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APAC地域における位置情報の問題の対処方法

(翻訳:Asia Plus 黒川賢吾)

データを重視したキャンペーンが増える中、より多くの企業がプロダクトマーケティングの効率性向上や、位置情報を活用した消費者理解の為に、位置情報サービスのデータ利用に目を向けている。しかしながらAPAC地域においては、ユーザーが注意すべきデータの精度についての問題が残されている、とNear社のCTOのMadhusudan Therani氏は今週の業界コラムで指摘している。

APAC地域での位置情報サービスは、2013年の11億ドルから2019年の113億ドルまで年間48.2%のペースで成長を遂げると予想されている。この成長の牽引役はモバイルで、実際この地域の幾つかの国では世界的にも最も高いスマートフォンの普及を遂げている。例えばシンガポールのスマートフォン普及率は86%、オーストラリアは85%である。

その為、戦略、オペレーション、マーケティングなどAPAC地域における重要な決定を行うにあたり、位置情報は非常に重要なデータとなっている。位置情報が広告ターゲティングにおいてここ数年使われるようになっていることもあり、クライアントから、消費者を理解するために位置情報を活用したいという声が大きくなっている。

位置情報は様々なシナリオで活用できる。例えば消費者のプロフィール情報からそれぞれの店舗の商品構成に変更を加えて売上を伸ばしたり、消費者が価値を感じるような商品を増やすことで顧客満足度を高めるような利用方法である。また、位置情報は正しい時間・場所において消費者にリーチすることや、それぞれの地理に位置する消費者を正しく理解することで商品戦略を確立することなどにも利用できる。

多くの企業がモバイルの利用を行う現在、消費者を正しく理解する為に位置情報を活用することは2016年には必須となる。ただし、正しいビジネス決定を行っていく為には、データ品質や位置情報から得られる情報についてより深く理解することが重要になる。

第一に、企業はビジネス戦略の確立において、カスタマージャーニーにおける位置情報がどのような役割を持つのか考える必要がある。例えば、位置情報を活用することで、顧客の確立方法や行動モニタリングを行い、物理的な顧客の行動活動を把握することができ、かつ購入後の活動についても測定を行うことができる。更に、位置情報を他の情報と組み合わせることで、様々なビジネス決定に情報を生かすことができる。

しかしながら、位置情報を前述したような方法で利用する際には、3つの問題を解決する必要がある。ユーザーマッチング、位置情報の正確性、及び異なる企業目的における異なるレベルの正確性の問題である。

複数のデータからユーザープロフィールを確立する

Madhusudan Therani氏

Madhusudan Therani氏

モバイルやウェアラブルデバイス及び関連インフラの急成長により、消費者の位置情報をデバイス上のアプリがGPSセンサーを利用することで取得されることが増えている。また、位置情報を、ブラウザー経由でIPや携帯の電波塔、ホットスポット、ビーコン、POSシステムといったような固定の物理ロケーションから取得する場合もあるだろう。データは通信キャリアからもたらされることもある。

しかしながら、これら全てのデータソースから全体的、かつ正確で信用足る情報を獲得することは誰にとっても難題である。というのは、データは分散しており、お互いにリンクされていないからである。これには以下のような理由が考えられる。

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データが匿名化されている

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データソース間で異なるIDが用いられている

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場所や時間によりデータが分断されている

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一人の消費者から得られるデータが希薄である

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データに、誤差やエラーがあったり、アトリビュート情報が得られていなかったりする

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データに静的情報とリアルタイム情報が混在している

位置情報サービスの提供者は、テクノロジーを駆使してこれら多くの問題を解決し、企業の目的に合致したアドバイスを提供する必要がある。

企業がある消費者を理解しリーチしようとしている場合、正しいオーディエンスデータを取得することが重要である。それゆえ、位置情報は非常に重要になる。データソースが異なると正確性も異なる。通常データの正確性と複数のデータソースへのリーチは反比例の関係にある。

Near社はリーチと正確性、及びソース間のバリエーションにおけるトレードオフの関係について研究し、その結果、ローデータの15%しか正確でないことを突き止めた。それ以外のデータは、地図製作法や、三角測量法、複数ソースのリンクなどの方法によっての補完作業が必要となる。

データ事業者の数と発展のスピードを考えると、業界レベルで位置情報の正確性を標準化するためにしなくてはいけないことは多く残されている。

データの正確性のギャップを埋める

位置情報の正確性を確保するために、異なるレベルで異なるテクノロジーが必要となる点を理解することが重要だ。また、位置情報の正確性に関する要求や効果は、データが個人のレベルで利用されるのか、またはセグメントやグループのレベルで必要なのか、といった利用形態によって異なる。

例えば、リアルタイムで店舗の近くにいる消費者をターゲットしたい場合には、位置情報の正確性に関する要求は店舗の位置とリーチに関する要望によって異なってくる。ショッピングモール全体の訪問者やより大まかな正確性で事足りる大きなエリアでターゲットを捉えた方が、モール内の特定の店舗のみを管理するよりも良いかもしれない。この場合のリーチは適度な類似性を見出すことで高めることができる。

対照的に、同じ店舗におけるアトリビューションを測定するためには、より長い期間により狭い地理空間でトラフィック分析を行う必要があり、より高い正確性が求められる。モール内のカーディーラーのような店舗においては、正確性に関する要求度は少し緩い形態でも問題ないかもしれない。

シンガポールや香港のような多くのビルや高層モールの立ち並ぶ都市においては、位置情報は携帯機器の干渉やGPSのブロックなどにおいてデータエラーが起こりやすい。しかしながら、この問題はデバイスのOSレベルで解決できる。

仮に他の位置情報ソースが使えない場合には、Android及びiOSの両社において、電波塔やWiFiのホットスポットなどの他のデータからの位置情報を提供しており、ユーザーが最後にトラックされた位置情報を取得することができる。

これらの代替えのデータ情報を活用することで正確性は劣るものの、タスク管理としては十分といえるかもしれない。

位置情報を活用するための業界団体による取り組みは、市場や利用ケースによって異なる。現在多くの注目はいかにローデータの精度をできる限り向上させるかという点に注がれており、エラーやコンテキストといった情報に注意を向けている。

良い傾向ではあるものの、パブリッシャーに業界のガイドラインを強いることは難しい。通信や2企業間での提携といった形でのデータソース利用においても、確立した標準や測定方法といったものは存在しない。

これらの現状は企業にどのような意味をもたらすのであろうか?企業にとって、ユーザーのデータをゆりかごから墓場まで熟知した、利用ケースに応じて適当な品質のデータを提供できるような正しい知識を備えた位置情報パートナーを見つけることが重要になる。

これらのパートナーはテクノロジーを正しく理解している必要がある。また、これらの企業がそれぞれのケースに応じて問題点を理解し、データを如何に収集するかを理解していることが必須である。

位置情報を利用する企業は正しいパートナーとともに正しい投げかけをしていく必要がある。企業が効果的なビジネス決定をしていく上で、正しい位置情報の使い方を理解していることは必要不可欠となっている。

ABOUT 野下 智之

野下 智之

ExchangeWire Japan 編集長   慶応義塾大学経済学部卒。 外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。 2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。 2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。