×

サプライパス最適化の実態とは―SPOを推進するPubMaticが解説[インタビュー]

複雑に入り組んだプログラマティック広告取引の経路を効率化するサプライパス最適化(SPO)。単に商流の見直しを意味するのかと思いきや、実はこのSPOにはオンライン広告に関する様々な課題が凝縮されている。そこでSPOを推進する大手SSPのPubMaticにその実態について話を聞いた。

(Sponsored by PubMatic)

 

プログラマティック広告取引の商流は約300通り?

 

―自己紹介をお願いします。

 

パブマティック株式会社にて、アドバタイザーソリューション部門のシニアディレクターとして日本市場における営業活動を統括しています粟飯原です。前職の電通在籍時は主にテレビ局そしてデジタル・ビジネス局に勤務し、2021年より現職に就きました。

 

―サプライパス最適化(SPO)の定義をお聞かせいただけますか。

 

プログラマティック広告取引において、広告主や広告会社が広告在庫を購入する経路の効率化を図るためのプロセスをSPOと定義しています。当社のように従来はサプライサイドでDSPと媒体社の間に位置していたSSPがデマンドサイドの広告主や広告会社とSPOについて直接交渉しています。

 

プログラマティック広告取引には実に多くのプレーヤーが参画しているため、購入経路があまりに複雑となり、可視化が難しいということがかねてから課題視されてきました。SPOは、この課題を解決するために考案された手法の一つです。

 

―プログラマティック広告取引が複雑化すると、具体的にはどのような問題が起こり得るのでしょうか。

 

英国広告主協会(The Incorporated Society of British Advertisers、ISBA)とPwCコンサルティングが、「プログラマティック広告取引におけるサプライチェーンの透明化」と題した共同調査を2020年に実施しています。本報告書によると、調査に参加した広告主15社が媒体社12社の広告在庫を購入する経路が約300通りもありました。

 

また広告費全体のうち、媒体社の収入が51%を占める一方で、不明な支出が15%もあったということです。SPOを実施することで、このような不透明な取引をなくすと同時に、購入経路をある程度まで統一することで買い手はより大きな購買力を得ることができます。

 

ヘッダービディング台頭の帰結

 

―SPOを実施することで、約300通りの購入経路はどれほどまでに絞り込むことができるのでしょうか。

 

何通りが適当かというよりも、それぞれの購入経路を可視化し、管理できることが重要です。あくまで一般論としては、300通りもの購入経路を統合的に管理するのは非常に難しいでしょう。

 

デジタル広告業界では、新規の媒体やソリューションが絶え間なく開発されています。これらを次々と採用すると、購入プロセスや経路は複雑化します。そこでプログラマティック広告取引の規模が一定度に達した段階で、購入経路をある程度は精査する必要があると思います。

 

―具体的にはどのような作業を要するのでしょうか。

 

当社ではまず広告主や広告会社にデジタル広告取引の現状や課題をヒアリングするところから始めます。そしてこれまでの実績に基づき、今後1年にわたる取引の現実的な増加量を想定した上で、売上の目標値を設定し、SPOを効果的に実行するための各種プロダクトをご案内しています。

 

当社はテクノロジー企業ですが、SPOではお客様のご要望に応じたカスタマイズな対応をしております。

 

―SPOを通じてどのような成果が期待できるのでしょうか。

 

英国の大手電気通信事業者であるBTの取引において、当社と大手広告グループのWPPがSPOを導入したところ、広告オークションの入札率が5%そして勝率が7%向上しました。

 

またSPOの導入は、入札の話に留まらず、広告主のマーケティングROIを効果的に向上させることが実証されています。

 

―貴社のようにサプライサイドの中枢に位置する事業者が、どのようなサプライパスが最適であるかを判断することについて、公平性の観点から問題はないですか。

 

SPOを進めるに当たっては、通常の営利活動の一環として、当社のプロダクトのご紹介もします。しかし、どのようなサプライパスが最適であるかを最終的に判断するのは広告主や広告会社です。

 

またSPOが適切に行われれば、不透明な取引がなくなり、健全な広告オークションを実施する上での阻害要因を取り除くことができるので、媒体社やDSPなどその他の事業者も恩恵を受けます。

 

―これまで主にサプライサイドで事業を運営してきた貴社のようなSSPが、広告主や広告会社と直接的に取引を行うことに関する課題はありませんか。

 

確かにかつては広告主や広告会社にとって、SSPは縁の遠い存在だったと思います。ところがあらゆるSSPやアドネットワークに対して一斉に自動入札を実施することを可能にするヘッダービディング技術が台頭したことで、サプライサイドにおけるSSPの差別化が難しくなりました。そこで現在では当社を含めた幾つかのSSPが、デマンドサイドにまで活動領域を拡大しています。

 

こうした背景を鑑みれば、SSPが広告主や広告会社と直接的な取引を行うというのは、自然な流れだと思います。

 

SPOが機能するための必要条件

 

―米国市場などと比較して、日本市場においてはSPOという概念がそれほど普及していないように感じます。

 

既に当社では、SPOを導入した広告会社経由の売上が全体の3割以上を占めています。また米国や欧州市場においては、必ずしもSPOという枠組みには相当しないが、大手広告主が優先取引SSPを指定するという事例がかなり増えています。

 

一方で、日本市場においてはこうした動きはそれほど一般化していません。デジタル広告の買付先がいわゆるウォールドガーデンと形容される大手広告プラットフォームに偏りがちであり、オープンインターネットの広告市場自体が小さいので、サプライパスの最適化や効率化の機運が十分に高まらないというのが主な原因だと考えています。

 

―広告主がごく一部の大手広告プラットフォームだけで事足りているということですか。

 

視聴率やPVといった短期的なKPIを達成するためにバイヤーは、安いCPMでスケールする媒体を購入すれば、誰でも比較的容易にKPIを達成することができます。常にKPIの達成を求められる担当者が大手広告プラットフォームを好んで購入する理由はそこにあります。

 

ただし、視聴率やPVだけでは、コンテンツや視聴者の価値を測ることができません。CPMでは魅力的であったとしても、コンテンツのクオリティーが低く、視聴者の購買力が高くなければ、商品の購買に至らず、ブランドイメージを毀損する可能性さえあります。一度棄損したブランドイメージを回復するには、それまでに費やした何倍もの広告宣伝費が必要となります。

 

前職時代に故入江雄三さん(元電通専務)が「ジャーナリスティックな視点を持て」と常に言われていたのを思い出します。目先の利益を追求するのではなく、より高い社会的な視点で広告に取り組み、その広告を通じてメディアと消費者を繋ぐことの重要性を説かれた広告人への矜持だと思います。デジタルの世界でも良質なコンテンツを生むデジタル・メディアに健全な広告費が流れる仕組みを作ることは不可欠です。これはデジタル広告業界にとっての課題です。

 

―オープンインターネットの魅力について、広告主からの理解を得るには何が必要だと考えますか。

 

良質な広告在庫を揃えることが大前提です。我々はプレミアム・インベントリーと呼んでいます。そして質だけでなく、ある程度の量を確保しなければ、関連ソリューションが十分に効果を発揮することができず、広告主や広告会社も相応のリソースを割くことができません。

 

そこで当社では、2022年にADKマーケティング・ソリューションズ様とSPO契約を締結しました。さらに今年よりキー局・準キー局などOTT ・CTVの広告在庫を効率的に提供する仕組みをご用意しています。また、国内最大級のDMPを提供するインティメート・マージャー様ともSPO契約を締結しております。これらの取り組みを通じ、広告主様に良質な広告在庫を潤沢に提供していきます。

 

―SPOとオープンインターネット上の広告利用自体の普及を同時並行的に行っていくということですね。

 

オープンインターネットの広告市場拡大とSPOは同時並行で進むのが理想的です。ただ、オープンインターネットの広告市場を取り巻く課題が多いことも事実です。例えば、大手広告プラットフォームの中には、視聴データの外部利用を認めていない例があります。つまり同サービスの営業のみが他のメディアとの比較分析を広告主に提供できるという点では、公平な競争環境で健全な広告取引を行う上で問題があると考えます。

 

広告効果を示すデータは広告取引の根幹を成すものであり、この点に強い問題意識を持つべきではないでしょうか? このようにオープンインターネットを取り巻く課題を一つひとつ解決していくことで、オープンインターネットとプログラマティック広告の未来を健全に発展させることが出来ると信じています。

ABOUT 長野 雅俊

長野 雅俊

ExchangeWireJAPAN 副編集長
ウェストミンスター大学大学院ジャーナリズム学科修士課程修了。 ロンドンを拠点とする在欧邦人向けメディアの編集長を経て、2016年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 日本や東南アジアを中心としたデジタル広告市場の調査などを担当している。