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130周年を迎える東洋経済が『変えること』と『変えないこと』―東洋経済新報社×FLUX対談

 

創立130周年を迎える東洋経済新報社。「社会を良くする経済ニュース」の配信を行う東洋経済オンラインは経済・ビジネスに特化したメディアとして、確固たる地位を築いている。伝統ある経済紙としてのこだわりと、めまぐるしく変化するメディア環境の中での新しい挑戦について、メディア支援を担うFLUXが話を伺った。本対談は2025年2月 東洋経済新報社本社にて行われた。

(Sponsored by FLUX)

 

 

堀越 千代

東洋経済新報社 執行役員 東洋経済オンラインプロデューサー

2006年東洋経済新報社に⼊社。業界記者として⼩売り、化学、外⾷業界などを担当。雑誌『週刊東洋経済』編集部、新規媒体開発担当などを経た後、2017年に編集局を離れ、デジタルマーケティングの領域へ。会員制サイトのプロダクトマネジャー、東洋経済ID施策担当などを担う。2023年4⽉、東洋経済オンライン事業局長、2025年3月から現職。

 

 

柳田 竜哉

株式会社FLUX VP of Publisher メディア・マーケティングソリューション本部長

2001年朝日新聞社入社。広告局、デジタルメディア本部を経て2010年より朝日インタラクティブ社に出向。CNET japan・CNN.co.jp等を取締役として統括。2016年に朝日新聞社に帰任し、アドテク・運用型広告の領域に注力。2020年4月にFLUXに参画。

 

 

東洋経済オンライン
株式会社東洋経済新報社が運営する「社会を良くする経済ニュース」を配信する情報配信プラットフォーム。毎⽉約1,000本の記事を公開し、⽉間PVは1億を超える。100人を超える社内記者に加え、様々な分野の有識者といった外部著者のべ400人が、一つの事象に対してあらゆる視点での分析を試み、日々記事を生み出している。

 

 

東洋経済オンライン22年の歩みと成長の軌跡

 

堀越:東洋経済オンラインは2003年にローンチし、今年で22年目となります。今の形にリニューアルしたのが2012年です。社内記者に加えて社外有識者の方々にも記事を書いていただくという体制を確立し、ウェブメディア業界全体の勃興とともに急成長してきました。特にコロナ禍でメディアの需要が急増し、2020年には月間で3億PVを超えるまでに至りました。

ユーザーの拡大とともに広告市場の追い風を受け、業績も右肩上がりで推移してきました。

 

 


コンテンツ視点とビジネス視点の融合が求められるフェーズ

 

柳田:堀越さんは2006年に東洋経済に入社後、記者・編集・新媒体の開発やマーケティングを経て、2023年に東洋経済オンライン事業部が新設されると同時に、事業全体つまり経営面の役職に就かれていますが、東洋経済さんでは編集出身者がビジネス(メディアの経営)を担うのはよくあることですか?

 

堀越:珍しい方かもしれません。今後も理想としては、コンテンツ制作とビジネスの両方がわかる人を増やしていきたいと考えています。

 

柳田:コンテンツとビジネスの両方のことがわかる人がメディアの中にもっといるといいなと思います。ベンチャー系のメディアだと、皆が全てに関わるためスピード感が早いなと感じることがありますが、大規模な伝統ある企業ではコンテンツ制作とビジネス視点が分断されがちです。今は、そういった点でも変化が求められる局面にあるのかもしれません。

 

 

激変するメディア環境、立ち止まる2024年

 

柳田:昨今メディア環境が大きく変わってきていますが、現状の事業環境をどのように捉えられていますか。

 

堀越:インターネットメディアを取り巻く環境はネガティブなことが多いと感じます。以前は記事を出せばユーザーが集まり、広告も出稿されるというビジネスモデルが成り立っていました。しかし、ここ2〜3年でその状況は大きく変わり、「このままではいけない」と痛感しています。

最大の課題は、そもそもニュースサイトを訪れるユーザーが減っていることです。特定の話題で瞬間的にアクセスが増えることはありますが、全体的に見ると特にテキストコンテンツを読むユーザーが縮小していると感じます。

私たちはこの10年間、「よい記事さえ出せばユーザーが来る」状況に慣れてしまっていたのかもしれません。しかしながら、今後このままではいられないため、2024年は一度立ち止まり、会社として「これからのメディアの在り方」について本気で考え直す年にしました。

 

 

東洋経済オンラインの再定義と「ステートメント」

 

堀越:昨年、これまで明文化されていなかった東洋経済オンラインのミッションやビジョンを、「ステートメント」として定義しました。東洋経済新報社では、今から130年前『東洋経済新報』の創刊時に記された「健全なる経済社会に貢献する」という言葉を企業理念として、これまでも各業務にあたる社員それぞれが思いを持って、クライアントやユーザーに向き合ってきました。しかし、改めて事業に関わる人全体で認識を共有するために、言語化するための試みとしてステートメントを作成することにしたのです。

ステートメント策定に際し、定量・定性調査、今置かれている現状や課題のためにやるべきこと、未来に向かってやるべきことをさまざまな部門で考えました。また一度作成したものに対しても全社から意見を募集し、それを細かいところまで反映させました。こうして策定した東洋経済オンラインのミッションは「経済・ビジネスを軸に、あらゆる人々が『よりよい選択』をできるよう手助けし、豊かで健全な経済社会を実現すること」です。

これから新しい提案や取り組みをするとき際には、このミッションに基づいて意思決定をしていきたいと考えています。

 

 

「読まれる」だけでなく、「社会的意義のある記事」を

 

柳田:次に、御社のコンテンツ作りについてお伺いさせてください。先ほどインターネットメディアに訪れるユーザーが減っているというお話がありましたが、コンテンツ作りで課題に感じていることなどありますか?

 

堀越:コンテンツ作りにおいて、マーケットイン(読者のニーズを出発点としてコンテンツ作成を優先する)かプロダクトアウト(東洋経済が発信したいコンテンツを優先するか)か、これまでたくさん迷い、悩んできています。

記者に対して、ビジネス部門からマネタイズを意識するような枠にはめた指示を出せば、面白い記事が出なくなります。記者のクリエイティビティと熱量がないと良い記事は生まれないんです。

 

柳田:SNSを中心にインフルエンサーと呼ばれる個人による発信が「バズる」時代に、東洋経済オンラインのように専業記者が発信しているメディアの存在意義についてはどうお考えですか。

 

堀越:確かに、個人のインフルエンサーが影響力を持つ時代です。しかし一方で、東洋経済オンラインは「まとまり」で運営しているのが強みだと考えています。

個人インフルエンサーのマーケットイン的な発想では、「みんなが知りたいこと」を優先して発信すれば良いかもしれません。しかし、多くの人には読まれないかもしれないけれど「今、書かなければならない」という社会的意義がある記事を出せるのは、やはり東洋経済の強みであり、存在意義なのではないかと思います。

弊社は広く名が知れたスター記者がいるわけではありませんが、130年続いてきたメディアとしての責任と信頼があります。一部の人にしか読まれないかもしれないけれど、社会的に重要な記事を発信し続けることこそ、私たちの役割だと考えています。

 

柳田:まさに御社で発行されている会社四季報がそうですよね。メジャーな企業だけでは成立せず、どんなに小さな銘柄までも網羅していることが価値であると感じます。個人がメディアのようなこともできるというのは面白い時代でもありますが、「まとまり」の大切さには共感します。

FLUXも顧客であるメディアの皆様に対してSEO関連のサポートをすることがあります。やはり「読まれる記事を書く」というのは基本ではあるのですが、「たくさん読まれるだけの記事」では価値を生み出しにくい側面があります。ビジネスとコンテンツのバランスが重要ですね。

 

堀越:そのバランスを取るのが、まさに今の課題です。マネタイズを強化しすぎると、熱量のある記事が生まれにくくなる。一方で、取材記者は単なる情報発信者ではなく、クリエイターでもある。収益とジャーナリズムの両立をどう図るか、メディア運営において極めて重要なテーマだと思っています。

 

 

新たなチャレンジ、動画コンテンツへの再注力

 

柳田:最近はYouTube動画にも力を入れていますね。

 

 

堀越:そうですね。YouTubeチャンネルは以前からありましたが、2024年から本格的にリスタートしました。現在は月20本程度のペースで動画を配信しています。

YouTubeこそ「見られるもの」が「稼ぎ」となりますが、そこで東洋経済らしさをどう出すのかは懸念としてありました。しかし、テキストを読むユーザーが減少している中で、新しいユーザーとの接点を増やす意味でも動画配信には取り組むべきだと考え、YouTubeに再注力することにしました。

 

柳田:最近も、とある大企業の合併破談についての解説動画がありましたが、ニュースが出てすぐに動画で配信されていましたね。裏話も入っていてとても面白かったです。

 

堀越:動画における弊社の強みはスピード感です。記者はずっと最前線で取材をしているため、ニュースが出てすぐに記者が解説することができます。

また、動画のフォーマットも工夫しており、編集長が記者に質問を投げかけ、それに記者が答えるという形を取っています。これは、実は記事作成における編集部の日常的な風景をそのまま切り取ったものなんです。そこにも面白さを感じて頂きたいのですが、弊社としては簡単な打ち合わせをすればすぐに収録できる点も大きな利点ですし、動画には新しい可能性を感じています。

 

 

ファンとの関係を強化する取り組み

 

柳田:今新たに注力している領域はありますか。

 

堀越:東洋経済オンラインのファンを大事にするためにも、読者に対して然るべきサービスを提供することは今後より注力していきたいと考えています。

直近ではユーザー調査を実施し、「ロイヤルユーザー」の分類を再確認しました。そこには、有料会員と、無料ながら頻繁に訪問してくれるユーザーの両方が存在します。どちらも重要な読者層なので、それぞれに適した価値を提供することが必要だと考えています。その中でも特に有料会員であるユーザーには、より付加価値の高いサービスを提供していきたいという話を、ユーザー調査の結果を元に記者も含めて会社として再確認したところです。

 

柳田:こういったユーザー調査をすると、コンテンツを作る時にも意識するようになりますし、広告主に対して「こういったユーザーがメインとなるのでそういう広告を出してください」と言えるようにもなりますよね。

広告はきちんとターゲットが合えばとても有用な情報となりますし、IDを活用してユーザー属性を明確にすることで、マーケティング担当者から見ても非常に魅力的なメディアになるはずです。

 

 

収益化とコンテンツの質、マネタイズ戦略の多様化

 

柳田:FLUXでは大小様々なメディアの広告マネタイズをお手伝いさせていただいています。その中でも、東洋経済オンラインさんは、読者や広告主にとっての最適とは何かをしっかりと考えて運用なされている印象です。

 

堀越:ありがとうございます。運用型広告は、ユーザーと広告主の双方にとって最適な形を常に模索しています。

 

柳田:特に御社のようなプレミアムなメディアにおいては、ブランドセーフティの確保が広告主にとっても非常に重要ですよね。我々FLUXとしても、広告が適切なコンテンツの中で表示され、読者の信頼を損なわない環境を作ることを重要と考えています。

 

堀越:特に東洋経済オンラインのようなメディアでは、広告の質や掲載環境がブランドイメージにも直結します。ユーザーはもちろんですが、広告主の期待に応えられるよう、厳格な基準を設けています。

 

柳田:広告収益は一つの収益の柱であるかと思いますが、そのほかサブスクや記事提供も収入柱になっていますか?

 

堀越:はい、ただサブスクに関してはまだ発展途上です。というのも、有料読者のみが閲覧できるという、いわゆる記事に鍵をかけただけではサブスクは成立しないと思っています。今後はより一層、読者が「東洋経済の有料会員になりたい」と思える付加価値を提供しなければならないと考えています。

 

柳田:いい記事ほど鍵をかけたくない(有料読者のみが閲覧できる状況にしたくない)と仰っていたことがありましたがとても共感できました。記事ではないところの付加価値をつけるというのは面白いですね。

 

堀越:また、もう一つの収入柱である「記事提供」に関しては、記事を生成AIの学習用データとしての販売を始めました。これは単なる収益化というだけではなく、ある種の防衛策とも言えますが、無断利用されないために販売しているという側面もあります。販売先は生成AI事業者のみならず、企業が生成AIを活用する際のデータとしても利用されています。ビジネス領域に特化した日本語データかつ、図表を交えたコンテンツというのは希少であり、東洋経済オンラインの強みを活かすあまり他にはないデータなので有用性が高いと思います。

 


創立130周年に向けて、東洋経済の未来を語る

 

 

柳田:東洋経済新報社は今年11月に130周年を迎えられます。今までと変わらず大切にしていきたいことと、これからの展望をお聞かせいただけますか。

 

堀越:やはり弊社の強みであり中核は、経済・ビジネスのコンテンツです。この強みを活かしながら、今後も価値あるコンテンツを提供し続けることが重要だと考えています。

また、130周年事業の一環として、サイトのリニューアルも予定しています。実は前回のサイトリニューアルから10年以上が経過しており、これまで小規模な改修は繰り返してきましたが、今回は抜本的な見直しを行います。また、動画コンテンツやサブスクリプションといった新たな要素を本格的に取り入れることも検討しているので、楽しみにしていただければと思います。

 

柳田:業界全体が厳しい状況にある中で、積極的な投資と改革に取り組まれるのは素晴らしいですね。サイトリニューアルも含め、東洋経済の今後の取り組みをとても楽しみにしています。本日は貴重なお話をありがとうございました。

ABOUT 角田 知香

角田 知香

イギリス・キングストン大学院にて音楽学の分野で修士号を取得。学校・自治体文化講座等にてアート講座講師として活動後、2024年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。