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短期成果偏重からの脱却-ブランディング再評価とDSP再定義が示す新たな地平-ATS Tokyo 2025 セッションレポート

ATS Tokyo 2025 にて「パフォーマンスマーケティング疲弊時代の次の一手」と題したパネルディスカッションに登壇したのは、StackAdapt Japan Head of Business の山口武氏、株式会社SUBARU 国内営業本部マーケティング推進部 宣伝課 課長の安室敦史氏、株式会社電通デジタル Dentsu Digital Global Center Deputy Managing Director の青木亮氏の3名。モデレーターは ExchangeWire JAPAN 共同編集長の長野雅俊が務めた。

 

デジタル広告の世界では、CPAやCPCといった短期指標の最適化を追求した結果として、様々な弊害が生じている。本セッションでは、短期成果に偏りがちなマーケティングの構造的課題を見つめ直し、中長期的なブランド価値の積み上げや顧客ロイヤルティの醸成、さらに媒体の統合管理を前提としたDSPの活用再評価など多角的に議論した。登壇者それぞれの立場から語られた見解は、業界が直面する課題の現在地を映し出し、次のアクションを考えるための実践的な示唆に満ちていた。

 

セッション登壇者

  • StackAdapt/Head of Business, Japan/山口 武 氏
  • 株式会社SUBARU/国内営業本部 マーケティング推進部 宣伝課 課長/安室 敦史 氏
  • 株式会社 電通デジタル/Dentsu Digital Global Center/Deputy Managing Director/青木 亮 氏
  • (モデレーター)ExchangeWire JAPAN/共同編集長/長野 雅俊

 
 

短期指標の最適化が生んだ疲弊

 

議論の冒頭、各氏は自己紹介とともに、ブランディングの必要性について率直な見解を述べた。まず安室氏は、自動車業界特有の購買サイクルに触れながら、中長期視点の重要性を明快に語った。SUBARUでは車の買い替え周期が平均9〜10年と長く、短期的な獲得指標だけで市場を形成することはできない。そのため「心理的なKPI」と「行動のKPI」の両方を重視する必要があると説明した。

 

 

前者にはブランドイメージの定着、後者には検索行動やサイト流入など具体的な反応が含まれる。テレビCM放映直後に検索数やウェブアクセスが急増する事例を引き合いに出しながら、両指標が連動して機能して初めて「良いブランディング」と言えるとした。

 

一方、青木氏は「短期成果が理解されやすい」という広告主側の事情を背景として挙げた。CPCやCPAといった指標は説明もしやすく、改善度合いも可視化されやすい。そのため、短期指標が広告主の評価軸として根強く残っていると指摘する。

 

しかし代理店の現場では、ブランドリフト調査(BLS)などと組み合わせ、フルファネルで効果を検証し続ける必要がある。調査結果から「どの層がコンバージョンに最も寄与したか」を分析し、クリエイティブの改善や投資配分の見直しにつなげる。青木氏は「代理店が俯瞰的にソリューションを見渡し、最適な組み合わせを提示する価値はむしろ高まっている」と語った。

 

山口氏は、StackAdaptではBLSやパス分析をリアルタイムで実施し、キャンペーン全体の総合評価を可能にしていると説明した。山口氏は「パフォーマンスとブランディングは二項対立ではなく両立すべきもの」と強調し、短期指標と長期指標双方を見据えた計測が今後不可欠になると指摘した。

 

こうして議論は、ブランディングの軽視が生み出した「疲弊」の構造と、その是正のために必要な視点を、広告主・代理店・テクノロジーベンダーの立場から多面的に明らかにした。

 
 

媒体統合管理の視点が欠落する日本市場

 

ブランディング指標の話題から議論は自ずとDSP(Demand-Side Platform)の活用状況に移った。山口氏は、日本市場ではDSPが「特定の媒体」として扱われるケースが依然として多い点を課題として挙げた。本来DSPは複数媒体をまたいで配信・最適化を行うための仕組みであり、「媒体」ではなく「統合管理のためのプラットフォーム」である。しかし現場では、MetaやGoogleなどと横並びで比較され、単一媒体として位置づけられるシーンが少なくないという。

 

青木氏もこの点に強く同意し、広告主によってDSPへの理解度が大きく二極化していると説明した。十分に使いこなしているプレーヤーもいる一方で、DSPに対して「複雑で面倒なもの」というアレルギーを持つ層も一定数存在する。また、日本市場におけるDSP投資が海外と比べ相対的に小さいことにも言及し、グローバル広告主から驚かれることが多いと明かす。

 

 

安室氏も「DSPを媒体の一つとして扱うのは本質を欠く」と明言した。DSP登場初期の高揚感を振り返りつつ、ログベースのデータに基づき複数のクリエイティブを同時運用し、接触の最適化を図ることができる点こそDSPの真価だと説明した。

 

特にブランディング領域では、複数の接触経路を重ねる設計が不可欠であり、DSPが持つ統合的なコントロール機能は最も強く発揮される場だと評価した。ただし実際には、国内で広く利用されるDSPがごく限られている点にも問題意識を示した。

 

山口氏はこうした課題を踏まえ、StackAdaptとしての立ち位置をあらためて示した。同社では、短期的な指標だけでDSPを評価されないよう、キャンペーン全体の改善に資する統合的な分析・最適化機能を強化している。リアルタイムBLS機能や、GoogleやMetaを含む複数媒体を横断したパス分析のレポート提供などはその代表例だ。

 

山口氏は「DSPを媒体としてではなく、広告主の意思決定を支える統合プラットフォームとして捉えてほしい」と述べ、市場理解のアップデートを促した。

 

このパートでは、日本におけるDSP活用の遅れや誤解、そして本来の価値を取り戻すために必要な議論が表面化し、媒体統合管理の視点がデジタル広告の未来を左右する要因になりつつあることが浮き彫りになった。

 
 

StackAdaptが示す差別化と新たな勝ち筋

 

セッション終盤では、StackAdaptの差別化ポイントを軸に、これからの広告運用が向かうべき方向性が議論された。青木氏はDSPの選択基準について、単なる媒体買付機能ではなく、ベンダー側の深い知識と、広告主・代理店の状況に合わせた柔軟な提案力が不可欠だという。メディアの特徴や過去事例を踏まえたレコメンデーションをベンダーとともに検討することで、キャンペーン設計の精度が高まり、次の施策への発展も生まれやすいと語った。

 

安室氏は、国内で特に利用頻度が高いDSPが限られていると指摘。そうした中で、StackAdaptのような後発プレーヤーが日本市場に参入した理由や強みについて率直に問いかけ、山口氏が応える場面もあった。

 

山口氏は、StackAdaptが重視する「全体最適化」と「長期的視点」を改めて強調した上で、短期成果だけで評価されない仕組みづくりを進めていると述べた。さらに、国内外のプロダクト統合が進む中で、広告配信からCRM、マーケティングオートメーションまでを接続する構想があることにも触れ、「長期的なブランド価値の積み上げと短期成果の同時達成を支援できるプラットフォーム」を目指しているとまとめた。

 

 

議論の最後に、StackAdaptのブースで実施されているブランドリフト調査レポート配布やキャンペーン企画が紹介され、会場ではさらに深い議論を続けたい来場者に向けた案内がなされた。

 
 

短期偏重からの脱却と統合の重要性が示す未来

 

本セッションは、短期的な指標最適化が当たり前になったデジタル広告環境において、いま何が失われ、何を取り戻すべきかを浮かび上がらせた。ブランディングの再評価、媒体統合管理としてのDSPの価値再確認、そして短期と長期を両立させる運用アプローチ。登壇者の発言からは、広告運用がより全体戦略に組み込まれていく未来像が示された。

 

マーケティング活動の根幹にある「ブランド価値の構築」は、決して短期指標だけでは測れない。データ環境の高度化とAI活用が進む中で、心理指標と行動指標を統合し、媒体横断で意思決定を行う仕組みづくりが不可欠になる。今回の議論は、その実現に向けた具体的な方向性を示しており、業界が抱える疲弊から一歩抜け出すヒントを与えるものとなった。

ABOUT 長野 雅俊

長野 雅俊

ExchangeWireJAPAN 共同編集長

ウェストミンスター大学大学院ジャーナリズム学科修士課程修了。ロンドンを拠点とする在欧邦人向けメディアの編集長を経て、2016年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。ExchangeWire主催の大型イベントであるATS Tokyoのモデレーターも務めている。