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SmartNews責任者に聞く、「ユーザー定義オーディエンス」機能の解説と今後のメディア広告事業の在り方 [インタビュー]

今をときめくニュースアプリのSmartNewsは、先進的な広告メニューも精力的に開発している。2016年3月7日に発表した「ユーザー定義オーディエンス」は、広告プロダクト「SmartNews Ads」の新機能で、広告主が保有するデータを活用することで、アプリインストール済ユーザーやサイト訪問ユーザーへのリターゲティングなど、ユーザーのニーズや嗜好にマッチした効果的な広告配信が可能だという。

メディアの広告配信におけるユーザーデータとの向き合い方や、オーディエンス拡張など他機能との組み合わせも含めた「ユーザー定義オーディエンス」の具体的な活用の仕方について、アドチャネル セールスマネージャー 冨田憲二氏と、SmartNews Ads プロダクト担当ディレクター 渡部拓也氏に背景も含めたお話を伺った。

(聞き手: ExchangeWire Japan 野下 智之)

広告市場は「スマートフォンモバイル」が中心

―まずお二人の自己紹介をお願いします

冨田 憲二氏、渡部 拓也氏

冨田:13年12月に入社したのですが、それ以前はITベンチャーの子会社でアプリ開発会社を経営していました。エンジニアリング以外は何でもやっていたので、スマートニュースに入社後も広告事業立ち上げとセールスを担うことになりました。

いわゆるセールスは私ともう一人で、代理店様にお世話になりながらビジネスを回しております。

渡部:前職は大手ゲームプラットフォームを運営する会社で、開発とマネジメントを担当していました。エンジニアが事業も見る会社で、組織が大きくなるに従って、最初はソーシャルゲームのプラットフォーム開発責任者、その後広告事業の開発責任者を兼務し、最後はネイティブゲーム事業部の副本部長兼開発部部長、ネイティブゲームの事業責任者も兼務しました。

エンジニアが作ったものが商業的な成果につながるようにチームリーディングしており、広告もやっていたので、スマートニュースに入った時にその経験を活かすことにしました。

―直近のスマートフォン広告市場環境や、貴社広告ビジネスの状況(売上、その他)についてお聞かせください

冨田:ダイレクトレスポンス系のお客様は既にスマートフォンの活用がメインになっている状況です。ユーザーのアクセスも獲得チャネルもスマートフォンがメインになってきており、そのニーズは今後も増え続けると思います。LP(ランディングページ)がスマートフォン対応していないお客様も最近は少なくなってきました。スマートフォン広告市場も右肩上がりで伸びていますが、当社の広告ビジネスはその伸びの割合を上回るくらいで四半期ごとに成長できていると思います。

広告データは、全て自前主義

―プロダクト開発の順番や広告メニューについて教えていただけますか。

渡部:ブランド向け動画広告とインフィードの運用型広告をリリースし、その後に動画と同じ枠にディスプレイ広告も出せるメニューを追加しました。

冨田:大きく分けるとプレミアムと名付けた純広告と、スタンダードと言われているインフィードの中に埋め込まれているネイティブ広告の2種類があります。プレミアムは基本的にディスプレイもありますが、最初から動画を展開していました。モバイルアプリのファーストビューで、オートプレイのものは当時なかったので、業界では大きなインパクトがありましたし、今もかなり引き合いをいただいています。一方、当社の主力商品でもある運用型広告向けとしてインフィードでオートプレイの動画を、ダイレクトレスポンス系の顧客に対して配信するメニューも先日開発しました。こうしたメニューが揃っている単一メディアの事例は少ないと思いますので、かなり先んじていろいろな取り組みをしていると認識しています。

―インフィード動画についてはニーズが多いのでしょうか。

冨田:非常に多いです。しかし、広告が動画だらけになるとそれはそれでユーザーにとっても違和感があるので、案件の数については上限を設けている状況です。ただ、使いたいというお客様は多いので、ユーザー体験を損なわないよう慎重にご提供できる枠数を広げていきたいと考えています。

―ブランド広告主とダイレクトレスポンスの広告主、どちらがどのメニューをどのように活用されているのでしょうか。

冨田:インフィードはダイレクト顧客、動画などの純広告はブランド中心という傾向があります。

―今回の「ユーザー定義オーディエンス」の概要についてお聞かせください。

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冨田:これまでも開発の重点を置いていたのは、SmartNewsの内部データを活用することでした。ユーザーの行動ログから、その人の性別を推定するような技術を使って男女を指定して配信するなど、膨大なデータ加工による広告商品を作っていました。

さらに、広告主が既に持っているデータをSmartNewsでターゲティングして広告配信をしたい、というお声をよくいただくようになりました。最近ではクライアント自体が大量のデータを持っているので、自社のゲームをインストールしているユーザーのみに広告を表示したいとか、自社のサイトに来たことのある人だけに表示したいとか、そういった要望を実現したいというニーズが増えてきているんですね。

いただいたデータをもとに、内部データと連携するとしても、データの鮮度が非常に重要になってきます。手動でアップロードするとすぐに2~3週間はす経ってしまいますが、それだとデータが古すぎてほとんど効果がなくなってしまいます。そのため、今回の機能でもAPI連携などで広告主が定義したデータでユーザー群をリアルタイムでアップロードし、迅速に配信ができるようになっています。
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併用する顧客も増加

―基本的には広告測定ツールを使っている広告主が連携することで、初めて活用できる機能なのでしょうか。

渡部:それも一つの使い方ですが、もう一つはJavaスクリプトの「SmartNews Ads Pixel」をサイトに貼っていただくと、訪問済みユーザーをSmartNewsでターゲティングできるようになります。

Eコマースやゲーム関連のお客様では、両方活用されている例もあります。例えば自社の紹介記事があったところにAds Pixelを貼って、そこを訪れた人にこのクリエイティブを出してほしい、といった合わせ技も使えるのです。

冨田:我々もアプリとWebという2つの客層で語りがちなのですが、今回の商品も当然WebにはPixelタグを埋めてリタゲ、アプリはリエンゲージメントで既存のユーザーに対してコミュニケーションしよう、といった活用法はあります。ただ渡部 が申しあげたように、Webでサービスしていてアプリも持っている、今はまだWebのほうがたくさんユーザーが来るけれど、今後はアプリで新規獲得したい、といったお客様もいます。

さらに、最近ではアプリのほうが、定着率など各種KPIがどうやら良さそうだ、というクライアントが増えています。そこで、既にサービスサイトを訪問したことのあるユーザーのオーディエンスリストのうち、まだアプリを持ってない人にアプリのインストールを促すといったニーズが強まってきています。なぜなら、そのほうがリテンションや購入率が高いと推測されるからです。

―DSPやアドネットワークと親和性が高いメニューにも思えましたが、あえて貴社単独で今回この機能をリリースされた理由を教えて下さい。

冨田:広告主の観点から考えて、どこにどう出稿されているのか、ユーザーが目にするメディアがしっかりと表示方法まで含めて把握出来て、数字だけでなく実態としてのオーディエンスを把握することが出来る広告商品を提供したいと考えています。SmartNewsはDAU200万を超えており、単体でもある程度のボリュームが出せるメディアですので、このプロダクトが機能する、と考えました。

同様の機能で先行している事業者ですとFacebookやTwitterがあげられますが、彼らの取り組みを踏襲していく必要はないだろうと考えています。とはいえ、既存の大きなネットワークがやってきたこと、マーケットで求められていることを考えた時に、オーディエンスに対するターゲティングは絶対に必要であるという結論に至りました。ビジネスとしてもある程度の規模になるという感触もあったので、このタイミングでリリースしました。

メディアが広告とテクノロジーを牽引する

―SmartNews1社だけでもスケールがあるので、データを扱ってもボリュームがとれるだろうということですね。

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渡部:グローバルで見ると、FacebookやTwitter、Googleなど、大きな広告プレーヤーはすべて巨大なメディアとしての側面を持っています。規模のあるメディアがテクノロジーも見せ方も広告にこだわって取り組んでいくことが、業界を牽引するパワーになり得るのではないでしょうか。

冨田:Facebookくらいの規模のメディアになった時に、我々の広告も同等以上の力を持っていたいと思っています。そう思うと、広告に関してもテクノロジーに関しても追いかけていかなければなりません。

―DMPなどを貴社で作ることもありうるのでしょうか。

冨田:今のところは想定していません。当面はメディアの内部データを、当事者として理解しているからこそできる技術に軸足を置いていくべきだと考えています。

FacebookもTwitterも、ファーストパーティー(メディア)としても強い。我々としては単にサードパーティー(広告主)のデータを使えるようにするだけでなく、内部のメディアのデータを有効に使いたいと考えています。我々はユーザーのログを持っているので、例えばマッチングの結果1万人のリストが生成されたとして、よりボリュームを出したい場合には、近しい行動属性のユーザーを探してオーディエンスを拡張し、実態としてほぼ同じようなユーザー3万人に配信する、といったことも可能です(Look-a-like機能)。制度もボリュームも担保できますが、データをうまく活用する裏側の仕組みがないとこういったメニューはできません。データとテクノロジーの合わせ技で勝負していきます。

既存ユーザーにもマーケティング投資を

―このサービスをリリースされた背景についてお聞かせください。また、開発期間はどのくらいを要しましたか?

渡部:Webのクライアントはリタゲを中心に実施しているので、当初から強いニーズがありました。アプリのクライアントも、当初はほぼ全て新規インストール訴求でしたが、2015年の半ばくらいからは効率が悪くなるケースも見られるようになりました。

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冨田:例えばゲームアプリの場合、ROIはユーザーがどの程度課金するか、というポイントに置かれることがほとんどです。新規ユーザーである必然性はありませんので、既存ユーザーに対してマーケティング投資を行ったとしても、そこから目標とする課金があがればOKです。実際、2015年の半ば以降、既存ユーザーに対してマーケティング投資を行うクライアントが増えてきました。年の前半には見られなかったことですので、業界全体としてのトレンドなのではないかと思っています。

開発期間は実質1~2か月です。手前味噌ですが本当に、代理店さんに驚かれるくらい速いです。

―ターゲット広告主のタイプについてお聞かせください。また導入には、どのような準備が必要ですか?

冨田:メインはアプリの広告主で、現状ではゲームとコマース関連が積極的に検討しています。広告主側の準備はツールの繋ぎ込みです。Webはタグを埋めていただいてからリストがたまるまで一定の時間が必要です。アプリの場合はツールが対応していれば一度設定を行うだけなのであまり時間はかかりません。

渡部:機能としては豊富に取り揃えられており、比較的何でもできるので、広告主側でいろいろ工夫していただいて、それぞれに勝ちパターンが違ってくる感じです。

―リリースを出してからはどのような反響がありましたか。

冨田:2014年末に開催した当社のイベントで、広告ビジネス立ち上げを発表した時以来の強い反応でした。「アプリユーザーもリターゲティングできるの!?」といったような。笑

「スマニューいいね」と言っていただける広告を

―リターゲティングのやりすぎで、マーケットの中で媒体が疲弊しているという指摘もありますが、貴社の広告ビジネスにおいてその懸念はないのでしょうか?

冨田:我々としては、グロスが大きくならないと結局だれも得しないので、ボリュームが先細りするようなリターゲティングのみをあえてお勧めすることは考えていません。既存のお客様にもコミュニケーションし、加えて新規もトータルで合わせてやっていかないと、我々も代理店も疲弊してしまいます。それこそWebのお客様にドアノック式にリターゲティングをご提案して、やっていただいてもその後の継続につながることはないと考えております。ただ、これをきっかけに「スマニューいいね」と思っていただきたい。

―リターゲティングの利用に当たって、予算の下限などの制限はかけているのでしょうか。

渡部:特にありません。リターゲティングで安価にユーザーを獲得できるとデータがたまってきます、そのデータをもとに「Look-a-like」でオーディエンス拡張するなどして、とにかく良いユーザーのデータをためます。そうしてためたデータと、他のメニューとの組み合わせで使っていただければ、媒体側にとってもよいのではないかと思います。たとえば動画広告をしっかりと見たユーザーにディスプレイ広告を出してより良いリーチをとるなど、リーチとセットで考えています。

―ユーザーデータを広告商品において活用していくにあたっての課題をお聞かせください。

冨田:ターゲティングはあまりにも細かすぎると、数千人以下に絞られてしまうケースもありえます。また、ユーザーにとっても自分だけを狙いうちされるような細かすぎる広告はあまり気持ちいいものではないですし、そこは注意を払っています。

―これ以上絞り込むのはやめようよ、といった基準はどなたがコントロールしているのでしょうか。

渡部:「本当に自分達のメディアにその広告が入っていいんだっけ」という視点はみんなが持ってやっています。質の低い広告はユーザーにとってもメディアにとっても悪影響ですし、メンバーもそうした広告は好きではありませんし、自分たちが開発する広告はそういうものにはしたくありません。

―今後のSmartNewsの広告ビジネスにおけるデータ活用の方向性についてお聞かせください

冨田:広告のためだけのデータではなく、メディアあってのデータです。よりよいニュースの配信につながるなどユーザーの利益にもつながる形でデータが活用され、広告にも使わせていただくというのがポリシーです。広告のためだけに、これまで取得していなかったデータを集めるのはスマートではないと考えています。

mixiさんなど、他のメディアとの広告ビジネスの連携も進めており、メディア個別の情報を使ったターゲティングも可能です。メディアとしてある程度特性を持っていらっしゃり、我々と相乗効果が出る媒体であれば、SmartNews Adsを通して配信対象にさせていただくのは非常に喜ばしいことですので、今後も広告配信のパートナーを探していきたいと思います。

ABOUT 野下 智之

野下 智之

ExchangeWire Japan 編集長   慶応義塾大学経済学部卒。 外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。 2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。 2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。