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Rocket Fuelが語る、グローバルアドテク企業が日本で成功するための秘訣 [インタビュー]

Yeojoon Yoon(ヨジュン・ユーン)氏

2013年にサイバー・コミュニケーションズ(以下CCI)との提携により日本市場に参入したRocket Fuelが着実に業績を拡大している。

同社のグローバルでのビジネスの状況や、日本市場におけるこれまでの取り組みなどについて、同社インターナショナル事業部門ディレクターで、アジア事業を統括するYeojoon Yoon(ヨジュン・ユーン)氏に聞いた。

(聞き手:ExchangeWire Japan 野下智之)

 

 

 

カスタマージャーニー全般をカバーするマーケティングプラットフォームの構築に向け、アグレッシブに事業を拡大

 
― ヨジュンさんのご経歴とRocket Fuelでの役割について教えてください。

以前は、ソフトフェアエンジニアとして働いておりました。今から10数年前にデジタルマーケティング業界に移り、ニューヨークのモバイルアドネットワークに勤めた後、2年半前にRocket Fuelに参画しました。Rocket Fuelでは、現在インターナショナルチームに所属しており、ブラジル、オーストラリア支社の立ち上げにも携わりました。日本市場においては、CCIとの提携によりビジネスプロモーションに従事しております。

 
― Rocket Fuelのビジネスと、テクノロジーについて簡単に教えてください。

ヨジュン・ユーン氏Photo2

Rocket Fuelは、プログラマティックプラットフォームを提供しています。Rocket Fuelの独自技術のAI(人工知能)と膨大なオーディエンスデータを活用し、DSPプラットフォームとして広告最適化配信事業を行っています。

 

 

 
― 貴社の2014年年間のグローバル売上は対前年比7割増とのことですが、その要因は?

<RocketFuel社の業績>

ROCKETFUEL業績

参照: RocketFuel IR資料(PDFアイコンPDF P21)

 

大きく分けて二つの要因があると考えています。一つ目が既存顧客の満足を得ることができている点、二つ目が新しいマーケット、新しい領域にアグレッシブに取り組んでいるという点です。当社がビジネスを開始したのはおよそ7年前です。その後売上は順調に伸びています。これは、既存のクライアントのご要望をしっかり答え、ニーズを満たしているからだと考えております。既存クライアントには継続的に当社プラットフォームを使っていただいており、それが売上成長につながっています。

そして、新しいマーケットへの挑戦については、当社は例えば世界第2のマーケットである日本市場において、競合に先んじていち早くアグレッシブなビジネス展開しています。新しい領域、エリア、市場に対して積極的にビジネスを展開していることも業績が好調な背景にあります。

 

Rocket Fuelは米国カリフォルニアで誕生し、その後米国市場で成功をおさめました。後にヨーロッパ市場に参入し、その後2013年に日本でCCIとともに事業を開始しました。

その後も、オーストラリアやブラジルなどのマーケットに参入しており、次々に市場を拡大している状況です。

 
― 新しい領域と言われたのは、地理的に新しいということでしょうか?その他に、ビジネスの領域や、ターゲットとするクライアント層などという観点ではいかがでしょうか?

ヨジュン・ユーン氏地理的に新しいだけでなく、新しい領域にビジネスを拡大しています。例えば、これまで当社はDSP、メディアの買付と配信プラットフォームとして事業を行ってきましたが、現在はマーケティングプラットフォームへの移行を進めているところです。

私たちが目指しているマーケティングプラットフォームとは、ただ単にオーディエンスデータを使ってユーザーを理解し、配信するものではありません。カスタマージャーニー全般に対応出来る、マーケティング全体に活用できるプラットフォームです。

今まで当社のビジネスは、ディスプレイ広告の配信に特化してきました。でも、ディスプレイ広告は、カスタマージャーニー全般にユーザーが接触するあらゆるメディアの中のほんの一部に過ぎません。あるユーザーが購買に至るまでには、テレビやラジオ、実店舗、新聞、もちろんデジタルも含め、複数のメディアから多くの情報を受けます。したがって、われわれはこの領域に踏み込み、ユーザーの購買行動に関わる全域を理解するべく取り組んでいます。

 
― その場合、インプットするデータを、デジタルのみではなくその他のメディアから取り込み、そのアウトプットをデジタルで配信するような仕組みを考えているのでしょうか?あるいは、アウトプットとなる配信を一つのプラットフォームで可能とするような仕組みですか?

まず、データのインプットに関してですが、データは勿論オフラインからも取得できます。データを集めること自体はそれほど難しいことではありません。ですが、それを実際にアクションにつなげられるような利用価値のあるものに変えられるかどうかは別次元の問題であり、容易ではありません。

2つ目の質問についてですが、Rocket Fuelとしては、プラットフォームを使ってモバイルやPC、ソーシャル、ビデオなどに広告配信することにより、クライアントのROIや売上に貢献できます。クライアントのオンライン売上のみならず、オフラインの実店舗への送客効果にもつなげることが可能です。

 
― 地理的にはどのように見ておられますか?

私たちはこれまで、米国、ヨーロッパ、日本、オーストラリア、ブラジルなどの国・地域に注目してきました。今後は、中国で展開をしていくことを見据えております。

 

 

グローバル企業が見る海外と日本市場、クライアントの共通点と相違点とは?

 
― プログラマティックの領域における日本と米国のクライアント、あるいはグローバルのクライアントとに違いはありますか?

どこの国や地域においても、クライアントは広告のROIを高めることを大前提として考えています。それを踏まえると、日米のデジタル領域におけるマーケットの違いは大きくはありません。日本は世界第2位のデジタル広告市場です。また技術的にもすごく洗練されているため、そこに日米の大きな違いはないと思います。ただ、ある特定の部分、特にクライアントについては違いがあると思います。

日本のクライアントの方が、ラストインプレッションやラストクリック、コンバージョンにつながった最後のラストクリックを重要な評価ポイントにしています。そこだけを評価するようなクライアントが多い印象ですが、U.S.やヨーロッパなどのマーケットでは、インプレッションやクリックも評価対象になっています。
 

ユーザーはデジタルスペースで何かを購入しようとする場合、一つのデバイスだけで購入に至るわけではありません。色々なデバイスで、コンテンツや広告に接触して購入に至ります。ラストクリックだけを評価するとなると、誰もがラストクリックを奪うような状況になります。Rocket Fuelは、ユーザーが持つデバイスをターゲティングするのではなく、ユーザー単位でのターゲティングをしています。当社では、PCやスマートフォンなど複数のデバイスを、1人のユーザーに紐付けるクロスデバイスターゲティング技術を開発しています。

 
― 近年、米国や日本で広告のViewabilityやTransparencyに関する議論が高まっています。貴社として、これらにどのような対応をとっておられますか?

Rocket Fuelは、実際にユーザー視聴(View)された広告に対してクライアントにお支払いいただくという取り組みをしております。Viewable広告だけにターゲティングすることは進めていません。したがって、例えば、ユーザーがコンテンツを視聴するためにスクロールダウンする必要がある位置にバナー広告を出さないというようなことはありません。なぜなら特定の広告がユーザーに見られるか、そうでないかの可能性を試算することはできないためです。また、これは一般的にパフォーマンスの低下につながりやすいからです。

 
― 最近、米国では大手アドテクノロジー企業が買収されたり、一部の大手企業の業績が悪化したりとアドテク不況についてよく耳にします。また、アドテクノロジーは終焉を迎えているというような論調も聞かれますが、どのようにお考えでしょうか?

その話題については、ここ何年も聞いてきました。しかしその中でも常に成功しているアドテク企業があり、当社もそのうちの一つだと自負しております。業界は常に変化し続けますし、新しいテクノロジーを必要とします。そして、それがマーケットを成長させます。

 
― 近年モバイル市場の成長が著しいですが、貴社は市場環境に対応していく上で、どのような取り組みをされていますか?

当社は、カスタマージャーニーにおける大部分のエリアに対して取り組んでいます。私たちは異なるチャネル(ディスプレイ、モバイル、ビデオ、そして、ソーシャル)において、ユーザーにアクセスできる非常にユニークな強みがあり、クロスチャネルにおける点を結びつけることができます。つまり、デバイスをターゲットするのではなく、ユーザー個人をターゲットすることができるのです。このことが市場環境の変化に対応していくポイントであると考えております。

 

 

グローバル企業の日本における成功に向けた第一歩、それはプロダクトのローカライズ、市場の理解、そして強いセールスチームの確立

 
― 貴社が日本に参入してからこれまでの状況についてお話しいただけますか? CCIとのパートナーシップの内容もお聞かせください。

ヨジュン・ユーン氏Rocket Fuelはおよそ3年前、日本市場に対して戦略的な投資を始めました。具体的にはCCIとパートナーを組むことにより日本市場に参入しました。他の米国やグローバルでとても成功した企業が日本市場に参入して苦戦を強いられている状況を見てきました。その理由を考えると、やはり日本独自の文化や商習慣、クライアントの要望があり、それらに対応できていなかったと考えます。そのような背景があって、当社が日本におけるデジタル領域での最適なエキスパートを探したところ、CCIがベストだろうと考えました。

日本市場でサービスをローンチ後、現在に至るまでの結果に関しては非常に満足しています。当社は先日CCIとのパートナーシップを延長しました。今後も長期にわたりCCIとビジネスを続けていくつもりです。

CCIとの役割分担についてですが、技術開発、運用、販売、サポートそしてCCIに対する運用に関するサポートを当社が担当し、CCIがプロダクトのローカライズと運用を担当しております。

 
― 日本に参入するアドテク企業は、最近増え続けています。今後、日本に参入をしようとしている企業に対して、何かアドバイスや成功するための秘訣があればお聞かせください。

日本は世界で2番目に大きい広告マーケットです。多くのアドテク企業が日本でのビジネスを拡大したいと思うでしょう。プロダクトのローカライズ、市場の理解、強いセールスチームの確立がそのカギとなる要素になると思われます。企業やプロダクトなどの要因により、その戦略は様々でしょうが、Rocket Fuelは日本でのプレゼンスを築く為にCCIをパートナーとして選びました。

 
― 日本市場でのこれからの貴社の展望についてお聞かせください。

私たちはこれまでCCIとのパートナーシップを拡大してきました。Rocket FuelとCCIは、引き続き結束してこのパートナーシップにコミットし続けます。私たちのパートナーシップにおける最初の数年間はマーケットとプロダクトのラーニングの時期でした。これからの数年間で、事業をさらに拡大するための準備は整っています。

(編集:三橋 ゆか里)
 

 

 

ABOUT 野下 智之

野下 智之

ExchangeWire Japan 編集長   慶応義塾大学経済学部卒。 外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。 2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。 2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。