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Attention指標が示す広告の新基準-計測の現在地と次の成長曲線を探る-ATS Tokyo 2025 セッションレポート

「Attention(アテンション)指標のリアル〜広告は本当に変わるのか?〜」と題した本セッションには、KDDI株式会社 ブランド・コミュニケーション本部 コミュニケーションデザイン部 の高村真介氏、株式会社サイバーエージェント インターネット広告事業本部 データ本部 事業責任者の會澤佑介氏が登壇した。

 

モデレーターはExchangeWire JAPAN編集長の野下智之。近年注目が高まるAttention指標は、広告が実際に「どれだけ見られているか」を捉える試みである一方、統一された定義・計測基準が存在しないことから、現場では評価や役割をめぐる議論が続いている。

 

本セッションでは、テレビ領域からデジタル広告まで幅広い経験を持つ高村氏と、長年広告効果計測に携わってきた會澤氏が、実際の検証事例と現場感にもとづく知見を提示し、Attention指標の現在地と今後の可能性を掘り下げた。

 

セッション登壇者

  • KDDI株式会社/ブランド・コミュニケーション本部 コミュニケーションデザイン部/高村 真介氏
  • 株式会社サイバーエージェント/インターネット広告事業本部 データ本部 事業責任者/會澤 佑介氏
  • ExchangeWire JAPAN/編集長/野下 智之(モデレーター)

 
 

Attention指標の輪郭-注視をどう「測る」のか

 

Attention指標が注目される背景には、インプレッションやビューアビリティといった既存指標では“広告が実際に見られたかどうか”は判断できないという課題がある。デジタル広告の配信面は多様化し、同じインプレッションでもユーザーの注意度合いに大きな差が生じうる。こうした環境変化の中で「広告がどれだけ視認され、どれだけ注意が向けられたか」を補足する概念としてAttentionが浮上してきた。

 

ただし、セッションで繰り返し語られたように、Attentionには統一的な定義や業界標準はなく、事業者やツールによって測定方法が異なる。視線推定を使うか、画面占有率をどこまで考慮するか、数秒以上でカウントするのかといった基準はまちまちであり、値の解釈も統一されていない。

 

會澤氏は、ブランドリフト指標とコンバージョン指標の“間”をつなぐ中間指標としてAttentionが注目されていると説明した。ブランド価値の向上と、最終成果指標の双方を説明する際、従来の指標だけでは説明がつきにくい場面が増えている。こうした課題意識から、Attentionへの期待が現場で高まっているという。

 

また、Attentionは「広告を見る経験の質」を捉えようとする指標であるため、広告主だけでなく媒体側、さらにはユーザー体験にまで影響を及ぼす概念として認識され始めている。こうした広がりが、Attentionをめぐる議論を複雑にしつつも、注目度を押し上げている。

 
 

テレビから始まった「Attention活用」-長期蓄積の知見とデジタルへの応用の壁

 

 

高村氏は、KDDIがテレビ領域でAttentionを早くから活用してきた経緯を紹介した。テレビ視聴率は、視聴者が画面を注視していなくても機械的にカウントされるため、実際の広告接触を正確に捉えきれないという課題があった。そこでKDDIは、ユーザーの視線方向や注視状況を把握できるツールを活用し、広告認知とAttentionの相関を長期的に検証してきた。

 

その結果、テレビ領域ではAttentionが確かな説明力を持つ指標として機能し、広告効果の評価やメディアプランニングの判断に活用されてきた。ただし、こうした成功例をそのままデジタルに拡張すると、様々な壁に直面すると高村氏は語る。デジタル広告は、広告面・デバイス・配信ロジックが多様化しており、テレビのような比較的一様な視聴環境とは異なる。

 

特に、広告予算の多くが投下される大手プラットフォーム(Walled Garden)においては、計測データの連携や活用に制約があることも多く、Attentionの値が媒体ごとに大きく変動するため、単一の指標で横断的に評価することが難しくなるのだ。

 

実際にKDDIでは、複数媒体で動画広告を配信し、Attentionの高低とブランドリフトの相関を3カ月にわたり検証した。初期段階ではAttentionが高い媒体ほどブランドリフトも高いという明瞭な相関が見られたものの、期間を重ねるにつれ関係性は一定ではなくなった。単一の媒体・枠で見ると説明力が強くても、媒体横断の指標としては安定性が課題になる──こうした“現場での温度感”が共有された。

 
 

現場での検証が示す「再現性」の課題-複雑化する広告環境との向き合い方

 

 

Attention指標の導入を検討する企業では、動画広告やCTV広告などでの活用が進んでいる。一方で會澤氏は、Attentionを広告評価モデルに統合する際に生じる課題にも言及した。広告効果計測の歴史を振り返りながら、ブランドリフト調査、接触時間の分析、アトリビューションモデル、複合指標の導入など、さまざまな試行錯誤が繰り返されてきたが、いずれも「媒体横断で安定して使える状態」には至っていない。

 

特に、AttentionをKPI設計やアトリビューション評価に組み込んだ場合、従来の最終クリックモデルに比べ反映度が小さくなることがあるという。媒体特性やフォーマットが多様な環境では、Attentionを基準にした評価が再現性を欠くことも多く、統合評価モデルとしての確立には時間を要する。

 

會澤氏は、個別メディア単位ではAttentionを用いた改善は可能だが、媒体横断・ユーザー横断の大規模最適化に適用するには、まだ越えるべき工程が多いと指摘した。その背景には、媒体ごとに視認環境が大きく異なること、同じユーザーが複数デバイスをまたいで行動することなど、現代の広告環境の複雑化がある。

 
 

Attentionが導く未来像-媒体価値・広告投資・生活者体験の再設計

 

Attention指標が広く普及した場合、広告投資や媒体価値の評価はどう変わるのか。高村氏は「見られていない枠に投資をしない」という当たり前の原則が、より強固になると語った。広告主がAttentionの高い枠への投資を拡大すれば、媒体側は自然と「見られない枠」を減らし、ユーザー体験に配慮した設計を求められるようになる。枠数を増やすのではなく、1枠の価値を高める方向に業界のインセンティブが変化する可能性がある。

 

これは結果的に媒体の収益性を高め、ユーザーにとっても煩雑な広告露出が減り、質の高い広告体験が実現するという好循環を生む。広告主・媒体・生活者の三者が利益を享受する「三方よし」の構造につながる点に、Attentionを追求する意義があると會澤氏も述べた。

 

さらに、高村氏はAttentionとブランド認知の相関を検証するために、SNS企業との共同調査を進めていることにも触れた。認知に確かな影響を与えると判断できる段階になれば、配信ロジックや予算配分にもAttentionが組み込まれる可能性が高まる。こうした取り組みの積み重ねが、業界全体の理解を深め、計測の標準化を後押しする。

 

海外では、業界団体がAttentionのガイドライン策定を進めるなど、市場の整理が始まっている。計測技術の普及やベンダーによる対応の広がりにより、日本市場でも検証環境が整い、Attentionの“使いどころ”が徐々に明確になっていくと考えられる。

 
 

「見られる広告」を基準にした新しい成長モデルへ

 

Attention指標は、広告が「表示されたかどうか」ではなく、「見られたかどうか」を基準に捉えようとする概念である。その意味で、広告の本質──生活者にどれだけ影響を与えられたのか-に正面から向き合う試みと言える。

 

高村氏と會澤氏の発言からは、Attentionを盲目的に信じるのではなく、検証によって確かめ、媒体の特性や文脈を踏まえて活用していくという慎重かつ前向きな姿勢が共通していた。まだ統一基準が存在しない現状においても、Attentionが業界の健全性や広告体験の質を再構築する鍵になり得るという期待が、セッション全体を通じて感じられた。

 

デジタル広告の持続的な成長を考えるうえで、“見られる広告”を基準とした新たな設計思想が重要性を増している。Attention指標の進化は、広告主・媒体・生活者の関係を豊かにし、より価値ある広告エコシステムを形づくる第一歩となるだろう。

 

ABOUT 野下 智之

野下 智之

ExchangeWire Japan 編集長  

慶応義塾大学経済学部卒。
外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。

国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。

2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。
2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。