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動画リワードは「ユーザーが自ら見ることを選択する広告」:nend動画広告市場参入の背景とその戦略 [インタビュー]

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今年1000億円を超える動画広告市場に、スマホアドネットワークの雄、ファンコミュニケーションズのnendも本格参入をした。

動画広告市場参入の背景や同社の取り組みなどについて、nend事業部 プロダクトマネージャー 浅見謙二郎氏にお話を伺った。

(聞き手:ExchangeWire Japan 野下 智之)

nendはリエンゲージメント配信で業績回復

― nend事業全体の直近の状況についてお聞かせください。

2010年からスマートフォンアドネットワークとしてプロダクトを展開していまして、今年の7月に7周年を迎えました。スマートフォン所有率の伸びと一緒に成長してきましたので2014年頃までは急成長を続けていたのですが、2015年から2016年にかけてはスマートフォンユーザーの伸び率低下とともに売上も減少傾向にありました。今年に入ってからは徐々に売上も回復し、再び上昇傾向にある状況です。

要因としては昨年の6月にリリースしたアプリ向けのターゲティング広告となる「アプリエンゲージメント広告」の販売が好調なことが挙げられます。これはアプリ内の広告識別子(IDFA、Google Advertising ID)を使った配信で、既存ユーザーとのエンゲージメントを高めるために特定のアクションを促す配信や、一定期間アプリを利用しなくなった休眠ユーザーへ復帰を促す配信(リエンゲージメント)が可能になりました。今年に入って急速に伸びてきていて、前年比では3倍以上の規模感になってきています。

ロングテールメディアとソーシャルゲームが伸びしろの動画リワード領域に参入

― 今回動画広告をリリースした背景(市場環境や貴社のご事情など)についてお聞かせください。

国内でもゲームアプリやマンガアプリなど、動画リワードを中心に動画広告の導入事例が増えてきました。現在の市場規模感としては動画リワードフォーマット単体で月間約10億円前後の市場規模があると推測しています。これはまだまだ伸びる余地があると思っていまして、ポイントは「ロングテールメディアへの導入」と「ソーシャルゲームへの導入」だと考えています。

nendはこれまでに13万のアプリメディアが導入した実績があり、ロングテールメディアにも広くリーチしているため、この多くのメディアに対しても動画広告のスムーズな提案が可能です。ソーシャルゲームに対してもクライアントとしての接点がありますので、動画リワードの導入方法についてアプリ企画段階から積極的に関わっていき、課金以外でのビジネスモデルとして確立できるように提案していきたいと思っています。

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また、これまでバナー領域では国内の広告事業者が市場の主要プレイヤーだったのですが、アプリ向けの動画領域における主要プレイヤーとしては、グローバルで成功している海外事業者が国内でも大きなシェアを持つようになっています。配信される広告案件も現状は国内アプリは少なく海外アプリの日本版などが多い状況です。ここにnendが参入することで国内アプリ案件による出稿数も増やせると思っています。

― 動画広告のプロダクトはどのようなものでしょうか。

今回リリースしたのは「動画リワード」と「動画インターステイシャル」です。動画リワードは動画専用のアドフォーマットになっていまして、アプリのユーザーに対してなんらかしらのインセンティブ(例:ゲームのコイン付与やコンティニューなど)を提供することで、約30秒程度の動画広告を視聴してもらうものです。メディア側は動画再生開始(インプレッション単位)で広告収益が発生するようになっています。

広告主側は新規インストール配信だけでなく、既存ユーザーへのアプリエンゲージメント配信も可能で、クリック課金での利用になります。活用シーンとしては特に動画を使った既存ユーザーへのアプローチは伸びてくると思っていまして、例えばゲームの場合、多くのユーザーが離脱している特定のポイントがあるのであれば、対象ユーザーに対してそのポイントを攻略するための動画広告を流すなどして、ユーザーの復帰を促すことが可能になります。よりユーザーの気持ちを理解したコミュニケーションをとることで、復帰後の高いエンゲージメントも期待できるかと思います。

差別化のポイントは「顧客基盤の活用」・「テクノロジーの活用」・「透明性」

― アプリメディア向けの動画広告マーケットは、既に多くの事業者の参入が見られますが、その中で貴社はどのような特徴を出していくおつもりでしょうか?

「顧客基盤の活用」と「テクノロジーの活用」と「透明性」の3つがあります。

「顧客基盤」としては、先ほどメディア側は13万のアプリメディアにリーチできる強みがあるとお話しましたが、広告主側でもトップセールス100に入るアプリの内、約9割に出稿いただいているという実績があります。これまで以上にアプリメディアや広告主に対して、動画広告を普及させられると思っています。

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「テクノロジー」については、今回新たに最適化アルゴリズムをフルリニューアルしました。新しいアルゴリズムは、機械学習を活用し、広告配信実績と広告主が求める成果目標をベースにして、インプレッション単位で最適な入札が行われるものになっています。

これまでもnendの最適化精度については高い評価をいただいていたのですが、基本的には「人による運用×テクノロジー」がベースになっていました。これは人が細かい運用をすることでテクノロジーのみの運用に勝る精度を提供できていたからなのですが、今回ようやく自分達でも納得のいくレベルでのアルゴリズムを作ることができたと思っています。テスト配信ではほとんどの案件で成果目標との誤差が10%以内に最適化され、また最適化までのスピードについても高いスコアを出せています。

3番目の「透明性」に関しては、特に動画広告では「ビュースルーコンバージョン対象とするビューの定義」が広告事業者ごとに異なっていて、設定されている内容を広告主側でも把握できないといった問題があります。

中には広告主への説明が行われていない中で、動画視聴開始のタイミングがビュースルーコンバージョンの対象とされていて、また計測ツール側からコンバージョンのポストバックが行われる期間が異常に長く設定されているというケースもありました。これはオーガーニックのインストールを広告事業者の成果としているだけで、本質的な広告価値ではないと思っています。

nendではビュースルーコンバージョン対象とする動画視聴時間の設定も管理画面上から行える仕様になっており、広告主に対して透明性高く正しい広告パフォーマンス評価ができる機能を提供しています。

― 動画広告の案件(広告主)の特徴があればお聞かせください。

動画というとブランド広告主からの出稿ニーズが注目されやすいですが、私達がメインターゲットとしているのはアプリを提供する広告主です。

ジャンルとしてはゲームがもちろん主軸ですが、最近伸びているのはマンガやニュース/キュレーション、音楽アプリなどです。またこれまでのように課金収益モデルアプリの出稿だけでなく、広告収益モデルのアプリ(カジュアルゲームなど)の出稿でも高い成果が出ていますので、既存のアプリメディアが広告主になるというケースも増えてくると思います。

また、動画クリエイティブをお持ちでないクライアント様もいらっしゃるかと思いますので、社内に動画クリエイティブ制作チームを立ち上げています。

動画リワードは「ユーザーが自ら見ることを選択する広告」

― スマホ向け動画広告については、画面占有率の高さからもとりわけユーザーが不快感を覚えやすいといわれていますが、貴社サービスではユーザーに対してどのような配慮をされているのでしょうか。

動画リワードに関してはユーザーがアプリ内インセンティブを得る代わりに「自ら見ることを選択した広告」となるため、むしろユーザーにもっとも好まれる広告として利用されています(UnityAdsの調査ではユーザーがもっともメリットがある広告フォーマットとして54%が動画リワードを選択)。

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動画インターステイシャルに関しては、アプリ利用の隙間で急に広告が立ち上がるので、ユーザーに配慮した設計をする必要があります。よく動画が勝手に再生されてなかなか広告を閉じられないというケースがありますが、これはアドネットワーク側で広告クローズするボタンの表示タイミングが固定されてしまっていて、アプリメディア側で秒数を指定できないケースが多いためです。私達の動画インターステイシャルではアプリメディア側でクローズボタン表示タイミングの秒数を指定できるようになっていて、ユーザービリティを考慮した配信を行うための機能を提供しています。

― 貴社動画広告を導入できるアプリの対象をお聞かせください。

両フォーマットとも全画面型の動画広告になりますので、ゲームアプリやマンガアプリなどがメインです。

導入に必要な広告配信用SDKだけではなくUnityやCocos2dxのプラグインも提供し、また動画の場合は広告メディエーションやSSPを導入するケースも想定されますので、サービスリリース段階で国内の主要メディエーション5サービス(アドフリくん、Ad Generation、adstir、viidle、AdMobメディエーション)との連携も完了しています。

3年後のnend売上に占める動画広告は過半数!?

― 今後の導入目標についてお聞かせください。3年後には現在のnend売上のどのくらいの割合になると見込まれていますでしょうか。

動画広告としては後発ではありますが、既存の市場に求められる機能はリリース段階で提供できているのと、新しい広告配信システムのテストで高い成果が出ていますので、まずは来年の早い段階で国内トップ3のシェアを獲得できるくらいの規模感まで一気に増やしたいと考えています。そのための導入キャンペーンなども展開を予定していますので、ぜひご期待ください。

3年後には売上の半分以上が動画広告になることを見込んでいます。動画広告領域においてはチャレンジャーですが、そのくらいのポテンシャルはあると思います。nendが大事にしている、広告主-メディア-消費者がwin-win-winになる広告プラットフォームを目指して事業拡大をしていきたいです。

ABOUT 野下 智之

野下 智之

ExchangeWire Japan 編集長   慶応義塾大学経済学部卒。 外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。 2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。 2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。