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複雑化見据えたプラットフォーム開発を マリンソフトウェアが見据える次世代検索連動広告 [インタビュー]

グローバルで検索連動型広告市場を牽引するマリンソフトウェア。大手広告主や代理店向けに自動入札ツールを提供する同社は、広告会社や広告主の検索連動型広告運用の動向をどのように見ているのか。今後の戦略を含め、アジアパシフィック地域 マネージングディレクターのレヴェルズ・ジェイ氏(写真左)と、同社アジアパシフィック地域シニアマーケティングマネージャーの野澤智氏(写真右)に聞いた。

(聞き手: ExchangeWire Japan 野下 智之)

レヴェルズ氏― 自己紹介をお願いします。

レヴェルズ氏: 私は、2012年の1月からマリンソフトウェアのアジアパシフィック地域のマネージングディレクターを務めています。ソフトウェア業界には11年ほど前に入り、トータルでは日本に7年ほど住んでおります。

野澤氏: マリンソフトウェアのアジアパシフィック地域のシニアマーケティングマネージャーをしております。マーケティングマネージャーですが、マーケティングだけでなくプロダクト全般も担当しています。

― 貴社から見た検索連動型広告市場のトレンドについて、グローバルと日本それぞれどういう状況にありますか?

野澤氏: グローバルについては、全体的に伸びています。中心となっているのはGoogleで、全体の6〜7割程度のシェアがあります。次いでBaidu、Bing、Yahoo!と続いています。世界的に見てもモバイルシフトが非常に進んでおり、検索クエリもデスクトップを上回る量になっています。ただ、ユーザーの行動を見ると、商品を探したりリサーチしたりする段階ではモバイルが非常に多いのですが、購入段階においてはデスクトップの方がまだ多いです。具体的に言うと、サーチクエリ全体だとモバイルが50~55%、デスクトップが45~50%ですが、コンバージョンはデスクトップが60~65%、モバイルが30%程度です。また、これまで急激な勢いで進んできたモバイルへのシフトもその勢いが鈍化してきており、おそらく今年か来年にはバランスがいいところで止まるのではないかと考えています。
日本においては、スマートフォン(モバイル)の方が顕著に突出しています。グローバルと比べ、大体1.3~1.4倍ほどモバイルへの振れが大きいですね。

― 検索連動型広告の市場の伸びに関してはどのような印象をお持ちですか?

野澤氏

野澤氏: グローバルと日本とで傾向が違います。グローバルだと、まだスマートフォンが伸びている段階ですので、市場自体も成長している段階です。一方、日本ではスマートデバイスの普及自体が一巡したということもあり、伸びはフラットかもしくは若干の減少傾向にあります。媒体社の決算を見ても、それは見てとれます。GoogleはPC、モバイルの全てを全部合わせるとプラス成長しています。

レヴェルズ氏: Googleに関しては、他の検索媒体と比べるとモバイルシフトを早い段階で採用し、対策を実装していました。特にandroidの普及は大きな影響を及ぼし、他の検索媒体と比べてかなり強い立場にいると思います。

― 入札単価をPCとモバイルとで比べるといかがでしょうか。

野澤氏: 現状、サーチ広告単価自体はPCの方が高い状態が続いています。モバイルの入札単価はPCの7~8割ほどです。

レヴェルズ氏: 検索媒体に関してのこれからの傾向のお話ですが、これは検索媒体に限定した話ではなく、間接的に競合している媒体についても考えなければいけないと思います。米国で、44%の人がオンラインで商品を探す際に直接Amazon内で検索する、という調査結果が出ました。最近はFacebookもGoogleと同じようなサーチ広告機能を提供すると記事になっていましたし、 SNS内で他の会員さんからを商品のおすすめをもとに購買にいたる 可能性も考えられます。これらの事実は将来的に検索媒体に大きな影響を及ぼすのではないかと思われます。

広告運用と経済状況の複雑化により広告代理店は以前より厳しい環境に

― 貴社のツールは現在も広告代理店への導入が中心ですか?

レヴェルズ氏: 代理店への導入が主だった当初に比べ、広告主と直接契約することも増えてきており、これは業界内全体のトレンドとして強くなっています。当社は上手くプラットフォームを使用するための研修やアドバイスはしておりますが、完全なるソフトウェアベンダーで運用サービスは一切提供していないので、広告代理店と競合することはありませんし、このトレンドに対しても特に強い意見はありません。

とは言え、まだ実際の検索連動型広告の運用に関しては、ほぼ広告代理店が行っているのが現状です。しかし、広告主が自社で運用しようとするケースは確実に増えています。また、広告主としても自社のデータに直接アクセスできるというメリットがあるため、契約は直接当社と行い、運用は代理店に任せるハイブリッド型も増えています。

― その現状を受けて、広告代理店の運用状況は変わってきていますか?

レヴェルズ氏: 4年ほど前と比べ、広告代理店が広告主からもらっているマージンは減少傾向にあります。しかし、検索媒体が新しい広告フォーマットをリリースしたり、消費者のデバイスが増えたりなど、広告運用は複雑化していますので、代理店は昔と比べると厳しい環境に立たされているでしょう。それに加えて経済状況も複雑化しているので、効率的に運用しないと利益につながらなくなっています。その結果、当社のような第三者と契約するケースが増えているのだと思います。

また、フォーマットごとやデバイスごとの分析手法が増えているので、広告代理店もBIツールを使い始め、テクノロジーエコシステムが拡大しています。ベンダー側も様々なテクノロジーとの連携を、というニーズが要求されていますね。

野澤氏: テクノロジーに対するアダプションは海外の方が早く、そして進んでいます。やはり日本だと、どうしてもマンパワーをかけて最適化したり運用したりするケースが非常に多いのですが、欧米だと当社のようなプラットフォームを使用することで運用にかける工数を最少化します。そして人にしか行えない、戦略の立案やより細かい最適化のための 施策などを行っていくケースが多くなってきていますね。

― 自動入札ツールの需要の変化として感じられることはありますか?

レヴェルズ氏と野澤氏レヴェルズ氏: 私が日本にきた2012年頃は当社のような自動入札ツールを使うか手動で運用する か、その二択しかありませんでした。その際にほとんどの代理店や広告主が選んだのは手動での運用でした。その方が安全に感じられたようです。しかし、当社が市場に参入してからは、自動化というアプローチが採用されるようになりました。もちろん市場も自動化の方へシフトしてきたのですが、その結果、検索媒体からも広告主に対して、『うちのツールを使わないか』という媒体社の運用ツールの営業が増えているようです。さらに広告主もよく勉強されていて、ツールへの知識を深めています。この、検索媒体自体が競合になってきたという点と、広告主が細かく検討しているという点、この2つが大きな変化だと感じています。

競合が増えたことにより、広告主のニーズへのベストなアプローチは何か、という考え方も必要になってきました。その結果、市場全体も洗練されて自動化への流れがさらに加速されていきますので、当社にとってもいいことだと思います。ただ、当社はあくまで『手動で100%行うのはベストではない』という考えなので、手動なアプローチを排除したいわけではありません。人間のノウハウが必要な場面も多々ありますし、バランスが重要ですね。

複雑化した広告主からの質問にも回答できるプラットフォーム開発を

― 貴社の今後のグローバルと日本の事業のお取り組みについてお聞かせください。

野澤氏: 私からはマーケティングとプロダクトについてのお話を。まずプロダクトに関しては、媒体主のツールはどうしてもシングルチャネルになってしまいます。その検索媒体の中でしか運用できないのです。当社は、一つのデータをクロスチャンネルで展開し、広告の最適化、パフォーマンスの最大化をしようというビジョンを持っています。また、単にクロスチャンネルでデータを連携させるだけではなく、例えばある検索キーワードで入ってきたユーザーに対して、違う媒体で同じような広告を出す、というように、オーディエンスデータを使用したクロスチャンネルでのマーケティングにも力を入れており、ソリューションをご提供しています。他にも媒体間でキャンペーンや、グループ、キーワードを自動的に同期させることができる『スマートシンク』という機能や、検索媒体の商品リスト広告(PLA)データをFacebookのダイナミックプロダクト広告(DPA)に同期して、検索媒体のショッピングキャンペーンでパフォーマンスがいいものをダイナミックプロダクト広告で出す、という『スマートシンク for shopping』という機能もあります。
これは、通常だとマーチャントセンターから手動でダウンロードして、それを元にFacebookに入稿しなければならないものを、当社のプラットフォームでは自動的に行うことができるのです。また最近はスマートデバイスの拡大により、媒体主側も入札調整がうまく出来るようになってきています。当社では単なる入札調整だけでなく、更にKPIを設定し、出来るだけ目標に近付ける最適化をデバイスごとに行うソリューションやリアルタイムにデバイスごとに指定した掲載順位を保つ機能も提供しています。最後に、先程のショッピングキャンペーンに関連して、商品フィードをマネージドサービスとして受け、お客様に提供するというサービスも計画しています。アメリカではもうまもなく始まり、日本での展開も計画中です。

レヴェルズ氏: 営業面では、2012年に日本に参入した時と戦略の大きな変更はありません。ただ、広告代理店が広告運用のエコシステムの中で重要な組織なので、広告代理店向けの営業やサービスについて考える余地はあるかなと思います。例えばその広告代理店の一つの広告主のパフォーマンスが悪くなった時に、何故そうなったのかをみるための診断サービスなどが増えてきています。どのようにして広告代理店に一貫性のある分析手法を提案するか、というコンサルティング的な部分は重要ですね。

将来的には、もちろん広告主全社が当社のような広告プラットフォームを利用していただきたいです。マーケット自体が広いので、一つの会社だけでなく充分複数の会社が勝つことができると考えています。自動化できる部分は自動化するための様々な機能をご用意しておりますので、その機能を活用し、最適化していただきたいと考えております。
当社のクライアントには大手広告主企業のみならず、中小規模の広告主企業のお客様もいらっしゃいます。広告主が何をしたくてどういう目的があるのか、その現在の目的と一年後にはどこまで成長したいかなどのニーズをヒアリングして、その時のご支援の提案にプラスして将来のパートナーシップをどう組み、進化していくかというプランもご提案いたします。クライアントとは出来るだけ長くよいパートナーシップを保ち、付き合っていきたいですね。

今後は、カスタマージャーニーの把握のサポートに力を入れていきたいと考えております。例えば、CPAに力を入れている広告主は『消費者がどのような流れで自社の商品をオンラインで購入しているのか』と聞かれたら、回答することができません。つまりそのようなカスタマージャーニーを完全に把握していないという意味で、マーケティングマネージャーのミッションはまだコンプリートできていない、それが当社のスタンスです。その回答を実現するために、検索以外のチャネルのテクノロジーも連携や必要に応じて買収し組み合わせ、『どのようなカスタマージャーニーの結果、購買に至っているか』のような質問にも簡単に応えられるようなプラットフォームを開発していきたいと思っております。

ABOUT 野下 智之

野下 智之

ExchangeWire Japan 編集長   慶応義塾大学経済学部卒。 外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。 2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。 2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。