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縦型動画はSnapchatのみならず、プレミアモバイル広告フォーマットに-AdColony社Ryan Griffin氏へのインタビュー-

2年前に、Snapchatが縦型広告を開始した。1年後、FacebookとInstagramがそれに続いた。そして現在、ゲームから、ニュース、エンターテイメントに至るまで多くの非ソーシャルモバイルパブリッシャーが、このフォーマットを採用しはじめている。ExchangeWireはAdColony社の戦略部門SVPのRyan Griffin氏に縦型動画のトレンドについて話を聞いた。

― 縦型動画フォーマットは、非常に盛り上がっているように感じますが、ソーシャルプラットフォーム以外では、期待ほどに広がりを見せていません。このことについての見解をお聞かせください。

一番の障壁は縦型フォーマットでの動画広告制作の費用でしょう。企業やエージェンシーは顧客に最も費用対コストが良い形でアプローチをしたいと考えており、「効果のある」メディアへ予算を割振る傾向があります。一方で、縦型動画においては、制作に別費用が必要となり、テレビやコンピューター、他のトラディショナルなモバイルプラットフォーム向けに制作した素材を利用することができません。この追加投資がROIに確実に影響します。

そうは言いながらも、費用対効果を正当化できない一番の理由は、Snapchat以外では、縦型広告が必要な大規模なプラットフォームが存在しない点でしょう。モバイルパブリッシャーは、モバイルへの対応やアプリへの広告対応などに多くの時間を費やしています。トラディショナルなデジタル広告においてどのように拡張性とエンガージメントに長けたサービスを提供するかに時間をかけています。

しかしながら、広告主は縦型動画が顧客にとっての最良の経験である点を理解し始めています。これはキャンペーンの結果からKPIの上昇が確認されたことが影響しており、需要が増えると供給も増えると考えられます。

特に、多くのオーディエンスを抱えるパブリッシャーであれば、短期に縦型動画への対応を行い、インベントリを増やすことが可能です。需要はオーディエンスによって喚起されます。多くのモバイル動画への投資を積極的に行っている広告主が、これらのデモグラフィックへのエンゲージメント向上に高い関心を持っており、もしパブリッシャーがターゲットオーディエンスへのリーチと縦型動画広告サポートを行うことができると、彼らの要望に応えることは容易です。

― 広告主にとって、縦型動画を採用する主なメリットはどのようなものでしょうか?

最も顕著なのは、消費者にマッチする方法でコンテンツを提供できる点でしょう。多くのユーザが90%もの利用時間の間、電話を縦型に利用しています。他の調査では97%という調査結果もあります。ユーザが動画広告を適切に閲覧するために電話の向きを変えなくてはならないとなると、ドロップ率は急激に高まります。最良の広告体験は、ユーザがパブリッシャーのコンテンツをシームレスに閲覧することができる点で、ネイティブ広告が機能するのも同様の理由からです。

もう一つのメリットは数字です。縦型動画のキャンペーンは良い結果をもたらします。私たちが行った、エンターテイメント、ニュース、ゲームなどの分野におけるアプリ内の縦型動画キャンペーンはマーケティング担当者の期待を上回るものでした。89%のビデオ完遂率と10%のエンゲージメント(ダイナミックなエンドカードに対するインタラクションなど)の結果を残すことができました。UFCのNunes対Rouseyのようなキャンペーンのように、ユーザがエンドカードをクリックし、ペイパービューで申し込みに至った数値が13.5%ものエンゲージメント率を誇ったものもあります。

― 現在、動画フォーマットはどのように計測されており、将来的にはどのように変化していくと考えられますか?

現在のところ、多くの動画フォーマットは、他のデジタル広告と同じように広告サーバを利用した方法で計測されています。ビューアビリティ、クリック、コンバージョン、動画完遂率、再生率といった計測値が活用されています。

しかしながら、変化はすぐに起きるでしょう。企業は、彼らの有料メディア施策がビジネスに寄与し、実質的な結果につながっているかを確認するための証拠を求めています。例えば小売やファーストフード、自動車などの産業を考えてみてみましょう。彼らは店頭へのトラフィックに繋げるために、テレビに多くの投資を行っています。こういった企業はテレビの店頭誘導やディーラー訪問への効果を理解しています。しかしながら、同様のことをモバイルやデジタルで考えている企業はごく最近まで存在しませんでした。

私たちはモバイルによって同様のことが提供でき、デジタルキャンペーンによって物理的な数値結果につなげることができると考えています。そういった考えから、私たちは位置情報データプラットフォーム事業者であるNinthDicimalと提携をし、オフラインのアトリビューション活用から、クロススクリーンの計測情報を獲得し、モバイル及びデスクトップ環境からのキャンペーン効果計測及び最適化サービスを提供しています。Instant-Play™ HD動画のキャンペーンなどは、私たちが取り組んでいる動画広告における計測システムの好例となっています。

私たちは、このような提携がより広範囲で行われるようになり、同様の提携が今後も見られるようになると考えています。

― 広告主及びパブリッシャーにとって縦型動画に関する制約事項にはどのようなものがありますか?

縦型動画が提供される方法は他のサービスと異なることはありません。企業の広告パートナーがパブリッシャーとのSDK接続を行えば、バッファリングやノイズなしにHD動画を再生することが可能です。既に述べたように、供給環境が現在の一つの障壁となっていますが、今後より多くのパブリッシャーがこのフォーマットをサポートすることで、インベントリの問題は解決されることでしょう。クリエイティブ面での問題もあります。クリエイティブを再利用することはお勧めできません。縦型動画における効果的なクリエイティブには多くの作業と(多くの予算が)必要になるでしょう。

その理由は、テレビやデジタル動画において16:9の比率で制作されたものは2:3の縦型比率にフィットしないからです。テキストや背景、メッセージの閲覧比率などについて変更が必要になります。効果的に作業をこなすためには、横型と縦型の制作のために、追加のカメラや変種セットを用意し、撮影を同時に行い、ポストプロダクションを一緒に行うことが好ましいと思います。

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Ryan Griffin氏
AdColony社 戦略部門SVP

そのような際であっても、同じような映像やアニメーションは適さないかもしれません。特に背景環境に効果が依存する場合などにおいては、横型で機能するクリエイティブコンセプトが縦型でも同様に機能するとは限りません。縦型で最も効果を発するのは、(人物やライブアクション映像を利用した)ポートレイト型や、画面中央にコンテンツを集めながらも、上部と下部にあるスペースを様々な要素によってうまく活用しているようなコンテンツでしょう。

長さの面も問題になります。適切な長さとはどのようなものでしょうか。一般的には、より短いフォーマットで制作することと、縦型動画を採用することの目的は一緒です。30秒の動画制作に慣れている企業にとって、10〜15秒のコンテンツに移行することは難しいかもしれません。しかしながら、既存の制作アイディアに依存することなく、短い尺にあった全く新たなコンセプトを考えたほうがうまくいく場合もあります。

縦型動画は広告主にとって、予算をさらに逼迫するといった問題があるのは間違いありません。しかしながら、マーケティング手法によっては、縦型動画は必ずしも高コストを要するものではない点について理解する必要があります。テレビ制作と異なり、コンテンツはより一般ユーザに寄ったものの方が、受け入れられることもあります。これはコンテンツの配信先がよりパーソナルである点とも関係しています。

― 貴社のSDKのパブリッシャーの採用率はどのようなものですか?これはアービトレージモデルなのか、貴社がパブリッシャーと共に独自のプログラマティック供給を行うのかどちらでしょうか?

AdColony社は、強力なSDKを有しており、Top1000アプリの中では、Googleに続いて多くのモバイルアプリパブリッシャーに採用されています。これらのパブリッシャーは当社のSDKを活用することで、収益化、サプライの活用、プログラマティック対応の有無などについて即座に設定を行うことができます。プレミアムモバイルパブリッシャーが縦型動画をサービスに加えようとしている中、私たちは全体のモバイルエコシステムの中で、最大の縦型動画の提供者になることを目指しています。Snapchatよりも大きく、ミレニアム世代だけでなくより多くの消費者デモグラフィックへのアプローチを行っていきます。

― 縦型動画がより利用されるようになると、AdColony社のような会社は、フォーマットをソーシャルメディア以外にも広げていくことになると思います。より多くのエンゲージメントを獲得し、計測値を改善させるためにどのようなことが必要でしょうか?

今まで述べたこと全てです。サプライの増加、結果を重視した計測方法、クリエイティブ面の改善などが必要です。これらは確実に必要で、さらにその先に必要なのは、(アプリインストールや、ダイレクトレスポンス、リードジェネレーションのような)モバイルパフォーマンスに従事したマーケターが、どのように形で仕事を行ってきたのかに注目することが有効でしょう。(ゲームのような)モバイルメディアだけを行っている企業や、小売や、自動車、消費者製品、ファーストフードに至る多くのFortune 500企業などが、データ重視、結果重視のモバイル広告を牽引してきました。そして、これらの企業が縦型広告に積極的に取り組んでいる企業であるというのは全く偶然ではありません。これらの企業は正しいフォーマットを活用することで、ECやユーザデータの獲得、クーポンのダウンロード、店舗へのトラフィック改善といったような、単なるインプレッションやクリックだけに留まらない項目に関心を持っています。私たちはこれらの企業に対して、縦型動画広告の可能性についてより多くを示していきたいと考えています。

ABOUT 野下 智之

野下 智之

ExchangeWire Japan 編集長   慶応義塾大学経済学部卒。 外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。 2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。 2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。