偶然性が街を動かす-OOH×DOOHの再定義が始まった-ATS Tokyo 2025 セッションレポート

ATS Tokyo 2025 にて開催されたセッション「リアルとデジタルの交差点。融合か対決か?OOH×DOOHが街を動かす。」では、屋外広告(OOH)とデジタル屋外広告(DOOH)が都市空間にもたらす新たな役割について活発な議論が行われた 。
本セッションには、株式会社電通 OOHビジネス室長の櫻井順氏、ohpner株式会社 代表取締役の土井健氏が登壇し、モデレーターは ExchangeWire JAPAN 編集長の野下智之が務めた。両氏は、オンライン広告の高度化や都市文化の変化、OOH業界におけるアカウンタビリティ改善の動き、自身の事業経験など多岐にわたる観点から、OOH/DOOHが「街を動かす」存在として再び注目されている理由を語った 。
セッション登壇者
- 株式会社電通/OOHビジネス室/室長/櫻井 順 氏
- ohpner株式会社/代表取締役/土井 健 氏
- (モデレーター)ExchangeWire JAPAN/編集長/野下 智之
オンラインとオフラインを横断してきた二人が語る「OOH 再評価」の理由
セッションは、両氏の自己紹介から始まった 。土井氏は自身のキャリアを「アドテクの最前線からスタートし、オフラインへ踏み込んだ」経歴であると語る 。fluctの二代目社長としてSSP・DSPの黎明期を過ごし、後に電通とCARTA HOLDINGSの共同事業「テレシー」でテレビCMやタクシー広告などオフライン領域に触れたことが転機になったという 。
オンライン広告では、巨大プラットフォーマー(GAFA)の支配力の前に、新たなプロダクトを生み出しても勝ちづらい構造があった 。しかしオフライン市場には再発見されていない価値が多く残り、プレイヤーの発想次第でメディア自体を変えられる余地があったと述べた 。

その象徴が、現在取り組むアドトラックの再定義である 。長年“夜の求人”イメージが強かったアドトラックは、実は圧倒的な認知効果を持ちながら、利用イメージによって活用が限定されていた 。土井氏は「テレビCMに50億円投資しても到達しない認知が、アドトラックでは生まれている。媒体パワーは証明されていた」と述べ、この“負のイメージ”を払拭し、ナショナルクライアントが安心して利用できるモビリティ広告へと再構築した 。
その結果、街中でポケモンやプログリット社などの上場企業のラッピングが走るなど、全く新しい市場が立ち上がりつつある 。土井氏の著書『オフライン広告革命』でも、オンライン市場とは異なるオフラインの可能性が語られており、こうした発想が現在の事業に色濃く反映されている 。
一方、櫻井氏はテレビ媒体担当として電通に入社し、メディアプランニング、そして中国・ベトナムでの海外勤務を経てOOHの世界に入った 。NTTドコモと電通が設立したDOOH事業会社LIVE BOARDの社長としてプログラマティック DOOH を国内で推進し、現在は電通に戻りOOH全体の戦略を担っている 。
中国やベトナムで経験した「街全体がデジタルサイネージ化していく」スピード感は強烈だったと振り返り、日本でも近年、駅・ビル壁面など大型サイネージの設置が一気に進んでいると指摘した 。さらに櫻井氏は、共通指標整備を行う「日本OOHメジャメント協会」の理事として、OOH業界の基盤づくりにも携わっており、個別最適に分断されてきたOOH市場を“ひとつの市場”として再構築する動きが進んでいることを紹介した 。
両氏のキャリアは対照的だが、「オンラインとオフラインを横断してきた」という点で深く共通しており、その視点が本セッションの議論に強い説得力を与えていた 。
偶然性を生み出す力と、データで最適化される力──OOH と DOOH の“両輪”
議論は、OOH/DOOHが再注目される理由へと移った 。
土井氏は、デジタル広告の高度化が逆説的にOOHの価値を押し上げていると指摘する 。高度なターゲティングは、既存の顧客層に精密に届ける一方で、「同じ池の魚を釣り続ける状態」を引き起こし、広告主は“ラットレース”のような構造から抜け出しにくくなるという 。
そうした閉塞感を打破するのが、OOHが持つ「偶然性(セレンディピティ)」だと語った 。通行者が意図せず広告と出会うことで偶発的な気付きが生まれ、新しい顧客層の発見にもつながる 。OOHは、デジタル市場の飽和によって失われつつあった“出会い”を街に取り戻す役割を持っているとの見解を示した 。

櫻井氏は、OOHが「公共空間で自然に目に触れ、嫌われにくい広告」である点を強調した 。テレビやデジタル広告が変化する中、街の中で視認されるOOHは、生活者の態度変容に一定の安定性をもたらす 。SNS時代においては、街で見たクリエイティブがそのままオンライン上の話題となり、リアルとデジタルの循環を生む起点にもなる 。こうしたランドマーク的な存在感はOOHならではであり、都市の景観と広告体験を同時にデザインできる点に魅力を感じる広告主も増えているという 。
さらに櫻井氏は、DOOHの進化がOOHの価値を一段引き上げているとも語った 。プラットフォーム化が進み、位置情報データを基にした時間帯別配信、行動動線に基づく配信最適化など、従来は困難だった“文脈に合わせたOOH”が可能になりつつある 。
ただし DOOH がデジタル広告と異なるのは、「不特定多数が対象(One to Many)」であり、偶発的な体験価値を含み込んでいる点だと説明する 。この“偶然性の設計”こそが、データ・テクノロジーの進化によってより高度に扱えるようになってきたと述べた 。
対して土井氏は、OOH/DOOH の区分にこだわらず「街を移動するメディア」全体に可能性を見ていると語った 。自動運転時代には、走行ルートがある程度固定化されることで、広告配信や運行データとの連携がしやすくなるなど、これまでにない広告設計が可能になると指摘する 。テクノロジーを“測るため”だけに使うのではなく、街と移動体が持つリアルな特性を活かすために使うべきだという考え方は、従来のOOHの延長線を超えた視座であった 。
業界基盤の刷新と、街を良くするメディアとしての未来像
議論の終盤では、OOH業界を支える基盤整備について意見が交わされた 。
櫻井氏は、日本OOHメジャメント協会(JOAA)の立ち上げの背景に触れ、「OOH市場が長年横ばいだったのは、アカウンタビリティの不足が一因だった」と語った 。
媒体ごとに基準が異なり、広告主がOOHを適切に比較・評価できなかったことが市場拡大の妨げとなっていた 。コロナ禍で街から人が消えたことで“何がどれだけ見られているのか”の可視化は喫緊の課題となり、これをきっかけに交通広告、屋外広告といった分断された領域を横断する形で初めて共通指標づくりが始まったという 。これはOOH業界にとって画期的な動きであり、今後の市場成長に大きく寄与すると述べた 。
土井氏も、モビリティ広告の現場で感じる課題を共有した 。訪日外国人が増える中、渋谷などで夜間求人のアドトラックが見える現状は、日本の街の印象に影響を与えかねないと指摘し、「街の景観を変えることが、広告価値だけでなく社会価値にもつながる」と語った 。業界の基準整備には時間がかかるため、まずは“見える部分から正しくする”ことが重要であり、自身の事業もその実践であると説明した 。
最後に両氏は、OOH/DOOHが今後担うべき役割について展望を語った 。
櫻井氏は、OOHを「街の情報空間を形成するメディア」と捉え、単なる広告配信にとどまらず、地域社会に必要な情報提供や街の価値を高める取り組みを進めたいとした 。クリエイティビティとデータ、テクノロジーを掛け合わせ、街そのものをより快適で魅力的な空間にすることがOOHの新しい使命になると述べた 。
土井氏は、日本の広告業界には依然として“メイド・イン・ジャパン”として競争できる領域が多く残されていると語った 。海外の規格やプラットフォームに頼るのではなく、日本独自のメディア開発・事業設計を追求することで、新しい産業が生まれる可能性があるとし、その一端を担うために自身も挑戦し続けたいとまとめた 。
OOH×DOOHが描く、街と生活者をつなぐ新たな広告体験

本セッションを通じて明らかになったのは、OOH/DOOH が「街の体験価値そのものをデザインするメディア」へと進化しているという点である 。偶然性を提供するOOHと、最適化を可能にするDOOH。その融合は、広告との出会い方に新しい意味を与え、街を歩く生活者に“気付き”をもたらす 。
オンラインとオフライン、計測可能性と体験価値。その両立が可能になった時、広告は都市の文化をつくり、街は広告によって新しい表情を持ち始める。両氏の議論は、OOH×DOOHが今後、都市の価値や生活者の行動をどのように変えていくかという大きな可能性を示していた 。
ABOUT 野下 智之
ExchangeWire Japan 編集長
慶応義塾大学経済学部卒。
外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。
国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。
2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。
2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。




