クライアントマーケティング活動を切れ目なく支援し、世界で勝負するマーケティングプラットフォーム、 DSP「Logicad」の構想 [インタビュー]
国内ではその普及が一巡し、昨年に比べるとその勢いに落ち着きが見られる国内DSP勢。
その中で異彩を放ち、売上を急速に伸ばしているソネット・メディア・ネットワークスの「Logicad」。
同社の陣頭指揮を執る代表取締役社長 地引 剛史氏に、DSPを取り巻く市場環境や同社ビジネスの現状と今後について聞いた。
ソニーの高い技術とフルマネージド運用で、高いキャンペーン継続利用率をたたき出す「Logicad」とは?
―貴社ビジネスの概要と、地引さんのポジションと役割についてお聞かせください。
ソネット・メディア・ネットワークスはソネット系の会社で、インターネット広告を扱っています。
現在は、マーケティングテクノロジーを駆使したDSP事業を主力としています。私はこの会社の代表を務めております。
―現在、貴社ではどのようなプロダクトを展開していますか?
自社開発DSPの提供と、米国発、また世界でも有数のSSP事業者であるPubMatic社のSSPを国内で独占販売させていただいております。そのほか、So-netのポータルサイトの広告販売、クローズドで提供しているアフィリエイトなどを展開しています。
―貴社の事業の中心であるDSP 「Logicad」の概要と特徴について教えてください。
「Logicad」は、これまではダイレクトレスポンスの領域で強みを発揮してきたDSPです。最近はブランディング領域のターゲットに向けても力を入れ始めています。
「Logicad」の特徴の一つは、親会社のソニーが持つアセットをベースにした技術力です。当社は、ビッグデータの処理技術の水準については自信を持っています。もう一つは人工知能を活用していることです。
ソニーが培ってきた人工知能の技術を使い、従来よりも高度にターゲティングできるDSPとなりつつあます。当社では、広告代理店やクライアントからのニーズを聞き、当社によるフルマネージドの形でDSPの運用をセットにして広告主に提供することにより、高い効果を出しています。
―「Logicad」の現在のビジネスの状況についてお聞かせください。
「Logicad」の売上は、2014年度に前年度比で2倍以上に増加しました。国産DSPの中ではかなりいいポジションを獲得出来つつあります。2015年度も引き続き高い成長を目指しております。
―業界全体ではDSPの成長が鈍化しつつあるという認識が広まっています。その中で貴社が売り上げをここまで伸ばされている理由はどこにあるのでしょうか?
ベースの技術に加えて運用を丁寧に行うことで、費用対効果を見合っている点を、クライアント(お客様)にご評価いただいているのだと思います。
自社調べではありますが、9割以上のキャンペーン継続率に繫がっている点も挙げられます。
われわれは広告宣伝を特に行わず、口コミでサービスを広げています。一度お使いいただければ、ずっと使っていただけるサービスであると自負しています。デジタル広告業界の誰もが認知するほどの知名度はなくても、一度使った後は継続利用していただき、かつ広告予算を少しずつ当社のサービスに寄せていただいているのが現状です。
―「Logicad」をお使いのクライアントさんの業種の特徴についてお聞かせください。
ダイレクトレスポンス系のクライアント向けを中心にサービスを提供してきましたので、通販事業者をはじめ、オンラインでユーザーの獲得を希望される業種の方が多いです。
需要一巡のDSP業界、次の成長はリターゲティング依存からの脱却とデータ活用による新規顧客の創出
―次は直近の業界動向について。DSPというツール自体は、需要が一巡している感があります。今後DSPの業界はどのようになるでしょうか?
日本のDSPは、これまでリターゲティング広告に偏重した成長をしてきたと思っています。外部のレポートによると、マーケット全体の85%程度がリターゲティング広告と言われています。このままでは、需要が頭打ちになるということはほぼ間違いありません。
一方、それ以外では二つの伸び代があると考えています。一つは、潜在ユーザーをいち早くブッキングし、新規顧客に転換させていくようなもの。あるいは、ブランディングやリーチ獲得向けのニーズを新たに取り込むことにより、再びRTBマーケットは成長出来るはずです。
もう一つは、モバイル領域におけるターゲティングです。これまでモバイル領域はアドネットワークが主流でしたが、これがDSPに代わっていくのは時間の問題です。モバイル領域でもRTBへのシフトは進んでくると思っております。モバイルターゲティング用のデータ取得の課題はあるものの、やり方はいろいろあるため、それもクリアできるでしょう。
―デバイスのフラグメンテーションが進む現状において、DSPの今後のターゲティング精度維持の切り札ともいえるDMPに関しては、欧米市場と比べると利用可能なデータが少ないという話を聞きます。これは今後改善されるのでしょうか?
ファーストパーティーデータについては、ここ1〜2年でデジタルマーケティングでの活用を促進する取り組みが進んでいます。このデータがしっかり使える状態になれば、欧米のようなデータ活用の普及に向けた第1関門を突破することになります。その次は、われわれのようなDSPなどのアドテク事業者が持つ、SSPから受け取るデータの活用が対象になります。われわれを含め、一般的にDSPは3億ユニークブラウザ規模のデータを保有しています。プライベートDMPを活用し、このデータとファーストパーティーデータから優良顧客分析をすることにより、その優良顧客のウェブ上の行動を把握することが出来るようになります。
そして今後、さらに欧米のように中身の濃いサードパーティデータが活用できるようになっていくでしょう。
―貴社が他のDSPとデータをトランザクションするというような可能性はありますか?
現時点では想定しておりません。ですが、裏側でパブリックDMPを介して、間接的には連携している部分もあります。そういう意味では、データは思った以上に行き来しているとも言うことが出来ます。
―今後、広告主同士が連携してデータを共有し合うことは増えていくと思われますか?
個人的には、大きなグループ会社や系列取引の枠組みの中で進んでいくのではないかと思います。グループ会社の中で100%連結している会社同士であれば、データのやり取りへの抵抗感がないでしょう。また、例えばメーカー、卸売業、小売業など、オフライン側で普段のビジネスにおいて情報共有が進んでいるような業界では、チャネルのオンライン化が進んだ際にそのような動きもありうると思っております。ですが、オフラインのビジネスでこれまで全く関係のなかった企業間で、いきなりオンラインでデータをオープンにするような動きが生まれるかどうかはやや懐疑的です。もちろん、オンライン上でのデータ共有は理想ですが、急な変化はないような気がします。既存の商習慣における情報共有が、徐々にオンライン上にコピーされていくというようなイメージですね。
目指すは、クライアントマーケティング活動全般の切れ目ないサポートとグローバル展開
―DSPのビジネスを今後拡大されていく上での方向性と、そのために解決すべき課題についてお聞かせください
方向性は、大きく二つあります。まずは、クライアントのマーケティング活用におけるDSPの貢献について。これからは、ユーザーデータを軸として、ブランディング領域、すなわち潜在顧客にターゲティングするというような認知獲得の領域もサポートできるようにしていきたいと思います。この領域では、 “DSPでどこに広告を出してもよい”という話は通用しなくなります。したがって、ベリフィケーションツールの導入などでアドフラウドの対策などを施し、広告のクオリティーを高めることがより強く求められるようになるでしょう。
もう一つは、ユーザーへのメッセージの届け方の洗練です。現在のターゲティング広告は、一度ターゲットユーザ-だと判断すると、そのユーザーを何度も追い回してしまいます。もっとユーザーにとってほしいタイミングでほしい情報が届く、という形にしていかないといけないと思っています。
課題については、上記のほかに、DSP固有のものについても対処する必要があります。現在プライベート・マーケット・プレイス(以降PMP)をはじめとして、在庫の囲い込みが進んでいます。したがってその対応を急ぐ必要があります。
バイサイドの各事業者による在庫の囲い込みが進むと、われわれDSPは買い方を工夫しなければ、他の事業者に在庫を押さえられてしまうという懸念が生まれつつあります。実際、現物取引の世界でも同じようなことが起こっています。一旦オープンな商品市場が出来ても、その後大口のトレーダー同士が相対取引をし始めます。同じことが、広告の世界でもPMPの勃興現象として起こりはじめています。このため、DSPによる広告在庫の買い付け戦略は今後大きく変わるでしょう。
―貴社では、最近新しい広告プロダクトをリリースされていますが、今後広告主向けにどのようなサービスを提供されていかれるのでしょうか?
従来は、リターゲティング広告を中心に提供してまいりました。しかし、クライアントの視点で見ると、リターゲティングはマーケティング目的のほんの一部に過ぎません。
そこで、当社はクライントのマーケティング目的に対してより切れ目のないサポートが出来るように、DMPをはじめ、今後様々なプロダクトを当て込んでいきたいです。
潜在顧客ターゲティングで、見込顧客を早く見つける、といった精度向上を実現した次の段階では、ライトタイミング、ライトメッセージを提供する。よく使われる例えですが、子育てしているお母さんはおむつを買います。しかし四六時中おむつのことを考えているわけではありません。時にはおいしいもの食べに行きたい、映画を見に行きたいなど、そのニーズは多様に変動します。このようなユーザーに対して、常におむつの広告を出し続けるということはニーズを捉えていない。ユーザーニーズの文脈にしっかり沿った広告を出していきます。これを突き進めることで、広告がこれまで以上にすごく良いものになっていくでしょう。
当社は、クライアントのマーケティング活動において、その対象となる商品・サービスのライフタイム全般を、ゆりかごから墓場まで切れ目なくサポートしていく考えです。
―最後に日本のDSP事業者として、今後グローバルで展開していくための意気込みを語ってください。
日本の研究者はインターネットを幅広く、深く研究しており、基礎的な技術力が欧米と比べて劣っているとは決して思いません。しっかりとメイドインジャパンのものとして良いものを作っていきたいと思います。
また、オペレーション自体、日本人がすごく得意とする領域です。この領域で丁寧にサービスを提供すれば、欧米のサービスに負けないものが出来るはずだと信じています。そして、まずはアジア市場で受け入れてもらい、最後には欧米に進出する。日本の製造業は皆そのようにして海外市場を切り開いて来ました。われわれにも出来ないはずはないと思って精進したいです。
(編集:三橋 ゆか里)
ABOUT 野下 智之
ExchangeWire Japan 編集長 慶応義塾大学経済学部卒。 外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。 2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。 2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。