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ジーニーに聞く、SSP事業の現状と今後の事業戦略 [インタビュー]

2010年に創業して以来、急スピードで成長を遂げてきたジーニー。最新のアドテクノロジーのみならず、ユーザーの満足度を追及している姿勢がそのカギで、自社開発の「GenieeSSP」は顧客のリピート率が95%を超える。

どのような姿勢で顧客や投資家、提携先の心を掴み、今後どのような展望を思い描いているのか。国内SSP事業のビジネス環境や今後の事業戦略について、工藤 智昭 代表取締役社長に聞いた。

(聞き手: ExchangeWire Japan 野下 智之)

SSPは活用フェーズへ

―国内SSP事業の現在の市況について教えていただけますか。

Photo:めでぃ工藤 智昭氏、Geniee社初期の導入フェーズを終えて活用フェーズに入ったと考えています。ポイントは二つあり、まず一つは技術としてより高度なものが求められるようになってきています。もう一点のポイントはスマホアプリです。PCWebとスマホWebに加えて、アプリの活用が活発化してきました。市場は引き続き拡大していると思います。

―2~3年前と比べると、アドテク自体の熱量は落ち着いてきたようにも感じられますがいかがでしょうか。

そうですね、この数年で「アドテクは万能ではない」と皆が理解したのではないでしょうか。すごく伸びている会社とそれほど伸びていない会社の差がついてきました。その中で本物が残っていくのではないかと思っています。

成長のカギは「コミットメント」

―成長を続ける会社とそうでない会社の差はどこにあるとお考えですか。

よりクライアントの売り上げや経営にコミットし、結果がついてきているかどうかだと思います。結果を出せる会社が力強く伸び続けているのではないでしょうか。

―国内と海外の動向とあわせて、直近の業績をお聞かせください。

昨年は前年比で約250%の成長率を達成しました。ほとんどは国内の売上です。要因の一つは、SSPの高度な活用が広がり、主にネットメディアの純広告やプレミアム枠、動画広告などが我々のプラットフォームに載ってきている、という商流に変化した点です。またスマホアプリについても導入事例が増えており、業績拡大につながっております。

―媒体数は何社程度になるのでしょうか。

海外を含むと1万社を超えます。日本だと約6000社ほどです。

最重要指標は「リピート率」

―SSP事業者にとって媒体数は競争力の源泉だと思いますが、なぜここまでお取引先を増やせたのでしょうか。

Geniee SSPを導入いただくと収益が上がるから、ということに尽きると思います。私どもの最重要の指標は満足度・リピート率です。導入したメディアの枠がマネタイズされて収益がきちんと増えるのかをモニターしていますが、かなり高い確率でご要望に応えられていると思います。

また、ネイティブアド、動画、データを活用したマネタイズ――中でも「メディアの来訪データやユーザデータを使いたい」といった新しいニーズもいち早くとらえて、機能としてプラットフォームに組み込んで来ました。こういった姿勢が広く受け入れられたのではないかと考えています。

具体的なビジネス手法については、まず単純に「データの販売」が挙げられます。例えばゲーム系メディアの来訪データを、ユーザーに許可を取った上で広告主側に販売する。広告主はDSPとこのデータを組み合わせることで、適切なユーザーに最適化された広告配信を行うことができます。つまりデータを収益に変えるDMPとSSPを一体でメディアに提供している、とお考えいただければよいと思います。

データを使ったメディアの商品設計や運用のお手伝いも非常に増えています。一つのサイトでも、例えば小中高生がアクセスしてくる掲示板があるとしたら、DMPとSSPを組み合わせることで、小学生・中学生・高校生それぞれで属性を切ってサービスを提供することが可能です。ターゲティングされた商品をより高単価で広告主に販売できるのです。

―貴社はデマンド側でも顧客と取引されているのですよね?

一部代理店や総合代理店などから「特殊なキャンペーンをやりたい」もしくは「メディアにこういう枠を作りたい」「こういうクリエイティブでやりたい」といった要望があった場合には、代理店や一部の大きな広告主と協働することがあります。ネイティブアドは普及フェーズで、まだ試行錯誤の最中です。

―様々な企業から出資を受けていらっしゃいますが、どういう強みをアピールされたのでしょうか。

出資元企業はそれぞれのビジネスでは強みを持っているのですが、広告業界のテクノロジーに関する知見や広告業界へのノウハウがない企業もありました。我々の強みであるアドテクノロジーと、出資元の、例えばデータなどのコラボにより、大きなシナジーが生み出せるのではないか、ということから出資を決断いただいています。

―実際投資を受けた分は海外に投資されているのでしょうか。

海外と日本のプロダクト開発に割いています。

主要メディアは、プログラマティックをほぼ活用

―メディアはいま、プログラマティックに対してどのように向き合っておられるのでしょうか。

Photo2:工藤-智昭氏、Geniee社主要メディアはほぼ活用しています。昔は純広告の余り枠というイメージがありましたが、今はメジャーな枠、一番いい枠、もしくはネイティブ広告用の枠を作ってプログラマティックでやるなど、主要な部分に組み込まれてきていると感じています。

―欧米と比べた日本のプログラマティックの活用ステージはいかがでしょうか。

似ている部分と違う部分があります。日本だとテレビが強く、動画広告の普及は今年以降本格化するのではないかと見ています。ウェブやネット広告の人材についても、欧米ならインハウス化の流れがありますが、日本だとまだ外部委託が大半です。

―ということは、SSPに頼る部分が日本は相当大きいのでしょうか。

そうだと思います。これからテクノロジーやSSPを活用する上では、商品設計まで考える必要が出てきます。ただ枠をいただいてマネタイズするだけでなく、全体を考えたコンサルができるようになりたいと強く願っています。

―なるほど。そのために組織づくりなどで注力されていることはありますか。

アドテク企業なので、弊社の若手社員にも「技術を学ぼう」と常々言っています。あとは社内で海外や日本の最新事例を共有します。共有しながら自分達でチャレンジしていこうという姿勢を推奨しています。

ランチで口説いた東南アジアの協業先

―東南アジアでのお取り組みについてもお聞かせください。最初はシンガポールに会社を作られ、そこからベトナム、マレーシア、インドネシアと進出されて、インドネシアでAdskom(アズコム)に資本も入れられましたね。どういった経緯だったのでしょうか。

Photo3:工藤-智昭氏、Geniee社

Tech in Asiaという、アジアのベンチャーが集まるイベントで出合いました。色々な企業を見ましたが、アドテクをやっていると言える企業は少なかったです。そんな中で見つけたのがAdskomでした。アドテクと呼べる企業はここしかいないと思い、CEOとランチして「一緒に組みましょう」という話をしました。ちょうど資金調達中と聞いたので、我々が出すと言いました。

AdskomはSSPからスタートし、現在はDMPを活用したトレーディングデスクを中心にサービス提供していますが、昨年の1月から1年間で売上単月10倍近い高成長を遂げています。これは弊社の海外部門に迫る勢いです。インドネシアはEC需要が伸びていますが、ECの広告主のプロモーションによく効くのが決済データです。DMPを導入して、彼ら独自の決済データを活用した広告運用を行うのがトレーディングデスクです。Adskomがデマンド側のトレーディングデスク、ジーニーはメディア側を、それぞれ担当し、広告枠とデータを彼らに提供しています。

―タイ、マレーシアではトランスコスモス社とやっていらっしゃいますね。

トランスコスモスさんもグローバルで、東南アジアに力を入れられている中で打診を受けました。我々も人員に制限があり、タイやマレーシアでは展開できていなかったので、「一緒にやりましょう」という合意ができました。

―東南アジア各地の市場規模はいかがでしょうか。

現時点、最も市場規模が大きいのがインドネシアで、最も伸長しているのもインドネシアです。

―東南アジアのプログラマティックの状況についてお聞かせください。FacebookやGoogleのシェアが高く、それ以外の企業のプログラマティックは厳しいのではないかと言う声も聞かれますがいかがでしょうか。

東南アジアにおいて、GoogleやFacebookなどのグローバルプラットフォームの影響力は、日本以上に大きいですが、それに甘んじることなく、自分達でローカライズされた市場を作っていこうという動きがあります。弊社としては彼らのニーズに応えてプラットフォームをローカライズして提供しています。しかし、ローカルのDSPはほとんど立ち上がっておらず、アドネットワークが大半を占めます。DSPはこれからですね。

―その他、プロダクトカットで注力されている領域はありますか。

一つはネイティブアドです。ディスプレイ以外にも、プログラマティックで流通し始めているので、そこに注力しています。取扱高の中でスマホの比率も増えてきており、約半分はスマホWebです。最近アプリが伸び始めていますが、まだWebのパブリッシャーさんが多いですね。
アプリの場合はSDKが必須となりますが、アプリ事業者は、動作が重くなるのであまり複数のSDKを入れたくないため、1社に問い合わせやリクエストが集約されるといった特徴があります。

―日本のプログラマティックの課題、今後のトレンドについてお聞かせください。

利用者への普及活動が今後の課題だと感じています。広告枠をマネタイズするだけのイメージでとらえているパブリッシャーさんも多いのですが、もっといろいろなことができます。どうやって広告商品を設計するか、どんなデータで商品を拡張するかまで目が行っているメディアはほとんどないのが現状です。

―ネイティブアド以外にPMPもずっとやられていますが、需要は伸びているのでしょうか。

PMPを使えるメディアの枠が出てきたのも、有料枠の効果が最も高いと評価されてきたのも最近の話なので、大手のナショナルクライアントを中心に伸びてはいますが、取扱高は業界全体で見てもそれほど高くないと思います。弊社の場合は10%以下程度です。業界平均でもそのくらいではないでしょうか。

日本発のテクノロジーで最後まで伴走する

―最後に、今後の展望や意気込みについてお聞かせ下さい。

グローバルトレンドはありますが、日本には、ネイティブアドやキュレ―ションメディアといった日本独自に発展した文化があります。日本発のテクノロジーで日本やそれぞれのローカル市場に合ったサービスを提供していきたいと考えています。

グローバル全体で見てもツールを提供して効果が出るまで伴走する、結果までコミットするサービスはそんなに多くありません。我々はその姿勢を大切に日本市場や各国と向き合って商品開発を行っていきたいと考えています。

ABOUT 野下 智之

野下 智之

ExchangeWire Japan 編集長   慶応義塾大学経済学部卒。 外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。 2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。 2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。