生成AIが変える企業のクリエイティブ制作と、サイバーエージェント「AIクリエイティブBPO」が目指すもの [インタビュー]
サイバーエージェントはデジタルインファクトと共同で「大手広告主企業のクリエイティブ制作における生成AIの利活用に関する実態調査」を実施した。 調査結果によると、企業の制作物は近年増加傾向にあり、生成AIの活用も広がりつつある中で、その効果的な活用方法を模索している企業は少なくないようだ。 同社は昨年12月にAIクリエイティブBPO事業部を新設し、生成AIを活用して企業におけるクリエイティブ制作体制の変革を目的とする支援事業を推進している。 今回の調査結果を受けて、企業のクリエイティブ制作における現状と課題を踏まえた事業開始の背景や狙い、今後の展望について、事業部責任者である、同社 インターネット広告事業本部 AIクリエイティブBPO事業部 事業部長 簑田 咲氏にお話を伺った。 (聞き手:ExchangeWire JAPAN 野下 智之) クライアント企業向けにAI活用の制作体制を構築する、AIクリエイティブBPO Q:自己紹介と、これまでの経歴についてお聞かせください。 2013年に新卒でサイバーエージェントに入社し、インターネット広告事業にてリスティング広告運用の領域で約12年間活動してきました。長年、大量のデータや大量の検索クエリを取り扱われているECやVODなどのサービスを提供するクライアント案件を担当し、組織マネジメントも8 年間経験しました。 昨年12月に、AIクリエイティブBPO事業部を立ち上げ、その事業責任者として生成AIを活用した企業向け制作支援に取り組んでいます。特徴的なのは、単なる制作代行ではなく、クライアント企業の中に“小型のサイバーエージェント”=「ミニサイバー」のようなものを構築し、内製化と競争力強化を同時に実現する点です。 Q.AIクリエイティブBPO事業のミッションと、立ち上げの背景について教えてください。 本事業は、企業で今かかっている紙の印刷物などの莫大な製作費を生成AI活用によってコストカットを実現し、かつ納期を短くする、そして大量に作るということを広告以外の制作物も含めて提供していく事業として立ち上げました。今回の調査結果にも表れておりますが、企業の制作物は動画やバナーをはじめ幅広い分野で増加傾向にあり、今後も拡大が見込まれています。SNSやデジタルメディアの多様化により、短いサイクルで多くのパターンを制作する必要が出てきています。 こうした状況に企業は外注依存で対応することには限界があります。そこで重要になるのが生成AIの活用です。当社は2016年からAIへの投資と研究を重ねてきており、AIを活用したクリエイティブ作成においては、「 極AI予測」を提供してきたため、知見があります。この知見を活かして、クライアント企業向けにクリエイティブAIエージェントを作り提供をする、あるいは生成AIを活用した新しいクリエイティブ制作のワークフローを構築して 提供をする。これにより、クライアントコストを下げることを目指します。 ただ、今のところは全てを生成AIで完結させることはできません。そこで、この業務フローに則ったクリエイティブ制作の担当者として、当社のAI人材で専業体制を構築し 、低コストで新しいワークフロー業務を実現します。このサービスは 、いわば企業との共同事業として取り組むものとなります。当社がこれまで社内で取り組んできたクリエイティブ制作工程におけるコストカットを、いわば「ミニサイバー」としてクライアント企業の中に移植するといったイメージです。 Q.すでに取引・導入事例はありますか? ベネッセコーポレーション様と協業 し、同社社内に「AIクリエイティブセンター」を立ち上げました。ベネッセ様と当社のメンバーが混成チームを組み、紙媒体からデジタル、動画まで幅広い制作を一体的に行っています。 Q.事業を通して実際に見えてきた、企業のクリエイティブ制作の現状と課題はどのような点でしょうか? 調査結果によると、生成AIはすでに多くの企業で活用が始まっていますが、その多くはアイデア出しやテキスト生成といった初期段階の活用にとどまっています。本格的に運用するためには、ガイドラインや品質管理体制の整備、適切な生成AIモデルの選定、そしてAI活用を受け入れる社内文化の醸成が不可欠です。特に大企業では、部門間の合意形成が課題となるケースが多いです。 コストカットだけではない、競争力を高めるために支援 Q. 今後、生成AIは企業のクリエイティブ制作をどう変えるとお考えですか?またその中でサイバーエージェントはどのようにクライアント支援をしていくのでしょうか? 生成AIは、企業のクリエイティブの作り方と、クリエイティブ制作量を変えていくでしょう。前者についてですが、やはりクリエイティブ制作の内製化がある程度増えていくのではないでしょうか。調査結果によると、今後3年以内に制作の中心をAIが担う場面が増えると予測されています。外注依存から生成AIを組み入れて内製化されていく方向にむかっていくでしょう。 後者については、企業が競争力を高めるチャンスになると思っています。顧客データを活用したパーソナライズドな大量制作も可能になり、配信の精度とスピードが飛躍的に向上します。 生成AIは単なるコスト削減の手段ではなく、企業の競争力を高める制作体制をつくる武器です。高品質なコンテンツを継続的に発信できる体制を構築できれば、市場での優位性は確実に高まります。私たちはその仕組みを企業内部に移植し、実行可能な形で支援していきます。もう一つ、生成AIを活用して制作したクリエイティブは、世に出す前に審査が必要です。この審査も併せて、AIを活用した体制構築の支援を行っていくことも視野に入れています。 Q. クリエイティブBPO 導入後、事業としてはどのように発展させていく構想ですか? 将来的には、用途ごとに特化した「クリエイティブAIエージェント事業」へ進化させたいと考えています。メルマガ制作、Web更新、紙面デザインなど、企業の要件やブランドに合わせて学習したエージェントを提供し、継続的に価値を生み出すモデルにしていきます。企業にとって単なるコストカットではなく、競争力を高めるための支援をしていきたいと考えております。
電通デジタルがGEO分析から見えてきた傾向を説明。Google 「AI モード」に対応する国内サポートチームを設置。
株式会社電通デジタルは、9月9日都内にて生成AI活用によるマーケティングの最新動向についてのメディア向け説明会を行った。同社CAIO(Chief AI Officer:最高AI責任者)兼執行役員の山本覚氏は、生成AIに特化した新たなマーケティング手法GEO(Generative Engine Optimization)の重要性・手法を紹介し、生成AIの中で行われるマーケティングについて説明を行った。さらに、同日日本上陸が発表されたGoogleの新機能「AI モード」に対応するため、電通デジタル内にサポートチームを発足したことを発表した。 Adobe Analyticsのレポートによると、2024年8月から2025年2月にかけて、生成AI経由でのトラフィックは1,200〜1,700%増加している。デジタルマーケティングにおいては、これまでのSEOに加え、生成AIに対応したGEO※への対応が求められる。 ※GEOとは「Generative Engine Optimization:生成エンジン最適化」の略で、生成AIがユーザーに対して行う回答に、企業のブランドや商品を言及させるための手法を指す。従来のSEOが検索結果での上位表示を目指すのに対し、GEOはAIの対話や要約の中に自社情報を組み込むことを狙う。 生成AIに特化したGEOサービス 電通デジタルのGEOサービスは、大きく4ステップで構成される。 ①AIツール選定とプロンプト設計:ChatGPT、Gemini、Perplexityなど対象ツールを選定し、検証すべきプロンプトやキーワードを設計。 ②データ収集・分析:設計したプロンプトをAIに入力し、引用数・言及数を収集。記事ページやFAQなど、引用傾向を可視化。 ③最適化提案:サイト構造やコンテンツタイプ別の傾向を分析し、最適化施策を提示。 ④モニタリングと改善:施策実施後の引用変化をKPIとして追跡し、PDCAサイクルで精度を高める。 また、開発拠点である電通データアーティストモンゴルと連携し、引用数やセンチメント分析を可視化する専用ダッシュボードを開発中。自社と競合の引用傾向を横断的に把握できる点が特徴的である。 生成AIの傾向分析 電通デジタルの調査分析では、生成AI対策はこれまで「FAQページを作ることが重要」と思われていたが、実際には引用URLの大多数が「記事詳細ページ」であることが判明したとのこと。さらにSEO上位のURLから引用されている傾向はあるものの、生成AIはSEO上位51位圏外からも多く引用しており、生成AIは文脈でのヒットを重視しているとみられる。さまざまな業界別に「どういった引用が行われているか」という分析では、引用元は自社サイトのみならず他社ドメインやストリーミングサービス・個人ブログなども含まれ、幅広い引用元が出現しており、企業にはジャンルや領域ごとに違った対策が必要とされる。 GEO支援対策の事例として、ゴルフダイジェスト・オンラインの「ライトゴルファー(ゴルフ初心者)獲得」に向けた施策が紹介された。生成AIに対する「2025年おすすめドライバーは?」や「初心者向けゴルフ場を教えて」といった100件のプロンプトを分析したところ、記事詳細ページが最も引用されやすいことが判明。生成AIはページ内上部・HTML上の重要要素を引用する傾向が強いとの結果を導き出した。そこでサイト内で「結論ファーストかつパラグラフ単位で簡潔に記載する」ことが重要な可能性をゴルフダイジェスト・オンラインに提案し、コンテンツを追加。結果、引用数は1カ月で144%増加したとのことである。 Google「AIモード」に対応するサポート Googleが9月9日に国内提供を開始した「AIモード」への対応に向け、国内サポートチームを発足したことを発表した。「AIモード」は、従来の検索行動を大きく変え、単発のキーワード検索から「相談型」の検索スタイルが一般ユーザーに浸透していくと考えられる。検索結果には、ユーザーの文脈に沿った情報が表示され、購買・申込といった行動へ直結するケースが増加すると見込まれる。今後広告が表示される際にも、会話や文脈に対応したマーケティング・設計が必要となる。 電通デジタルでは、今後「AIモード」に適したマーケティング施策の設計やブランド露出の最適化を目標とし、SEOやSEM時代に培ったノウハウや、生成AIの知見を活かしたマーケティング支援を行う。
日本初開催「Amazon Japan Upfront 2025」イベントレポート-Prime Video広告における3つの新フォーマットを発表
Amazon Adsは2025年9月4日、パレスホテル東京(東京都千代田区)にてフラッグシップイベント「Amazon Japan Upfront 2025」を開催した。Amazon Adsの動画広告におけるビジネス戦略・最新インサイトの公表に加え、Prime Video広告における新たな3種類の広告フォーマットが発表された。Prime Video視聴者が最初に見る広告枠を独占配信できるフォーマットといった新たな手法により、広告主はより効果的な広告キャンペーンの展開が可能となる。本記事ではイベント概要に加え、イベント前に行われたメディア向け説明会(メディアラウンドテーブル)の模様もお届けする。 認知から店舗来訪までつなげるフルファネル戦略 メディアラウンドテーブルでは、始めにアマゾンジャパン合同会社 Amazon Ads ジャパン カントリーマネージャー 石井 哲氏がAmazon Adsにおけるフルファネル戦略と動画広告の役割を紹介した。 日本においてPrime Video視聴者の平均93%が毎月Amazon.co.jpでショッピングをしているというデータ(※)が示すように、Amazon利用者にとって動画配信サービスと購買行動は強く結びついている。Amazon.co.jpのサイト立ち上げから25年が経ち、認知拡大を目的とする「広告宣伝領域」から購買を後押しする「販促領域」まで、いまAmazon Adsはフルファネル型の広告配信を実現している。 ※Amazon内部データ、2023年8月-2024年8月 広告配信を支えるのがデータクリーンルーム「Amazon Marketing Cloud」である。Prime Videoのみならず、ショッピングやAlexa、Amazon Music、Fire TVなどあらゆるタッチポイントを通じた数兆のシグナルと、広告主側のファーストパーティシグナルを繋ぐことで配信先として最適なオーディエンスを明確にする。Amazonで出品をしていない自動車や保険商品といった企業であっても、広告主とシグナルの連携ができれば、直販サイトへの誘導やオフラインでの購入に繋がったかまで効果計測ができる。さらに「Amazon Marketing Cloud」を用いて行われた重複分析も興味深い。日本のAmazonのストアに出品しているメーカーの事例として、Prime Video広告・Amazon DSP・スポンサー広告を組み合わせてキャンペーンを行った場合、「どの組み合わせで、どんな順番で広告に接触し、購入に至ったか」を測定した。最も効果的な経路は①Prime Video広告②スポンサー広告③Amazon DSPの順であり、スポンサー広告のみと比べると、購買率が993%※も向上したとのこと。複数のフォーマットを組み合わせて広告配信することが、購買率にダイレクトに結びつくという結果となった。 ※Amazon内部データ、2025年4月-2025年5月。個社事例の分析結果であり、全ての事例において同様の結果を保証するものではない。キャンペーン構造・セグメントなどにより結果は変動し、リリース初期につき今後結果に変動がある可能性がある。 新たな3つの広告フォーマット 続いて日本におけるAmazon Adsの動画広告戦略の統括を担当する高村 幸恵氏より、Prime Video広告の新たな3つのフォーマットが紹介された。Prime Video広告のグローバル月間平均広告リーチ数は2億人以上となり、Prime Video内での動画広告は広告主からますます注目を集めている。 今回新たに発表された広告フォーマットは以下の3つ。 ①FITO(ファーストインプレッションテイクオーバー)※2025年内にβ版提供開始予定 視聴者がPrime Videoを見る際に、最初に表示される広告枠を独占的に配信できるフォーマット。視聴開始の瞬間という最も印象に残りやすいタイミングで露出ができるため、確実にリーチしたい日付を指定してキャンペーンの認知を狙う際に効果的。 ②インタラクティブ動画広告※2026年上半期提供開始予定 Prime Video内での広告に、商品をAmazonのストアのカートに追加できるバッジが表示される。このバッジはリモコンで操作可能であり、ブランドの詳細ページに遷移することもできる。 ③インタラクティブポーズ広告※2026年上半期提供開始予定 視聴者が動画コンテンツを一時停止した際に広告を表示するフォーマット。広告には「Amazonカートに入れる」というバッジも同時に表示され、視聴者はクリックひとつで商品をAmazonのストアのカートに追加することができる。 コンテンツ力とテクノロジーを掛け合わせたフルファネル広告 イベント「Amazon Japan Upfront 2025」には、Prime Video の広告を統括している Jeremy [...]
Silverpush、AI駆動で加速する日本展開とCTV・ソーシャル動画への対応、そして進化するコンテキスト広告の未来とは
独自のAI技術を活用したコンテキスト広告のグローバルリーダーであるSilverpush(シルバープッシュ)は、日本市場での初年度を成功裏に終え、CTV、YouTube、ショート動画といった主要プラットフォームを横断的に対応する包括的なソリューションを武器に、事業を急拡大している。 本インタビューでは、Silverpush CEOのヒテッシュ・チャウラ氏と、日本カントリーマネージャーの中野 済氏に、同社の独自AIがいかにブランド適合性・キャンペーン自動化・メディア効率といった課題を解決し、日本市場における動画広告の未来を切り拓いているのかについて語っていただいた。 (Sponsored by Silverpush) -日本市場に参入してから1年が経ちました。これまでの手応えはいかがですか。 チャウラ氏:日本市場での初年度は非常に多くのインサイトや気付きを得ることができ、今後の可能性を強く感じられる一年となりました。日本の広告主は、革新性と信頼性のバランス、そして自社のブランド理念との整合性を重視していると私たちは理解しています。 当社のAIによる動画単位でのコンテキストインテリジェンスは、単なるテクノロジーではなく、文脈を理解したブランド適合型ターゲティングとして、日本の高い広告基準にも応えられる点で、多くの共感を得ることができました。 ローカルのニーズに応じてソリューションを最適化し、着実に価値を提供し続けることを通じて、広告主や広告代理店との間に確かな信頼関係を築くことができていると感じています。 中野氏:主要広告代理店とのお取引を通じて複数のキャンペーンを展開し、おかげさまで幸先の良いスタートを切ることができました。 参入にあたっては、言語・文化・商習慣など独自性の高い日本市場への適応を重視し、インド本社に日本時間対応の専任ユニットを設置して連携を強化。広告主・代理店の皆様との対話を通じて、国内におけるコンテキスト精度の確認や、迅速で高品質なレポート・サポート体制を整備しました。 また、配信単価だけでなく、コンテンツの質やブランドセーフティ、ブランド適合性、パフォーマンス指標を事前に共有し、KPIを明確化。これにより、高評価と高いリピート出稿につながっています。 -2026年に向けて、需要側のトレンドにどのような変化がありますか。 チャウラ氏:グローバルに見ても、AIを活用したメディア戦略が広告の未来を形づくりつつあります。広告主は今、チャネル横断での自動化、インテリジェントなインサイト、リアルタイムな適応をますます求めるようになっています。なかでもCTVは世界的に最も急成長している分野の一つであり、かつてリニアTVで享受していたコントロールや透明性を、今ではAIによるコンテキストインテリジェンスで実現しようとする動きが加速しています。 特に旅行業界やライフスタイル関連企業などの広告主は、自国以外の海外市場へのアプローチ手段としてCTVを活用する動きが広がってきています。こうした動向は、視聴行動の変化やメディア環境の分断化に対応するうえで、AI主導のソリューションがますます重要になってきていることを示しています。 Silverpush CEO ヒテッシュ・チャウラ氏 -SilverpushのCTVソリューションは、そうしたニーズに応えられていますか。 チャウラ氏:はい。当社のCTV向けソリューションは、AI駆動でスケーラブル、かつ今日の複雑化する視聴環境に対応するよう設計されています。CTVのプログラマティック配信環境はもちろん、YouTubeにおける長尺のプレミアムコンテンツまでカバーしています。 最近では、The Trade Desk(TTD)とのグローバルパートナーシップにより、当社独自のAIが生成した50以上のプレビッドコンテキストセグメントを活用したキャンペーンが可能になりました。番組・シリーズ・エピソードといった粒度でテーマ、感情、ブランドリスクを解析できるこの技術は、CTV広告における透明性と制御性を取り戻すものとして高く評価されています。 中野氏:日本でも広告業界全体を通してCTV・OTT領域での広告需要は高まり続けていますが、弊社のCTVソリューションを活用することで国内マーケットに留まらず、日本企業の海外向けブランディング広告や自治体によるインバウンド訴求などを、米国、ヨーロッパ、アジアなどの地域に向けて、番組やコンテンツをエピソード単位・動画単位で選定し、ブランドセーフな環境下で視聴者のモーメントを捉えて配信することが可能です。 Silverpush 日本カントリーマネージャー 中野 済氏 複数のAIが「チーム」として学び合い進化する、新時代のコンテキスト広告プラットフォームへ -コンテキスト広告におけるAIの役割と、年内リリース予定の新AIプロダクトについて教えてください。 チャウラ氏:当社テクノロジーの中核は独自開発のAIエンジンである「Mirrors AI (ミラーズAI)」です。従来のメタデータやキーワードベースの手法を超え、動画の字幕、サムネイル、チャンネルの投稿傾向、クリエイターの履歴など多様なシグナルを解析します。これにより動画の意味や感情、文脈を精緻に理解し、ブランドにとって適切なコンテンツかどうかを判断できます。 この深いコンテキスト理解を基に、YouTube、CTV、TikTok、そして先日ローンチしたMetaにわたり、ブランド固有のコンテキストセグメントを構築可能です。トレンドやクリエイターの傾向、動画内容を評価し、高いブランド適合性を保ちながら大規模な広告配信を実現します。 Silverpush ミラーズAI また、新たに提供を開始する「Silverpush キャンペーンマネージャー」では、AIによるストラテジーの提案からキャンペーンの自動設定、ターゲティング最適化、コンテキストベースのレポーティングまで、キャンペーンライフサイクル全体を効率化・可視化します。 このアップグレードの中核となるのが マルチエージェントAIフレームワーク です。複数のAIエージェントがチームのように連携し、それぞれがキャンペーンの重要なプロセスを担います。これらのエージェントは互いに継続的に学習し合うことで、より迅速で賢く、進化し続けるキャンペーン運用を実現します。 -なるほど、複数のAIがそれぞれ役割を持って動くのですね。具体的にどのように連携しているのか、もう少し詳しく教えていただけますか。 チャウラ氏:各エージェントは異なる役割を担っています。例えば、AIエージェントAはキャンペーンのセットアップを自動化し、エージェントBはブランドセーフティを監視、エージェントCはパフォーマンスをモニタリングしながらリアルタイムに最適化を行います。そしてエージェントDがその結果を分析し、改善のためのインサイトを生み出します。 重要なのは、これらのAIエージェントたちが単独で動くのではなく、常に情報をやり取りし、互いに学び合っている点です。例えば、パフォーマンス分析から得られた発見がすぐに最適化エージェントに共有され、即座に調整が反映されます。 こうした仕組みによって、YouTube、CTV、TikTok、Meta、さらにはプログラマティックといった複数のプラットフォームを横断して、より迅速かつ賢明で、常に進化し続けるキャンペーン運用を実現します。 Silverpush キャンペーンマネージャー -TikTokやMetaなどショート動画プラットフォームにおける課題と、その解決策について教えてください。 チャウラ氏:最大の懸念は、ユーザー生成コンテンツ(UGC)環境におけるブランドセーフティです。こうしたプラットフォームは変化が激しく、属性ベースのターゲティングや簡易的なフィルターだけでは、不適切なコンテンツに広告が表示されるリスクを完全には防げません。それはブランドイメージにとって大きなリスクとなります。 そこで当社のAIは、リアルタイムでトレンドや投稿者とそのコンテンツ情報を解析し、適合性を評価します。これによりブランドごとのカスタム除外リストを構築し、広告が安全かつ関連性の高いコンテンツにのみ表示されるよう設計しています。プラットフォームに依存しない精度の高いターゲティングが可能です。 -日本における今後の展望について教えてください。 中野氏:チャウラが先ほど述べたとおり、マルチ・エージェンティックAIを搭載した新型プラットフォームを軸に、YouTubeやCTVに加え、TikTokやMetaといったソーシャルメディアへの対応を拡張していくことはすでにグローバルで進められている取り組みですが、日本市場においても基盤となる重要な進化です。 そのうえで日本での展開においては、こうしたグローバル基盤を活かしつつ、広告主・代理店の皆様にとって使いやすく、成果に直結するサービスをニーズと照らし合わせながら提供していきます。単なるAI技術の導入にとどまらず、実際の運用現場で確かな価値を発揮できるよう、サービスのローカライゼーションと人によるサポートを一層強化してまいります。 さらに、日本企業や自治体による海外市場向け広告展開を見据え、インバウンド・アウトバウンド双方のニーズに応えられるよう、グローバルネットワークと日本チームの連携をより強固なものにしていきます。 Silverpushは、単なる海外発のテクノロジーベンダーではなく、日本市場に根ざした信頼できるパートナーとして、今後もプロダクトとサポートの両面で継続的に価値を提供し、積極的な投資を行ってまいります。 【Silverpushについて】 Silverpush(シルバープッシュ)は2012年にインドで設立され、現在は世界30カ国以上に拠点を展開するグローバル企業です。YouTube、CTV、プログラマティック、ソーシャルなどの主要プラットフォームにおいて、ブランドに最適な文脈で広告を届ける「コンテキスト・インテリジェンス・プラットフォーム」を提供しています。 動画広告に特化して設計された、受賞歴のある独自AIエンジンを搭載し、コンテンツ単位でコンテキストシグナルを高精度に解析。これにより、広告主や代理店は、より適切なタイミングと文脈でターゲットにリーチし、広告効果の最大化を実現できます。 商号:Silverpush株式会社 所在地:東京都港区海岸1丁目7番1号東京ポートシティ竹芝オフィスタワー8階 代表者:中野 済/カントリーマネージャー 商品HP:https://www.silverpush.co/ お問い合わせ:https://www.silverpush.co/contact/
新世代のシゴト観-「ありのままの自分」で挑戦し続ける:UNICORN 岡 優莉称氏
アドテク業界で活躍する若手社員が、どのような価値観・仕事観で、日々の仕事にどう向き合っているのか——。 今回お話を伺ったのは、UNICORN株式会社の営業、岡 優莉称(ゆりな)氏。3年前新卒でアドウェイズに入社し、幅広い業界のクライアント案件を経験。 2025年4月にグループ会社でDSPを提供するUNICORNに異動してわずか数か月ながら、大手代理店に対する柔軟かつ深い提案で存在感を発揮している。 彼女の言葉からは、自分らしさを大切にしながらも、変化を恐れず成長を目指そうとする姿勢がにじみ出る。 課題の奥まで踏み込む営業とUNICORNの魅力 現在、岡氏は自社プラットフォーム「UNICORN」を活用した提案営業を担当している。対象は国内の大手総合広告代理店とその先にいるクライアント。単なるプロダクトセールスではなく、顧客ごとの状況や課題に応じて活用方法を一から共に探るスタイルだ。 営業について岡氏は、「単にメニューを紹介するだけでは十分ではありません。『活用方法を工夫すればもっと成果につながるのでは』『異なるデータを組み合わせれば新しい価値が生まれるのでは』と、顧客と共に発想を広げていくのが醍醐味」と語る。 UNICORNのプロダクトは、あらかじめ決まった形で提案するのではなく、顧客に合わせてカスタマイズできる柔軟性が特徴だ。岡氏曰く、「その柔軟性によって活用の幅が広がり、新たな提案の可能性も生まれている」とのこと。 営業としては固定化されたセールストークはなく、案件ごとに最適解をゼロから組み立てる必要があり、それが大きなやりがいにつながっているとのことだ。 「定型の提案にとどまらず、顧客の状況に応じて設計する案件が多い分、営業としての設計力や発想力が常に試されます。UNICORNの営業はそういう力を鍛えられる環境だと思います」 対クライアントだけではなく、社内のクリエイティブや運用チーム、プランナーとの調整も欠かせない。限られたリソースの中で優先順位を見極め、関係者を巻き込みながら案件を推進させる——若手や経験が少なくとも次々と新しい挑戦を任せられるというUNICORNの職場環境で得られる経験は、岡氏のビジネスパーソンとしての成長を一段と加速させている。 「自分らしさ」を貫く 岡氏の自然体な営業スタイルの原点には、新卒就職活動中のある面接での経験がある。アドウェイズの最終面接で役員からかけられた一言だった。 「岡さんは岡さんのありのままの姿で入社して来てほしい」 社会人になると、多くの場合、会社に合わせて自分を作り込んでしまう。しかしこの時、「自分らしく働いてほしい」と言われたのは初めてだったという。この言葉が転機となり、「自分を尊重してくれる・自分の個性を生かして働くことができる環境がある」と実感し、入社を決意した。 この言葉を胸に、入社後も「任された範囲をこなす」だけでなく、「課題の本質は何か」「自分ならどう動くか」から行動を組み立てるスタイルを貫いてきた。岡氏は「課題の本質を起点に考える姿勢を大切にしている」という。 営業観を変えた「失注からの逆転」 営業としての粘り強さを象徴するのが、新卒1年目にアドウェイズの営業として挑戦した大型コンペ案件だ。年間数億円規模の商談でフロントを任されたが、結果は失注。「必ず受注すると思っていただけに、悔しかった」(岡氏)と当時を振り返る。 しかしその後も諦めることはなかった。失注後も担当者との対話を継続し、関係を途切れさせず、「相手の頭の片隅に自分がいる状態」を意識的に作った。単発の商談ではなく、長期的な会話を重ねることで信頼を築いた約半年後、別部署から新たな提案依頼が舞い込む。 この“再挑戦”では、与えられた条件をそのまま受け入れるのではなく、「自分がクライアント側ならどう課題を解くか」という視点で再設計に取り組んだ。プランナーと何度も議論し、別視点の解決策を提示した結果、受注を勝ち取った。 「お客様から『提案そのもの以上に、岡さんと仕事がしたいと思えた』と言われた時は、本当に嬉しかった。提案内容に加えて、日々のやり取りや信頼の積み重ねが受注につながったと思います」(岡氏)と表情を輝かせる。 クライアントと誠実に向き合うUNICORNスタイル 営業として成果を意識するのは当然だが、岡氏が重要視するのは「クライアントのご予算を、いかに成果につなげる形で運用できるか」という視点だ。 例えば、「UNICORN(DSP)は国内最大級の豊富な在庫を持っていますが、特に期間やターゲティング条件の限定が多い場合、ご予算を最大限に活かすことが難しい局面もある」そんな時はどうするのだろうか。 「実効性を欠いた予算活用につながる提案はしません。無理をして意図しない枠や想定していないユーザーに出てしまうより、本質的で最適な投資戦略を改めてご提案します」 成果を追うことは営業にとって当然ではあるが、その過程でクライアントと誠実に向き合い、自社の予算のためではなく、相手の利益を考え行動する。この正義感や考え方こそがUNICORNという会社のスタイル、いわば「UNICORN流」のようだ。 アドテク業界の魅力は、横のつながりの強さ 岡氏はUNICORNに異動してから、アドテク業界特有の文化を強く実感している。 「この業界は横のつながりが本当に強い。競合関係にあっても互いを敵視せず、情報交換も活発で、業界全体を前進させる仲間と捉える人が多い気がする。健全に刺激し合いながら、新しい市場課題に向き合う文化がある」と感じているそうだ。 Cookie規制やプライバシー強化、AI活用など、変化が激しい中でも、この横のつながりが課題解決を加速させる。「変化が早いからこそ、新しい課題もすぐに出てくる。でも、それを共有して一緒に解決しようという空気がある。これは他業界にはあまりない特徴だと思いますし、とても魅力的です」(岡氏) 業界のイベントに行けば、立場や世代も超えた人たちともフラットに交流することが出来る。会う人は皆明るくてポジティブで、楽しそうに仕事に取り組んでいる。「企業や立場を超えて共通の考えやビジョンについて考える文化が根付いている」と。こうしたアドテク業界全体の前向きな空気を大きく吸いながら、岡氏は自身の成長意欲をさらに高めている。 変化を恐れず、必要とされる存在へ 変化が多い今の環境を、岡氏は脅威ではなく機会と捉えている。 「広告枠そのものの価値は変わらないが、それだけを提供する時代ではなくなった。いま問われているのは、データやテクノロジーをどう組み合わせ、成果につながる価値に変えていくか。変化が早い分、挑戦の余地も大きいと感じる」 若手の役割については、「固定概念にとらわれない発想」と「変化を柔軟に受け入れる姿勢」だと話す。経験が浅いからこそ持てる素直な疑問や新鮮な視点が、新しい可能性に繋がると信じている。 将来のビジョンはどう考えているのか。「顧客から必要とされる存在であり続けたいですね」(岡氏)。広告やアドテクの未来については、よりパーソナライズが進み、生活者が“広告”を意識せず自然に受け入れる時代になると見ているという。 「まずは目の前の課題に対し自ら仮説を立て、相手の期待を先回りして提案できるようになりたいですね。そして将来的にはマネジメントにも携わっていきたい。多様な目的を持つチームメンバーを一つの方向へ導ける、人から信頼される存在になりたいです。」 そしてライフステージの変化が起こるタイミングも見据え「柔軟に働いていきたいですね。次世代のモデルとなれる存在を目指したいです」 岡氏は「一方的ではなく、生活の一部として受け入れられる広告をつくっていきたい。そのために、自分もずっと成長し続けたいです」と今後の意気込みを語った。 取材を終えて 人材不足にあえぐ企業が多い中、勢いのある若手が活躍し成長するUNICORNのカルチャーが取材を通して垣間見えた。 過去アドウェイズで新卒の面接を担当することがあった岡氏は「相手の緊張をほぐして親しみやすい雰囲気を創生してほしい」と言われたそうだ。企業は選ぶ側でもあるが、相手は企業を選ぶ立場でもある。その人らしさを大切に、人の本質をしっかりと見極めるUNICORNだからこそ魅力的な人材が集まり、若手が活躍できるのだろうと感じる。 岡氏をはじめとする、同社の優秀な若手の今後のさらなる活躍が楽しみだ。
デジタル広告の根源的な課題を乗り越える―Oguryと電通ジャパン・インターナショナルブランズはなぜペルソナ分析で協働するのか[インタビュー]
マーケティング業界では古くからペルソナに基づく分析や施策が行われてきたが、デジタル広告業界では不思議とこの概念はあまり浸透してこなかった。その理由と弊害そして打開策について、日本発の独自ペルソナ分析基盤を共同開発したOgury Japanと電通ジャパン・インターナショナルブランズから話を聞いた。(Sponsored by Ogury) デジタル広告とペルソナの相性 ―自己紹介をお願いします。 星氏:株式会社電通ジャパン・インターナショナルブランズ(DJIB)の星貴也と申します。iProspect、Carat、dentsu X、Dentsu International Japan Officeの4ブランドを統括する当社のChief Strategy Officerとして、主にグローバル企業様向けの広告及びマーケティング関連ソリューションの共同開発等に取り組む部門を管掌しています。 松本氏:Ogury Japan株式会社のカントリーマネージャーを務める松本亮と申します。フランスに本社を構えるOguryの日本法人を2022年4月に立ち上げて以来、日本市場での事業は着実に拡大してきました、東京のオフィスは現在、パブリッシャー営業、代理店営業、そしてカスタマーサクセスや事業開発を含めた17名の専門チームを擁し、日本独自の市場環境に合わせたペルソナターゲティング広告というソリューションを提供しています。 ―両社の提携についてお聞かせください。 星氏:Ogury様とは日本支社立ち上げ直後から提携をしておりますが、特徴的なものとして弊社グループが年に複数回にわたり実施する市場調査データと、ペルソナターゲティング広告を展開するOguryの独自調査データを掛け合わせた「dentsu persona hub(プレスリリースはこちら)」の開発及び提供があります。 松本氏:Oguryは自社の調査データやコンテクスチュアルデータ等を組み合せることでグローバル規模で精緻なペルソナ分析データを構築しています。加えて日本市場により適合していくためには、電通グループ様のような膨大な消費者データを持つ企業様との連携が重要になると考えました。そこで2年半ほどの開発期間中に様々な実証実験などを行い、最終的に2024年10月にdentsu persona hubが正式に提供開始となりました。 Ogury上での広告配信での活用を目的として、追加料金なしでご利用可能であり、既に120社ほどのキャンペーンでお使いいただいています。 ―いわゆるペルソナマーケティングに基づくデジタル広告配信を行う広告主はどれほどいるのでしょうか。 松本氏:例えば自動車会社様、旅行会社様、ラグジュアリーブランド会社様等は特定のペルソナに対してデジタル広告を通じて効率的にリーチしていきたいとの考えを持たれていることが多いです。しかしながら、設定したペルソナをいかに解釈し、そして具体的な施策に落とし込むかという点については各社大きく異なるという印象です。ペルソナマーケティングに特化した企業や業界団体が乏しいことを鑑みても、まだまだ発展の余地が大きく残されている領域であり、Oguryが先導的な役割を果たしていくことができたらと考えています。 また従来のターゲティング手法は、ユーザーの属性や行動履歴を踏まえて広告を当てるということが主流でした。しかしながら、プライバシー保護の観点からの問題と、年齢や性別または閲覧履歴といった情報だけでは個々人の価値観を捉えきることはできないという課題意識から、具体的な状況を想定して設定する顧客像を示す「ペルソナ」に基づくデジタルマーケティングの必要性が高まってきていると思います。 ―ただし、ペルソナマーケティング自体は古くから存在する概念ですよね。 松本氏:はい。ペルソナ自体はマーケティング業界では長らくそして広く活用されてきました。広告代理店様のご担当者の中でもマーケティング戦略の上流設計を担ういわゆるストプラ(ストラテジック・プランナー)と呼ばれる方々にとってはなじみがある概念かと思います。しかしながら、デジタル広告配信の実務レベルにおいてはそれほど浸透していませんでした。これには理由があります。 ペルソナが、大手広告プラットフォーム上のセグメントと対応しないのです。例えばあるブランド企業様が人気アニメのキャラクターとのコラボ商品を販売するとします。このアニメに興味・関心を持つ人が主な訴求対象となるのですが、広告プラットフォームのダッシュボード上でそのアニメのタイトルやキャラクター名といった固有名詞を入力したところで、たとえどれだけ人気があるアニメだったとしても、配信先は極めて限定されます。 一方でdentsu persona hubでは、このようなアニメまたはキャラクターに興味や関心を持つ消費者について十分なサンプル数を持つデータがあり、さらにはそうした人々が普段どのような生活を送っているかについてのインサイトを示すことができるので、ペルソナを設計し、かつそのペルソナを広告配信に生かすことができるのです。 星氏:これまでは、対面インタビュー調査の実施などを経てどれだけ精緻なペルソナを構築したとしても、大手広告プラットフォーム上ではそのペルソナと比較すると極めて粒度の粗いデモグラフィックデータから該当する項目やキーワードを選ぶしか術がなかったのです。これでは、少なくともデジタル広告配信という具体的施策段階においては、ペルソナを構築する意味がありません。 そこでOgury様との提携を通じて、設定したペルソナに基づく広告配信が実施できる環境を整備しました。他のマーケティング施策と同様に、デジタル広告配信においてもペルソナを最大限に活用し、マーケティングの上流から下流まで一気通貫したコミュニケーションサポートができるようになった点は非常に大きいです。 ペルソナはCookieを代替するか ―従来のターゲティング手法の代表格にCookieターゲティングがあります。ペルソナマーケティングはCookieターゲティングを代替し得ると思いますか。 松本氏:今後はCookieとそれ以外の手法を組み合わせる共存モデルが増えていくのではないでしょうか。GoogleがChromeのサードパーティCookie廃止を撤回したものの、iOSでは依然としてサードパーティCookieを取得することができません。そのような環境でCookieターゲティングを行おうとすると、Chrome上の同じユーザーばかりに広告を配信することになります。Cookieと同じく活用されているIDベースのターゲティングとなると、特定の大手広告プラットフォームに依存することになり、やはり出面が一緒になることでリーチ過多となります。 さらにどんなものであれ、特定の広告配信手法を偏重すると、競合する広告主との差別化が難しくなるという問題が発生します。同じ広告枠の中で共通仕様に則った広告が配信されると、ユーザーにとっては「柄違いの広告」が出ているといった印象しか受けません。 一方で、競合する商品でも、その使い手のペルソナは各商品で異なるはずです。それぞれのペルソナに対して異なるアプローチをとることが結局は効率的です。 星氏:Cookieベースのターゲティングは今後もなくならないでしょう。そもそも主にリターゲティング施策で活用されるCookieターゲティングとブランディングに強いペルソナターゲティングでは役回りが違います。 ―CookieやIDベースのターゲティングを重用してきた広告主がペルソナマーケティングを開始する際にどのような準備が必要となるのでしょうか。 松本氏:Oguryでは様々なブランド企業でブランドマネージャーを経験した者やブランドのコンサルティングを行う企業を含めた「ペルソナラボ」というチームを組成しています。このペルソナラボが御社のストプラの方々と協働して支援することができるので、特に身構えることなく、安心してお任せいただけたらと思います。その際に、広告主様が既にお持ちのペルソナに関わる情報をご提供いただけましたら、パートナーとしての立場からペルソナを一緒に構築していくことができます。 一例を挙げますと、御社が持つ調査データ等を分析してペルソナを再定義した上でキャンペーンを実施すると同時に、別途調査会社と連携してペルソナに合致する消費者への対面インタビューを実施することで新たな知見を得てさらにPDCAを回していくということも実施しています。 弊社はこのような形で単なるメディアないしアドネットワーク企業としてではなく、とにかくペルソナに関わることであればありとあらゆるサービスを提供できる企業になることを目指しています。 星氏:少なくとも、自社の製品やサービスをどのようなお客様にご購入いただきたいのかというイメージはぼんやりとでも描いていただけると我々も支援がしやすいです。それらのイメージを具体化するためのデータとノウハウには自信があります。 ―Oguryではアンケート調査に基づく独自調査データやアドネットワークデータに加えて、コンテクスチュアルデータも扱っていると理解しています。他のコンテクスチュアルターゲティングとはいかに差別化していますか。 松本氏:一般的なコンテクスチュアルターゲティングは、ユーザーのニーズが顕在化したタイミングに効きます。対照的にペルソナターゲティング広告は、ユーザーの様々な心理状態や潜在的または将来的な興味・関心を踏まえた広告配信を行うだけの深みがあります。 星氏:コンテクチャルターゲティングをやや単純化すると、例えばファッションブランドがファッションに興味のある人にアプローチするためにファッション関連記事に広告配信するというモデルです。ペルソナマーケティングであれば、ファッションに興味がある人がほかにどのような興味を持っているかという点も踏まえた広告配信を行うことができます。顕在化されていない興味や関心にも対応できるという意味で、より能動的な広告配信手法です。 データの横断的利用も可能に ―両社の提携を今後どのように発展させていきたいと思いますか。 松本氏:まずOguryとしては、広告のクリックを保証するだけのメディア企業とは一線を画したいと考えています。広告主様の事業課題にもっと踏み込んで、一緒に頭を悩ませながら事業を支援させてもらうのが我々としてのあるべき姿です。 そのために電通グループ様との一層の連携強化は必須です。一緒に日本市場で実現できることを増やすために、共にブレインストーミングとPDCAを繰り返しながら、最終的に成果につなげることができたらと思います。 星氏:dentsu persona hubという共同ソリューションを通じて、日本市場にて一つでも多くの成功事例を作り、ゆくゆくは海外にも大々的に展開をしていきたいと思います。 松本氏:dentsu persona hubの海外展開については、タイ、フランス、オーストラリア、台湾といった市場には既に浸透し始めています。 また今年10月ごろより、dentsu persona hubのデータをOguryだけでなく、その他の広告プラットフォームやメディア上にも用いてペルソナターゲティングができる仕組みを実装していく予定です。 さらに現時点では東京や大阪といった大都市圏の広告主様が主なお取引先となっていますが、それ以外の地域の企業様にもペルソナをベースにした事業支援が可能であると考えています。これまでデジタル広告が適切に対応できていなかった、例えば地方創生系のプロジェクトなどにも貢献できたらと思います。 星氏:Ogury様のようなグローバル企業はともすると本社を構える国で成功した仕組みをそれ以外の国々にも落とし込もうとすることが多いですけれども、dentsu persona hubのように日本市場を起点とした取り組みにも積極的であることが非常に稀有だと思います。今後も共に日本発の取り組みに注力していきたいです。
生成AIが変える企業のクリエイティブ制作と、サイバーエージェント「AIクリエイティブBPO」が目指すもの [インタビュー]
サイバーエージェントはデジタルインファクトと共同で「大手広告主企業のクリエイティブ制作における生成AIの利活用に関する実態調査」を実施した。 調査結果によると、企業の制作物は近年増加傾向にあり、生成AIの活用も広がりつつある中で、その効果的な活用方法を模索している企業は少なくないようだ。 同社は昨年12月にAIクリエイティブBPO事業部を新設し、生成AIを活用して企業におけるクリエイティブ制作体制の変革を目的とする支援事業を推進している。 今回の調査結果を受けて、企業のクリエイティブ制作における現状と課題を踏まえた事業開始の背景や狙い、今後の展望について、事業部責任者である、同社 インターネット広告事業本部 AIクリエイティブBPO事業部 事業部長 簑田 咲氏にお話を伺った。 (聞き手:ExchangeWire JAPAN 野下 智之) クライアント企業向けにAI活用の制作体制を構築する、AIクリエイティブBPO Q:自己紹介と、これまでの経歴についてお聞かせください。 2013年に新卒でサイバーエージェントに入社し、インターネット広告事業にてリスティング広告運用の領域で約12年間活動してきました。長年、大量のデータや大量の検索クエリを取り扱われているECやVODなどのサービスを提供するクライアント案件を担当し、組織マネジメントも8 年間経験しました。 昨年12月に、AIクリエイティブBPO事業部を立ち上げ、その事業責任者として生成AIを活用した企業向け制作支援に取り組んでいます。特徴的なのは、単なる制作代行ではなく、クライアント企業の中に“小型のサイバーエージェント”=「ミニサイバー」のようなものを構築し、内製化と競争力強化を同時に実現する点です。 Q.AIクリエイティブBPO事業のミッションと、立ち上げの背景について教えてください。 本事業は、企業で今かかっている紙の印刷物などの莫大な製作費を生成AI活用によってコストカットを実現し、かつ納期を短くする、そして大量に作るということを広告以外の制作物も含めて提供していく事業として立ち上げました。今回の調査結果にも表れておりますが、企業の制作物は動画やバナーをはじめ幅広い分野で増加傾向にあり、今後も拡大が見込まれています。SNSやデジタルメディアの多様化により、短いサイクルで多くのパターンを制作する必要が出てきています。 こうした状況に企業は外注依存で対応することには限界があります。そこで重要になるのが生成AIの活用です。当社は2016年からAIへの投資と研究を重ねてきており、AIを活用したクリエイティブ作成においては、「 極AI予測」を提供してきたため、知見があります。この知見を活かして、クライアント企業向けにクリエイティブAIエージェントを作り提供をする、あるいは生成AIを活用した新しいクリエイティブ制作のワークフローを構築して 提供をする。これにより、クライアントコストを下げることを目指します。 ただ、今のところは全てを生成AIで完結させることはできません。そこで、この業務フローに則ったクリエイティブ制作の担当者として、当社のAI人材で専業体制を構築し 、低コストで新しいワークフロー業務を実現します。このサービスは 、いわば企業との共同事業として取り組むものとなります。当社がこれまで社内で取り組んできたクリエイティブ制作工程におけるコストカットを、いわば「ミニサイバー」としてクライアント企業の中に移植するといったイメージです。 Q.すでに取引・導入事例はありますか? ベネッセコーポレーション様と協業 し、同社社内に「AIクリエイティブセンター」を立ち上げました。ベネッセ様と当社のメンバーが混成チームを組み、紙媒体からデジタル、動画まで幅広い制作を一体的に行っています。 Q.事業を通して実際に見えてきた、企業のクリエイティブ制作の現状と課題はどのような点でしょうか? 調査結果によると、生成AIはすでに多くの企業で活用が始まっていますが、その多くはアイデア出しやテキスト生成といった初期段階の活用にとどまっています。本格的に運用するためには、ガイドラインや品質管理体制の整備、適切な生成AIモデルの選定、そしてAI活用を受け入れる社内文化の醸成が不可欠です。特に大企業では、部門間の合意形成が課題となるケースが多いです。 コストカットだけではない、競争力を高めるために支援 Q. 今後、生成AIは企業のクリエイティブ制作をどう変えるとお考えですか?またその中でサイバーエージェントはどのようにクライアント支援をしていくのでしょうか? 生成AIは、企業のクリエイティブの作り方と、クリエイティブ制作量を変えていくでしょう。前者についてですが、やはりクリエイティブ制作の内製化がある程度増えていくのではないでしょうか。調査結果によると、今後3年以内に制作の中心をAIが担う場面が増えると予測されています。外注依存から生成AIを組み入れて内製化されていく方向にむかっていくでしょう。 後者については、企業が競争力を高めるチャンスになると思っています。顧客データを活用したパーソナライズドな大量制作も可能になり、配信の精度とスピードが飛躍的に向上します。 生成AIは単なるコスト削減の手段ではなく、企業の競争力を高める制作体制をつくる武器です。高品質なコンテンツを継続的に発信できる体制を構築できれば、市場での優位性は確実に高まります。私たちはその仕組みを企業内部に移植し、実行可能な形で支援していきます。もう一つ、生成AIを活用して制作したクリエイティブは、世に出す前に審査が必要です。この審査も併せて、AIを活用した体制構築の支援を行っていくことも視野に入れています。 Q. クリエイティブBPO 導入後、事業としてはどのように発展させていく構想ですか? 将来的には、用途ごとに特化した「クリエイティブAIエージェント事業」へ進化させたいと考えています。メルマガ制作、Web更新、紙面デザインなど、企業の要件やブランドに合わせて学習したエージェントを提供し、継続的に価値を生み出すモデルにしていきます。企業にとって単なるコストカットではなく、競争力を高めるための支援をしていきたいと考えております。
電通デジタルがGEO分析から見えてきた傾向を説明。Google 「AI モード」に対応する国内サポートチームを設置。
株式会社電通デジタルは、9月9日都内にて生成AI活用によるマーケティングの最新動向についてのメディア向け説明会を行った。同社CAIO(Chief AI Officer:最高AI責任者)兼執行役員の山本覚氏は、生成AIに特化した新たなマーケティング手法GEO(Generative Engine Optimization)の重要性・手法を紹介し、生成AIの中で行われるマーケティングについて説明を行った。さらに、同日日本上陸が発表されたGoogleの新機能「AI モード」に対応するため、電通デジタル内にサポートチームを発足したことを発表した。 Adobe Analyticsのレポートによると、2024年8月から2025年2月にかけて、生成AI経由でのトラフィックは1,200〜1,700%増加している。デジタルマーケティングにおいては、これまでのSEOに加え、生成AIに対応したGEO※への対応が求められる。 ※GEOとは「Generative Engine Optimization:生成エンジン最適化」の略で、生成AIがユーザーに対して行う回答に、企業のブランドや商品を言及させるための手法を指す。従来のSEOが検索結果での上位表示を目指すのに対し、GEOはAIの対話や要約の中に自社情報を組み込むことを狙う。 生成AIに特化したGEOサービス 電通デジタルのGEOサービスは、大きく4ステップで構成される。 ①AIツール選定とプロンプト設計:ChatGPT、Gemini、Perplexityなど対象ツールを選定し、検証すべきプロンプトやキーワードを設計。 ②データ収集・分析:設計したプロンプトをAIに入力し、引用数・言及数を収集。記事ページやFAQなど、引用傾向を可視化。 ③最適化提案:サイト構造やコンテンツタイプ別の傾向を分析し、最適化施策を提示。 ④モニタリングと改善:施策実施後の引用変化をKPIとして追跡し、PDCAサイクルで精度を高める。 また、開発拠点である電通データアーティストモンゴルと連携し、引用数やセンチメント分析を可視化する専用ダッシュボードを開発中。自社と競合の引用傾向を横断的に把握できる点が特徴的である。 生成AIの傾向分析 電通デジタルの調査分析では、生成AI対策はこれまで「FAQページを作ることが重要」と思われていたが、実際には引用URLの大多数が「記事詳細ページ」であることが判明したとのこと。さらにSEO上位のURLから引用されている傾向はあるものの、生成AIはSEO上位51位圏外からも多く引用しており、生成AIは文脈でのヒットを重視しているとみられる。さまざまな業界別に「どういった引用が行われているか」という分析では、引用元は自社サイトのみならず他社ドメインやストリーミングサービス・個人ブログなども含まれ、幅広い引用元が出現しており、企業にはジャンルや領域ごとに違った対策が必要とされる。 GEO支援対策の事例として、ゴルフダイジェスト・オンラインの「ライトゴルファー(ゴルフ初心者)獲得」に向けた施策が紹介された。生成AIに対する「2025年おすすめドライバーは?」や「初心者向けゴルフ場を教えて」といった100件のプロンプトを分析したところ、記事詳細ページが最も引用されやすいことが判明。生成AIはページ内上部・HTML上の重要要素を引用する傾向が強いとの結果を導き出した。そこでサイト内で「結論ファーストかつパラグラフ単位で簡潔に記載する」ことが重要な可能性をゴルフダイジェスト・オンラインに提案し、コンテンツを追加。結果、引用数は1カ月で144%増加したとのことである。 Google「AIモード」に対応するサポート Googleが9月9日に国内提供を開始した「AIモード」への対応に向け、国内サポートチームを発足したことを発表した。「AIモード」は、従来の検索行動を大きく変え、単発のキーワード検索から「相談型」の検索スタイルが一般ユーザーに浸透していくと考えられる。検索結果には、ユーザーの文脈に沿った情報が表示され、購買・申込といった行動へ直結するケースが増加すると見込まれる。今後広告が表示される際にも、会話や文脈に対応したマーケティング・設計が必要となる。 電通デジタルでは、今後「AIモード」に適したマーケティング施策の設計やブランド露出の最適化を目標とし、SEOやSEM時代に培ったノウハウや、生成AIの知見を活かしたマーケティング支援を行う。
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