×

グローバルDSPトップが語る、日本のプログラマティック市場の方向性 [インタビュー]

グローバル市場で数多くの大手広告会社との取引があるThe Trade Desk。日本に参入して1年以上が経つが、同社COO Rob Perdue氏に、日本と欧米における広告会社のプログラマティックの活用状況の共通点、相違点などについて聞いた。

(聞き手:ExchangeWire Japan 野下 智之)


 
 

広告会社を通すからこそ真価を発揮するDSPの本質的価値

-御社が日本に参入されて1年と少し経ちました。日本のプログラマティックの現状についてどういうふうに感じてらっしゃいますか。

Interview_TheTradeDesk_1日本のマーケットに参入し、今自信を感じています。現在日本のチームを強化しており6名になりました。来年末には今の2倍にする予定です。日本のマーケットを熟知しているカントリーマネージャーの新谷がチームをこれまで作ってきました。そしてこのチームが、今マーケットで受け入れられはじめていると感じております。広告会社などのパートナーから、評価され始めつつあることを感じております。

日本のマーケットに関しては、これまでのやり方から変わりつつあるという印象を持っています。広告の配信方法について変化が起きているのは、皆様感じていると思うのですが、現在日本の広告主が数十のDSPを使っていることについては、今後も継続していくことではないでしょう。恐らく、DSPは今後少し絞られていくのではないかと思います。一つの広告会社が、数十個のDSPを使っているというのは通常考えにくい状況です。その観点では、日本のプログラマティックのマーケットはまだアーリーステージであるといえます。このことは、当社のビジネスにおいては大きな機会であると感じています。
 
-日本の広告会社は、DSPをいわゆる媒体の1メニューのように位置づけて利用しているという現状があるとも聞かれます。この点は、グローバル市場と日本市場とでは違うのでしょうか?

その点は、とても興味深いと感じています。この傾向は、日本だけではなく世界でも実は同じような状況がみられます。
The Trade Deskは、バイサイドのみにフォーカスしています。DSPのほかにSSPやイールドマネジメント機能を持つサプライ側の機能を持つ事業者もいますが、私どもは彼らと考え方が違います。基本的にサービスとして、DSPとSSPとの両方を持つことは、成り立たないと思っております。
Interview_TheTradeDesk_2SSPは、広告枠を高く提供することが事業目的です。一方のDSPはできるだけ安く広告枠を仕入れ、広告会社や広告主に提供することが事業目的です。両者が一緒になると、サービスがコンフリクトしてしまいます。私どもは、完全に広告主側に立っています。DSPとSSPの両方をもつところは、アドネットワークがテクノロジーを持っているだけという理解をしています。ですので、質問に対する回答としては、このようなDSP・SSPを持つアドネットワークの事業者のサービスについては、広告会社も媒体としてみなしているということではないでしょうか。
 
-貴社はWPPをはじめとしてグローバルの大手の広告会社やトレーディングデスクと取引されています。彼らの日本の広告会社の、DSPを使った運用の仕方、プログラマティックへの取り組みに対するスタンスについて、何か違いがあると認識されていますか

基本的には似ている点が多いと考えています。ですが、今、日本の状況を見ていますと、DSPはマネージドサービスのほうがより求められているのではないかと感じています。これは、まだ広告会社がトレーディングチームをしっかりと作り切れておらず、現在作りつつある途中段階にあるのではないかということです。
なので現在はブラックボックスであっても、効果が得られるというような、完全に自動化されたマネージドサービスに需要が寄っているという認識です。現状はプランニングを自分で行って配信をするというニーズには至っていないと感じています。

The Trade Deskのアプローチはマネージドサービスとは異なるアプローチをとっており、広告会社のトレーダーに全部の設定をお任せして、プランニングからバイイングまで全てを自由にしていただけるようになっております。これにより多くの情報を持つトレーダーの方々は、広告主への提案力を高めることで、競合優位性を得ることが出来ます。
マネージドサービスが悪いとは決して申し上げておりませんが、現在日本は、欧米の国がそうであったように、現在マーケットが移行過程にあるのではないかとみております。
また、もう一つアプローチが他と違う点を挙げると、私どもが直接広告主と取引をすることが全くないという点です。したがって、私どもが、広告会社と競合関係になることはありません。広告会社を支援することこそが私どもの仕事です。
 
-米国ではインハウスで運用チームを作り、メディアバイイングをするような広告主もいるとお聞きします。これらの企業から貴社のサービスを使いたいという依頼があっても、全てお断りされるのでしょうか?

デジタル広告業界には、そういうノイズがあります。広告主がインハウスにプログラマティックチームを作ろうとしている動きがあるという話は出回っていますが、実は意外にそのようなことはありません。広告主が求めているのは、透明性です。そしてこれが現在なかなか担保されない状況にあり、自社内で運用したとしても100%使いこなすことが出来ないのが現状です。もう一つ、この業界ではプラットフォームや様々な業界の情報が次々と更新されており、広告主1社ではそれに追いついていけないという状況です。広告会社側は業界の情報を多く持っており、広告運用に関してもより詳しい知見があります。結果的に、広告主は自社内のトレーディングデスクが運用することよりも、良いツールや情報、知見を持っているパートナーと一緒にキャンペーンを運用するほうが結果的に成功すると考えています。
 
 

ラストクリック依存からの脱却により、日本のプログラマティック市場は洗練化が進む

-日本のプログラマティックの市場に関する課題はどのようなことがあると感じておられますか?

ATS Tokyoでも意見が挙がりましたが、まだ日本のマーケットが成長過程にあり、プログラマティック市場は成熟しておらず、また多くのプラットフォームがある状況です。広告会社からすると、ツールがたくさんあり、それぞれが違うレポートを出している状況です。したがって広告主は、様々なツールの情報が飛び交っており、全体を正しく見ることが出来ていないのではないかと思います。
仮に4つのDSPを使う広告主が、同じユーザーに4回広告を見せたいとします。ですがそれぞれのDSPが一人のユーザーを違うユーザーと認識している状況では、4×4=16回広告を見せてしまう。というような、広告主が望んでいないことが起こってしまいます。

もう一つの課題が効果測定において、広告のラストクリックがいまだに主体となっていることです。かつては米国でも同じことが起こっていましたが、状況が変わり、今はビュースルーコンバージョンの価値認識が定着し、カスタマージャーニーにおけるファーストタッチからコンバージョンまでを評価する方向に変わりつつあります。

当社のプラットフォームでは、ビデオ広告やモバイル広告なども含めて、全てのチャネルにおけるユーザーが接触したコミュニケーションの貢献度を可視化することが出来ます。広告主目線では、そのほうがヘルシーですよね。最終的には日本のマーケットも、米国と同じような方向に向かい、マーケットが洗練化されていくのではないかと思います。
 
-米国ではラストクリック依存からの脱却はいつ頃始まったのでしょうか?

米国では4-5年ほど前に、ビュースルーコンバージョンを見ることの必要性に関する議論が活発化し始めました。日本も最近そのような議論が始まっており、恐らく近いうちに米国と同様にビュースルーの価値認識されていくのではないかなと。

Interview_TheTradeDesk_3また、ATS Tokyoで弊社の新谷がクロスデバイスについて話をしましたが、今までの広告配信はユーザーをチャネルごとに分けてターゲティングをしていました。モバイルだけ、PCだけという状況でした。ですが現在は、クロスデバイスでターゲティングする、言い換えると、デバイスではなく、ユーザーをターゲティングするというように変わりつつあります。
全てのタッチポイントで、どのデバイス、タッチポイントで態度変容や購買決定が行われるのかを見ることが出来るようになりつつあります。
 
-日本での今後の貴社の展開についてお聞かせください。

他の国で展開しているやり方と基本的には同じなのですが、当社は「Teach the World, How to Trade」を会社の主なミッションとしています。先ほどのアトリビューションの話もそうなのですが、各マーケットに対してどのようなアプローチをすれば、広告主の売上が上がるのか、どのようなメディアの広告の買い方がベストであるかということを含め、マーケットに対して啓蒙をしてまいります。私どものダッシュボードは、オムニチャンネルに対応しています。モバイル広告だけではなく、ディスプレイ広告、ビデオ広告、(スマート)テレビ広告など複数チャネルの施策について、一つのダッシュボードから見ることが出来ます。広告主の施策のタッチポイントを一気通貫で見ることが出来ることと、その重要性を、日本のマーケットに対して啓蒙していきたいです。
 
-では、グローバル全体としての貴社の今後の展開についてお聞かせください。

キーワードとしては、三つ挙げられます。一つ目は、アジア展開、二つ目はテレビにおけるプログラマティック。三つ目がモバイルです。

アジアは世界人口の70%が集中しております。したがって、そこに投資をしていきたいと考えております。現時点では特に日本を一番重視しております。日本のビジネスは来年大きく拡大させたいと考えております。

その他、アジア地域では中国本土展開のための窓口として、今年香港に拠点を開設しました。

そしてテレビですが、こちらは、米国で始めており、スマートテレビ、OTTの領域で展開を進めております。当社は米国で最初に地上波局とプログラマティックの取り組みに関する契約を交わしました。現在はテスト配信をしておりますが、今後正式な配信が開始されれば、ヨーロッパへの展開も考えております。
 
 
 

ABOUT 野下 智之

野下 智之

ExchangeWire Japan 編集長   慶応義塾大学経済学部卒。 外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。 2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。 2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。