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イベントレポート:「日本のマーケティング組織改革について考える」【後編】

デジタルインテリジェンス、アビームコンサルティング、ベストインクラスプロデューサーズ が共同で「日本のマーケティングテクノロジーランドスケープ 2016年版」を公開、これを記念した3社共催セミナーを開催した

前回に続く第二回目は、アビームコンサルティング株式会社 デジタルマーケティングセクター ディレクター 本間充氏による「マーケティングをデジタル化するために必要な組織改革の方法は」、そして本間氏をモデレーターとした、株式会社IDOM Gulliverマーケティングチーム チームリーダーの中澤 伸也氏、株式会社ベストインクラスプロデューサーズ 代表取締役社長 菅 恭一氏が登壇の「シナリオから定義するマーケティングテクノロジーの活用計画」をテーマにしたパネルディスカッションについてお届けする。

 

消費者の変化でソリューションも変わる

Photo1まずは、本間氏による「マーケティングをデジタル化するために必要な組織改革の方法は」と題した講演。

本間氏は、「デジタルマーケティングのランドスケープについて触れ、日本のマーケティングランドスケープにあれだけ多数のマーケティングソリューションがあることは、一般的にも経営的に考えても未来永劫安定的であるわけではないと考えている。」とし、「企業はこれらマーケティングソリューションが今後5年後、10年後に存在しているかどうかはわからないというリスクを踏まえてソリューションを導入していると想定している。」と述べた。

本間氏はこれらツールの将来のイノベーションよりも、消費者の変化や、企業のデジタルマーケティングの関係者の変化の方が重要であると強調した。

デジタルマーケターが把握しなければならないのはデジタルか?

スライド:「想像していた状況とは違う」本間氏はGoogleZonの動画を流し、2004年に想像されていた2015年の世界を紹介した。動画の中で予測されていたインターネットの革新は、実際この10年余りに世界で実際に起きた様々なインターネットの革新と大差がなかったのだが、予想されていたのはほぼアーキテクチヤ―側(メディア側)で起きた革新であった。一方で、実際にインターネットによってもたらされた様々なユーザーにとっての利便性向上という革新は、ユーザー側が自ら望んで加速させてきた革新であると解説し、航空便の電子チケットを例に挙げた。

本間氏は、「現在のマーケターは、このユーザーを取り巻く環境の実際の変化にしっかりと着目するべきだ。」と強調。

例として、現在多くのマーケターが日本の世帯所得を頭に入れていないままにマーケティングを行い、ターゲットを見失っていることや、かつてのマーケターがターゲットとしていた「どまんなか=マス」のターゲット層がいまや存在していないことを解説した。20年前のマーケティングでは、プロダクトアウトし、メディアを使ってマスコミュニケーションを展開すれば成果が出たが、現在の世帯所得格差の広がりによる消費者の多様性によって、多種多様にセグメンテーションされた顧客が存在する現在では、従来のマーケティングの概念は一切通用しないことを具体例を挙げて解説した。

「誰が、顧客かが、重要!」

本間氏はまた、古舘春一によるスポーツマンガ「ハイキュー!!」(週刊少年ジャンプ)の映画化ビジネスモデルとプロモーションとを例に挙げ、従来のマスマーケティングが効果を発揮しないこと、また将来の顧客像とビジネスの関連性を解説した。

本間氏の前職である花王のマーケティング施策を紹介し、洗剤「アタック」のターゲットとしている顧客数であった50万人という数字が、実は現代のサブカルチャーコンテンツである「ハイキュウ‼」のターゲットユーザー30万人とほぼ同サイズであることを挙げ、いまやマスマーケティングだと思っているマーケティング施策のターゲット規模がサブカルチャーと同等であることを実証し、これら母数のうちの2%, 3%の、明確にセグメントされたターゲットに対してそれぞれどのように、デジタル化したマーケティングでコミュニケーションを行うのがマーケティングの成功へのキーであるとした。

市場が成熟し、顧客に多くの選択肢がある今、サブカルチャー層がボリューム層と同等扱いとなったことで、マーケターはターゲット層をより明確に選択できるようになった。マーケターがメディア上で効果的に広告するためにはこの細かなターゲティングが得意なメディアを使うべき、そしてそのためにデジタルメディアを使う、というマーケティングロジックを意識することが重要だと強調した。これがデジタルマーケティングとはマーケティングのデジタル化であるという。

スライド:「マーケティング・コンセプトの進化・変遷」本間氏はマーケティング・コンセプトの進化・変遷を解説した後、まとめとして本間氏が強調したのは、今後も市場変化は継続し顧客の多様化は進むため、マーケッタ―、特にマーケティングリーダーは自社マーケティングに得手不得手があることを認識しなければならないこと。新しいテクノロジーだけでなく、今まで実績を出してきたマーケティング施策もきちんと評価し、今後どの分野のマーケティングを伸ばすべきを見極めること。また、多様化した顧客に対応できる適切なマーケティング戦略を迅速に決定すること。

さらに必須なのは、マーケティング部門のリーダーシップを明確にし、マーケティング部門からの全社に渡るマーケティング議論を起こすことによって、製品戦略に始まり、組織組成や人材獲得や配置も適切におこなえるようになると締めくくった。

オフラインとオンラインの営業面での融合がマーケティング着地点

image4続いては、ゲストスピーカー株式会社IDOM Gulliverマーケティングチーム チームリーダーの中澤 伸也氏と、株式会社ベストインクラスプロデューサーズ(BICP) 代表取締役社長 菅 恭一氏が加わっての「シナリオから定義するマーケティングテクノロジーの活用計画」をテーマにパネルディスカッション。

ガリバーで知られるIDOMでは、店舗商談を最終着地点とするリード獲得と顧客育成を目的としたマーケティングオートメーション(以下MA)をBICPの支援を受けながら導入した。ガリバーがユニークな点としてカスタマージャーニーの真ん中に店舗商談というオフラインでのアクションが存在するため、リマーケティングでは顧客を追いきれなくなること。また商材が高価であり、顧客の購入サイクル、つまり商品検討期間が平均8年間と長いためCRMは全く機能しないことを挙げた。

この環境でオフラインとオンライン両方のマーケティングを統括する中澤氏が最も尽力しているのは、リード獲得施策中心に、1週間~3か月間の商材検討期間にどう顧客に接触して獲得に結び付けるかだという。そのため、見込み顧客のターゲティングの質と、歩留まりを最大限向上させることをマーケティングの命題としていた。

稀なるマーケティングオートメーションの成功のカギ

スライド:「ガリバーのマーケティングモデルと重点… 」中澤氏が2015年夏にMA導入を起案してすでに1年3ヶ月が経過しているが、本格導入から現在までまだ6か月しか経っていない。最初の6か月間をBICPと導入前の準備に充てて徹底的に要件定義と機能設計に費やし、延べ8か月以上をテスト期間に費やしたという。

B2B的なMAの使い方を設計していた中澤氏は、MA活用によって適切なタイミングで適切な施策を最適化し、リード獲得以降の歩留まりをを1%でもアップさせられれば経営的にかなりのインパクトがあると見込んでいた。

成功の要因は大きく二つに整理された。

一つ目はツール選定の前にBICPと共同で想定される仮説シナリオを10本以上設計し、RFP(Request for Proposal)に反映させたこと。シナリオから求められる機能要件を詳細に抽出したことで、要件を満たすMAの選定プロセスが精緻化された。

二つ目はMA導入の準備と並行して組織と人材の整備をおこなったこと。チームの多くにデジタルマーケティングの経験が殆どない営業出身者を登用したことが特徴的で、セールス現場の経験、ノウハウとデジタルマーケティングのスキルを融合させることが、Webとリアルを行き来するマーケティング活動を成功に導く必須要件だと話した。テストマーケティングの段階からBICPが提供するマーケティング活動の実行プロセスを採用し、OJTを通じて営業出身メンバーのマーケティングセンスを磨き、現場の動きを理解してもらい、それぞれの顧客のカスタマージャーニーを描きながら最適な打ち手の設計、実行ができるように徹底的な「教育」を6ヶ月間にわたり行った。

プロセスと人材を整備することで、マーケティングゴールに導くためのコミュニケーションに関する洞察やPOE含む顧客の導線、実行すべき施策がわかってくる。その結果、MAで担うべき機能や活用方法が見えてくる。多くの場合はMA導入ありきでシナリオや人材整備が後付けになりがちだが、中澤氏はここを失敗しなかった。

デジタル化されたマーケティングの、ゴールとKPI

最後に中澤氏は、ガリバーは徹底的にユーザー獲得にフォーカスしているからこそデジタルマーケティングがマーケティングの中心になっていると話した。だがそこで重要なのは、マーケティングが営業現場に貢献できている実感を社内で醸成していくことで、その次の段階として、デジタルを適用させるマーケティング活動の領域を拡大していくことだという。

様々な立場から非常に総合的かつ大局的なデジタルマーケティング理論が展開され、日頃からリード獲得率、コンバージョン率のアップ、CPAの低減またはROIの向上に追われる現場の方々にとってはやる気と希望が湧く内容であったし、管理者やリーダーの方々にとって組織づくりや人材配置に関する根本的な悩みへのヒントが提供された学び多きセミナーであったのではないだろうか。

ABOUT 野下 智之

野下 智之

ExchangeWire Japan 編集長   慶応義塾大学経済学部卒。 外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。 2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。 2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。