×

クッキーレス時代のID戦略とパブリッシャー収益最大化-ATS Tokyo 2025 セッションレポート

「3rd Party Cookie(サードパーティ クッキー)のその先へ。IntentIQ(インテントアイキュー)とパブリッシャーが語る次世代のマネタイズ手段」と題した本セッションでは、IntentIQ VP Business DevelopmentのTamir Shub氏、株式会社インタースペース メディア&ソリューション事業部 事業部長の長谷川達也氏が登壇し、クッキーレス環境におけるIDソリューションの役割と、日本のパブリッシャーにとっての収益最大化の方向性について議論した。モデレーターはExchangeWire JAPAN共同編集長の長野雅俊が務めた。

 

IntentIQのグローバル展開状況や、日本市場での導入実績、Safariなどクッキーレス環境でのフィルレート・CPM・収益の具体的な改善数値が共有されるとともに、インタースペースが女性向けライフスタイルメディアを運営する中で直面してきた入札単価の課題と、その打ち手としてのIDソリューション活用が語られた。さらに、どのような観点でIDソリューションを選定すべきか、複数IDの並行導入をどう考えるか、SNSや生成AIの台頭によるPV減少と在庫価値向上の関係など、パブリッシャーにとって実務的な論点に踏み込んだセッションであった。

 

セッション登壇者

  • IntentIQ/VP Business Development/Tamir Shub氏
  • 株式会社インタースペース/メディア&ソリューション事業部/事業部長/長谷川 達也氏
  • ExchangeWire JAPAN/編集部/共同編集長/長野 雅俊

 
 

クッキーレス環境で求められるID基盤

 

セッションの前半では、Shub氏がIntentIQの事業概要と技術基盤について説明した。IntentIQはアイデンティティ・ソリューションを中核とするテクノロジーベンダーであり、北米から事業をスタートし、日本、オーストラリア、欧州へ展開してきたと紹介した。

 

同社は海外のアワードでアイデンティティ技術やパブリッシャー向けプラットフォームとして評価を受けているほか、GPP、CCPA、GDPRなど各種プライバシー法制に準拠している。日本市場ではMagnite、fluct、Pixiv、フォーエムなどのローカルパートナーと協業しているという。

 

Shub氏が中心的に取り上げたのは、IntentIQの「Bid Enhancement Solution」である。同ソリューションは、同社のIDグラフを基盤として構築され、特にSafariやFirefox、iOSアプリなど、サードパーティクッキーに依存できないクッキーレス環境において、欠落しがちなIDを補完することを目的としている。

 

 

仕組みとしては、ユーザーがSafariなどのブラウザ経由でパブリッシャーサイトにアクセスした際、パブリッシャー側にはID情報を含まないビッドリクエストが届く。IntentIQはこのシグナルを受け取り、自社のIDモデル上でユーザーに紐づく複数のIDをクラスタリングし、IAB Tech Labの「EID」などの標準仕様を通じてパブリッシャーへ返却する。パブリッシャーはこれをSSPやDSPに送信することで、エコシステム全体が同一ユーザーを認識できる状態を実現する。

 

Shub氏は、このアプローチによって三つの効果が生まれると説明した。第一に、広告主・DSP側は過去の接点情報を前提とした精度の高いターゲティングが可能になり、入札戦略の最適化が進むこと。第二に、パブリッシャーからSSP、DSP、最終的なバイヤーまで、IDの流れが透明化されること。第三に、その結果としてパブリッシャーのフィルレート、CPM、最終的な収益が向上することである。

 

IntentIQは、日本のローカルドメインにおいて、直近6カ月の実績としてSafari環境でフィルレートが約18%、CPMが約15%、全体収益が約30%向上したという数字を共有した。

 

日本市場へのコミットメントとしては、SupershipのAd Generationとの連携が紹介された。Ad Generationは日本で初めてIntentIQのUser ID for Prebid.jsを採用したバイヤーとして、Safariなどクッキーレス環境におけるアドレサビリティ強化を図っている。Prebid.js経由のビッドリクエストにIntentIQのバイヤーIDを含めることで、DSPはサードパーティクッキーに依存せずにオーディエンスターゲティングを維持できるようにしている。

 

さらに、IntentIQは日本に新たなAWSデータセンターを立ち上げたことを明らかにした。これにより、日本国内からのビッドリクエストのレイテンシーは約10ミリ秒まで低減し、日次でサイトにアクセスするユーザーを中心に、50〜80%のパフォーマンス向上を見込んでいると説明した。同社はこれを、アジア太平洋市場および日本のパブリッシャーに対する長期的投資の一環と位置づけている。

 
 

入札単価の停滞とID導入の効果

 

続いて登壇した長谷川氏は、インタースペースが運営する複数の女性向けライフスタイルメディアの責任者として、自社の広告運営の前提から話を始めた。同社は広告モデルでメディアを運営しているが、あくまで広告主のKPIを達成し、その成果に基づき広告の価値が上昇していくサイクルを重視していると説明した。

 

一方で、長年の課題として挙げたのが、一部広告枠における入札単価の伸び悩みである。メディアとして良質なコンテンツを作り、そこに広告を配信することで広告主に買い付けてもらいたいという意図があるにもかかわらず、実際のオークションでは期待した水準まで到達しない状況が続いていたと振り返った。

 

IntentIQの導入後、この状況に変化が見られたという。特にフィルレートが大きく改善し、その結果として広告主による買い付けボリュームが拡大した。長谷川氏は、「きちんと買い付けしてほしいと思っていた在庫に対して、実際に買い付けがつくようになった」という趣旨のコメントを述べ、導入効果が期待に沿うものであったと評価した。

 

来期以降のID戦略については、Chromeのサードパーティクッキー廃止が取り下げられているものの、「シグナル消失は将来的に解消される問題ではない」という認識を示した。そのうえで、IntentIQのようなIDソリューションがサードパーティクッキーの完全な代替にはならないとしながらも、広告主とパブリッシャーの間をつなぐ重要な存在になると位置づけた。

 

質疑応答では、SNSや生成AIの台頭に伴い、世界中のパブリッシャーがページビュー減少に直面している現状が取り上げられた。長谷川氏は、メディアによってはトラフィックの減少スピードは想定以上のケースもありうるため、広告在庫の「量」が減少していることは否定できないとしたうえで、広告ビジネスを営む以上、基本戦略としては「広告枠の質」を高めることで減少分を補っていくほかないと語った。

 

 

その際、IntentIQのようなIDソリューションは確実に「一助」となりうるとしつつも、減少したトラフィックを100%まで補うことができるかについては未知数と、慎重な見通しを示した。トラフィックの回復をIDだけで完結させるのではなく、コンテンツや事業多角化など、他の手段と組み合わせながら、総合的にメディア価値を高めていく必要性を示唆する内容であった。

 
 

「最高のIDパートナー」の条件と複数ID時代の戦い方

 

後半では、IDソリューションを選定する際にパブリッシャーが何を重視すべきか、Shub氏が三つの観点から整理した。

 

第一に挙げたのは「データの精度」である。IntentIQでは92%超の決定論的データ精度を維持していると説明した。ユーザーはデバイスを切り替え、移動し、職場や生活環境を変えるため、IDグラフの鮮度が保たれていなければ、ターゲティングや計測の精度は維持できないという前提に立っている。

 

第二は「相互運用性と実装容易性」である。IDソリューションの導入にあたって、パブリッシャー側でどれだけのリソースを必要とするか、既存のアドサーバーやSSP、ヘッダービディングの仕組みとどれだけ容易に接続できるかが重要だと指摘した。Prebid.jsとのシームレスな連携や、標準化されたEIDパラメータでIDを受け渡しできることは、その具体例として位置づけられている。

 

第三のポイントは「パフォーマンスの証明」である。IDソリューションは、導入しただけでは価値を生まない。フィルレート、CPM、収益、ビューアビリティなど、パブリッシャーごとのKPIに対してどの程度インパクトを与えているかを、透明性のあるレポーティングで検証できることが必要だとした。IntentIQは広告主側・媒体社側の双方で成果が確認されているエンドツーエンドのソリューションであることを、パフォーマンス証明の一例として提示した。

 

質疑応答では、Chromeのサードパーティクッキー廃止が話題になり始めて以降、多様なIDソリューションが登場する中で、IntentIQの差別化ポイントが改めて問われた。Shub氏は、自社の特徴として、前述の決定論的データ精度に加え、SafariやiOSなどクッキーレス環境で50〜70%というカバレッジを確保している点、10年以上にわたって磨き込んできた自社開発のデバイスグラフを継続的に改善している点を挙げた。これにより、ログイン情報や脆弱なシグナルに過度に依存することなく、安定したIDを提供できると説明した。

 

また、単一メディアが複数のIDソリューションを導入すべきかという論点については、「複数採用」を前提としつつも、ソリューションごとに実装の容易性とパフォーマンス、レポートの透明性をチェックし、実際のインパクトに基づいて評価すべきだと述べた。現時点で、単独でアドテク・エコシステム全体をカバーしうるIDは存在せず、各ソリューションが得意とする環境やユースケースは異なるためである。

 

こうした議論を踏まえ、Shub氏は「アイデンティティはもはやオプションではなく、業界全体のコア要素である」と位置づけた。パブリッシャー、SSP、DSP、広告主、代理店のいずれにとっても、クッキーレス化とプライバシー規制の強化が進む将来において、正確なターゲティングと測定を実現するうえで、ID戦略が競争優位性を左右するとの見解を示した。

ABOUT 長野 雅俊

長野 雅俊

ExchangeWireJAPAN 共同編集長

ウェストミンスター大学大学院ジャーナリズム学科修士課程修了。ロンドンを拠点とする在欧邦人向けメディアの編集長を経て、2016年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。ExchangeWire主催の大型イベントであるATS Tokyoのモデレーターも務めている。