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東南アジア市場で国境を越えて急速に広がるCriteo、事業拡大の原動力は“変化を楽しみ広告主と共に成長すること” <インタビュー>

Criteo_Logo、斉藤 祐子氏

リターゲティング広告グローバル最大手のCriteo、2014年度の同社の売上は前年比7割増と、高い成長率でその事業規模を拡大している。その中で一際成長率が高く、今後のポテンシャルに高い期待が寄せられているのが東南アジア市場である。今から2年前、同地域を当初1人で任されて市場開拓を進め、現在12名の東南アジア地域を統括する事業部門のマネージング・ディレクター斉藤 祐子氏に、東南アジアの市場動向及び、同地域におけるCriteoの取り組みと今後についてお話を伺った。

(聞き手:ExchangeWire編集長:野下 智之)

 

 

2年で地域内9か国200社以上の広告主と取引する東南アジア事業

— 斉藤さんの現在の役割とミッションについて教えてください。

Criteo 東南アジア担当マネージング・ディレクター 斉藤祐子氏

Criteo
東南アジア担当マネージング・ディレクター
斉藤 祐子氏

私はCriteoで東南アジア9か国の事業責任者をしております。当社の東南アジア地域は、タイ、マレーシア、シンガポール、フィリピン、ベトナム、インドネシアに加えて、台湾、香港と、インドまで含んでいます。

Criteoのデジタル広告配信ソリューションでは、広告主の売り上げを増やすお手伝いをさせていただいています。小売や旅行、クラシファイドなどの業種が広告主として代表的です。

ユーザーに対して広告主が提供する商品やサービスに関して、パーソナルナライズされたダイナミックなリターゲティング広告を配信しています。ユーザーが広告主サイトで見た商品、あるいはショッピングカートに実際に入れた商品、購入した商品などの履歴を取得し、それをベースにCriteoのエンジンがユーザー一人一人に異なる広告を表示することで購買促進を行います。 広告主が設定するCPA(顧客獲得単価)やCOS(売上あたり広告費比率)などのKPIに対して、キャンペーンで最適化を行うことが当社のミッションとなります。

 

— 斉藤さんが統括されている東南アジア事業部門について詳しく教えてください。

現在、拠点はシンガポールのみです。台湾の担当者は、ほとんどの時間を台湾で過ごし、時々シンガポールに帰ってくるというような動き方をしています。今後はインドでも、担当者が同様の取り組みをする予定です。

 

東南アジア事業部門は、現在12名です。2013年1月に私が東南アジアを担当し始めた時は私一人でしたのでずいぶん増えました。当時はまだシンガポールにオフィスを作る計画はなく、私は上司から「まずは市場調査も兼ねて営業をしてみて」と言われました。ですので、最初の9カ月は1人で9カ国を回り、媒体様(以下敬称省略)と話し、同時に広告主様(以下敬称省略)とも話しつつというように、かなり地道な活動をしていました。

その後、2013年10月にシンガポールオフィスを設立して、年末には3名のチームになりました。私と、媒体担当、営業担当がそれぞれ1名ずつです。現在の人数(12名)は、私からすると随分大きくなったなという感じです。現在広告主の数は200社程度になります。

 

— 国や地域により市場の特徴に大きな違いはありますか。

そうですね。よく東南アジアがどんな市場市場かと聞かれるのですが、それぞれの国で状況が全く異なります。経済成長過程も全く違います。例えば私が担当する9カ国の中では、台湾、香港、シンガポールはいわゆる先進国の部類に入ります。しかし人口はそれほど多くないので、ポテンシャルや市場の伸び率はそれほど高くありません。その真逆にあるのがインドやインドネシアです。まだGDP、 1人あたり GDPは低いのですが、とにかく人口がすごく多い。インドにいる13億の人のうち、ネットユーザー数は恐らくまだ2割に達していません。ですが、2割でも既に数億人規模に達していますし、毎月ものすごい勢いでモバイルネットユーザーが増えています。同じ東南アジアでも、言葉や文化もそれぞれの国でかなり違うので、そこが東南アジアを見る立場としては難しくもあり、また面白いところでもあります。

 

— 国・地域によって、広告主に対する提案や接し方に違いはありますか。

はい、結構あります。例えば言葉一つとっても大きな違いがあります。当社がこの地域で展開している9カ国それぞれに営業がいるわけではありません。基本は各国の広告主担当者にとり外国人である担当者が英語でコミュニケーションをとっています。ですが台湾などは少し日本と似ていて英語を話す方が少なく、英語だけでは円滑なコミュニケーションを図ることが難しいので、去年末に中国語を話せる者を採用しました。

 

一方でインドでは、少し癖はあるものの、非常に英語を流暢に話します。インドには、多くの部族がいて言葉もそれぞれ違うため、インド人同士でも出身が異なる人同士のコミュニケーションには、ヒンディー語よりも英語がよく使われています。したがってビジネスも英語で全く問題がありません。しかし、インド人でなければなかなか信用してもらえなかったり、あるいは日々お客様である広告主の元に通わないと商談が前進しなかったりします。

 

他にも、インドネシアの方は人と人とのリレーションシップを重視するなど。最初からビジネスの話をするというよりは、まず時間をかけてお互いの人となりを知ることから始まります。あるときインドネシアのカンファレンスでお会いした方がシンガポールに来た際にお食事をご一緒しました。何か具体的に話したい議題があるのかと思いきや、お会いしてみると本当にお茶を飲んでよもやま話をして終わり、「あれ?」という感じでした。おそらくインドネシアでは、それが取引をする前段階のステップなのでしょう。

 

Criteo 斉藤氏タイもやはり英語を話せる方は限られており、コミュニケーションはタイ語でなければ厳しいです。一方で、フィリピン、マレーシア、シンガポールは英語で問題ありません。国によりリレーションシップの取りやすさや取るためのアプローチ方法は異なります。

あと、国名は明かせませんが、数字を大幅に誇張して伝えることが日常的な国もあります。でも恐らくこの国ではそれが当たり前で、伝えられる側は皆さんこれを差引いて見ているのでしょうね。国に応じて臨機応変に対応することで、思うよりスムーズにCriteoを使っていただいています。

 

モバイルへの急速なシフト――変化を楽しむことこそが事業成功の秘訣

— 東南アジアの広告市場はまだマス広告の比率が高く、デジタル広告の比率って低いという印象があります。ですがこれもやはり国により異なるのでしょうか。

もちろん、国により違います。例えばインドネシアでは、多分デジタル広告の比率はまだ数%程度であると思います。また、広告主によりデジタルへの取り組み方の度合いがかなり違うのが東南アジアの特徴ですね。一般的な東南アジアに対して持たれる印象は、何となくまだ発展途上市場であり、広告主もあまり洗練されていないというものであることが多いのですが、実はかなり高度な取り組みをしているEコマースの広告主は多いです。特に欧米と関係が強い有力なリージョナルプレーヤーで、例えばドイツ資本が入っているRocket Internet グループ傘下の企業などは、Eコマースをすごく積極的に展開しています。LAZADAやZALORA、インドのJABONGなどは、マーケティングノウハウはRocket Internetから伝授されています。また、既に3年のオペレーションを通じ、かなり複雑かつ高度なデジタルマーケティングの施策に取り組んでおり、当社に求められるパフォーマンスのレベルもかなり高度です。したがって我々もそれに必死で応えようとしている状況です。

一方でインドでは、皆さんが英語で最新情報をすぐに入手するため、最新の技術に対する知識やその導入が早いです。また、タイでは米国のPriceline.com、欧州のBooking.comの兄弟会社にあたるAgoda.comというヨーロッパの経営者が始めた旅行予約サイトがありますが、やはり高度な取り組みをしており、世界50カ国規模でサイトを展開されています。先進的な大手企業と、まだまだこれからの中級クラスとで振れ幅がかなり大きいです。

 

— フィリピンも英語圏で、グローバルの広告主が参入しやすい環境にあるという印象ですが、実際フィリピンの市場はどのくらいのステージでしょうか。

フィリピンも人口規模が大きく、今後期待マーケットではあります。海外プレイヤーは参入していますが、現地プレーヤーの層が形成されていない感じです。

現在急速に成長している東南アジア全域の中でも、特に急激に伸びているのがインドネシアとインドであるという印象です。その伸び方は、信じられない勢いであり、毎月すごい勢いで伸びているという印象を持っています。

 

— インドネシアなどは現在インフレや経済成長の停滞がみられると聞いていますが、それでもデジタル広告市場は伸びているのでしょうか。

インフレはどの国でも起こっています。しかし、インターネットユーザーの伸びがそれを上回る勢いです。東南アジア地域の中でも、例えばシンガポールや香港、台湾などはインターネット普及率はほぼ100%に近いですが、それ以外の地域では普及率はまだ30%、40%程度です。インドやインドネシアはさらに普及率が低いのですが、膨大な人口規模を背景に現在普及が急速に進んでいます。東南アジア地域のもう一つの特徴は、国民の所得水準が高くないため、PCを持たない人がほとんどです。したがって、少なくとも今後インターネットに入ってくるユーザーは、ほとんどがモバイルオンリーといわれています。インドやインドネシアですら、フィーチャーフォンは皆さん持っていて、これが今急速にスマートフォンに置き換えられています。端末は、1台70ドルほどの廉価版Android端末が主流です。したがって、現在現地の事業者が注力しているITサービスはアプリが中心です。例えばインドの最大のEコマースサービスを運営するFlipkartや同社が買収したMyntra.comというファッションサイトなどは、完全にウェブサイトは閉めて、モバイル向けサービスはアプリのみに絞り込むという方針に決めています。インドの主なECサービスのトラフィックは既に7割以上はモバイルからです。したがって、インドの大手プレイヤーは今、アプリに注力しています。

 

— そうすると、貴社広告のコンバージョンのデバイス別比率は、東南アジアではモバイルのほうが多い状況でしょうか。

まだそこまで多くはないです。東南アジア全体では、モバイルからのコンバージョン比率は、23%程度です。ちなみにグローバル平均では全体の1/3、フランスが23%という状況です。グローバル平均と比べても、決して低くはない状況であるといえます。東南アジアは他の地域よりも成長の勢いが早く、今年の後半には更にモバイル比率が高くなっていると思います。東南アジアですごく面白いと思うのが、1年前と現在とで状況が全く異なることです。1年前に東南アジアで売上げが少なかった国が、現在は1位というような劇的な変化がみられます。ですので、四半期ごとに国別の状況を見ながら優先度を決めています。個人的には変化を楽しんでいますが、計画どおりに事業を進めたい方にとっては大変かもしれないですね。

 

国境や言葉の壁を超えるCriteoの“広告パフォーマンス”

— 国や地域ごとで、法律や業界規制などで障壁になるようなことはあるのでしょうか。

あまりないです。結局、最後は広告主に提供できるパフォーマンスが結果につながります。広告主が私たちに求めることはパフォーマンス、結果です。広告主の売上をいかに伸ばせるかというところに帰結します。私たちはグローバルでは7000以上の広告主と9000以上の媒体とお付き合いさせていただいています。私が2013年に一人で東南アジアを訪問し始めたころでも、6000ほどの広告主との取引実績がありました。この頃はまだCriteoというブランドはアジア地域では新参者で知られていませんでした。またリターゲティングという概念もまだ新しかったです。ですので、最初の頃は啓蒙活動から始めました。グローバルでいくら実績があり成功を収めていても、「この地域ではどうなの?」と広告主からは当然言われます。Criteo 斉藤氏アジア地域での実績がなかった頃は、なかなか取引を始めてくれないという苦労はありました。しかし1年を過ぎて導入実績も出てきました。なによりパフォーマンス出すことが出来れば、他の広告主も次々と興味を示してくれます。あと当社のような、リターゲティング広告会社の良い点として広告主の方は、競合会社、特にNo.1プレイヤーは必ずベンチマークをしてその動向を追っています。したがって、サイトを訪問するわけですね。そうすると、当社の広告にリターゲティングされた競合Eコマース会社のマーケティング担当者は「あれ?これは何だろう?」と思い、Criteoに興味を持つきっかけとなります。したがって、一度大手の広告主がCriteoを導入してくれると、それ以外の広告主も割と早く購買サイクルに載っていただけるのです。最初の大変さを乗り越えれば、あとはもう本当パフォーマンス勝負です。

 

— 東南アジアで貴社の競合に当たるプレイヤーはどのような企業になるのでしょうか。

競合についてはあまり意識していません。当社としては、本当にパフォーマンスで勝負したいと考えて、常に広告主のキャンペーン目標に注力しています。小規模でパフォーマンスを出すことについては、無理をすれば誰にでも出来ないことではないです。しかし、ボリュームを増やしながらパフォーマンスを維持するということは、実はすごく難しく誰にでもできることではありません。当社は技術面がものすごく強いので、そこは他社との違いであると思います。当社は技術志向の会社で、現在グローバルで1100人位いる従業員のうち4割がR&Dの開発部隊に属しています。最近買収した会社の技術を除くと、そのほとんどが社内で開発された技術です。そして常にエンジンをアップグレードしています。

当社の場合は広告主のマーケティング活動における、コンバージョンを促進するところのみをお手伝いさせていただいていいます。本来広告主のマーケティング予算としてはブランドやサーチのほうが多いのですが、当社がコンバージョンだけに注力する理由には、技術的に最高なものを提供したいという想いがあります。ここから手を広げてしまうと、エンジニアリソースは十分であるとはいえ分散してしまいます。当社の領域でベストを目指すためにそこに注力し、他社よりも良い技術をもって常に進化を続けています。

 

2015年はモバイル、クロスデバイスソリューションで東南アジア市場に貢献

— 今後の市場の動向についてはどのように見ておられますか

この地域では、やはりモバイルが2015年はすごく面白くなるとおもいます。当社では2014年末にCROSS DEVICEというサービスを発表しました。今まではデスクトップPCのリターゲティング、パフォーマンスディスプレイを中心に提供してきました。ですが、スマートフォンの普及とともに、ユーザーのオンライン行動は急速にマルチスクリーン化が進んでいます。

ユーザーは日中会社のPCからアクセスし、通勤時間や自宅ではスマートフォンやタブレットを利用するというように、幾つかのデバイスを行き来しています。

この傾向は2年ほど前から顕著になり、広告主はクロスデバイスのソリューションを待ち望んでいたわけですが、技術が今になり追いついてきました。当社でも過去1年半ほど前から、AndroidWeb、iOS、その後In-Appというように一つ一つ課題を克服し、全てに対応出来るようになりました。今これを広告主に提案させていただいているのですが、皆さん待っていましたというように次々と導入が進んでいます。

ユーザーのデバイスやブラウザをまたいだ行動履歴を追うことができ、今まで把握しきれなかったコンバージョンがしっかりと可視化されたことは、広告主にとっては大変価値があるのです。

 

しかし、この地域でのEコマース市場が成長をしていく上での課題はまだ沢山あります。一つは物流です。フィリピンやインドネシアのように、何千もの島がある国では、物流でモノを届けること自体にすごく課題が残されています。もう一つは決済です。Eコマース市場は、最初に発展するのは旅行カテゴリーです。なぜなら、決済の問題もさることながら物流を必要としません。したがって、まずは旅行が立ち上がり、その後物流が整備されるのにしたがい、小売市場が整備されていくという傾向が見られます。またブロードバンドが普及しているか、手頃な料金プランがあるかなども影響します。

台湾、香港、シンガポールを除くと、クレジットカードの普及率が低いので、小売の決済は代金引換(COD)や、店舗引換という仕組みが増えてくるという流れとともに、モバイルでのコンバージョンは増えてくると思います。

インドではまさに旅行が最初に普及し、その後Flipkartが数年前に代金引換を導入して一気に小売のEコマースが増えました。

 

— 最後に、今後の目標についてお聞かせください

2014年度は当社全体の売上は前年度比7割増と、グローバルでもかなり高い成長率を達成しましたが、その中でも東南アジアは恐らく現在最も成長率が高い地域です。

直近の1-3月期の東南アジアの売上は、前年同四半期に比べて約8倍になりました。2015年度もかなり急速な勢いで伸びるのは間違いないかと思っています。

今、多くの東南アジアの国ではEコマースの市場がものすごい勢いで立ち上がっている時期です。今年、市場の成長性は限りなく大きく、われわれとしては広告主の成長に乗り遅れないようについていきます。広告主のビジネスはすごい勢いで成長し、毎月のようにユーザー数を増やされています。Criteo 斉藤氏今、こういうタイミングで広告主ビジネスの成長に立ち会えるということはとても幸運ですし、一緒に成長をお手伝いできることはすごく楽しいことです。あとはモバイルとクロスデバイス、現時点ではまだ先進国には追いついていませんが1年後にはかなり様子が変わっていると思っています。場合によっては、先進国といわれる欧米国の先を行くかもしれませんし、すごく楽しみですね。

(編集:三橋 ゆか里)

 

 

 

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野下 智之

ExchangeWire Japan 編集長 外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。 2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。