東南アジア・インド地域で展開するモバイル広告市場の知られざる有力企業「Vserv」の素顔
グローバル市場において成長セクターとして注目される東南アジア、インド市場において事業拡大を進めるモバイル広告プラットフォームVserv。同社の事業概要や事業戦略について、同社CO-FounderでCEOを務めるDippak Khurana氏にメールでのインタビューを行った。
(聞き手:ExchangeWire Japan 野下智之)
(翻訳:Asia Plus 黒川賢吾)
単なるモバイルアドネットワークではない、スマートデータプラットフォームを標榜するVservの素顔
― Vservビジネス立ち上げの背景、Dippakさんの役割やこれまでのご経歴について教えてください。
私は2010年に、私の同僚で且つ友人でもあったAshay Padwalと一緒にVservを創業しました。モバイルやデジタル広告業界での2人合わせて30年にも至るキャリアを活かして、インドや東南アジアのデベロッパー、パブリッシャーや広告主のまだ満たされていないニーズを提供していく取り組みを始めました。
現在、Vservはモバイルマーケティング及びコマースにおける業界をリードするスマートデータプラットフォームを担っています。VservのCEOとして、私は会社のビジョン・戦略・及び実行を担当し、CTOであるAshay Padwalが技術や商品開発をリードしています。
私のキャリア背景についてですが、私は常にアントレプレナーシップを持って行動してきました。下記が私のビジネスキャリアです。
・16歳で、ロックバンドTシャツのビジネスを立ち上げ
・21歳で鶏肉農場のビジネスに乗り出し成功をおさめる
・Timesofindia.comのオンライン広告ビジネスの立ち上げで中心的な役割として従事
・1999年にインドでNo.1のオンライン広告ネットワークの立ち上げのサポート
・2001年にYaoo!インドのモバイルビジネスの立ち上げ
・2003年にMaujiにて通信事業向けのモバイルインターネットポータルを他社に先駆け立ち上げ
・2010年にVservを共同創業
・Insiderによる「モバイル広告でデジタルの世界にインパクトを与えた最も重要な100人」及びMobbyによる「モバイルプロフェッショナルオブザイヤー」に選出
― Vservの概要と歴史について教えていただけますか?
2010年に設立されたVservは、モバイルマーケティング及びコマースの為のスマートデータプラットフォームを運営するリーディングカンパニーです。当社のプラットフォームはインド及び東南アジアで最大のモバイルインターネットユーザー基盤を誇り、ユニークで豊富なユーザーインサイトを提供しています。ビッグデータをより有益なデータに変換して提供することで、企業はより優れた結果を得る事が出来ます。
またグローバルで5億以上のユニークユーザープロフィールを所有し、Maverick Capital、IDG Ventures India及びEpiphany Venturesの支援を受けています。
2010年1月、私と共同創業者のAshayはVservを設立しました。その14ヶ月後に、世界で最もシンプルなアプリ収益化プラットフォームである「AppWrapper™」をリリースしました。
AppWrapper™はグローバルでの広告インベントリサプライを行い、商品ローンチから6ヶ月で20カ国もの国からの問い合わせを受け、1日1000万インプレッションを達成するまでに至りました。このことは共同創業者の2人にとって、グローバルモバイルメディアビジネスの立ち上げへの参入を決断する契機となりました。
その後も、Vservは大きな進歩を遂げてきました。Vservのマーケットプレースでのユーザー数は増加を続け、これらのユーザーに対応する為にデータ処理量も増えていきました。その後、広告主による「データをより活用したい」という需要に対応するため、自社のオーディエンスプラットフォームであるAudiencePro™を2012年にリリースしました。
また2014年には、Vserv Smart Data™プラットフォームをローンチ。このプラットフォームにより、モバイルインターネットユーザーの地域、関心、意思、購買力やその他の要素をカバーする独自のオーディエンスプラットフォームからデータを集積することが出来るようになりました。
このプラットフォームは、通信キャリア・アプリ・オフラインパートナーやDMPといった複数のソースからデータを集めることにより拡大しており、ここからユーザーの購買意思やペルソナ等にリアルタイムに変換し、私たちのステイクホルダーにより優れたデータを届けることを可能にしました。
Vservは、更に業界をリードする為に、今年インドの通信キャリアやDTHオペレーターに向けて、データ及び音声を通じてデジタルコマースを拡大させる為のコマースソリューションを開始しました。
このプラットフォームは、消費者を相手にする企業に対して、顧客の発見からサービス処理までの一連の処理における全てのソリューションを提供します。消費者はモバイル広告内に「購入」ボタンを見つけると、広告が表示されているアプリから離脱することなく一連の処理を完了出来ます。この事によってモバイルを利用する消費者により適切でシンプル、かつ便利なソリューションを提供することが出来ます。
― 他のモバイルアドネットワークと比較した際のVservの独自性について教えてください。
Vservは単なるモバイルアドネットワークでなく、モバイルマーケティング及びコマースのスマートデータプラットフォームです。常にモバイルインターネットのエコシステムを推進する役割を担い、以下のようなパワフルで業界初となるソリューションを提供しています。
■ モバイルマーケティング向けVserv Smart Data™ Platform
● ビッグデータを、アクションに繋がる有益なデータに変換する世界初のモバイルマーケティング及びコマースのプラットフォーム
Vserv Smart Data™は、独自のデータ管理プラットフォームを用いてデータを集積し、通信・アプリ、オフラインパートナーやDMPからのデータと組み合わせることでデータの重要性を向上させる。このデータは更にユーザーの購入意思やペルソナといった情報にリアルタイムに変換されることで、マーケターにとってより有益な情報に変換される。
● 現在Vservは、新興国に5億のユーザープロフィールを持ち、他に類を見ないリーチを誇る。インドのみでも1.21億ものモバイルインターネットユーザーを抱えている。
■ コマースプラットフォーム:
● 業界に大きな変化を起こすべく、今年始めに通信キャリアやDTHオペレーターがインド国内においてデジタルコマースを拡大する為の業界初のプラットフォーム
● 消費者を相手にする企業に対して、顧客の発見からサービス処理までの一連の処理における全てのソリューションを提供。消費者はモバイル広告内に「購入」ボタンを見つけると、広告が表示されているアプリから離脱することなく一連の処理を完了することが可能。これによりモバイルを利用する消費者により適切で簡単で且つ便利なソリューションが提供される。
急拡大するインドモバイル広告市場—市場を牽引するEコマース、通信、FMCG、耐久消費財の4分野
― インド国外のグローバル事業について教えてください。現在の国別の売上シェアはどのような状況ですか?
現在、当社売上の45%がインドから、25%が東南アジアから、残りがその他の地域からによるものです。
― インドのモバイル広告市場の現状について教えてください。またインドではどのような業種や企業がモバイル広告に投資をしていますか?
インドのモバイル広告市場はここ数年で大きな変化を見せています。モバイルインターネットユーザーの増加によって、エコシステムが大きく拡大しています。インドにおけるモバイル広告市場は急速に拡大しており、2017年には3億4900万ドル市場になると見込まれています。消費者がスマートフォンを使って動画閲覧、ゲーム、エンターテイメント、ショッピング、ソーシャルコミュニケーション等をするようになり、マーケッターはクリエイティブでユーザーのエンゲージメントが見込めるようなコンテンツを制作し、モバイルベースで消費者を魅了しようと工夫するようになります。ここ何年か需要が増し続けているデジタル広告ですが、今後もその傾向は続くでしょう。
モバイル広告における広告主企業の重要なセグメントは、Eコマース(Flipkart, Amazon, SnapDeal, FreeCharge等)、通信、FMCG及び耐久消費財の4分野です。その他、ゲーム、音楽、番組、ビデオ等のモバイルエンターテイメントも大きなセグメントです。
― モバイルプログラマティックはいかがでしょうか?インドではモバイルプログラマティックのエコシステムは形成されつつありますか?モバイル広告とモバイルプログラマティックにおいて、どの国が成長を見せる潜在性があると思いますか?
インドではプログラマティックはまだ始まったばかりで、マーケットサイズについても明確ではありません。インドでもいくつかの企業がプログラマティックのサービスを提供していますが、東南アジアの方がインドよりも先にプログラマティック熱が高まるように思います。
グローバル企業がしのぎを削る東南アジア地域で、“データ”と“インサイト”で独自性を発揮
― 東南アジアのポテンシャルについては、どのように見ていますか?
東南アジアはインドに次ぐ当社のキーとなる地域です。東南アジアは2014年から2017年までの間に年間11%ベースでの成長を見せ、2017年までに3億6200万のモバイルインターネットユーザーを抱える市場に成長すると見られています。モバイル広告の成長は同期間中、年平均82%の成長を遂げると考えられています。これはマーケッターやパブリッシャーにとって非常に大きなポテンシャルです。
― 東南アジアのモバイル広告市場では、Facebook及びGoogleが非常に強い力を持っています。これらの企業とどのように競争をしていくのでしょうか?
Vservはモバイルマーケティング及びコマースの会社であり、ユーザーのスマートデータを所有しているという点で独自性を持っております。また当社は、東南アジアにおけるモバイルインターネットユーザーの6割に対してのリーチを有しています。まだこの市場は初期段階にあることもあり、当社の他社に先駆けてのアプローチは東南アジアのモバイルインターネットユーザーの理解に大きく役立つと考えています。ユーザーインサイトの理解への取り組みが、競合との差別化につながると考えております。
― 日本市場への参入は考えていらっしゃいますか?現在いずれかの日本のアドテク企業とビジネス協業を行っていますか?
当社のビジネス領域はインド及び東南アジアにフォーカスしており、現状日本市場でビジネスをすることについては考えておりません。
― 今後のビジネスプランと戦略について教えてください。
当社は引き続きインド及び東南アジアでのリーダーシップを勝ち取る事にフォーカスし、これらの地域に業界初となるテクノロジーソリューションを提供してまいります。
この取り組みの一貫として、インド及び東南アジアでアプリパブリッシャー向け広告収益化プラットフォーム「VMAX™」をローンチします。このプラットフォームにより、アプリパブリッシャーは、そのマネタイズに必要な全ての管理をワンストップで行うことが可能になり、収入増大が実現します。
(編集:三橋 ゆか里)
APACアドネットワークインタビューインドプラットフォームモバイル
ABOUT 野下 智之
ExchangeWire Japan 編集長 慶応義塾大学経済学部卒。 外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。 2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。 2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。