生成AI時代の広告運用最前線-人の役割は本当に不要になるのか?-ATS Tokyo 2025 セッションレポート
by on 2026年1月20日 in ニュース

ATS Tokyo 2025 にて「AI広告運用の真実〜本当に人は不要になるのか?〜」と題したセッションに登壇したのは、株式会社電通デジタル CAIO / 執行役員 山本 覚氏。生成AI・AIエージェント・フィジカルAIが広告およびマーケティング業務に与える構造変化を、最新のユースケースとともに紹介した。
セッション登壇者
- 株式会社電通デジタル/CAIO(Chief AI Officer) 兼 執行役員/山本 覚 氏
- ExchangeWire JAPAN 編集部員/角田 知香
生成AIが標準装備化した広告制作
山本氏は冒頭、2022 年の ChatGPT 登場以降、生成 AI のマルチモーダル化が急速に進んだ背景を振り返った。画像生成、動画生成、音声生成など各技術が揃い、2025 年には自律的なタスク処理が可能なAIエージェントが台頭したことで、広告運用プロセス全体に大きな影響がもたらされていると説明した。
広告制作領域では、生成 AI が「クリエイティブ制作・効果予測・改善提案」を一気通貫で担えるようになり、静止画バナーや動画の自動生成は特別な技術ではなくなった。山本氏が紹介した複数のバナー例はいずれも AI のみで生成されたもので、テンプレート化されたプロンプトやブランド特性を踏まえた指示により、多様なクリエイティブを短時間で量産可能な環境が整っている。
しかし AI の生成が高度化するほど、クリエイター側のアートディレクションやプロンプト設計の重要性はむしろ高まるという。山本氏は「AI が当たり前に生成できる“手前”で、どの要素をどう指定するかが差異を生む」と述べ、表現意図を適切に構造化し、指示する役割が重要であると語った。
動画生成についても、背景除去・合成・アニメーション処理などが自動化され、従来のように複数のツールを横断する負担が解消されつつある。特に Sora 2 や Luma AI などの API が公開されたことで、高精度動画がプロンプトのみで生成できるようになり、静止画広告と比較してインプレッションやコンバージョンが大幅に向上した事例が紹介された。生成 AI の高度化は、制作速度と成果を同時に押し上げている。
AI エージェントが拡張するプランニングとオペレーション

次に山本氏は、2024 年以降急速に普及した AI エージェントによる業務変革について解説した。従来の LLM が主に対話応答に特化していたのに対し、AIエージェントは「外部データベース参照」「ファイル操作」「プログラム生成」「他AIとの連携」など複雑なタスクを段階的に実行できる点に特徴がある。
ストラテジックプランニングやメディアプランニング、カスタマージャーニー設計など、人的判断に依存していた工程がエージェントによって高速生成されるようになり、業務効率が大幅に向上している。一方で、山本氏は「AI が導出するプランを鵜呑みにするのではなく、“本当かどうか”を検証する人間側の判断が不可欠」と強調した。
例として、アンケートデータを学習した AI ペルソナに対して質問を投げ、調査結果を取得する仕組みを紹介。企業独自のデータを組み合わせることで精度は高まるが、最終的に矛盾の有無を判断するのはマーケターの役割であるという。
また、AIによる作業自動化のデモでは、オペレーターの作業画面を AI が解析し、そのまま自動化エージェントとして構築する例が示された。これにより従来 10 分かかっていた作業が 1 分台に短縮されるケースもあり、エージェント導入の即効性が確認された。
山本氏は、近い将来の業務像として「新商品のアイデアを AI ペルソナに問い、キャッチコピー生成や初期企画までをエージェントが行い、人間はその妥当性を評価していく」プロセスを提示した。AI 活用の高度化に伴い、マーケターは“全体像の把握と判断”へと役割が変化していくとした。
対話型エンジン時代の到来
後半では、生成 AI がユーザーの情報取得行動を大きく変えつつある現状が取り上げられた。2024〜2025 年にかけて生成 AI 経由のサイト流入が急増する一方、検索エンジンからの流入が減少する事例が報告されている。特にアメリカでは、HubSpot への流入が半年で 8割減少した例(※)が紹介され、要約閲覧が情報接触の中心になりつつある現実が指摘された。
※https://newspicks.com/news/14118689/body/
この変化への対応として、山本氏は Generative Engine Marketing(GEM)という取り組みを挙げた。AI に継続的にプロンプトを投げ、その回答がどのサイトを参照しているかを分析し、自社サイトが引用されるために必要なコンテンツ改善を行う手法である。GDO(ゴルフダイジェスト・オンライン)での実施例では、改修により生成 AI に引用される回数が増加し、新規ユーザー層への接触機会が広がったという。
さらに、海外ではChatGPT や Alexa など対話 AI が広告枠を提供し始めている点にも触れた。質問文脈に応じて広告が提示される仕組みは、検索広告とは異なる“会話内広告”として新しい体験を生む可能性がある。
また、終盤ではフィジカル空間とデジタル空間が融合する「フィジタル」領域にも言及。Meta の AR グラス「Orion」、Waymo の自動運転車、リアルタイムで 3DCG 化されるスポーツ中継など、視界や移動と連動した広告体験といった新しい将来の形が示された。

最後の質疑応答では、「AI 時代に人間の役割はどう変わるのか」という問いに対し、“守り”と“攻め”に分けて説明した。守りの観点では、目の前にあるAIを活用することを前提とし、攻めの観点では生活者目線でのアイデア作りや対人関係におけるコミュニケーションなど、人間ならではのパーソナルな視点が重要になると語った。
山本氏は「AI 活用は特別な人のものではなくなった。毎日を楽しみながら自分らしい価値を発揮してほしい」と締めくくり、セッションは幕を閉じた。
ABOUT 角田 知香
ExchangeWireJAPAN 編集担当。イギリス・キングストン大学院にて音楽学の分野で修士号を取得。学校・自治体文化講座等にてアート講座講師として活動後、2024年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。




