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「ユーザーモチベーションを無視しない広告を」 CMerTVが描く動画広告普及のシナリオ [インタビュー]

 

動画CM配信プラットフォームを展開するCMerTV。近年のスマートフォン動画広告需要の高まりを追い風に、売上を急拡大している。そんな同社の代表取締役社長 五十嵐彰氏に、動画広告市場の現状や、広告主のニーズと課題についてお話をうかがった。

(聞き手: ExchangeWire Japan 野下 智之)

成長する動画広告市場で今後起こる淘汰

― 動画広告の市況についてお聞かせください。

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動画広告のニーズはこれからもどんどん高まり続けるなと感じています。ただ、広告の質や配信フォーマットが選別され、今ある多くのもののなかから、徐々に淘汰が進むのではないかというのが私の考えです。

動画広告は、「インストリーム広告」と「アウトストリーム広告」の2つに大きく分けることができます。インストリーム広告は、YouTubeを始めとした動画サイトの中で、動画コンテンツの前後に流れる動画広告。アウトストリーム広告というのは、ニュースサイトなどのデジタル系活字媒体の見出し面や記事面に流れる動画広告です。米国ではいまだにインストリーム広告が盛んですが、ヨーロッパや日本では、今後アウトストリーム広告の市場がより伸びていくのではないかと。特に、スマホのアウトストリーム市場は非常に伸びていくと感じています。我々は、そこにフォーカスして、注力していく形をとっています。

― アウトストリーム広告市場が伸びていく背景はどこにあるのでしょうか?

やはり、スマホの普及が非常に大きいです。配信インフラも整備されガラケーでは難しかった高画質の写真や動画が簡単に視聴可能になりました。また、情報のグローバル化も大いに関係しています。例えば、先日のリオオリンピック、競技が行われていたのは日本時間の深夜、翌日の朝になって最新情報をスマホで入手したユーザーも多かったのでは?
この先、デジタルメディア、特にスマホが軸になって情報を入手する流れを疑う人はいないと思います。ガラケー時代と違い記事も写真も動画も視聴できる。そしてその場(メディア)自体が広告表示の絶好の機会になる。動画だけではなくいかに記事と写真が充実しているかがメディア側の勝負の決め手となってくるでしょう。

ブランド広告の位置づけと広告の二極化

― 今年動画広告に関連するトピックとして、注目しているところはありますか?

「ブランド広告の位置づけ」ですね。広告主様の考え方が明らかに変わってきています。「動画=ブランド広告」という位置づけをしている企業が増えているのです。以前は「デジタル広告」と一括りにして、デジタル予算から出されていた費用が、ブランド広告という位置づけによって、テレビ広告や既存のマス広告の予算から出稿するという傾向が顕著に現れてきました。

― テレビ広告の予算が明確に移ってきたのでしょうか?

テレビ広告というか、マス広告の予算ですね。今までは「デジタル媒体だからデジタル広告の予算から出す」と単純に考えられていたのですが、例えば新聞や雑誌などの紙媒体系のデジタルメディアに動画を流す場合、デジタル予算ではなく新聞や雑誌の予算から出す!という流れも出てくるかと。マス広告の予算を担当されている方が、動画広告も兼務するケースが増えてきたということです。

もう一つのトピックとしては、人手をかけずプログラマティックに配信をしていくようなターゲッティング広告と、メディア自体をしっかりターゲッティングしてプレミアムな場所を指定して広告を流す、という2つの流れに二極化していく流れです。動画はどちらかというと、企業ブランドを背負っている広告です。雑多なメディアにはなかなか流しづらいのです。今後はアウトストリーム広告においては配信するメディアのターゲティングが絶対条件になっていくと思います。

マスメディアとデジタルの融合が顕著に

― 広告主側の変化を感じている部分はありますか?

少し前に、テレビを見ている人の7~8割がスマホを見ながらテレビを見ている、という指標が出ました。それから動画広告の傾向自体が変わってきたように感じています。ほんのちょっと前まではBuzz動画やWeb専用動画などが流行っていましたが、最近はあまり聞かないですね。最近の主流は、テレビCMとの連動性です。それは全く同じ広告ということもありますが、中には連動性のあるものやテレビCMを想起できるような広告もあります。スマホを触りながらテレビを見ている視聴者は、テレビCMもしっかりと見てくれないんです。だからテレビとスマホのマルチスクリーンで挟み撃ちにして、連動制のある動画広告で認知と興味・関心を獲得していく必要があるんです。

― 広告主からリクエストとして、最近多いのはどのようなことでしょうか?

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かつて、デジタルの広告は、多少お行儀が悪くても思い切ってやってしまうってことが多く、例えば権利処理や考査基準などについては、権利者から叱られたら「ごめんなさい」して修正すればいいのだ、というような状況があったことも否定できません。しかし、ブランド広告では基本的にそれはご法度です。我々プラットフォーム側が独自に考査基準を持ち、権利処理もしっかり行っていかなければいけない。テレビCMなどのマス広告と同じような流れが最低限求められます。

以前は、昨日の今日で始めることができるというのが、デジタル広告の良さでした。それが成熟期を迎えて、だんだん既存のマスメディアとデジタルが融合してくると、その作法もマスメディアのものが入ってくるようになります。当社は創業時から著作権処理は包括的にやっていますし、考査基準も独自のものを持っています。「なに堅苦しいこと言ってるんだ、僕たちには関係ないね。」と言っていたデジタル広告系企業は、いずれ対応に迫られることになると思います。

― 広告会社による貴社のサービスや動画広告に対する接し方や扱い方が変わってきたと感じるところはありますか?

はい。既存のマスメディアと、当社の動画広告をセットで販売する、ということが増えてきています。例えば、ニュース番組を提供しているスポンサーに、ニュース系のアウトストリーム動画広告をセットにして提案したり、新聞の15段広告に出稿したクライアントがその後一週間ぐらいその新聞社のデジタルメディアに動画広告を配信したり。広告会社側が、今までの提案にデジタルメディアの動画プランをプラスして提案していこうとする動きが確実に出始めている実感があります。

― その予算はマス広告予算ですか?

マス広告というか、新聞広告トータルの予算です。以前のように、テレビだけとか新聞だけ、雑誌だけ、というような出稿形態は少なくなってきていると感じています。必ず、デジタルを組み合わせています。当然マス広告はブランド広告として使っているので、同じようにブランド広告を出せるデジタル媒体はないのか、という要望がクライアントからよく出るのです。その際に、当社のような企業がデジタルメディア側に動画配信をOEMで提供する場合も増えています。我々がセールスするというより、新聞社さんや雑誌社さんかが自らセールスしてOEMで弊社のソリューションを活用するというケースが目立ち始めています。
当社の「Perfect View Network™」は、テレビ広告の出稿文脈に則ったロジックで配信できるサービスです。その面の中で完全再生率の高い広告を高画質で配信できる。それはテレビ広告と同じ流れなのです。そこが重要なポイントです。

放送業界には放送法というものがあって、24時間365日で広告枠が全体の何%って決まっています。つまり、上限が決まっている。その点デジタルは無限ですから。セット売りをしていくことで、広告会社さんやテレビ局にとっては新収益源になるというわけです。

― 以前は動画広告はテレビ広告の予算を奪うものだと見られていましたが、そうではなく、むしろテレビ局に新しい収益源をもたらすということですね?

動画広告は、テレビ局、新聞社の売上をあげるもの。そういう使い方をされるようになってきましたね。どちらかというと味方に取り込みつつあります。動画広告はテレビCMと同じでわかりやすいですし。

ユーザーのモチベーションを無視しない広告を

― ユーザーに関するお話もお伺いしたいと思います。広告をストレスに感じさせないためにどういうことに気をつかっていますか?

photo3一番重要なのは、ユーザーがいまどのモチベーションなのかをしっかり把握することです。例えば、スポーツの記事を読んでいる時に全く違う金融サービスのCMを流すというのは明らかにミスマッチです。しかし、
オリンピックの記事を読んでいる時にオリンピック選手が出演しているCMが配信され、「私たちはオリンピックを応援しています、みんなで一緒に盛り上げよう!」というようなメッセージを発信していたら、ユーザーのストレスは逆に好感・好意に変換します。ユーザーのモチベーションを無視して一方的に広告配信する人だけをフォーカスしたターゲティング広告は動画には全く適さないということを過去の実績から学びました。大事なのはユーザーに動画広告自体が一つの価値や情報だと思っていただける場所(メディア)を厳選して配信することだとおもいます。

― 動画広告がもっと普及していくための課題としてどういうことがありますか?

動画配信にかかるコストと、動画の圧縮技術ですね。高画質で広告を届けるための技術革新は、各社日々努力をしています。

また、一歩ずつ着実に、根気よく進めていくというのも必要なことです。どういうことかと言うと、例えば当社の「Perfect View Network™」の動画を媒体社さんが導入していただくことになった際には、配信までには、テスト期間も含め6ヶ月ほどかかります。しっかりとした検証をせずに始めると、事故が起こるからです。それが続くと広告主様の不信を招きます。当社だけではなく、業界全体で気を付けていくべきことです。

また業界全体で、動画広告の効果に関する統一された指標を作っていくことも重要だと考えています。テレビの中の指標と合わせて効果を測れるような仕組みを作っていきたいですね。

― 貴社は今後の動画広告の市場で、どんなオリジナリティを発揮されていくつもりでしょうか?

一つは、スマートフォンのみではなく、日本全国の隅々のディスプレイにまで動画広告を配信できるようにするということです。ロンドンオリンピックが終わった後、英国ではユーザーをしっかりとターゲティングできるようなデジタルサイネージのビジネスが成功しました。当社も東京オリンピックを見据えて、デジタルサイネージを活かしたコンテンツを始めています。

例えば、当社では現在歯科医向けに配信している「デンタルTV」という商品があります。今まさに歯にトラブルを抱えている人向けに、歯ブラシや歯磨き粉、ガムの広告を配信する。このように、モチベーションがしっかりターゲティング出来ているエリアに動画広告をしっかりと配信していくというサービスを一昨年リリースしました。かなりご好評いただいていており、今後も注力していきたいと考えております。このほかにも全国のカフェ・ファミレス・居酒屋の注文端末に動画広告を配信する「カンパイTV」、全国のセルフのガソリンスタンドの給油モニターに動画を配信する「ドライバーズTV」、全国のメガバンク・地方銀行の待合室やATMに動画を配信する「BANK TV」などなど、全国を隈なく結んで動画デジタルサイネージの巨大なネットワークを構築中です。
ぜひ、この先のCMerTVの未来にご期待ください。

ABOUT 野下 智之

野下 智之

ExchangeWire Japan 編集長   慶応義塾大学経済学部卒。 外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。 2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。 2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。