AI時代の1st Party Data戦略:データクリーンルームと企業間連携の最前線-ATS Tokyo 2025 セッションレポート
by on 2026年1月09日 in ニュース

「After Cookie, Beyond Platform ─ データコラボレーションで“1st Party Data”が交わる瞬間」と題した本セッションでは、株式会社電通 データ・テクノロジーセンター グローバル開発部 部長 前川駿氏が登壇し、ファーストパーティデータ活用の最前線とデータクリーンルームの進化を解説した。本記事では、生成AIによる広告運用が加速するなか、企業がどのように1st Party Dataを活用していくべきかという点を中心に、セッション全体の内容を詳述する。
セッション登壇者
- 株式会社電通/データ・テクノロジーセンター グローバル開発部/部長/前川 駿 氏
- ExchangeWire JAPAN 編集部/編集部員/角田 知香
AIが生み出す“同質化”現象と、自動広告運用に潜むリスク

前川氏は冒頭、近年のAI環境がもたらす“同質化の加速”に危機感を示した。生成AIによる表現、AIが示す商品推薦、AIが提示するライフスタイル─いずれも平均化されたアウトプットが大量に生まれ、生活者の視界に均質な情報が流れ込むことで、多様性が損なわれるリスクが高まっているという。
AIの進展は広告運用にも同様の影響を与える。DSP/SSPなどの自動最適化は高度化し、目的と予算を入力すれば効率的にKPIを達成する運用が可能になった。しかし、その裏では“計測可能な一部のユーザー”に配信が寄り、特定のプラットフォーム内でシグナルが計測しやすいオーディエンスへ配信が偏る現象が起きている。これを前川氏は「賢すぎる問題」と表現し、計測上のKPIを達成できたとしても、本当の意味での広告リーチ・フリークエンシーや話題性などにつながっているのかという危惧を示す。
たとえば、最適化アルゴリズムはコンバージョンしやすい一部のクラスタに集中し、結果として飽和減少が早期に発生。クリエイティブの差し替えだけでは問題の本質が解消せず、広告主は「本当に広く届けたい相手」にリーチできていない可能性がある。こうした問題に対し、前川氏は“1st Party Data をエンリッチし、複数クラスタへ横断的に情報を届ける運用”の必要性を訴えた。
企業の1st Party Dataだけでは見えない顧客像─データコラボレーションが切り拓く未来
ファーストパーティデータは購買・会員情報・サイト行動など、企業が保有する “既存顧客との接点”に依存しており、生活者の日常全体を把握できるわけではない。
こうした制約を乗り越える手段として重要になるのが、外部企業とのデータコラボレーションである。グループ会社やパートナー企業が保有する購買データ・興味関心データ・位置情報などを安全に連携することで、既存顧客の深い理解や潜在層の発見が可能になる。
一方で、企業間のデータ連携には、ファイル共有に伴うコピーリスク、OneID基盤導入への投資、オプトアウト管理、法務判断のばらつきなどが障壁となってきた。
この状況を変えつつあるのが、クラウド型DCR(データクリーンルーム)である。従来はビッグテック中心だったが、近年はクラウドベンダーによるオープン型DCRが登場し、広告主・小売・メディア・キャリアなど多様な企業が利用可能になった。
クラウド型DCRでは、ID単位の厳密な紐付けが行えない場合でも、AIエージェントによる合成的・推計的な紐付けが可能となり、従来のOneID依存とは異なる柔軟なデータ活用が進んでいる。
具体化し始めたユースケース

■ アメリカ:メーカー×ディーラー×協会
自動車領域では、メーカー・ディーラー・協会がIDデータをクリーンルーム上で突合し、マーケットの構造把握・広告効率化などに活用した事例。
■ 日本:調査パネル×企業データ
2つの企業が保有する1st Party Data をDCRで接続し、顧客解像度を深める取り組みが行われている。これにより「どんな人が買ったか」「どんな思考や価値観を持つ人物か」というように顧客像を深掘りでき、より解像度の高いマーケティング策定が可能となる。
日本で連携が進まない理由と、AI時代の戦略再構築
海外と比較すると、日本でのデータ連携は依然として進んでいない。その理由として、前川氏は以下を示した:
- 個人情報保護法における企業間の解釈差
- オープンウェブのシェアが低くデータ連携での収益化が不明確
- 国民のデータ活用への抵抗感の強さ
前川氏は「やりたい案件の70%がプライバシーの壁で止まる」とし、法務・システム基盤・顧客体験設計の3領域を横断した対応が不可欠だと述べた。これらの課題が解消されれば、企業間のデータ連携はこれからの日本経済全体の活性化につながると強調した。
締めくくりとして前川氏は「1st Party Data もAIも手段であり、目的は顧客体験の向上である」とし、これからさまざまな企業とデータ連携を実現させることで、「日本なりのデータコラボレーションの形」が見えてくるのではないかと期待を寄せ、セッションは幕を閉じた。
ABOUT 角田 知香
ExchangeWireJAPAN 編集担当。イギリス・キングストン大学院にて音楽学の分野で修士号を取得。学校・自治体文化講座等にてアート講座講師として活動後、2024年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。



