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欧州のアドテク企業が米国進出に成功するには?

(翻訳:Asia Plus 黒川賢吾)

米国への進出は欧州市場に基盤を持つアドテク企業が熱望していることである。しかしながら国境を超える参入障壁や厳しい国内マーケットの競争の中でどのように欧州のアドテク企業が成功を収めるのであろうか。ExchangeWireはニューヨークをベースにしたデジタルメディア及びテック企業の収益成長を担うC.R.O Partners社のマネージングパートナーであるMike Kerans氏へのインタビューを行った。Kerans氏はよくある過ちや欧州の企業が米国に進出する上で知っておくべき3つの成功法則について率直な意見を述べてくれた。

採用はボトムアップで

これは直感に反するポイントかもしれません。欧州の企業はよく米国人のカントリーマネージャーを採用するのが正しい第一歩と考えますが、これは間違いです。第一にデジタル業界における米国人の雇用環境は競争が非常に激しく、米国での実績のない国際的なデジタル企業が最高のタレントを雇用するのは困難です。第二に、進出企業がどういった経歴の人が必要で会社に適合するのかを理解するのに大抵6ヶ月から12ヶ月かかります。最後に、採用にはお金がかかり、不必要なバーンレートを生み出します。

我々はボトムアップを推奨しています。あなたと一緒になって、前面に立ち初期のクライアントを確保してくるような営業人材を獲得することから始めてみるべきです。もしCEOが米国への移転が出来ないようであれば、毎月の出張や定期的なエグゼグティブ内のミーティングなどを実施すれば良いのです。我々のクライアントの中には月曜日に米国に入り、火曜日から木曜日までミーティングして木曜日の晩に母国に戻るようなケースもあります。このシステムは上手く作用します。

このフェーズ分けしたアプローチによって検証を行いながら機会を広げることが可能になります。実績が出来ると、よりAレベルの人材を獲得する機会につながっていきます。この方法の方がより効果的で効率的なアプローチです。

アプローチをシンプルに

Mike kerans氏, C.R.O Partners社この点は欧州と米国で最も違いが大きな点で、最も重要な点でもあります。米国市場はより競争が激しいです。一般に米国では、欧州であなたがクライアントに費やしていたほどの時間が与えられません。LUMAScape(カオスマップ)によると現在2500のデジタル企業が存在します。企業は1日にいくつもの新たなピッチを受け、毎日5から10程度の提案を受け続けます。この競争に飛び込もうとするなら、あなたの提案プロセスをきちんと考える必要があります。

最初の提案は簡潔にまとめられ、20分ほどのミーティングを念頭に準備されるべきです。ピッチはシンプル且つ、クライアントとの会話につながるように用意されることで、関係性の構築につながります。こういったアプローチを通じて、メッセージを簡潔化することでクライアントはあなたの企業を心に留めておくことができるでしょう。提案書が必要な場合は6から8枚程度にしておくべきです。

商品提供内容やトライアルなどについては予め具体的な準備をすることで、クライアントに考える時間を与えません。もしあなたが、当社のソリューションは「あなたがやりたいことに応じて、あれもこれも色々なことが出来ます・・」と言い出してしまうと決定が鈍ってしまいます。ミーティングが終わってあなたが最も聞きたくない言葉は「どのように使えるか検討してみましょう」のはずです。というのも、彼らは検討などしないからです。時間がありません。あなたは今この瞬間クライアントの興味を引き出しています。今が次のステップに続く最良のタイミングなのです。

殆どのケースにおいて、次のステップはトライアルです。トライアルの準備は全てにおいて正確であるべきです。製品、インテグレーション、成功となる測定基準、レポート方法、タイミング、費用、そして具体的な次のステップについてなど明確化されている必要があります。価格は簡潔な方が良く、多くのオプション構成をつけるのは好ましくありません。法務書類は短めで、標準化され米国の弁護士によって準備される必要があります。必要なのはクライアントが決定する条項を少なくすることです。彼らに簡単に「Yes」と言わせることなのです。

欧州の企業は多くの製品や機能をバンドルして初期提案に含む傾向がありますが、これは企業側の導入を妨げる原因になります。商品提案を簡潔化し、一つの商品に絞る方法を推奨します。一度企業との関係ができれば、追加機能を販売したり、クライアントとの関係性を強める可能性は広がります。

注意深くポジションを考えよ

これは欧州の企業にとっては難しい要求かもしれません。欧州で成功している企業であっても、同じアプローチを米国に移行しただけでは成功しません。欧州企業で、欧州でやっていたのと同じようなメッセージを持って米国参入を目論む企業は容易に失敗します。最初に良い印象を残せない場合、2度目のチャンスが訪れない可能性は高いでしょう。

米国でのあなたの商品カテゴリーの現状を把握することは必須です。競合を分析し、潜在顧客と話をして、彼らの苦労を理解することです。そしてあなたの会社がその苦悩を解決できる企業だとポジションすることです。専門用語は使わず正確性を心がけましょう。あなたの潜在顧客は似たような提案で似たような言葉を何度も聞いています。あなたのビジネスの差別化を行い、単純な英語で独自性をアピールすることが必要です。

スタートはここからですが、あなた自身のポジションを見つけ戦略に移すには時間がかかるでしょう。一方で、ポジショニングがきちんと出来れば、欧州の企業は米国の競合と同じように成功するチャンスがあるでしょう。重要なのは製品を中心に考えるのでなく、マーケットを中心に考えることです。

もしこれらの3つの成功要素がきちんと実行されれば、あなたの会社が実績を積むにつれ、米国投資を呼び込む機会となるでしょう。例えば、C.R.O PartnersはUK発のアドテク企業であるGrapeshotに対してのサポートを行い、9ヶ月で成功に導き、米国市場での拡張にむけて3.3億ドルもの出資につなげた実績があります。

ABOUT 野下 智之

野下 智之

ExchangeWire Japan 編集長   慶応義塾大学経済学部卒。 外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。 2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。 2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。