Interview:ビジネスとテクノロジーを埋めるコミュニケーションが大事——株式会社デジタルインテリジェンス 代表取締役 横山隆治氏、AudienceScience社 Michael Greene氏

AudienceScience Japanは、7月16日に「Audience Targeting Forum 2013」というイベントを開催した。イベント終了後、基調講演を行った株式会社デジタルインテリジェンス 代表取締役 横山隆治氏と、講演のために来日したAudienceScience社のDirector of Research、Michael Greene氏に、DMPについて日米のトレンドの違いや日本での導入をどのように進めるべきかなどについてインタビューを行った。

 

(聞き手:ExchangeWire Japan編集長 大山忍

/ text:柏木恵子)

 

まず必要なのは全体的なビジョンを持つ人

 

——米国ではDMPをどのように定義されているのですか。

 

MrGreenGreene:米国においてもDMPの定義にはまだいろいろな議論があります。本日のプレゼンテーションの中にもありましたが、マーケティング担当者はDMPでは何ができて、自分たちの課題に対してどう対処していこうかと様々な取組みが行われているという状況です。多くは、複数のデータプロバイダーからサードパーティーデータを買うということにとどまっていますが、自社のファーストパーティデータと他社のサードパーティーデータをマーケティング担当者自身で統合し、自社の意図したとおりに顧客を定義できるという点を魅力的に感じている方々は多いようです。

 

 

——日本では、DMPを広告で活用することが多いように思います。

 

横山:それは正しくないですね。DSPの機能拡張版のことをDMPと言うこともあり、その場合は広告中心ですが、僕の定義はCRMやPOSデータも使って、企業内のデータを深掘りするのがDMPです。マスマーケターにとっては、ネット広告だけでマーケティングを最適化しても何の意味もありません。

 

 

——米国企業における、DMPの活用状況のトレンドを教えてください。

 

Greene:米国では広告代理店やトレーディングデスクがDMPの主な利用者ですが、近年になり広告主自身の利用が増えています。DMPはマーケティングだけでなくCRMや顧客情報、ITが保有するデータなど、複数部署と調整・連携するため、広告代理店が担うのが難しくなってきたためです。現時点ではまだ十分ではありませんが、DMP専任の人材をマーケティング組織内で採用するようになっていて、組織を横断した連携を目指す動きが出て来ています。

 

 

——横山さんは最近DMPの専門書を執筆されました。その執筆の背景となる、日本でのDMPの活用状況や課題を教えてください。

 

横山:日本の企業がマーケティングでデジタルを活用するには、分断された組織の壁や現場と経営層の認識の格差など、非常に高いハードルがあります。しかし、頑張ってそれを導入することによって、ものすごくブレークスルーすると思っています。また、これをやらないと、欧米の企業に二度と追いつかない。DMPは、企業文化としてデータドリブンなマーケティングを持ち込むためのひとつの装置であり、横断的組織でやらなければいけないし、新しい人材も育成しなければいけません。

 

——横山さんのプレゼンテーションの中で、企業に必要な人材として「データマネジメントディレクター」「データアナリスト(データサイエンティスト)」「コミュニケーションプランニングディレクター」「デジタルターゲティングプランナー」と4つ挙げられていました。まず社内で採用すべき優先順位としては、どの人材が必要でしょうか。

 

横山:データマネジメントディレクターですね。全体を俯瞰し、自社内にどのようなデータリソースが眠っているかをよく理解していて、自社のビジネス課題がよく分かっている必要があります。逆に、データサイエンティストやデジタルターゲティングプランナーはアウトソースできると思います。ただし、最後までアウトソースというのは考えにくいので、徐々に社内にスキルトランスファーするのがいいでしょう。

 

欧米に比べて、日本では経営層の理解が進んでいません。一方で、現場レベルは適応能力が高いので、過剰適応して混乱しているという面もあります。そういう意味では、システムとブランドマネージャーを繋いで、共通の言語を持てる、ハブになるような人材が必要です。

 

 

——マイケルさんはいかがですか。

 

Greene:まず必要なのは、全社的なビジョンを持った人です。次に重要なのは、分析やセグメンテーションスキームの構築を行う人です。データサイエンティストは非常に重要になるでしょう。よくあるのは、既にそういう人がいたとしても、バックオフィスにいる数字に関わるだけの変わり者と見られ、マーケターとの対話がない。しかし、DMPをマーケティングに最大限活用するには、マーケターはデータサイエンティストとの関係を構築することが不可欠です。

 

 

DMPを複数ブランドで横断的に利用する

 

——米国でDMPを活用しているのはどのような企業ですか。

 

Greene:業種は広く自動車や消費財メーカーや小売業などで、大規模な顧客を持ち、さまざまなマーケティング資産を持つ企業が多いです。オンラインで積極的な活動をしている企業が一歩先を行っていますが、従来型のマーケティングをしている企業での導入も増えるだろうと思います。成功しているのは、業種や規模に関係なく、DMPを活用して何を実現したいか明確なビジョンを持っている企業です。

 

一方で、オフラインを含むあらゆるマーケティングチャネルのデータをDMPで管理するために、DMPは進化しなければなりません。現在DMPはCookieベースなのでCookieを持たないチャネルでは課題があります。またインターネットであっても、3rd party Cookieへの脅威や、スマートフォンやタブレットなどCookieの使えないデバイスの登場もあり、Cookieベースが今後スタンダードではなくなるでしょう。

 

 

——日本ではどのような企業にDMPを使ってもらいたいですか。

 

横山:大企業でなければコストが見合わないということはないでしょう。規模というより、いろいろな事業部に分かれていて、データをひとつにまとめればものすごく成果が上がるだろうという会社はたくさんあります。自分が持っているデータを10提供したら他の部署のデータが100返ってくるような状況を作れば、デジタルマーケティング推進の横串の組織が機能する。そういう理解が必要です。

 

 

——日本では、プライバシー問題などのガイドラインができるまでは動きたくないという企業も多いです。

 

横山:総務省や経産省は産業活性化のためにデータを活用しようという意欲はあるので、民間が尻込みしている場合ではありません。パーミッションやプライバシーポリシーの問題はどこかで線引きはしなければいけないが、データを個人に紐付けなくてもやりようはたくさんある。データを使う側が、企業として「こう使わせていただきます、これ以上はやりません」ということを自分で決めることです。

 

 

——米国の失敗例から、私たちが学べるものはありますか。

 

Greene:さまざまな失敗例がありますが、一番大きいのはクオリティの低いサードパーティーデータに頼りすぎた例です。市場にはたくさんのサードパーティーデータがあり、どれが自社の戦略に有効かを知るのは困難です。正しい戦略を持っていること、顧客を定義しどのようなデータを使うべきかを知っていることが成功の鍵です。

顧客の定義は特に重要で、サードパーティーが定義している「スポーツ好き」顧客が、自社の「スポーツ好き」顧客の定義と異なることがあります。この場合サードパーティーデータを購入しても、実際に意図したペルソナと違う対象にマーケティング活動をすることになってしまいます。

 

 

大事なのはギャップを埋めるコミュニケーション

 

——日本では経営層の啓蒙が重要な問題です。いい方法はありますか。

 

Greene:企業トップの理解を得るには、マーケティング・ディレクターやデジタル・マーケティングVPなどボトムアップからの啓蒙も大事ですが、他のCレベルのマネジメント(CTO,CMOなど)との対話から啓蒙することがとても大事です。DMPのデータは企業内の様々な活動に関係していますし、社内の色々な部署には長年データを活用しなれていて、テクノロジーにも明るいシニアレベルのマネージャーがいると思います。部門をまたいで協力し、まずはCMOやCTOを啓蒙して、エグゼクティブレベルでの会話の中でCEOを啓蒙してもらうというアプローチがよいと思います。

 

 

 

——組織の中で、データに基づいた会話するのが重要ということですね。

 

Greene:内部で議論することは重要ですが、外部のパートナーを引き入れることはもっと重要です。ITベンダーやCRMマネージメントの会社など、ITパートナーたちとの会話によってさまざまな知見やトレンドに触れることで啓蒙されますし、DMP選定のプロセスの透明性を得ることも重要です。

 

 

——DMP活用のために経営層を巻き込むにはどうしたらいいでしょう。

 

横山:日本で言う事業本部長クラスの人には、マーケティングのカンファレンスなどにどんどん参加してもらいたいと思います。日本でマーケティングというと広告・販促のことになりがちですが、事業本部長は広告最適化のことだけ考えているわけではなく、生産・物流・労務管理といったことを考えている。そういう動きでデータを活用すると、さまざまなものが改善されてPLに対するインパクトは広告改善するよりはるかに大きい。

 

もうひとつは、ブランド側のスターマーケターを育てなければいけない。A社の誰々さんがこういう仕組みを使ってこんな成功をしたということをアピールすれば、それに感化された別のブランドのマネージャーが、自分もやってみようと思うでしょう。それは、サプライヤーや広告代理店が勧める100倍くらい効果があると思います。

 

 

——米国では、人材の評価やマーケティングのスターを作るのは一般的ですか。

 

Greene:米国では、たいていのマーケターはスターになりたいと思っていますし、製品の売り込みより自分自身の売り込みにより多くの時間を使っている人もいますよ(笑)。米国では、文化的に自分の仕事をオープンにしたりシェアしたりすることが一般的です。転職の時のためでもありますが、スターマーケターの存在が株価の上昇に繋がる可能性もありますし、企業もそういうことは推進していますね。

 

 

——最後に、横山さんから日本でのDMP推進者代表として、米国代表のマイケルさんに伺いたいことはありますか。

 

MrYokoyama横山:先ほどポストCookieの話がありました。ポストCookieでどういうものが出てきて、そうなると今のDMPはそのまま使えるのかといったことに興味があります。

 

Greene:DMPはCookie以外のテクノロジーを採用することで、これから進化していくでしょう。Cookieは我々のやることの一部分にすぎなくなり、さまざまな異なるタイプの新たな形のデータを取り込むことを考えています。デバイスフィンガープリントを使うことも考えていますし、ソーシャルメディアのデータにもポテンシャルがあります。

 

これからのDMPで高い効果が期待されるのはクロスデバイス対応だと思います。Cookieやフィンガープリントやその他の匿名の識別子を組み合わせることで、このスマートフォンとこのタブレットとこのPCを使っているのは同一人物であろうと判断することができます。それによってパーソナライズしたメッセージを配信したり、適切なタイミングと回数で接触したりするなど、企業が顧客に近づいて、継続的なコミュニケーションが実現します。

 

横山:なるほど。クロスデバイスにおける匿名個のユーザー認識の手法が確立されてくると、企業の顧客コミュニケーションの重要な手段としてプライベートDMPの活用が進んでいくでしょうね。

 

米国のDMP市場は、サードパーティデータの販売という点で急激な拡大を遂げてきましたが、オフラインを含め企業内のあらゆる顧客データを分析してビジネスの意思決定に活かすという本来のDMPの活用は、まだ発展途上のようですね。

 

日本市場では、サードパーティのオーディエンスデータの売買よりも、プライベートDMPとしての活用にマーケティング担当者は期待をしています。DMPは日本ではまだ新しい分野とはいえ、意外と日米の活用状況は近いものがある。米国事例を参考にするのも大事ですが、プライベートDMPの活用に関しては日本が世界に先駆けて事例をつくるという気概をもって市場を推進させていきたいと思います。

 

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大山 忍

ExchangeWire Japan 編集長 米国大学卒業。外資系企業を経て2000年にネット広告効果測定ツールを提供するベンチャーに創業メンバーとして参画。その後、バリューコマース株式会社と合併。 2007年1月にオムニチュア株式会社(現Adobe)に参加、コンサルティングサービスを立ち上げる。ビジネスコンサルタントとして米国のベスト プラクティスを日本の課題やニーズに合わせて提供、ウェブ解析やガバナンス(データ主導の組織・仕組化)に関する執筆・講演を行う。