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GoogleのCustomer Matchは従来のSEMに取って代わるのか?

(翻訳:Asia Plus 黒川賢吾)

イノベーションは、つねに期待通りに進むとは限らない。「最初に何かを作り上げるということは、後に続く人たちのために地雷原を処理することと大差のないことだ」とLiveIntent UKの代表取締役社長であるDave Hendricks (下の写真) はいう。この記事では、彼がSEMにおけるGoogleのCustomer Matchの影響力について語ってくれた。

もし確かな成功を求めているなら、繰り返しを行うことが必要だろう。

Googleが最終的に何台の自動運転車を世に送り出すかどうかに関わらず、Googleはおそらく「検索広告」というその象徴的製品によって記憶に残るであろう。念のために述べておくが、SEMを発明したのはGoogleではない。彼らは単にそれを繰り返し、先発のOvertureよりも良いビジネスモデルを思いついただけなのだ。

多くの人々にとって、Gmailはウェブベースの電子メールと同義である。しかし、Googleがウェブメールを開発したわけでもない。その功績は1990年代に「HoTMaiL」を開発したSabeer Bhatiaにあるといえる。Microsoftは非常に賢明なことに、ウェブメールが非常に価値の高かった時期に、4億ドルでそれを手に入れた。Yahooはそのアイデアを繰り返して、人々をYahooに繋ぎ止めている製品とも言える「Yahoo Mail」を作り上げた。

2005年頃、GoogleがGmailを公開したとききには、誰も大して気に留めることはなかった。結局のところ、電子メールは死んでいなかったのだろうか。現在Gmailは世界で独占的なP2P型の電子メールプラットフォームであるといえる。GoogleはFacebookにGoogle+で対抗する戦略はそれほど成功することはなく、モバイル検索におけるその功績もまた批判をされてきた。批判は強く、かつて世界的に畏怖されていたGoogleが、最近ではMicrosoftと比較されるようになってしまった。それはGoogleが独占的な地位を築いたからではなく、全体的にモバイル領域での発展に欠けていると考える人がいるからである。

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その為、FacebookのAtlasやCustom Audiencesの提供に対して、Googleが長く噂されていた回答を公式に発表した時でさえも、その反応は驚くほど静かだった。もはや誰もGoogleが個人データを使って何をしているのかについて、気にかけなくなったのだろうか? その同じ週に欧州委員会が欧州とアメリカの間のセーフハーバー協定を無効化したというのに、Googleの製品発表に対する反応は予想外に小さいものであった。

しかし、そのようなこととは無関係に、GoogleはあなたのCRMデータと自身がもつログインユーザーデータを一致させようとしている。

一言で言うと、「Customer Match」は、広告会社が電子メールアドレスリストをアップロードし、GmailやYouTube、又はGoogle上でユーザーがサービスを使用する際に、マッチするユーザーに対して広告キャンペーンを実施することを可能にするのである。Googleのこの遅めの市場参入は非常に興味を引くものである。というのは、このサービスによって最も「意図が明白な」デジタルメディアである電子メールと検索とを融合させることが可能になるからである。

これまで検索は、Googleへのログインの有無に関わらず、非常に匿名性の高い活動であると言えた。ブランドのCRMデータと結びついたよりインテリジェントな検索機能は、マーケティングにおいてとてつもなく大きな新しい可能性を開くものである。

通信や自動車のような、ユーザーの乗り換えや取込みに関心のあるブランドにとり、検索とCRM電子メールデータの組み合わせは、検討や再検討の段階にあるユーザーに確実にリーチするための有益な手段となるだろう。

動画により視聴者にリーチしたい企業にとっては、「詳しい情報を請求する」可能性のある顧客に対して、プリロール広告や長尺の教育ビデオをサイトに準備しておけるようになるのは、興味深い応用例の1つであると言える。

この新機能は、FacebookのCustom AudienceやAtlasに取って代わるものになるだろうか? これは判断が難しい。私が「CRMリターゲティング」と呼ぶサービスは、まだ初期の段階に過ぎない。またこのサービスがCriteoやRocketFuelから予算を奪うことになるのかという点に関しても、判断が難しい。同じ様に数億人のログインユーザープラットフォームを持つYahooが目を覚まし、自分たちでも電子メールアドレスに基づき、プログラムによるリアルタイムプログラマティックオーディエンスマッチングが行える可能性について気づくであろうか?

Customer Matchは、これまで、「電子メール」を、ニュースレターを送信することと以外には結び付けてこなかった、多くの大規模マーケティング担当者に新たな気づきを与えるサービスとなるだろう。Googleの「People-based Marketing」の採用は、一貫してサード・パーティのCookieや確率的マッチングに依存してきた広告代理店から、確実に多くの関心を引き起こすであろう。SEOやSEMのコンサルタントが「ハッシュ」という言葉をそこらじゅうで使いまわすようになり、それが流行語のようになるかもしれない。

GoogleがCustomer Matchに対する自分たちの回答を送り出したことにより、平凡なサード・パーティのトラッキングCookieはどうなるのであろうか。また、ラストクリックモデルは、マーケティング担当者がログイン・ユーザーを重視し出すことで廃れていくのだろうか。そしてGoogleのCustomer Matchは、プログラマティックアイデンティティ時代の始まりを早める出来事となるのだろうか。

 

 

 

ABOUT 野下 智之

野下 智之

ExchangeWire Japan 編集長   慶応義塾大学経済学部卒。 外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。 2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。 2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。