「アドテクの理想と現実」にパブリッシャーはどう向き合うべきか?-大手グルメサービス担当者が語る課題と未来 [インタビュー]

プログラマティックが普及して以降、メディアを取り巻く広告ビジネス環境が変わったといわれているが、日本におけるその実態や実務を担う関係者による現場の声は、実はあまり多くが取り上げられているわけではない。

パブリッシャー・トレーディングデスクとして日頃メディアを近くで支援しているbrainyが、メディアのプログラマティック広告実務担当者へのインタビューを通じて、日本のメディアが置かれているビジネス環境や、昨今のアドテクノロジー界隈のトレンドについて率直に感じていることなどをお伝えするシリーズ。

第6弾は、グルメサービスRettyのプログラマティック広告部門運用責任者及びエンジニアへのインタビューをお届けする。

★インタビュー対象

Retty株式会社

プログラマティック広告部門運用責任者 山田祐也氏

エンジニア 進藤太一氏

★聞き手

株式会社brainy

代表取締役社長CEO 山岡真士 氏

パートナーブレイン戦略部 下山貢氏

2017年3月、株式会社オプトから会社分割により設立。様々なアドテクノロジーを駆使することでネット広告収益の最適化を支援する「パブリッシャー・トレーディングデスク」を、国内プレミアムメディアを中心に展開している。

別々の役割を担うWEBとアプリ

―下山氏(brainy)これまで本連載を続けてきましたが、Webがメインのジャンル特化型サービスを展開されているパブリッシャー様は初めてです。サービスと運営について教えていただけますか?

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山田氏(Retty) 実名型のグルメサービスを運営しており、月間3千万人にご利用いただいています。アプリとWebでサービス展開しています。その中で、我々2人は広告配信の最適化を担当しています。ただし、ロイヤルティが特に高いアプリ面では広告配信を行っておらず、現在はWeb面のみで収益化を図っています。

「グルメサービス」という立ち位置が前提条件ですので、基本は訪問していただけるユーザーさんがいかに最適な飲食店を見つけ、実際に来店していただけるかが重要だと考えています。ですので、それを阻害するような広告には制限をかけるようにしています。

― 山岡氏(brainy)アプリとWebにはどのような役割の違いがありますか?

山田氏(Retty) RettyはCGMサービスのため、投稿数の増加と共にサービスも成長していきます。現在は主にアプリから投稿いただいています。
一方、ユーザーさんとの接点としてはWebの役割も大きく、SEOを含め、よりたくさんの方に使っていただけるようなサービス作りをしています。

― 下山氏(brainy)ユーザーの利用シーンに応じて適切なインターフェイスをWebとアプリで提供されているんですね。

タイアップ広告が継続する、Rettyの強みとは?

― 山岡氏(brainy)広告収益はWeb中心ということですが、そのマネタイズ手段の構成はどのようになっていますか?

山田氏(Retty) 広告は大きく3つに分かれています。一つは飲食店様から月額利用料をいただく形の来店販促向け広告、次にビールメーカー様をはじめとするナショナルクライアントを中心にしたタイアップ広告、もうひとつは、我々が担当するプログラマティック広告です。

― 山岡氏(brainy)グルメサービスは、広告マネタイズに関してはどのようなことが強みになるのでしょうか?

山田氏(Retty) ニュースメディアさんなどとは違い、来訪するユーザーさんの目的意識がほぼ同じであり、かつ強いという特徴があります。何かを食べたいと思って飲食店を探すという意思が明確です。そこからさらに、「ラーメン」を食べたい、「渋谷」で飲みたいなどというように、「何」を食べたいかや、「どこ」で食べたいかというように分岐してきます。そうしたユーザーさんの行動意識がほぼ同じであるということは、かなりの強みです。

― 下山氏(brainy)そうすると、例えばタイアップ広告に向いたサイトと言えるのでしょうか?

山田氏(Retty) タイアップ案件についていえば、ビールメーカーさんや製薬会社さんの商品の利用シーンをうまく想起する形でご提案ができると自負しています。一度タイアップ案件でご出稿をいただければ、その後長期で継続いただけることが多いです。これはRettyの媒体特性であると考えています。クライアント様と長期でお付き合いをさせていただくことが、ノウハウの蓄積にも繋がっています。その点も強みであると思います。

― 下山氏(brainy)ありがとうございます。強みの一方で、グルメを取り扱うこその課題には何がありますか?

山田氏(Retty) ずっと課題に感じていることはRettyというサービスのブランドイメージやUXを毀損する広告の存在についてです。Rettyを訪れるユーザーさんは、「美味しいものを食べたい」という共通の欲求を持っています。したがって、食欲をそぐような広告はRettyでは扱うべきではありません。例えばサプリの広告。それ自体が全て悪いということではないのですが、画像がそのサプリの元のミドリムシを生々しく写したクリエイティブですと、さすがに望ましくはありません。

― 下山氏(brainy)一般的にはアダルト広告や誇大広告などがユーザーさんの心象を悪くするものとされており、各パブリッシャーは対策を講じますが、御社だとそれに加えて食欲に関する視点での確認も欠かせないんですね。

山田氏(Retty) 私たちが求める粒度が細かすぎる故かもしれませんが、除外すべき広告クリエイティブが、何度ブロックしても出てきており、それを根元から解決できていません。これはどのSSPさんでも起こりうる問題だと考えており、また運用を最適化しようとすればするほどステイクホルダーが増えます。そうすると、どのステイクホルダーに問題があるのかを調査しなくてはなりません。

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― 山岡氏(brainy)なるほど。収益を最大化しようとすると、複数のステイクホルダーを使い取捨選択する必要があるのに、御社の場合は掲載可否の対応が増えてしまうので、容易にステイクホルダーを増やすことができないんですね。

紆余曲折の末に辿り着いたヘッダービッドへのチャレンジ

― 下山氏(brainy)近年、御社ではアドテクへの取り組みにどのような変化がありましたか?

山田氏(Retty) プランニング側とテック側に分かれて二人体制で行っているのですが、プランニングの部分で、2017年はかなり動いた年でした。年の前半くらいまではGoogleのAdExchangeを軸とし、SSPなどを使うことで両者間でのダイナミックアロケーションの最適化を突き詰めていました。後半は、ヘッダービディングを中心にプランニングから実装までやっています。目的はCPMを上げることと、収益化のチャネルが1社に依存している状況を調整することです。具体的には複数社とヘッダービディングの話をしており、一部導入済です。最適化は進行形という感じです。

― 山岡氏(brainy)目的の1つにある「特定の1社に依存する」お話ですが、他のパブリッシャーでも聞きます。御社ではどのようなことを気にされているのでしょうか?

山田氏(Retty) 単純に売上の構成が圧倒的に1社によっており、もしも何かあったらという潜在的な不安がひとつです。また、収益が決まる厳密なロジックが開示されていないという点も挙げられます。

― 山岡氏(brainy)もう1つの目的にあったCPMを上げる点では、今年どのようなステップを踏まれたのでしょうか?

山田氏(Retty) ここ2、3年でCPMが下落しており、現状を打開するために、しっかりとしたプランニングを開始しました
社内には、アドテク出身の社員がいなかったため、パブリッシャー側での広告運用に長けている人を紹介してもらったり、また勉強会に参加し、そのまま飲みにいってアドバイスをもらうなど、アナログに知見を蓄積していきました。

進藤氏(Retty) 広告ベンダーにヒアリングすることもあります。特にヘッダービディングのように目新しいソリューションの場合、社内の知見だけだと方針や戦略を決めきれないことがあります。広告ベンダーから実績・事例をヒアリングしながら、方針と戦略を決めています。

山田氏(Retty) ウォーターフォールと、ダイナミックアロケーションについては、大体どこも近しい取り組みをしており、質問をすれば答えを得られます。しかし、ヘッダービディングに関しては、一部の先進的なパブリッシャーでないと事例がまだない状況です。

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進藤氏(Retty) 例えばヘッダービディングだと、組み込み方としてクライアントサイドとサーバーサイドラッパーの両方とも提供されています。Rettyではいま併用して組み込んでいます。クライアントサイドの実装だとレイテンシーの問題があるので、将来的にはサーバーサイドラッパーに移行していく予定です。
ただ、現状だとサーバーサイドラッパーだとクッキーロスによるユーザーマッチ率が低くなるという話も聞いているので、併用しながら検証をしています。

― 下山氏(brainy)やはり、最新のテクノロジーを導入するのはいろいろと苦労がありますね。導入されたヘッダービディングにおいて具体的に収益はどのくらい伸びましたか?

山田氏(Retty) 導入前対比で120%~130%くらいにCPMの水準が上昇しました。
ヘッダービディングベンダーからの収益が高かったという認識です。AdExchangeの収益はほとんど下がらず、ヘッダービディングベンダーの収益がそのまま上乗せになったイメージです。

どうする!? 保証取引

― 下山氏(brainy)ヘッダービディングに限らず、最新トレンドをうまく収益に結び付けるために大事なことはなんだとお考えですか?パブリッシャーによって成功可否が分かれる印象です。

進藤氏(Retty) 収益を最適化するために、戦略と体制を整えることが大事だと思います。
いまPMPやヘッダービディングなど、パブリッシャーサイドでコントロールできるソリューションが整ってきています。そのため、収益を最適化するためのソリューションや運用レバーがいくつもあるなかで、自社サービスに適した広告ベンダーの選定であったり、KPIの設計、調査・検証・導入をスケジュールに落とし込む、といった方針・戦略を立てていくことが重要になってきます。

また、決まった方針・戦略をスムーズに回していくために体制作りも重要です。Rettyでは、広告運用に携わるプランナー・広告運用・エンジニア・データサイエンティストといった様々な職種のメンバーが、チーム内で密にコミュニケーションを取り、施策を素早く回すことができています。

― 下山氏(brainy)確かに、ソリューションの数ばかりが増えても意味はなく、それをうまく取り扱わないと収益には結び付きませんね。導入後の運用は大事だと思います。

山田氏(Retty) 収益化を追求して、最適化を突き詰めれば突き詰めるほど管理が複雑になる。これはプランニング側としてのジレンマです。

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― 下山氏(brainy)難しい問題ですね。管理工数を大きくせず、収益を追求する方法はあまりないですよね?

山田氏(Retty) 対SSPさんと保証取引をする方法も1つありますが、考え直す必要性を感じています。保証取引は特定の枠を、一定期間固定のCPMで販売するケースが多く、そうすると変数が広告インプレッションのみになるので、売り上げを読みやすくなる大きなメリットがあります。けれども、結論としてはこの方法はあまりよくなかったと感じています。

― 山岡氏(brainy)積極的に保証取引を進めるパブリッシャーもまだまだある中で、「よくなかった」とご判断されたのはどういう理由からでしょうか?

山田氏(Retty) 結局、両者にデメリットがあると思うに至りました。広告枠を買い切ってもらう代わりに、1つの枠の運用を放棄して、全て渡してしまうので、機会損失が起きることがあります。例えば、ヘッダービディングを進めていきたい枠があっても、その枠でそれをできなくなってしまい、改善が遅れてしまいます。SSPさんの立場からしても、パブリッシャーからはかなり高い水準の保証値を求められるケースが多いでしょうから、体力的に消耗する部分が大きいはずです。短期的な収益は上がりますが、自社での最適化を止めることになるので、中長期的で見た場合の収益への貢献については懐疑的になりました。

― 下山氏(brainy)確かに、保証取引は短期的なメリットは大きくても、中長期的な視点ではでデメリットになるかもしれませんね。

パブリッシャーにも「後継者問題」

― 下山氏(brainy)「アドテクの理想と現実」ということで、他に課題に感じられていることはありますか?

山田氏(Retty) パブリッシャー側でアドテクの知見がある人は思っている以上に少ないことです。ですから、どんどんテクノロジーが進化していっても、現在の担当者に何かあった時に対応できなかったり、ノウハウが複雑化しすぎたりしているため、簡単に共有していくことができません。担当者が少ない、任せることができる人がいないゆえに、属人化が進みます。

― 下山氏(brainy)パブリッシャーのご担当者様が退職された途端に広告収益が下がり、且つ、周辺情報がブラックボックスだったという話を聞いたことがあります(笑)

山田氏(Retty) さらにパブリッシャー側の情報源は、文献も少なく、具体的な運用マニュアルのようなものは無いに等しい状態です。アドサーバーとしてDFPを使っていますが、サービスとどう連携をすればよいのか、フロアプライスは何円で引けばよいのか、リクエストのカバレッジ率はいくつがよいのか、そうしたノウハウを持つ後継者作りが今の時点では難しいです。

進藤氏(Retty) エンジニア側としても同じ意見です。いわゆるアドテクエンジニアに求められることは幅広く、開発業務はもちろん、商品企画支援・広告ソリューションの選定といったアドテク領域の深い知見も求められます。ただ、パブリッシャー側で、アドテクエンジニアを採用するのはなかなか厳しいです。サービスに携わりたい、で来るエンジニアはいても、アドテクをやりたい、で来るエンジニアは少ないので。そうなってくると社内での育成が大事になってくるのですが、アドテクをやりたい!と手を上げてくれるエンジニアは少ないのが現実です。

山田氏(Retty) パブリッシャーにいる人は、サービス側に携わりたいと考える人が圧倒的に多く、広告ビジネスは人材確保が結構大変です。
パブリッシャーに、アドテクを目的に入社する人はなかなかいないので、伝えるのが大変ですね。ただ、はまる人ははまりますね(笑)

― 下山氏(brainy)加速度的に進化するアドテク業界ならでは悩ましさですね。 パブリッシャー同士でもそのようなお話をされたりするんですか?

山田氏(Retty) パブリッシャー同士の横のつながりが案外少ないので、つながりを作っていきたいです。また、助けていただいたこともあったので、お役にたてることがあれば協力したいと思います。コミュニティを作ることができれば、より有益な情報も共有できるようになると考えています。

進藤氏(Retty) いまアドフラウドやアドベリフィケーションといった問題がありますが、パブリッシャー側ではどういった対応をすれば良いのか、どういうツール導入すれば良いのか分からないのでそうした意見交換も是非してみたいです。

― 山岡氏(brainy)パブリッシャーの知見が集合すれば、業界全体が盛り上がりそうですね。本日はサイトの特徴から広告マネタイズの方法まで細かくお話し頂きありがとうございました。

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ABOUT 野下 智之

野下 智之

ExchangeWire Japan 編集長

外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。 2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。