ここに投資しなければ、どこに投資するのか。」というほど、早期に投資の意思決定をすることが出来ました。アドテクの未来を信じている事業者であれば、FirstPartyCapitalは、接点を持ちたい投資ファンドであることは間違いないと感じております。

ABOUT 野下 智之

野下 智之

ExchangeWire Japan 編集長   慶応義塾大学経済学部卒。 外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。 2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。 2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。