ExchangeWire-ザ・談会 ストリーミング広告の今とこれから-
志(こころざし) 越えてつながる 春の波 ストリーミング広告(=インストリーム動画広告)の需要は、かつてないほどの高まりを見せている。 コネクテッドテレビの普及により存在感がますます高まる中、広告主にとって、ストリーミング広告はどのような位置づけになりつつあるのか。またプログラマティック取引により、今後ストリーミング広告でどのようなことが実現できるのか。 ストリーミング広告の今とこれからについて、お話を伺った。 福原 夕佳氏 株式会社ADKマーケティング・ソリューションズ メディアビジネス本部 パフォーマンスデザイン局 局長 土屋 尚氏 株式会社フジテレビジョン 技術局 デジタルメディア技術部 担当部長 広告配信サーバー管理 香川 晴代氏 Index Exchange Japan株式会社 日本担当 マネージングディレクター -皆さまのビジネスにおけるインストリーム広告との関わりについて、お聞かせください。 土屋氏:フジテレビの技術局(営業局にも兼務中)で、TVerとFODのインストリーム広告枠の管理をしています。広告サーバーの管理業務や広告在庫をどのような配分でどのような取引形式で売っていこうかという販売戦略の策定を行っています。 福原氏:メディアビジネス本部に所属し、広告主であるクライアントに対して、デジタルメディアの運用戦略から実行までをコンサルティングしています。ストリーミング広告においては日々Googleをはじめとするプラットフォーマー各社と連携しながら、YouTubeや運用型広告のTVerなどのプランニングをしております。 香川氏:グローバルのアドエクスチェンジ事業者として、ストリーミング広告の技術開発に関わっています。ストリーミング広告とは切り離すことが出来ないコネクテッドテレビ領域への注力をしています。2024年の米国のコネクテッドテレビ広告市場は前年比21.7%増、約287億ドルと、巨大な規模に達しています。 日本の市場に関しては、私たちは海外で蓄積した色々な知見、ベストプラクティスを提供していこうとしています。業界の啓蒙活動の一環として、「Index Explains」という動画シリーズを通じて、ストリーミングTVの動画広告について分かりやすい解説を共有しています。 -ストリーミング広告の市場シェアは圧倒的にYouTubeが持っており、そこにTVerやABEMAが追随する構造になっています。福原さんに伺いたいのですが、広告主は各媒体にどのような意識でストリーミング広告を出稿しているのでしょうか。 福原氏:YouTubeは国内で最も多くのユーザーを抱える動画プラットフォームであり、幅広い層へのリーチを目指す広告主にとって最重要の選択肢とされています。 一方で、TVerやABEMAはエージェンシーのプランニングツールを用いてリーチ効率を比較すると、YouTubeに劣る傾向があります。そのため、これらの媒体はリーチ効率よりもコンテンツの質を重視するプランニングにおいて選択されることが多いと考えられます。 これらの媒体とYouTubeの大きな違いは、ユーザーの視聴態度にあるのではないでしょうか。YouTubeには、従来のテレビ視聴のように、目的を持たずに動画を視聴する傾向が見られる一方、TVerやABEMAは特定のコンテンツを目的として視聴されるため、ユーザーのエンゲージメントが高いと考えられます。広告主は、このような視聴態度の違いを考慮し、広範なリーチを目的とする場合はYouTubeを、コンテンツとの関連性を重視した広告出稿を行いたい場合はTVerやABEMAを、といったように使い分けているのではないでしょうか。 -TVerやFODにストリーミング広告を出稿する広告主は、どのような意識をもってしているとお考えでしょうか? 土屋氏:おかげさまでTVerやFODの売上規模もどんどん成長してきています。新規のお客様も非常に増えています。広告主の皆さまに認知頂いており、プランニングにも含めていただいていることが増えていると実感しています。 ブランドセーフティの意識の高まりと共に、TVerであればテレビと同じコンテンツに出稿するということですので、出稿先への不安はないということについて、直接広告主の方からもお声をいただくこともあります。 -日本の広告主と海外の広告主と比較した時、何か意識の違いについてお気づきの点はありますか? 香川氏:海外ではプログラマティックの技術導入が進んでいます。テクノロジーを活用して、テレビのストリーミング広告を出稿していくということを、海外の広告主は積極的にやっています。特にテレビに広く出稿することが自由にできない中小広告主であっても、プログラマティックであれば、特定領域に集中して投資をすることが可能です。可能な予算範囲でターゲティングニーズにかなう範囲での手法として広がってきています。また、グローバルでは、広告主、放送局をはじめとする媒体社の双方がプログラマティックの導入を加速させています。 一方で、日本はまだこれからであるという認識をしています。 福原氏:TVerをプログラマティックで買い付けする場合には、第三者のデータを使うことが出来ますので、TVerでターゲティングをすることについては根付いてきているのかなと思います。 -TVer側でも、ターゲティングが出来る環境を進めているのでしょうか? 土屋氏:そうですね。ターゲティングは大きく二つあります。一つはオーディエンスターゲティングです。そして、もう一つはコンテンツターゲティングですが、この領域で新しい取り組みとして進めているものがあります。我々はコンテンツ情報を一次情報として保有しており、コンテンツ情報を開放していくというものです。例えば、コンテンツのジャンル、サブジャンルのようなものから、最終的には演者の情報などもです。あるいは、そのコンテンツにどのようなシーンがあるのかなどの情報を付与する事でコンテキストターゲティングも可能にななります。コンテンツの中身に関する情報をしっかりと整理していって、これを使って広告枠の買い付けを行って頂ける様な取り組みを進めています。 背景として、純広告で我々が「演者マッチング」と言っているメニューが非常に人気な事があります。これは、CMに出演している演者が主演、助演をしているドラマコンテンツへコンテンツターゲティングする事により広告のパフォーマンスを上げる事ができる物です。視聴者は該当の演者をチェックしてドラマを視聴しており、当然その広告も忌避感なくしっかりと見て頂けます。このようなものは、UGCでは難しい取り組みであり、差別化という意味で我々としても力を入れているところです。 普及するコネクテッドテレビが変える、ストリーミング広告の出稿環境 ―コネクテッドテレビは今日本でも普及が進んでいますが、広告の量はどのくらい増えているのでしょうか。 土屋氏:今TVerでは、本篇の再生数ベースですと約3割がコネクテッドテレビ経由で視聴されています。一方、広告配信サーバー側から在庫量ベースでみると、既に全体の4割を超えていますし、今後も増え続けるでしょう。これはスマホやPCなどよりもコネクテッドテレビ視聴のほうが、より長く視聴されますので、本篇1再生当たりの広告在庫ボリュームは多くなる事が起因しています。 -広告主側は、配信先をコネクテッドテレビに指定をして出稿をするようになっていますか? 福原氏:基本的にどの広告主もコネクテッドテレビを含めて配信しています。当社が実施した配信結果を調べてみても、YouTubeの場合には今はデバイスを指定しなくとも、4割を超える割合でコネクテッドテレビに配信されています。 コネクテッドテレビに限定するかどうかは、キャンペーンの設計によって異なると考えられます。 デバイスをコネクテッドテレビに限定することは、リーチやコンバージョンなどの機会損失につながるため、あえてデバイスを絞り込むメリットは少ないと言えるでしょう。 テレビCMと同じ役割でストリーミング広告を活用する場合は、画面占有率の高いコネクテッドテレビに限定してYouTubeやTVerへの出稿をする広告主も一定はいらっしゃいます。 -効果測定は今どのようにしているのでしょうか? 福原氏:デジタル中心のキャンペーンにおいては、従来のスマートフォンやPCといったデバイスと比較して、コネクテッドテレビがもたらす効果の大きさに改めて注目しています。特に、その高い画面占有率が、広告の視認性や記憶への定着に大きく貢献していることが、弊社の比較調査からも明らかになっています。 近年では、テレビCMと比較評価したいという広告主のニーズが顕著になってきており、 当社でもREVISIOを活用して注視率を計測することが増えています。 コネクテッドテレビの場合は、このコンテンツを見に行くという意識でユーザーが視聴するため、テレビCMよりも注視率は高いという弊社の調査結果も出ています。 土屋氏:コネクテッドテレビはスマートデバイスとは環境が異なり、クリックスルー等の直接的なコンバージョンを得ることが出来ないデバイスです。パフォーマンスのレポートについては、Adjust、AppsFlyerのようなパートナーとの連携など、対応を進めています。 -欧米ではどのような状況なのでしょうか? 香川氏:コネクテッドテレビにおける計測の標準化はまだ出来ていません。どこの会社の手法をメインとするかについては、様々な議論が続いています。大手の計測会社が提供するサービスもあれば、複数の大手メディア企業が一緒になって提供をしている計測サービスもあります。 先ほど福原さんがおっしゃったように、テレビCMからの広告主と、デジタル広告からの広告主とでは計測に対するニーズも異なっています。 それぞれに応じたサービスを提供するベンダーが存在するという状況です。 広告主がリーチしたい人に、より透明性を持ってリーチするのかということについては、私たちは媒体と直接つながっている立場として、出来るだけたくさんの情報をバイサイドに届けるよう努めています。ログレベルでのデータを提供しているため、いつどのような広告枠を購入しているかを正確に把握できます。 また、色々なデータを活用して、広告効果を測定をしていくような取り組みも行っています。 例えば、ターゲティングをして、当てたい人に当たっているのかどうかを測る目的で、媒体社から様々なシグナルを受け取る技術を採用していますし、これが精度の高い計測につながっています。例えば、番組のコンテンツジャンルやレーティング、ライブストリームの有無、言語、番組名、シーズン数、放送回タイトルなどの番組単位の情報がこれに含まれます。 ストリーミング広告の今後と、プログラマティックの可能性 ―ストリーミング広告は媒体の選択肢が限られていたことが、課題にもなっています。 福原氏:状況は変わりつつあります。AmazonPrimeVideoでのインストリーム広告の提供が、欧米で始まりました。日本においてもこの4月からプライム会員を対象に広告表示がスタートしました。 香川氏:その他にも、NTTドコモのLeminoや楽天のRチャンネル、グローバル企業のパラマウントとWOWOWとが提携をして、日本でParamount+の提供を開始しましたね。このように、選択肢は増えつつあります。地上波広告のプログラマティック取引が日本テレビでこの春からスタートするのは目覚ましい動きとして注目されています。 福原氏:FAST(Free Ad-supported Streaming Television)のビジネスモデルを社名に冠した「FASTチャンネル」社は、昨年サービスを開始しました。 土屋氏:FASTに関しては、日本でサービスを拡大していくうえで、日本固有の参入障壁が存在するのではないかと考えています。 欧米でFASTが盛り上がりを見せた背景には、無料で視聴可能な形で、過去に制作された人気コンテンツを再活用し、ユーザーがCTV上でザッピングしながら気軽に楽しめる環境が、それまで存在していなかったという点があります。 さらに、新型コロナウイルスの影響により家庭内での可処分時間が増加したこと、そしてインフレの影響によってユーザーが新たなサブスクリプションサービスへの加入を避ける傾向が強まったことも、FASTの成長を後押しした大きな要因であると考えております。 ですが日本にはもともと無料で気軽に楽しめる地上波テレビがあり、そのジャンルのカバー範囲は広く、コンテンツはまだまだ強いです。供給力をみても、新たに日本オリジナルでチャンネルサービスを開始し一定のレベルを維持するということは、容易ではありません。絶えず一定レベルの新作コンテンツを作り続ける体力があるコンテンツ事業者はなかなかいませんし、欧米の様に過去作を上手く使おうと思って複雑な著作権処理をしっかりと行った上で大量にコンテンツを揃える事は日本の環境では難しく思います。 更に収益性の観点で見ても、日本では、今のところUGCと言われているメディアと、プロコンテンツのメディアとがはっきりと差別化されていません。我々は定性的な説明だけでなく定量的にパフォーマンスに差がある事を証明し続けなければいけないと思います。 香川氏:UGCとプロコンテンツに、相応の対価を払い分けるということは海外では一般的なことです。プロフェッショナルコンテンツと、UGCと同じCPMで諮るということはしません。私がこの話を海外の同僚にすると、「質の異なるコンテンツに対して、それぞれ相応の対価を払うのは当たり前のことであり、なぜそのようなことが議論になるのかわからない。」と言われます。 福原氏:これは日本のデジタル広告市場における特有の課題、あるいは私たち広告会社が向き合うべき課題なのかもしれませんが、「1インプレッション単価の価値」に対する議論が深まらない現状があります。YouTubeであろうとTVerであろうと、一律の価値として捉えられ、プランニングが進められているケースが散見されます。背景には、日本の広告主の、ある意味で徹底したパフォーマンス重視の姿勢があると考えられます。「より安価に、より広範囲にリーチできること」が、依然として重要な指標として捉えられているのではないでしょうか。 この点は外資系の広告主は、例えばブランドセーフティの観点からUGCには出稿しないといった、厳密なルールを設定するケースもあり、コンテンツに対するこだわりを持っていらっしゃいます。 土屋氏:地上波テレビとYouTubeのクロスメディアプランニングは1つのパターンになっていますが、 地上波テレビとYouTubeとでは、コンテンツや視聴体験の同質性がない中で、福原さんが仰っている通り可能な限り安価にリーチを補完するというというものです。 今はTVerも広告在庫が増加してきておりますし、広告主の方にプレミアムなAVOD広告枠の価値を評価頂ける様に努めています。 ―放送局がTVCMをプログラマティックでバイイング出来るサービスを開始しましたが、今後TVCMでもプログラマティックバイイングが主流になるのでしょうか? 土屋氏:広告枠が有限、固定的である以上、主流になるとは言えませんが一部の広告枠をデジタル化していくという動きはあると思います。先ほどテレビでターゲティングをするという話がありましたが、欧米ではアドレッサブルと呼ばれる、地上波テレビ広告枠をターゲティング可能にする技術が出来てきています。 本篇の再生は地上波受信によるものですが、インターネット結線されているテレビに対して、広告はインターネット経由で配信されるという物です。 アドレッサブルというのは、まさにこの切り替えをスムーズにして、ターゲティングをすることが出来るという技術です。これについては、徐々にフィージビリティが高まってきておりプログラマティックバイイングを後押しする要因になり得ると思います。 ―現状は寡占化されている日本において、媒体社が広告在庫をオープン化して、プログラマティックで買い付けが出来るようにするインセンティブはどこにあるのでしょうか? 土屋氏:広告業界におけるオープン化というのは聞こえは良いのですが、一方でクリエイティブや視聴体験の悪化に繋がる様な印象が媒体としてはあります。我々はオープンであっても事前にクリエイティブの審査をする必要性があると感じています。この作業はAIの進化によって、かなりスピーディーになり事後審査によるベストエフォートな物と事前審査とのタイムラグを中長期的には改善してくれると期待しています。 これまで、オープンな環境で事後考査もしくは事前審査はしていると言っているが明らかにその精度について疑わしい仕組みが広がったことで、劣悪な体験が増えてしまったのでしょう。そういった環境へそのまま我々がでていくことはないでしょう。 一方で、広告枠のデジタル化というのは広告枠の特性が多様化し枠数も爆発的に増えるという事です。そう考えると中小規模でも、業態やクリエイティブの考査、出稿単価に問題がなければ、我々としては出稿頂きたいと当然考えます。広告主としてもプレミアムな媒体に簡単にアクセスできる事は良いことだとお思います。そうなると結果としてオープンでプログラマティックというのは我々の広告枠を埋めてくれて広告主にもその価値を与えてくれる物になると思います。そういった意味では、オープンだクローズドだという事にあまり囚われるのは良くないのではないかと思います。 香川氏:デジタルの世界では、ディスプレイ広告とストリーミング広告では、フォーマットが異なりますが、ディスプレイ広告において、最初は予約型広告のみで、その後プログラマティック化し、プログラマティックが中心になったように、ストリーミング広告もプログラマティックが主流になっていく点には議論の余地はないと思っています。 メリットは、媒体社からすると圧倒的な数の広告主からの出稿を受けられることや、取引の簡便化などが挙げられます。プログラマティック取引は、標準化された自動入札の取引ですので、マニュアル作業は大幅に軽減されます。将来は、より簡略化された最適な取引として発展していく可能性もあります。 ―プログラマティックに対する期待する点はありますか? 福原氏:香川さんがおっしゃったように、デジタルの良いところを取り入れて、まずは発展していけるのはとてもいいことかなと思います。 香川氏:意外な話かもしれませんが、テレビCMで当たり前にできていることが、逆にコネクテッドテレビではできていなかった、そんなこともあります。テレビCMでは、1つの番組で複数の広告主が入りますが、同業種の競合企業の広告が並ぶことはありません。例えばトヨタ、ホンダ、スズキのCMが連続して出ることはありませんよね。 コネクテッドテレビでは、当初これが出来なかったのですが、技術が確立してできるようになりました。 具体的には、OpenRTB2.6というプロトコルのお陰です。当社では、OpenRTB2.6をIABTechLabと一緒に作ってきました。このプロトコルに含まれる広告Podという技術により、テレビの視聴者や広告主が当たり前と感じている視聴体験をコネクテッドテレビでも実現することが出来るようになりました。 もう一つ海外で今注目を集めているのが、ライブストリーミングです。ライブストリーミングは、どのタイミングでどのくらいのユーザーが見に来るのかが予測できないものです。 視聴者の注目を集める試合のピーク時に、広告出稿の大チャンスが訪れます。 視聴者数が集中した時の大規模な自動広告取引に耐えうる技術的なインフラの開発に、世界の注目が集まっています。当社は業界標準を構築し、これを現実のものとするために貢献していきます。 土屋氏:ライブスポーツは、一部の伝統的で非常に人気なものを除くとインプレッション数の予測が難しく、純広告として枠を販売していくのが難しかったのです。 これをプログラマティックで販売できるようになると、マネタイズがしやすくなることが期待されます。 また、コネクテッドテレビ画面は大きいので、Lバンドや、サイド・バイ・サイドと呼ばれるような、画面にコンテンツと広告が一緒に流れるようなフォーマットの提供がしやすくなります。例えば、一般的にCMが入れにくいと言われているサッカーの試合でも、ゴールが決まったとき、挿入するなどの取り組みが出来るようになります。 そういった意味でも、コネクテッドテレビとプログラマティックで、ライブスポーツのマネタイズの可能性が広がります。 香川氏:国内でもストリーミング広告のプログラマティック取引は着実に伸びていきます。グローバル市場で事業を手掛ける当社としては、欧米市場のベストプラクティスと技術を提供し、国内市場の発展を支える役割を、引き続き担っていきたいと思います。
「パブリッシャー感謝祭2025」イベントレポート サイバーエージェント アドテクDiv.と取り組む広告メディアの成長戦略
株式会社サイバーエージェント(以下「サイバーエージェント」)のAI事業本部 アドテクDiv.は、2025年4月24日に「パブリッシャー感謝祭 2025」を開催した。 冒頭、挨拶を行った中村 鴻介氏(サイバーエージェント AI事業本部 アドテクDiv. メディアリクルーティング局 責任者)は、お取引のあるパブリッシャーの皆様へ「日頃の感謝を直接お伝えするため」「弊社との取引を通じた付加価値をより実感していただくため」に本イベントを企画・開催したと述べ、有意義な時間を過ごしてもらうべく3つのセッションを用意したと説明。 本記事では、約70社から150名を超える関係者が集い、大盛況のうちに幕を閉じた各セッションの模様をレポートする。 (Sponsored by サイバーエージェント) バンダイナムコネットワークサービスが オープンインターネットに広告配信する理由 第一部は「広告主が考える効果の良いパブリッシャーとは」をテーマに、株式会社バンダイナムコネットワークサービス 第1事業部 オンラインマーケティング部 オンラインマーケティング課 チーフ 宇津木 涼氏と、冒頭の挨拶に引き続き中村氏が登壇した。 宇津木氏は、インハウス組織として2022年からバンダイナムコエンターテインメントが提供する有名IPタイトルの広告出稿業務に従事し、スマホアプリのユーザー獲得施策 を筆頭に、オンラインプロモーションのサポートを行っている。 中村氏とは、4年ほど前から広告プランニングを一緒に行ってきたと説明し、現在まで継続的に「AMoAd(*)」に出稿し、各パブリッシャーへ広告配信しているという。 (*)AMoAd:サイバーエージェントが提供するアドネットワークサービス。閲覧者が深い理解や関心を示す広告を、各メディアの特性に合わせた最適な広告表現で展開することができる。 インストールを目的としたユーザー獲得のプロモーションを行う際、グローバル媒体だけではリーチできないパブリッシャーにも広告配信を行うためにアドネットワークを活用しているという宇津木氏。とりわけ、iOSの場合は、Androidよりも全体をリーチすることが難しいため、AMoAdを活用しながら、優良なウェブサイトやアプリのパブリッシャーに広告を掲載している。 中村氏もAndroidであれば、Google社が提供する広告で、大部分のリーチが可能だが、iOSの場合はリーチのボリュームが少なくなるというのはよく聞く話とし、宇津木氏のアドネットワークを活用する施策に理解を示した。 その上で、「広告主のマーケターは、リーチしきれないという理由があっても、グローバル媒体にしか出稿しないことが多々あります。なぜ宇津木さんは、アドネットワークやオープンインターネットのパブリッシャーにも広告配信を行っているのでしょうか?」と質問。 宇津木氏は、広告を出稿する状況や予算規模などによりグローバル媒体に出稿が集中するケースは多いとしつつ、 「ウェブサイトやアプリにも、良質なユーザーが多くいると考えています。実際に、グローバル媒体よりもインストール率が高いウェブサイトやアプリもあります」と理由を述べつつ、「サイバーエージェントの力はもちろんのこと、本日いらっしゃっているパブリッシャーの皆様のおかげです」と感謝の意を表した。 オープンインターネットに純広告を出稿する可能性 最後に中村氏は、本イベントならではの質問として「広告主がオープンインターネットのパブリッシャーに純広告を出す場合どの部分を見ますか?」と質問。 宇津木氏は、純広告出稿の状況についてボリュームとターゲティング、ブランドリフト調査が行えると優先度が上がると述べた上で、純広告を出す場合のポイントとして フリークエンシーの確認 同じIPで多数のアプリが出ていることもあるので、しっかりと自社アプリと認知してもらうために、接触回数が多くなる媒体を求めている。 視認性 広告主として、広告がどのような形で掲載されているかは注視している。大きく掲載されるのはもちろんのこと、ゲームがどのような内容なのかを、しっかりとユーザーに伝えられるフォーマットがある。 コンテンツメディアの透明性 バンダイナムコエンターテインメントが配信を行っているゲームの多くの場合はIPを版権元様からお借りしているケースが多いため、ブランドを棄損するようなコンテンツメディアではないか、一緒に出る広告も公序良俗に反しないかどうかは特に重要視して確認している。 と語り、現状、オープンインターネットのパブリッシャーに対して純広告を打つ施策はあまり行っていないが、上記の3つを満たした適切なフォーマットを提供しているのであれば、オープンインターネットでも広告出稿の検討テーブルに乗る可能性はあると説明。 これを聞いて中村氏は「弊社のメディアリクルーティング局でも、ターゲティングボリューム、視認性、コンテンツメディアの透明性を担保した広告配信方法については日々パブリッシャーの皆様と協議しています。有効なメニューが完成しましたら、ぜひ提案させてください!」と結んだ。 サイバーエージェントが考える 効果の出るアドフォーマットとは? 第二部は「効果の出るアドフォーマットの考え方」をテーマに、AI事業本部 アドテクDiv. クリエイティブパフォーマンス局 責任者 木俣 聡一朗氏が登壇した。 ProFit-X事業部でクリエイティブディレクターも務める木俣氏は、これまで約2,000メディア以上のアドフォーマットを制作してきた経験を持つ。 木俣氏はアドフォーマットの制作に注力する理由として、CTR(クリック率)を向上させ、収益率を高めるためと話す。 「国産SSPの多くが運用開始から10年以上経過し機能や性能で差別化を出すことが難しい状況の中で、収益性を高めるためには、CPC(クリック単価)とCTRの向上が必要不可欠です。CPCは、デマンドやターゲティングに依存しますが、CTRはアドフォーマットの影響が大きいと考えています。私の部署はメディア経験のあるクリエイターが日々CTRを向上させるために、アドフォーマットの制作に注力しています」 アドフォーマットで効果を出すには? CTRを上げるには、圧倒的な改善・検証スピードと実装量が重要になってくる。木俣氏は、これらの問題を解決するために、「匠(たくみ)機能」という独自のシステムを開発したと報告する。 匠機能は、 モニタリング 最新のデザイントレンドをクローリングし、どのようなデザインが効果的かを日々確認する。 効果予測 LLM(大規模言語モデル)を利用して、アドフォーマットのCTRを事前に予測する。これにより、効果の低いフォーマットを排除し、効率的な制作を可能にする。 効果検証 目標CTRを設定し、ABテストを実施する。1つの広告枠に複数のアドフォーマットを適用し、CTRを測定する。目標を達成した場合は、CTRの低いフォーマットの配信量を自動的に減らし、高いフォーマットのみを配信する。目標未達の場合は、CTRが目標に到達するまでアドフォーマットの改善を継続する。 疲弊改善 アドフォーマットにもクリエイティブと同様に疲弊が見られるため、媒体ごとの疲弊速度を検知し、改善を繰り返す。 という上記4つのサイクルを高速で回転させ、CTRを向上することを目的としている。このシステムを構築したことで「メディアごとに効果的なアドフォーマットを選択することができるようになったほか、今まではCTRが高い“勝ちアドフォーマット”を見つけるために1~2日ほど掛かっていましたが、現在は数時間で見つけることができます」と木俣氏は語る。 また、2024年5月から匠機能を実装した結果、「インタースティシャル広告の価値を向上させることができました」とも報告した。 “勝ちアドフォーマット”を短時間で選べるようになった結果、CTRが向上し、CPM(インプレッション単価)もそれに伴って上昇したことはパブリッシャー、広告主の双方にとって有益な結果と言えるだろう。 そして最後に、2つの最新のアドフォーマットが紹介された。 タテカル 300x250のレクタングル広告枠に縦長の動画フォーマットが並ぶ形式。クリーンな広告案件(主にアプリダウンロード)を配信し、ユーザーに新しい広告体験を提供することができる。 ワイプライン 通常のインライン広告(320x100)の見た目だが、ページ上部にスクロールするとオーバーレイ広告に変化する。エキスパンドボタンで広告の拡大も可能。低単価になりがちなインライン広告の収益性の向上を目的としており、実証実験では初速の単価が向上した。 本セッションは多くの貴重な情報が含まれていたが、参加者限定で公開された内容も多く、この記事では許可された部分のみを取り上げている。 パブリッシャーにとっては、AIを活用した最新技術に関する情報を知ることができる非常に有意義な講演となった。 サイバーエージェントと神戸新聞社が取り組む 広告収益最大化施策 第三部は「神戸新聞社が取り組む広告収益最大化施策」をテーマに、サイバーエージェント AI事業本部 アドテクDiv. ProFit-X 責任者 三宿 仁氏と神戸新聞社 デジタル推進局 WEBマーケティング部 部長 初瀬川 文範氏が登壇。サイバーエージェントと神戸新聞が取り組んだ最新施策・事例について、現場視点も交えながらトークセッションを行った。 デイリースポーツオンラインが抱えていた課題 神戸新聞社は神戸新聞、デイリースポーツといった新聞のほか、サンテレビ、ラジオ関西などのメディアを抱える企業グループである。 ウェブサイトは、神戸新聞NEXT、デイリースポーツオンラインなど4つのサイトを運営しており、今回のトークセッションでは、主にデイリースポーツオンラインで行われた最新施策・事例が紹介された。 まず背景として神戸新聞社の初瀬川氏は、 「デイリースポーツオンラインは、ProFit-Xの広告タグを導入し広告の収益化を図っていました。ただ、運用していく中で ・デジタルに関する知見不足 ・サイトの表示速度の遅さ ・アドフォーマットの疲弊(10年前と変わらないアドフォーマット) ・ソースコードが複雑化しサイトの管理が困難に という課題を感じていたところ、サイバーエージェントより、単なるSSPとしての関係を超えて、課題を解決するための具体的な取り組みを提案していただきました」と報告。 具体的には、初瀬川氏自身も遅いと感じていたサイトの表示速度に対して、サイバーエージェントよりエンジニアリソースが提供され、ソースコード解析の解析含め、サイト表示速度の高速化のための施策を実行できたという。 三宿氏は、表示速度高速化の効果をこう解説する。 「デイリースポーツオンラインの場合、表示速度がアップしたことにより直帰率が改善しました。また、インタースティシャル広告のCTRが向上したことにより、収益換算で3桁万円の純増が見込めるほどのインパクトを得ることができました。さらに、インタースティシャル広告以外の広告枠(アドエクスチェンジ)においても、CTRとビューアビリティが改善する傾向が確認できました」 サイバーエージェントが取り組む 生成AIの活用について トークセッションの最後には、生成AIの活用についても意見が交わされた。 サイバーエージェントは全社的に生成AIの活用を推進しており、そのノウハウを活かした企業支援も行っている。神戸新聞社も、生成AIをメディア運用業務に応用する考えを社内で検討しはじめている。 初瀬川氏は、生成AIの活用を考えた背景として 人員削減 該当部署が人員削減され、業務効率化の必要性が高まっていた。 業務の属人化 過去のデータや業務プロセスが可視化されておらず、担当者の経験や勘に頼る部分が大きかった。 を挙げ、生成AIによる業務改善に期待を寄せている。 三宿氏は、「AIエージェント」による業務効率化や新たな解析・レポートの作成を行える時代が訪れると説明。 「お越しいただいているパブリッシャーの皆様は、日々のメディア運営に時間を費やされていることと思います。『AIエージェント』はメディア運営業務との親和性が高いと考えており、サイバーエージェントとしても、このメリットをチャンスと捉えています」と述べた。 そして、「今後も広告収益の最大化はもちろん、テクノロジーを駆使して各メディアの課題を解決し、メディアの成長を支援してまいります」と締めくくった。
AIトランスフォーメーションの最前線 JAPAN AI独自開発の高精度RAG技術とは?【インタビュー】
日本のAIトランスフォーメーション(AX)を牽引するJAPAN AI株式会社(代表取締役社長:工藤 智昭、以下「JAPAN AI」)が、独自開発したRAG(Retrieval-Augmented Generation)技術(*1)で業界最高水準の82.7%の精度を達成したことを発表し、大きな注目を集めている。 本記事では、プレスリリースを発表した背景や反響、そして独自開発したRAG技術がJAPAN AIのマーケティングに与えるメリットと、将来展望について同社の執行役員 CMO マーケティング部 部長 飯田海道氏とプロダクトマネジメント部 リーダー 久保田善行氏にお話を伺った。 (*1)RAG技術:大規模言語モデル(LLM)の精度と信頼性を、外部ソースから取得した情報で強化する技術。大規模言語モデル(LLM)が持つ一般的な知識に、企業内の信頼できる最新データを組み込むことで、より正確で信頼性の高い回答を生成する。 RAG技術に関するプレスリリースを行った背景 JAPAN AIは、AIを活用した企業変革を支援するため、コンサルティングやプロダクト提供、AI人材支援まで幅広く展開している。 今回プレスリリースで発表したRAG技術に関しても、同社は創業以来力を入れてきた分野である。 プレスリリースを行った背景として久保田氏は「ユーザー様から『他社と比べて精度が良い』という評価をいただいていたが、定量的な比較はこれまでなかったため」と述べ、自社の技術力を客観的に確認するため、調査・検証を行ったと説明した。 今回の調査・検証では、複数の大規模言語モデル(LLM)を用いて模範解答との意味的な類似性・一致性を考慮した正答率指標により評価を実施。社内外の評価データセットを用い、他社クラウド製品と比較するベンチマークを行ったところ、業界最高水準の82.7%という高精度を達成したことから、プレスリリースを行ったという。 RAG技術というある意味でニッチな分野ではあるが、この発表は大きな反響を呼び、飯田氏も「企業のAI推進者がRAG精度に高い関心を持っていることを実感した」と述べた。 JAPAN AIが提供しているサービス JAPAN AI AGENT: 設定された目標に対し、AIが自律的に思考し、タスクを実行するAIシステム。日常的なタスクを自動化することができる。 サービスサイト:https://japan-ai.co.jp/agent/ JAPAN AI CHAT: 最新の言語モデルを活用した法人向けAI活用プラットフォーム。データ連携と独自開発による高精度RAGにより、社内データの検索や回答生成が可能。 サービスサイト:https://japan-ai.co.jp/chat/ JAPAN AI SPEECH: 議事録を自動生成するAIサービス。業界用語への対応や話者分離機能を備え、AIによる要約・編集も可能。 サービスサイト:https://japan-ai.co.jp/speech/ 今回のプレスリリースに該当する機能 Agentic RAG:独自開発した高精度RAG。単に情報を検索して表示するだけでなく、回答の正当性を検証し、より適切な表現を確認・生成する。具体的には、複数の情報源を参照しながら、回答内容の整合性チェックや、より良い表現方法の検討を行い、最適な回答を生成する。 「Agentic RAG」は、JAPAN AIが提供している各サービスに実装されており、ユーザーは、従来のライセンスのまま使用することができる。 高精度RAG技術のユーザーメリットとマーケティング戦略 飯田氏はマーケティング視点からも今回の発表に大きな手応えを感じている。 「RAG精度が高いことで、新規のお客様はもちろんのこと、すでにJAPAN AIを利用しているお客様の満足度が上がり、利用率やライセンス数、LTV(顧客生涯価値)向上に直結すると考えています。私も実際に『Agentic RAG』を使用してみましたが、アウトプットされる品質が上がり、生成AIの回答の精度が明らかに向上していると感じています」と語る。 続けて「AIの進歩によって、日常的で雑多なタスクを人間ではなく、AIが行うシーンが今後増えていくでしょう。そんな時、企業におけるタスクの自動化においては、法人独自のデータとシームレスに連携できることは絶対条件であり、かつそこから正しい情報を抽出できることが重用な要素です。その両方を解決できる『Agentic RAG』は、多くの企業から支持されるはずです」と期待を込める。 実際に、今回のプレスリリースで、JAPAN AIのことを知った事業者からの問い合わせも多かったという。 飯田氏は「本リリースを機に、企業のAI活用における『RAG精度が重要な要素』であることを啓蒙し、より多くの企業に選ばれる存在を目指していきます」と強調した。 Agentic RAGの強みと特徴 「Agentic RAG」は、単なるFAQシステムに留まらず、独自のエージェント機能によって、真価を発揮する。従来のRAGでは、ユーザーが言語化できないニーズをシステムが汲み取れず、最適な回答を導き出すことが難しいという課題があった。しかし、エージェント機能を備える「Agentic RAG」は、システムがユーザーの意図を理解し、必要な情報を自ら考え、文章を吟味し、回答を生成することが可能となった。 この技術に関し久保田氏は「Agentic RAG」がゼロからカスタマイズされている点が大きな特徴と語る。 「他社がオープンソースやプリセットを利用するのに対し、JAPAN AIは独自の技術を開発して精度を上げると共に、将来的なカスタマイズに対応できるようにしています」と解説。 さらに、RAG技術において重要なデータアップロード時のチャンク分割(*2)の最適化について「文脈が維持される形でチャンク分割ができるように調整し、検索精度を向上させています。特に、検索後には質問に対する回答の妥当性をランキングする『Rerank』という手法を取り入れ、より正確な情報を生成できるようにしました」と明かし、JAPAN AIの高い技術力をアピールした。 (*2)チャンク分割:テキストやデータを意味のある小さな単位(チャンク)に分割処理すること。大規模なテキストデータを扱う際、一度に全体を処理するのではなく、分割することで、効率的な処理や検索、分析が可能となる。 今後の展望 最後、久保田氏、飯田氏にJAPAN AIの今後の展望について聞いた。 久保田氏は技術的な今後の展望として「データベースに保存する前に、AIエージェントがデータ形式を分析し、RAGの精度を自動で最大化する技術を開発中です。2025年の夏までに実装できるように作業を進めています」と報告。 この技術は、AIエージェントが人の手を借りず、自らデータの形式を最適化し、RAGの精度を向上させるというもの。これは、AI自らが考えて改善し、実行するという革新的な技術ではないだろうか。 飯田氏は「多くの企業がデータの保存方法やデータの活用方法(紙ベースのもの、パワーポイントなどテキストではないデータをどのように生成AIに学習させるのかなど)、AI導入による業務プロセスの変化に悩んでいます」と現状を説明。その上で「今後は、さまざまな業務アプリケーションや、他社が提供するソリューションと自社サービスの連携を進め、さまざまなデータソースからの情報を統合し、業務プロセス全体を自動化するプラットフォームとして業務の自動化を加速させていきます」と抱負を語った。 そして最後に、「JAPAN AIは、国産AI企業として、日本企業特有の業務文化に寄り添い、温かみのある支援を提供していきます」と力強く締めくくった。 JAPAN AI最新情報 JAPAN AIのプレスリリースは下記から確認できる。 https://japan-ai.co.jp/news/ 【PR [...]
楽天とRoktが語る『NRF APAC 2024』 ~小売業界の最新トレンドと日本のリテールメディアの未来~
EコマーステクノロジーのリーディングカンパニーであるRoktが2024年11月21日にTokyo American Clubにて『The Future of Ecommerce Summit』を開催した。 本記事では、2024年6月にシンガポールで開催された小売業界の大規模展示会「NRF APAC 2024」に参加した楽天グループ株式会社の秦 俊輔氏とRoktの大野 皓平氏の視点から、「NRF APAC 2024」で得られた最新トレンドやインサイト、そして日本のリテールメディアの未来についてのセッションをレポートする。 (Sponsored by Rokt) 小売業界で注目のトピック「リテールメディア」の未来 「NRF APAC 2024」で、ホットトピックとして取り上げられたのは「リテールメディア」だった。 楽天の秦氏は、日米におけるリテールメディアの捉え方の違いを「オンライン店舗の取り扱い方」と指摘する。 アメリカでは、ウォルマートなどに代表される実店舗に起因するものだけでなく、Amazonなどのオンラインストア広告もリテールメディアとして扱われている。 一方、日本のリテールメディアは、コンビニエンスストアやスーパーマーケット、ドラッグストアなどのオフライン店舗、もしくはこれらの小売業が展開するアプリが主体となっている。 しかし、コロナ禍を経てEC利用が拡大した現在、日本でも楽天やAmazonなどのオンラインストア広告がリテールメディアとして認識されるようになる可能性が高い。 今後は、オフラインとオンラインを融合した、より多様なリテールメディア戦略が求められるだろう。 楽天グループ株式会社 マーケットプレイス事業 アカウントイノベーションオフィス ヴァイスジェネラルマネージャー 秦 俊輔氏 「NRF APAC 2024」から得られた学び 「NRF APAC 2024」では、様々なリテール事業者の事例や最新のソリューションが紹介された。 その中で秦氏は印象に残ったキーノートセッションとして「ドミノピザのDX事例」を取り上げた。 ドミノピザは、グローバルで2.8兆円の売上高を誇っており、米国においては売上高の80%をデジタルオーダーが占めるなど、DXを積極的に推進している。その背景にあるのは、デジタル化による顧客データの蓄積と活用だ。電話注文では得られなかった顧客データを活用することで、サービス改善や顧客体験向上を実現しているのである。これは、顧客価値向上と顧客起点のサービスを重視するリテールメディアの価値を体現していると言えるだろう。 またドミノピザは、顧客接点を増やし、ユーザーボイスを積極的に取り入れることで、イノベーション(新しい広告)戦略を展開している。例えば、2019年に行われた「自分で描いたピザの写真を送信すればクーポンがもらえる」キャンペーンは、顧客参加型の新しい広告戦略であり、この取り組みによって、顧客データの取得やサービス開発に役立つユーザーボイスを集めることに成功した。 ドミノピザのイノベーション戦略の根底にあるのは「イノベーションは広告になる」という考え方だ。これは、単なる広告出稿とは異なり、イノベーション自体が広告効果を生むという、非常に革新的なアプローチと言える。 この事例は「顧客体験向上とビジネス拡大を両立させるための重要な示唆を与えてくれる」と、秦氏は強調する。 顧客を巻き込んだイノベーション戦略は、取り組みそのものが自然な広告効果を生み出す。ドミノピザの成功例を参考に、企業は顧客起点でのイノベーション(新しい広告)を追求し、顧客体験とビジネス成長の両立を目指すべきだろう。 大野氏も印象に残ったキーノートとして、元コカ・コーラのVPであるサイモン・マイルズ氏のセッションを挙げて、リテールメディアを発展させるために大切な“4つのC”を紹介した。 Clarity(正確な計測):リテールメディアは広告投資であるため、投資効果を正確に測定できることが重要である Capability(知識/組織体制):リテールメディア はまだ新しい概念であるため、経営層を含めた組織全体でリテールメディアに関する知識を習得し、その価値を最大限に活かせる体制を作ることが重要である Collaboration(本業と広告部門の協力体制):秦氏も指摘するように、リテールメディアは単独部署ではなく、会社全体で取り組むという認識をしっかり持つ Consumer focus(顧客視点/顧客起点):顧客視点に立った取り組みが何よりも成功の鍵になる この“4つのC”の中でとりわけ重要なのが、②Capability(知識/組織体制)、③Collaboration(本業と広告部門の協力体制)と筆者は考えている。 この考え方は秦氏とも共通しており、同氏は次のように述べている。 「私が実際に行ったメーカーとの打ち合わせでも、日本では『リテールメディア=営業部門の仕事』という誤解が多いと感じます。リテールメディアの最大の価値は『顧客起点のマーケティング』です。顧客データに基づいた効果的なマーケティングを実現するためには、企業全体でリテールメディアに取り組むことがとても重要です」 リテールメディアを発展させるためには、企業の変革も必要不可欠だ。知識と組織体制の強化、部門間の協力体制の構築こそが、リテールメディアを成功に導く要素であり、これらを疎かにする企業は、リテールメディアの価値を最大限に活かすことはできないだろう。 今後は、経営層が率先してリテールメディアへの理解を深め、組織全体でその可能性を追求する企業こそが、競争優位性を確立し、市場をリードしていくことになるはずだ。 Rokt ビジネス開発 ディレクター 大野 皓平氏 楽天グループにおけるリテールメディアの取り組み 秦氏は『NRF APAC 2024』で得られた学びをビジネスに活かす道筋として、 楽天グループが保有する顧客データを活用し、見込み客だけでなく潜在顧客へのアプローチを強化すること マーケティング、オペレーション、顧客対応の効率化を目指し、AIの活用を積極的に推進すること の2つを挙げ、顧客データとAIを最大限に活用することで、ビジネスのさらなる拡大を目指していくと語った。 次に、リテールメディア事業についても、楽天市場におけるメーカーブランドページ掲載サービス「Brand Gateway/Showroom」の例を出しながら解説し、顧客データに基づく最適なページ表示やCRM強化など、顧客データ活用戦略に力を入れていくと強く訴えた。 最後に秦氏は、楽天が3つの事業で導入しているRoktのソリューションについて言及し、 「Roktとの取り組みにより、決済完了画面への広告掲載で、新たな収益源を確保しました。この収益を次のマーケティングに再投資することで、楽天グループの発展につなげていきます」 と締めくくった。
明日の[ネット]広告 変化した消費者とコミュニケーションする方法 [を忘れてしまった業界への一言]―ATS Tokyo 2024イベントレポート
デジタルメディアとマーケティング業界の有識者が一堂に会し、業界の最新動向についての議論を行うイベント「ATS Tokyo 2024」が2024年11月22日、都内にて開催された。 ATS Tokyo 2024のトリを飾るセッションには、2年連続で高広 伯彦氏(社会構想大学院大学 コミュニケーション・デザイン研究科 特任教授)が登壇。 「明日の[ネット]広告 変化した消費者とコミュニケーションする方法 [を忘れてしまった業界への一言]」と題したタイトルで、プレゼンテーションを行った。プレゼンテーション後のモデレーターはExchangeWire JAPAN 編集長 野下 智之が務めた。 この特徴的なタイトルは、高広氏が電通に勤務していた時の上司、佐藤尚之氏が執筆した「明日の広告 変化した消費者とコミュニケーションする方法」(2008年/アスキー)をアレンジしたもの。なお、タイトルの利用については、佐藤氏に許可を得たうえでのことだそうだ。 本セッションでは、長年業界を見続けてきた同氏が、消費者にとって悪しきものになりつつあるインターネット広告の現状を、どうすれば良い方向へ導けるのか、という議題が改めて提起された。 20年以上にわたり広告、マーケティング、デジタル領域の企画開発・事業開発に携わってきた高広氏は、いくつかのキーワードを軸に、インターネット広告の歴史を振り返りながら、インターネット広告業界が抱える課題を紐解いた。 クッキーレス問題、ユーザビリティを犠牲にした過剰な広告表示、不快なクリエイティブ、不公平なアプリ広告の計測環境など、デジタル業界の課題は山積みだ。高広氏は、パブリッシャー側の問題、広告主側の問題、技術的な問題、エコシステムの問題の中で、現在最も深刻な問題はエコシステムの問題だと指摘。この問題の解決には、パブリッシャーや広告主だけでなく、業界全体での協力が不可欠だと述べた。そして、こうした問題の根本原因として、広告の歴史の軽視、過去の失敗からの学びの欠如を挙げた。 高広氏は、20年間アドテク業界を見てきた中で、まるでデジャヴのように、業界が同じ失敗をしているところを4~5回は見てきたという。 「過去の同様の失敗を、業界は忘れてしまっている。あるいは、現在の業界関係者は、過去にそのような問題があったことすら知らないのではないか」 と述べ、一度立ち止まり、歴史を振り返って考えることの重要性を訴えた。 また、重要でありながら忘れられている概念として「パーミッションマーケティング」を挙げた。「インタラプションマーケティング」(日本では「土足マーケティング」と訳された)の対義語として登場したパーミッションマーケティングは、顧客の許諾(パーミッション)を得て情報を提供するという考え方だ。当時主流だったメールマーケティングを基に生まれたこの考え方は、顧客ニーズを把握し、適切な情報を提供するというもので、現在のインバウンドマーケティングやインテントセールスなど、あらゆるマーケティング・セールス領域の核となる重要な概念と言える。しかし、業界はこの基本的な考え方を忘れ、新しいマーケティング手法にばかり目を向けていると指摘した。 さらに、クッキーとユーザー体験を阻害する広告についても言及。 「クッキーは本来、ユーザーが毎回ログインする手間を省くために用いられていた。しかし、今は違う。ユーザーのための技術だったことを忘れている。『誰のためのテクノロジーなのか?』という視点が業界に欠けている」 と指摘した。続けて 「インターネットが定額制ではなく、ダイアルアップ接続だった時代、ユーザーは接続時間に応じて料金を支払っていた。つまり、ユーザーは広告を見るためにお金を払っていたと言える。この時代に生まれた『広告は情報として有益でなければならない』という価値観は、インターネット黎明期に、メディア体験を阻害する広告を排除する動きにつながった。邪魔な広告を排除するという考え方は、20年以上前から存在していたにもかかわらず、再び邪魔な広告が問題となっている。これは、業界が過去の教訓を忘れてしまったからだ」 と述べた。 今広告業界に必要なのは イノベーションではなくリノベーション 高広氏はGoogle時代に、Google Print AdsやGoogle TV Ads(後にGoogle TVと改称)の開発に携わっていた。 Google Print Adsには、広告主のリクエストをパブリッシャーが価格の安さを理由に拒否できる「リジェクトオーバーカウンター」という仕組みがあった。これは単なる拒否機能ではなく、拒否回数の上限を設定することで、広告主とパブリッシャーの間の価格交渉を促す双方向のネゴシエーションを実現するためのものだった。 また、GoogleのテレビCM販売プラットフォーム「Google TV Ads」の開発にも携わっていた。Googleの検索連動型広告のような革新的な広告とは異なり、Google TV Adsは従来の広告ビジネスの仕組みを改善する、いわば「リノベーション」を目指していた。Googleアナリティクスとの連携によるテレビCM放映時のトラフィック増加などのデータ分析機能に加え、CM制作会社と広告主の連携機能、広告テキストからの自動広告生成機能なども開発していた。 高広氏によると、これらの取り組みの背景には、ジョン・ワナメーカーの有名な言葉「広告費の半分は無駄になっているが、どの半分かはわからない」に対するGoogleの危機感があったという。 「この状況を打破するために、Googleはシンプルな広告プラットフォーム構想を立ち上げ、全国規模のビジネス展開を目指していたが、構想の中心メンバーが離脱したことで頓挫してしまった」 と明かした。 崩壊したビジネスモデルに必要なのはイノベーションではなくリノベーションだ。 そして、現在の広告業界に必要なのもイノベーションではなくリノベーションだと、高広氏は考察する。 「現在のアドテク業界には、革新的な技術開発(イノベーション)よりも、既存システムの改善・改良(リノベーション)が必要だ。近江商人の「三方良し」の精神のように、広告業界では、ユーザー、パブリッシャー、広告主という三者の利益のバランスがとれたエコシステムが構築されることが理想であり、アドテク事業者は、この三者の均衡を保つ役割を担うべき存在である。だが、現状は特定のプレイヤーに偏っているアドテク事業者が多い。これが現在の広告業界に様々な問題が生じている理由のように思える。 この問題を解決するために、1つの事例を紹介する。昔、検索窓にキーワードを入力すると、30日以内に検索結果を郵送するというGoogleのパロディサービスを行った人がいた。このサービスは一見時代遅れのようだが、Google の本質的な機能、つまり「情報を提供する」というミッションを捉えていると言える。 この事例から学べることは、技術の進化に囚われず、自らのミッションの本質を見極めることの重要性だ。たとえ古い技術を用いたとしても、本質を捉えていれば価値を提供できるはずだ」 もっと面白い広告を作るべし! セッションの最後には高広氏と野下のQ&Aが行われた。 まず野下から「邪魔な広告の既視感」について聞かれると高広氏は 「今、ユーザー体験を阻害する広告と言えば動画の合間に出てくる広告やポップアップ広告ではないでしょうか? 昔もJavaScriptをオンにしておくと画面いっぱいの広告が出ました。当時はあまりにもそのような広告が出すぎて、ワームやトロイの木馬のように、広告がマルウェアみたいに扱われてしまった時代がありました。今、またその歴史を繰り返しているのではないだろうか」 続いて「ユーザーにとって有益な広告とは?」という質問に対しては ユーザーにとって興味、関心があるタイミングで表示される広告、そしてユーザーが見たくなる広告を挙げた。 「広告が邪魔になる理由を端的に言えば“面白くないから”。YouTubeやTikTokで流れる広告をユーザーが邪魔に感じる理由は、観ているものより広告の方が面白くないに尽きるでしょう。ただ、昔もテレビでCMが流れている時間は“トイレタイム”と言われていて、ユーザーにとっては嫌われていた。だからこそ、CMクリエイターたちは観てもらえるように、面白いCMを作る努力をしていた。ところが今はどうか。みなターゲティングでリーチすることばかり考えていて、広告のクリエイティブを軽視している。面白い広告ならば、アテンションも必然的に上がる。それが広告の本質だと思う」 と述べた。 最後に「先ほど高広氏がおっしゃったアテンションと、今新しく出てきた指標であるアテンションは、相互作用するものなのでしょうか?」という質問には 「“アテンション”という言葉には、一般的な意味や心理学的な意味、そしてデジタル広告業界で使われる意味と、様々な解釈が存在する。デジタル広告業界で使われるアテンションにおいてはまず、定義を整理する必要があるだろう。広告業界でアテンションを扱う際、アテンションをどのように定義するかは、効果測定の観点から共通認識を持つべき重要な課題だ。 しかし、心理学や一般的な意味でのアテンションについても今一度考える必要がある。 一般的にアテンションとは“注目される”ことであり、注目されるためにはどうすれば良いかを考える必要がある。つまり、アテンションを上げるためには、注目を集めるための施策が不可欠だ。 心理学には“選択的注意セレクティブアテンション(選択的注意)”という言葉がある。これは、カクテルパーティーのように騒がしい環境でも、自分に関係のある会話は自然と耳に入ってくる現象で『カクテルパーティー効果』とも呼ばれる。 効果的な広告を作るためには、このセレクティブアテンションを誘発するようなクリエイティブや広告の出し方を考える必要がある。つまり、広告指標としてのアテンションと、人間の心理学的側面から見たアテンションは分けて考えるべきだ。そうすることで、より効果的な広告を展開することが可能になるだろう」 と締めくくった。
ExchangeWire-ザ・談会 ストリーミング広告の今とこれから-
志(こころざし) 越えてつながる 春の波 ストリーミング広告(=インストリーム動画広告)の需要は、かつてないほどの高まりを見せている。 コネクテッドテレビの普及により存在感がますます高まる中、広告主にとって、ストリーミング広告はどのような位置づけになりつつあるのか。またプログラマティック取引により、今後ストリーミング広告でどのようなことが実現できるのか。 ストリーミング広告の今とこれからについて、お話を伺った。 福原 夕佳氏 株式会社ADKマーケティング・ソリューションズ メディアビジネス本部 パフォーマンスデザイン局 局長 土屋 尚氏 株式会社フジテレビジョン 技術局 デジタルメディア技術部 担当部長 広告配信サーバー管理 香川 晴代氏 Index Exchange Japan株式会社 日本担当 マネージングディレクター -皆さまのビジネスにおけるインストリーム広告との関わりについて、お聞かせください。 土屋氏:フジテレビの技術局(営業局にも兼務中)で、TVerとFODのインストリーム広告枠の管理をしています。広告サーバーの管理業務や広告在庫をどのような配分でどのような取引形式で売っていこうかという販売戦略の策定を行っています。 福原氏:メディアビジネス本部に所属し、広告主であるクライアントに対して、デジタルメディアの運用戦略から実行までをコンサルティングしています。ストリーミング広告においては日々Googleをはじめとするプラットフォーマー各社と連携しながら、YouTubeや運用型広告のTVerなどのプランニングをしております。 香川氏:グローバルのアドエクスチェンジ事業者として、ストリーミング広告の技術開発に関わっています。ストリーミング広告とは切り離すことが出来ないコネクテッドテレビ領域への注力をしています。2024年の米国のコネクテッドテレビ広告市場は前年比21.7%増、約287億ドルと、巨大な規模に達しています。 日本の市場に関しては、私たちは海外で蓄積した色々な知見、ベストプラクティスを提供していこうとしています。業界の啓蒙活動の一環として、「Index Explains」という動画シリーズを通じて、ストリーミングTVの動画広告について分かりやすい解説を共有しています。 -ストリーミング広告の市場シェアは圧倒的にYouTubeが持っており、そこにTVerやABEMAが追随する構造になっています。福原さんに伺いたいのですが、広告主は各媒体にどのような意識でストリーミング広告を出稿しているのでしょうか。 福原氏:YouTubeは国内で最も多くのユーザーを抱える動画プラットフォームであり、幅広い層へのリーチを目指す広告主にとって最重要の選択肢とされています。 一方で、TVerやABEMAはエージェンシーのプランニングツールを用いてリーチ効率を比較すると、YouTubeに劣る傾向があります。そのため、これらの媒体はリーチ効率よりもコンテンツの質を重視するプランニングにおいて選択されることが多いと考えられます。 これらの媒体とYouTubeの大きな違いは、ユーザーの視聴態度にあるのではないでしょうか。YouTubeには、従来のテレビ視聴のように、目的を持たずに動画を視聴する傾向が見られる一方、TVerやABEMAは特定のコンテンツを目的として視聴されるため、ユーザーのエンゲージメントが高いと考えられます。広告主は、このような視聴態度の違いを考慮し、広範なリーチを目的とする場合はYouTubeを、コンテンツとの関連性を重視した広告出稿を行いたい場合はTVerやABEMAを、といったように使い分けているのではないでしょうか。 -TVerやFODにストリーミング広告を出稿する広告主は、どのような意識をもってしているとお考えでしょうか? 土屋氏:おかげさまでTVerやFODの売上規模もどんどん成長してきています。新規のお客様も非常に増えています。広告主の皆さまに認知頂いており、プランニングにも含めていただいていることが増えていると実感しています。 ブランドセーフティの意識の高まりと共に、TVerであればテレビと同じコンテンツに出稿するということですので、出稿先への不安はないということについて、直接広告主の方からもお声をいただくこともあります。 -日本の広告主と海外の広告主と比較した時、何か意識の違いについてお気づきの点はありますか? 香川氏:海外ではプログラマティックの技術導入が進んでいます。テクノロジーを活用して、テレビのストリーミング広告を出稿していくということを、海外の広告主は積極的にやっています。特にテレビに広く出稿することが自由にできない中小広告主であっても、プログラマティックであれば、特定領域に集中して投資をすることが可能です。可能な予算範囲でターゲティングニーズにかなう範囲での手法として広がってきています。また、グローバルでは、広告主、放送局をはじめとする媒体社の双方がプログラマティックの導入を加速させています。 一方で、日本はまだこれからであるという認識をしています。 福原氏:TVerをプログラマティックで買い付けする場合には、第三者のデータを使うことが出来ますので、TVerでターゲティングをすることについては根付いてきているのかなと思います。 -TVer側でも、ターゲティングが出来る環境を進めているのでしょうか? 土屋氏:そうですね。ターゲティングは大きく二つあります。一つはオーディエンスターゲティングです。そして、もう一つはコンテンツターゲティングですが、この領域で新しい取り組みとして進めているものがあります。我々はコンテンツ情報を一次情報として保有しており、コンテンツ情報を開放していくというものです。例えば、コンテンツのジャンル、サブジャンルのようなものから、最終的には演者の情報などもです。あるいは、そのコンテンツにどのようなシーンがあるのかなどの情報を付与する事でコンテキストターゲティングも可能にななります。コンテンツの中身に関する情報をしっかりと整理していって、これを使って広告枠の買い付けを行って頂ける様な取り組みを進めています。 背景として、純広告で我々が「演者マッチング」と言っているメニューが非常に人気な事があります。これは、CMに出演している演者が主演、助演をしているドラマコンテンツへコンテンツターゲティングする事により広告のパフォーマンスを上げる事ができる物です。視聴者は該当の演者をチェックしてドラマを視聴しており、当然その広告も忌避感なくしっかりと見て頂けます。このようなものは、UGCでは難しい取り組みであり、差別化という意味で我々としても力を入れているところです。 普及するコネクテッドテレビが変える、ストリーミング広告の出稿環境 ―コネクテッドテレビは今日本でも普及が進んでいますが、広告の量はどのくらい増えているのでしょうか。 土屋氏:今TVerでは、本篇の再生数ベースですと約3割がコネクテッドテレビ経由で視聴されています。一方、広告配信サーバー側から在庫量ベースでみると、既に全体の4割を超えていますし、今後も増え続けるでしょう。これはスマホやPCなどよりもコネクテッドテレビ視聴のほうが、より長く視聴されますので、本篇1再生当たりの広告在庫ボリュームは多くなる事が起因しています。 -広告主側は、配信先をコネクテッドテレビに指定をして出稿をするようになっていますか? 福原氏:基本的にどの広告主もコネクテッドテレビを含めて配信しています。当社が実施した配信結果を調べてみても、YouTubeの場合には今はデバイスを指定しなくとも、4割を超える割合でコネクテッドテレビに配信されています。 コネクテッドテレビに限定するかどうかは、キャンペーンの設計によって異なると考えられます。 デバイスをコネクテッドテレビに限定することは、リーチやコンバージョンなどの機会損失につながるため、あえてデバイスを絞り込むメリットは少ないと言えるでしょう。 テレビCMと同じ役割でストリーミング広告を活用する場合は、画面占有率の高いコネクテッドテレビに限定してYouTubeやTVerへの出稿をする広告主も一定はいらっしゃいます。 -効果測定は今どのようにしているのでしょうか? 福原氏:デジタル中心のキャンペーンにおいては、従来のスマートフォンやPCといったデバイスと比較して、コネクテッドテレビがもたらす効果の大きさに改めて注目しています。特に、その高い画面占有率が、広告の視認性や記憶への定着に大きく貢献していることが、弊社の比較調査からも明らかになっています。 近年では、テレビCMと比較評価したいという広告主のニーズが顕著になってきており、 当社でもREVISIOを活用して注視率を計測することが増えています。 コネクテッドテレビの場合は、このコンテンツを見に行くという意識でユーザーが視聴するため、テレビCMよりも注視率は高いという弊社の調査結果も出ています。 土屋氏:コネクテッドテレビはスマートデバイスとは環境が異なり、クリックスルー等の直接的なコンバージョンを得ることが出来ないデバイスです。パフォーマンスのレポートについては、Adjust、AppsFlyerのようなパートナーとの連携など、対応を進めています。 -欧米ではどのような状況なのでしょうか? 香川氏:コネクテッドテレビにおける計測の標準化はまだ出来ていません。どこの会社の手法をメインとするかについては、様々な議論が続いています。大手の計測会社が提供するサービスもあれば、複数の大手メディア企業が一緒になって提供をしている計測サービスもあります。 先ほど福原さんがおっしゃったように、テレビCMからの広告主と、デジタル広告からの広告主とでは計測に対するニーズも異なっています。 それぞれに応じたサービスを提供するベンダーが存在するという状況です。 広告主がリーチしたい人に、より透明性を持ってリーチするのかということについては、私たちは媒体と直接つながっている立場として、出来るだけたくさんの情報をバイサイドに届けるよう努めています。ログレベルでのデータを提供しているため、いつどのような広告枠を購入しているかを正確に把握できます。 また、色々なデータを活用して、広告効果を測定をしていくような取り組みも行っています。 例えば、ターゲティングをして、当てたい人に当たっているのかどうかを測る目的で、媒体社から様々なシグナルを受け取る技術を採用していますし、これが精度の高い計測につながっています。例えば、番組のコンテンツジャンルやレーティング、ライブストリームの有無、言語、番組名、シーズン数、放送回タイトルなどの番組単位の情報がこれに含まれます。 ストリーミング広告の今後と、プログラマティックの可能性 ―ストリーミング広告は媒体の選択肢が限られていたことが、課題にもなっています。 福原氏:状況は変わりつつあります。AmazonPrimeVideoでのインストリーム広告の提供が、欧米で始まりました。日本においてもこの4月からプライム会員を対象に広告表示がスタートしました。 香川氏:その他にも、NTTドコモのLeminoや楽天のRチャンネル、グローバル企業のパラマウントとWOWOWとが提携をして、日本でParamount+の提供を開始しましたね。このように、選択肢は増えつつあります。地上波広告のプログラマティック取引が日本テレビでこの春からスタートするのは目覚ましい動きとして注目されています。 福原氏:FAST(Free Ad-supported Streaming Television)のビジネスモデルを社名に冠した「FASTチャンネル」社は、昨年サービスを開始しました。 土屋氏:FASTに関しては、日本でサービスを拡大していくうえで、日本固有の参入障壁が存在するのではないかと考えています。 欧米でFASTが盛り上がりを見せた背景には、無料で視聴可能な形で、過去に制作された人気コンテンツを再活用し、ユーザーがCTV上でザッピングしながら気軽に楽しめる環境が、それまで存在していなかったという点があります。 さらに、新型コロナウイルスの影響により家庭内での可処分時間が増加したこと、そしてインフレの影響によってユーザーが新たなサブスクリプションサービスへの加入を避ける傾向が強まったことも、FASTの成長を後押しした大きな要因であると考えております。 ですが日本にはもともと無料で気軽に楽しめる地上波テレビがあり、そのジャンルのカバー範囲は広く、コンテンツはまだまだ強いです。供給力をみても、新たに日本オリジナルでチャンネルサービスを開始し一定のレベルを維持するということは、容易ではありません。絶えず一定レベルの新作コンテンツを作り続ける体力があるコンテンツ事業者はなかなかいませんし、欧米の様に過去作を上手く使おうと思って複雑な著作権処理をしっかりと行った上で大量にコンテンツを揃える事は日本の環境では難しく思います。 更に収益性の観点で見ても、日本では、今のところUGCと言われているメディアと、プロコンテンツのメディアとがはっきりと差別化されていません。我々は定性的な説明だけでなく定量的にパフォーマンスに差がある事を証明し続けなければいけないと思います。 香川氏:UGCとプロコンテンツに、相応の対価を払い分けるということは海外では一般的なことです。プロフェッショナルコンテンツと、UGCと同じCPMで諮るということはしません。私がこの話を海外の同僚にすると、「質の異なるコンテンツに対して、それぞれ相応の対価を払うのは当たり前のことであり、なぜそのようなことが議論になるのかわからない。」と言われます。 福原氏:これは日本のデジタル広告市場における特有の課題、あるいは私たち広告会社が向き合うべき課題なのかもしれませんが、「1インプレッション単価の価値」に対する議論が深まらない現状があります。YouTubeであろうとTVerであろうと、一律の価値として捉えられ、プランニングが進められているケースが散見されます。背景には、日本の広告主の、ある意味で徹底したパフォーマンス重視の姿勢があると考えられます。「より安価に、より広範囲にリーチできること」が、依然として重要な指標として捉えられているのではないでしょうか。 この点は外資系の広告主は、例えばブランドセーフティの観点からUGCには出稿しないといった、厳密なルールを設定するケースもあり、コンテンツに対するこだわりを持っていらっしゃいます。 土屋氏:地上波テレビとYouTubeのクロスメディアプランニングは1つのパターンになっていますが、 地上波テレビとYouTubeとでは、コンテンツや視聴体験の同質性がない中で、福原さんが仰っている通り可能な限り安価にリーチを補完するというというものです。 今はTVerも広告在庫が増加してきておりますし、広告主の方にプレミアムなAVOD広告枠の価値を評価頂ける様に努めています。 ―放送局がTVCMをプログラマティックでバイイング出来るサービスを開始しましたが、今後TVCMでもプログラマティックバイイングが主流になるのでしょうか? 土屋氏:広告枠が有限、固定的である以上、主流になるとは言えませんが一部の広告枠をデジタル化していくという動きはあると思います。先ほどテレビでターゲティングをするという話がありましたが、欧米ではアドレッサブルと呼ばれる、地上波テレビ広告枠をターゲティング可能にする技術が出来てきています。 本篇の再生は地上波受信によるものですが、インターネット結線されているテレビに対して、広告はインターネット経由で配信されるという物です。 アドレッサブルというのは、まさにこの切り替えをスムーズにして、ターゲティングをすることが出来るという技術です。これについては、徐々にフィージビリティが高まってきておりプログラマティックバイイングを後押しする要因になり得ると思います。 ―現状は寡占化されている日本において、媒体社が広告在庫をオープン化して、プログラマティックで買い付けが出来るようにするインセンティブはどこにあるのでしょうか? 土屋氏:広告業界におけるオープン化というのは聞こえは良いのですが、一方でクリエイティブや視聴体験の悪化に繋がる様な印象が媒体としてはあります。我々はオープンであっても事前にクリエイティブの審査をする必要性があると感じています。この作業はAIの進化によって、かなりスピーディーになり事後審査によるベストエフォートな物と事前審査とのタイムラグを中長期的には改善してくれると期待しています。 これまで、オープンな環境で事後考査もしくは事前審査はしていると言っているが明らかにその精度について疑わしい仕組みが広がったことで、劣悪な体験が増えてしまったのでしょう。そういった環境へそのまま我々がでていくことはないでしょう。 一方で、広告枠のデジタル化というのは広告枠の特性が多様化し枠数も爆発的に増えるという事です。そう考えると中小規模でも、業態やクリエイティブの考査、出稿単価に問題がなければ、我々としては出稿頂きたいと当然考えます。広告主としてもプレミアムな媒体に簡単にアクセスできる事は良いことだとお思います。そうなると結果としてオープンでプログラマティックというのは我々の広告枠を埋めてくれて広告主にもその価値を与えてくれる物になると思います。そういった意味では、オープンだクローズドだという事にあまり囚われるのは良くないのではないかと思います。 香川氏:デジタルの世界では、ディスプレイ広告とストリーミング広告では、フォーマットが異なりますが、ディスプレイ広告において、最初は予約型広告のみで、その後プログラマティック化し、プログラマティックが中心になったように、ストリーミング広告もプログラマティックが主流になっていく点には議論の余地はないと思っています。 メリットは、媒体社からすると圧倒的な数の広告主からの出稿を受けられることや、取引の簡便化などが挙げられます。プログラマティック取引は、標準化された自動入札の取引ですので、マニュアル作業は大幅に軽減されます。将来は、より簡略化された最適な取引として発展していく可能性もあります。 ―プログラマティックに対する期待する点はありますか? 福原氏:香川さんがおっしゃったように、デジタルの良いところを取り入れて、まずは発展していけるのはとてもいいことかなと思います。 香川氏:意外な話かもしれませんが、テレビCMで当たり前にできていることが、逆にコネクテッドテレビではできていなかった、そんなこともあります。テレビCMでは、1つの番組で複数の広告主が入りますが、同業種の競合企業の広告が並ぶことはありません。例えばトヨタ、ホンダ、スズキのCMが連続して出ることはありませんよね。 コネクテッドテレビでは、当初これが出来なかったのですが、技術が確立してできるようになりました。 具体的には、OpenRTB2.6というプロトコルのお陰です。当社では、OpenRTB2.6をIABTechLabと一緒に作ってきました。このプロトコルに含まれる広告Podという技術により、テレビの視聴者や広告主が当たり前と感じている視聴体験をコネクテッドテレビでも実現することが出来るようになりました。 もう一つ海外で今注目を集めているのが、ライブストリーミングです。ライブストリーミングは、どのタイミングでどのくらいのユーザーが見に来るのかが予測できないものです。 視聴者の注目を集める試合のピーク時に、広告出稿の大チャンスが訪れます。 視聴者数が集中した時の大規模な自動広告取引に耐えうる技術的なインフラの開発に、世界の注目が集まっています。当社は業界標準を構築し、これを現実のものとするために貢献していきます。 土屋氏:ライブスポーツは、一部の伝統的で非常に人気なものを除くとインプレッション数の予測が難しく、純広告として枠を販売していくのが難しかったのです。 これをプログラマティックで販売できるようになると、マネタイズがしやすくなることが期待されます。 また、コネクテッドテレビ画面は大きいので、Lバンドや、サイド・バイ・サイドと呼ばれるような、画面にコンテンツと広告が一緒に流れるようなフォーマットの提供がしやすくなります。例えば、一般的にCMが入れにくいと言われているサッカーの試合でも、ゴールが決まったとき、挿入するなどの取り組みが出来るようになります。 そういった意味でも、コネクテッドテレビとプログラマティックで、ライブスポーツのマネタイズの可能性が広がります。 香川氏:国内でもストリーミング広告のプログラマティック取引は着実に伸びていきます。グローバル市場で事業を手掛ける当社としては、欧米市場のベストプラクティスと技術を提供し、国内市場の発展を支える役割を、引き続き担っていきたいと思います。
「パブリッシャー感謝祭2025」イベントレポート サイバーエージェント アドテクDiv.と取り組む広告メディアの成長戦略
株式会社サイバーエージェント(以下「サイバーエージェント」)のAI事業本部 アドテクDiv.は、2025年4月24日に「パブリッシャー感謝祭 2025」を開催した。 冒頭、挨拶を行った中村 鴻介氏(サイバーエージェント AI事業本部 アドテクDiv. メディアリクルーティング局 責任者)は、お取引のあるパブリッシャーの皆様へ「日頃の感謝を直接お伝えするため」「弊社との取引を通じた付加価値をより実感していただくため」に本イベントを企画・開催したと述べ、有意義な時間を過ごしてもらうべく3つのセッションを用意したと説明。 本記事では、約70社から150名を超える関係者が集い、大盛況のうちに幕を閉じた各セッションの模様をレポートする。 (Sponsored by サイバーエージェント) バンダイナムコネットワークサービスが オープンインターネットに広告配信する理由 第一部は「広告主が考える効果の良いパブリッシャーとは」をテーマに、株式会社バンダイナムコネットワークサービス 第1事業部 オンラインマーケティング部 オンラインマーケティング課 チーフ 宇津木 涼氏と、冒頭の挨拶に引き続き中村氏が登壇した。 宇津木氏は、インハウス組織として2022年からバンダイナムコエンターテインメントが提供する有名IPタイトルの広告出稿業務に従事し、スマホアプリのユーザー獲得施策 を筆頭に、オンラインプロモーションのサポートを行っている。 中村氏とは、4年ほど前から広告プランニングを一緒に行ってきたと説明し、現在まで継続的に「AMoAd(*)」に出稿し、各パブリッシャーへ広告配信しているという。 (*)AMoAd:サイバーエージェントが提供するアドネットワークサービス。閲覧者が深い理解や関心を示す広告を、各メディアの特性に合わせた最適な広告表現で展開することができる。 インストールを目的としたユーザー獲得のプロモーションを行う際、グローバル媒体だけではリーチできないパブリッシャーにも広告配信を行うためにアドネットワークを活用しているという宇津木氏。とりわけ、iOSの場合は、Androidよりも全体をリーチすることが難しいため、AMoAdを活用しながら、優良なウェブサイトやアプリのパブリッシャーに広告を掲載している。 中村氏もAndroidであれば、Google社が提供する広告で、大部分のリーチが可能だが、iOSの場合はリーチのボリュームが少なくなるというのはよく聞く話とし、宇津木氏のアドネットワークを活用する施策に理解を示した。 その上で、「広告主のマーケターは、リーチしきれないという理由があっても、グローバル媒体にしか出稿しないことが多々あります。なぜ宇津木さんは、アドネットワークやオープンインターネットのパブリッシャーにも広告配信を行っているのでしょうか?」と質問。 宇津木氏は、広告を出稿する状況や予算規模などによりグローバル媒体に出稿が集中するケースは多いとしつつ、 「ウェブサイトやアプリにも、良質なユーザーが多くいると考えています。実際に、グローバル媒体よりもインストール率が高いウェブサイトやアプリもあります」と理由を述べつつ、「サイバーエージェントの力はもちろんのこと、本日いらっしゃっているパブリッシャーの皆様のおかげです」と感謝の意を表した。 オープンインターネットに純広告を出稿する可能性 最後に中村氏は、本イベントならではの質問として「広告主がオープンインターネットのパブリッシャーに純広告を出す場合どの部分を見ますか?」と質問。 宇津木氏は、純広告出稿の状況についてボリュームとターゲティング、ブランドリフト調査が行えると優先度が上がると述べた上で、純広告を出す場合のポイントとして フリークエンシーの確認 同じIPで多数のアプリが出ていることもあるので、しっかりと自社アプリと認知してもらうために、接触回数が多くなる媒体を求めている。 視認性 広告主として、広告がどのような形で掲載されているかは注視している。大きく掲載されるのはもちろんのこと、ゲームがどのような内容なのかを、しっかりとユーザーに伝えられるフォーマットがある。 コンテンツメディアの透明性 バンダイナムコエンターテインメントが配信を行っているゲームの多くの場合はIPを版権元様からお借りしているケースが多いため、ブランドを棄損するようなコンテンツメディアではないか、一緒に出る広告も公序良俗に反しないかどうかは特に重要視して確認している。 と語り、現状、オープンインターネットのパブリッシャーに対して純広告を打つ施策はあまり行っていないが、上記の3つを満たした適切なフォーマットを提供しているのであれば、オープンインターネットでも広告出稿の検討テーブルに乗る可能性はあると説明。 これを聞いて中村氏は「弊社のメディアリクルーティング局でも、ターゲティングボリューム、視認性、コンテンツメディアの透明性を担保した広告配信方法については日々パブリッシャーの皆様と協議しています。有効なメニューが完成しましたら、ぜひ提案させてください!」と結んだ。 サイバーエージェントが考える 効果の出るアドフォーマットとは? 第二部は「効果の出るアドフォーマットの考え方」をテーマに、AI事業本部 アドテクDiv. クリエイティブパフォーマンス局 責任者 木俣 聡一朗氏が登壇した。 ProFit-X事業部でクリエイティブディレクターも務める木俣氏は、これまで約2,000メディア以上のアドフォーマットを制作してきた経験を持つ。 木俣氏はアドフォーマットの制作に注力する理由として、CTR(クリック率)を向上させ、収益率を高めるためと話す。 「国産SSPの多くが運用開始から10年以上経過し機能や性能で差別化を出すことが難しい状況の中で、収益性を高めるためには、CPC(クリック単価)とCTRの向上が必要不可欠です。CPCは、デマンドやターゲティングに依存しますが、CTRはアドフォーマットの影響が大きいと考えています。私の部署はメディア経験のあるクリエイターが日々CTRを向上させるために、アドフォーマットの制作に注力しています」 アドフォーマットで効果を出すには? CTRを上げるには、圧倒的な改善・検証スピードと実装量が重要になってくる。木俣氏は、これらの問題を解決するために、「匠(たくみ)機能」という独自のシステムを開発したと報告する。 匠機能は、 モニタリング 最新のデザイントレンドをクローリングし、どのようなデザインが効果的かを日々確認する。 効果予測 LLM(大規模言語モデル)を利用して、アドフォーマットのCTRを事前に予測する。これにより、効果の低いフォーマットを排除し、効率的な制作を可能にする。 効果検証 目標CTRを設定し、ABテストを実施する。1つの広告枠に複数のアドフォーマットを適用し、CTRを測定する。目標を達成した場合は、CTRの低いフォーマットの配信量を自動的に減らし、高いフォーマットのみを配信する。目標未達の場合は、CTRが目標に到達するまでアドフォーマットの改善を継続する。 疲弊改善 アドフォーマットにもクリエイティブと同様に疲弊が見られるため、媒体ごとの疲弊速度を検知し、改善を繰り返す。 という上記4つのサイクルを高速で回転させ、CTRを向上することを目的としている。このシステムを構築したことで「メディアごとに効果的なアドフォーマットを選択することができるようになったほか、今まではCTRが高い“勝ちアドフォーマット”を見つけるために1~2日ほど掛かっていましたが、現在は数時間で見つけることができます」と木俣氏は語る。 また、2024年5月から匠機能を実装した結果、「インタースティシャル広告の価値を向上させることができました」とも報告した。 “勝ちアドフォーマット”を短時間で選べるようになった結果、CTRが向上し、CPM(インプレッション単価)もそれに伴って上昇したことはパブリッシャー、広告主の双方にとって有益な結果と言えるだろう。 そして最後に、2つの最新のアドフォーマットが紹介された。 タテカル 300x250のレクタングル広告枠に縦長の動画フォーマットが並ぶ形式。クリーンな広告案件(主にアプリダウンロード)を配信し、ユーザーに新しい広告体験を提供することができる。 ワイプライン 通常のインライン広告(320x100)の見た目だが、ページ上部にスクロールするとオーバーレイ広告に変化する。エキスパンドボタンで広告の拡大も可能。低単価になりがちなインライン広告の収益性の向上を目的としており、実証実験では初速の単価が向上した。 本セッションは多くの貴重な情報が含まれていたが、参加者限定で公開された内容も多く、この記事では許可された部分のみを取り上げている。 パブリッシャーにとっては、AIを活用した最新技術に関する情報を知ることができる非常に有意義な講演となった。 サイバーエージェントと神戸新聞社が取り組む 広告収益最大化施策 第三部は「神戸新聞社が取り組む広告収益最大化施策」をテーマに、サイバーエージェント AI事業本部 アドテクDiv. ProFit-X 責任者 三宿 仁氏と神戸新聞社 デジタル推進局 WEBマーケティング部 部長 初瀬川 文範氏が登壇。サイバーエージェントと神戸新聞が取り組んだ最新施策・事例について、現場視点も交えながらトークセッションを行った。 デイリースポーツオンラインが抱えていた課題 神戸新聞社は神戸新聞、デイリースポーツといった新聞のほか、サンテレビ、ラジオ関西などのメディアを抱える企業グループである。 ウェブサイトは、神戸新聞NEXT、デイリースポーツオンラインなど4つのサイトを運営しており、今回のトークセッションでは、主にデイリースポーツオンラインで行われた最新施策・事例が紹介された。 まず背景として神戸新聞社の初瀬川氏は、 「デイリースポーツオンラインは、ProFit-Xの広告タグを導入し広告の収益化を図っていました。ただ、運用していく中で ・デジタルに関する知見不足 ・サイトの表示速度の遅さ ・アドフォーマットの疲弊(10年前と変わらないアドフォーマット) ・ソースコードが複雑化しサイトの管理が困難に という課題を感じていたところ、サイバーエージェントより、単なるSSPとしての関係を超えて、課題を解決するための具体的な取り組みを提案していただきました」と報告。 具体的には、初瀬川氏自身も遅いと感じていたサイトの表示速度に対して、サイバーエージェントよりエンジニアリソースが提供され、ソースコード解析の解析含め、サイト表示速度の高速化のための施策を実行できたという。 三宿氏は、表示速度高速化の効果をこう解説する。 「デイリースポーツオンラインの場合、表示速度がアップしたことにより直帰率が改善しました。また、インタースティシャル広告のCTRが向上したことにより、収益換算で3桁万円の純増が見込めるほどのインパクトを得ることができました。さらに、インタースティシャル広告以外の広告枠(アドエクスチェンジ)においても、CTRとビューアビリティが改善する傾向が確認できました」 サイバーエージェントが取り組む 生成AIの活用について トークセッションの最後には、生成AIの活用についても意見が交わされた。 サイバーエージェントは全社的に生成AIの活用を推進しており、そのノウハウを活かした企業支援も行っている。神戸新聞社も、生成AIをメディア運用業務に応用する考えを社内で検討しはじめている。 初瀬川氏は、生成AIの活用を考えた背景として 人員削減 該当部署が人員削減され、業務効率化の必要性が高まっていた。 業務の属人化 過去のデータや業務プロセスが可視化されておらず、担当者の経験や勘に頼る部分が大きかった。 を挙げ、生成AIによる業務改善に期待を寄せている。 三宿氏は、「AIエージェント」による業務効率化や新たな解析・レポートの作成を行える時代が訪れると説明。 「お越しいただいているパブリッシャーの皆様は、日々のメディア運営に時間を費やされていることと思います。『AIエージェント』はメディア運営業務との親和性が高いと考えており、サイバーエージェントとしても、このメリットをチャンスと捉えています」と述べた。 そして、「今後も広告収益の最大化はもちろん、テクノロジーを駆使して各メディアの課題を解決し、メディアの成長を支援してまいります」と締めくくった。
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