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動画を活用したマーケティングが変える、ユーザーとのコミュニケーションの形(第2回)~マイクロアド~ |WireColumn

動画広告の解説とその活用、そして動画広告を通したマーケティングの発展について、動画広告に精通するマイクロアドグループ社員がリレーコラム形式で解説するシリーズ。

第二回目は、マイクロアドのグループ会社である株式会社エンハンス 代表の立石 誠氏による執筆である。

国内でいち早く「Publisher Trading Desk」事業を展開し、大手メディア企業との広告開発について日々ディスカッションを重ねてきた株式会社エンハンス。「Publisher Trading Desk」のリーディングカンパニーとしての知見から、少しメディア寄りの視点で ”進化している動画広告の現状と今後の期待” についてお伝えできればと思います。

スマートフォン全盛期到来、動画広告の本格拡大

平成26年の総務省情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査により、スマートフォンの利用状況を年代別でみると、20代及び30代の利用率がいずれも8割~9割程度の高水準で推移しています。特に、40代では7割超、50代も半数近くの利用状況となっており、幅広い年代での利用が浸透していることが読み取れます。

またグラフ1より、モバイル機器からのインターネット平均利用時間はこの年の調査では50.5分。
その中でも、特に「動画投稿・共有サービスを見る」利用者の割合においては、男性10代及び20代においては平日20%、休日30%を超え、ユーザーの平日での平均利用時間は100分程度と利用時間が伸びています。

同年2014年、日本において最も利用者数の多い動画コンテンツサービスYoutubeの利用者数は初めてスマートデバイス利用者がPCの利用者を超え、同年は多くのウェブメディアにおいても、スマートデバイスからのウェブアクセスがPCを超える現象が発生しました。

スマートデバイスの利用者拡大により、消費者は自宅、通勤時間、会社での時間などあらゆるシチュエーションで気軽にインターネットを利用できる状況になり、かつスマートフォンの通信の高速化、画面サイズの拡大、高解像度化により、動画コンテンツもストレスなく閲覧ができる状況が整いました。

グラフ1

【グラフ1】

(出典)ニールセン「インターネット利用のPCからスマホへのシフト状況」

このインターネットの急速なスマートデバイスへのシフトは、同時にメディアの広告収益化に大きな変化をもたらします。
スマートフォンでの広告訴求スペースはPCと比較すると乏しく、広告主のスマートフォンでのマーケティング活動においても、まずクリックやコンバージョンなどユーザーアクションベースの広告課金モデルが優先されました。メディアはPCと比較し、広告収益単価の低いスマートデバイスでも、収益性を高めるために、様々な広告在庫の開発のチャレンジが行われました。

ユーザーのweb利用状況の変化に合わせ、PC、スマートデバイスを問わず、高いメッセージ性と、音声をあわせ、広告としての大きな訴求力を持ち合わせる動画広告が、インターネット上の広告においても本格的に注目されはじめたタイミングもこの頃ではないかと思います。

次章では、今後も成長が期待され日々進化を続けている動画広告にフォーカスした考察をしていきたいと思います。

基本的な動画広告フォーマット

表1

【表1】

まず、動画広告には大きく分けて「インストリーム広告」と「アウトストリーム広告」とで分類されます。
インストリーム広告とはYouTubeのような動画コンテンツの再生前や、再生途中などに挿入される動画広告の総称です。
一方、アウトストリーム広告とは、ウェブメディア上の広告枠に配信される動画広告の総称で、その掲載位置や実装方法などで、いくつかの分類に分けることができます。

さらなる在庫拡大が求められるインストリーム広告

インストリーム広告は、動画広告の最も代表的な広告手法で、動画コンテンツのどの位置に挿入するかでプリロール、ミッドロール、ポストロールなどに分類されます。代表的な動画広告商品は、YouTubeのTrueviewが挙げられます。
ユーザーは関心のある動画コンテンツサービスを利用しているため、高い確率で音声付きの広告配信が可能になります。インターネットにおいてもTVCMと並ぶ、高い広告訴求力の動画広告を実施したい広告主を中心に注目を集め、現在もなお動画広告市場の過半数を占める広告手法です。

インストリーム広告の広告在庫において、YouTubeが未だ圧倒的な在庫数を保有していますが、テレビ局や新聞社など、トラディショナルなメディアでも積極的にデジタルメディア用の独自の動画コンテンツを充実させる動きを開始し、インストリーム広告に提供可能な在庫の拡充を図っています。

さらに近年では、専門特化したカテゴリで”動画コンテンツメディア”と呼ばれる新しいメディアも複数立ち上がっています。女性ファッションに特化した動画コンテンツサイトC-Channelは、今後の主流になると言われている縦長動画を標準採用しており、スマートデバイスファーストで設計された動画コンテンツメディアです。

インストリーム広告は、総じて広告主が配信をしたくても在庫数が足りていない状況で、今後さらに広告在庫数の増加が求められています。しかしながら、高い制作費をかけて動画コンテンツを充実させても、従来のテキストベースのWEBサイトと比較するとSEOも含めたサイトPV数の拡大に課題があり、PVの伸び悩みは制作コストに見合う収益確保はまだ十分にはできていないメディアが多いというのが状況のようです。

圧倒的な広告在庫数とプログラマティック取引の拡大により、今後の成長が期待されるアウトストリーム広告

様々なウェブページ内に設けられている既存のディスプレイバナー広告枠や、コンテンツ記事の間や記事終わりの箇所に動画広告を挿入し配信するものがアウトストリーム広告です。従来のバナー広告配信技術を利用し、容易に広告配信を実施することができるため、DSPやアドネットワークの配信プラットフォーム事業社からも、多くの動画広告配信サービスが登場しています。

アウトストリーム広告は、基本的にはデフォルト音声オフでないと配信できない広告掲載枠が多く、インストリーム広告と比較すると、まだ大きな広告取引が実現できていない状況です。しかしながら、アウトストリーム広告は、日常的に利用するスマートフォンのメールやSNS利用時やニュース閲覧時など、多くのユーザーが利用するあらゆるWEBサービスの利用シーンの中において、もっとも多くの在庫数とターゲットユーザーへのリーチができる広告配信手法と言えます。また、今後さらにDSPやDMPの利用が活性化する中で、動画広告を見せたいユーザーを的確に絞りこみ、インターネットの利用シーンやそれぞれのメディア特定をプランニングに入れながら動画広告の配信ができる手法であると言えるでしょう。

以下、アウトストリーム広告について、それぞれの特徴を確認したいと思います。

・インバナー広告

既存の広告スペースを利用して動画広告を配信する方法で、掲載広告枠のスペース(大きさ)は限定されますが、インビュー計測の可視化が進み、さらにはPrivate Market Place(RTB広告取引において特定メディアや、掲載箇所を指定して広告配信を実施することができる機能)の活用が進むと、ターゲットとする消費者に対し、効率的、効果的に動画広告を閲覧してもらうことができる方法となり、改めて今後の成長が期待できる広告配信手法であると考えています。

また、近年では広告のリッチ化の流れも進んでおり、マウスオーバーで、広告がエキスパンド(拡大)して迫力ある動画広告が流れる仕組みなども登場しています。

【事例1】

インバナーエキスパンド

デモ画面

(索引:http://slate.jivox.com インバナーエキスパンドバナー事例より)

【事例2】

スマートデバイスでウェブサイトを閲覧時に、オーバーレイで広告配信される「BLADE VIDEO Premium」

【事例3】

積極的な動画広告展開を見せるtwitter

2016年4月に、提供を開始した「ファーストビュー(First View)」は、ユーザーがその日最初のTwitterログイン時にタイムラインのトップに表示される1日1社限定の動画広告枠で、アウトストリーム広告の一種です。

〈引用:twitter〉

またTwitterは、先日も動画へのリンクの前に動画広告を挿入する「プレロール型動画広告」のβ版を米国で展開中であることが明らかになりました。今後も積極的な展開が期待されます。

・インリード広告

インリード広告は、「メディアコンテンツを読む行為の中で挿入される広告」という意味で、特にニュースメディアや専門情報サイトなどの記事コンテンツ下部、またコンテンツの間のスペースに設置される広告フォーマットです。

メディアは、既存のサイトコンテンツ内に専用の広告タグを設置する作業のみで導入が可能であり、特にPCサイトにおいては大きな動画再生スペースを確保できること、またユーザーがメインのコンテンツを読み終えたタイミングに置かれることで視認性も高い広告と言えるでしょう。

http://misc.teads.tv/us/demo/InReadNikkeiDemo/index.html
(引用:日経電子版インリード広告デモサイト)

スマートフォンアプリの動画広告
飛躍する動画リワード広告とは?

近年、スマートフォン各種アプケーション内の広告において、特に海外製のゲームアプリを中心に動画広告を見る機会が急速に増えたことに気付かれた方も多いのではないでしょうか。

アプリケーション内に、SDKを用いて導入するアプリ向けの動画広告についても、アウトストリーミング型の動画広告があり、アプリケーションベンダーにおいてはその高い収益性で注目を集めているのが「動画リワード広告」です。ここで、動画リワード広告について着目したいと思います。

「動画リワード広告」とは、ユーザーが特定のアプリを起動し利用している際に、設置された動画広告を視聴することで、その利用アプリ内で利用可能なアイテムなどの報酬が得られるもので、従来はツールアプリや、カジュアルアプリが導入のメインでしたが、最近では大手ゲームアプリなどにも積極的に導入が進んでおります。

「動画リワード広告」に着目したい理由としては、まずアプリ利用者が自身の選択で、動画広告を望んで閲覧している点です。ゲームを進行のために、より新しいアイテムを取得する際に、従来はユーザー課金が多く採用をされていましたが、そこに「動画広告を見てアイテムをGET」という選択ボタン現れ、ユーザーが選択した任意のタイミングで「動画広告」が展開されます。この時のユーザー感覚は、広告主があたかもゲームアプリ進行のためのスポンサーになっている状況で、実際にユーザーはその動画広告に対してかなり好意的な印象を持つようです。

図解1

【図解1】

またアプリ運営者にとっても、現在のところ、従来のCPC(クリック課金)型のバナー広告と比較し、数十倍の収益性を期待できる広告マネタイズ手法をなっていることから、すでにバナー広告やインフィード広告と比較し、収益金額ベースでも動画リワードが1番の売上比率になっているアプリも登場しています。

スマートフォンアプリ利用状況のうち、実際にかなりゲームアプリでの利用者が多い状況ではありますが、いち早く「動画リワード広告」を展開する海外アプリの事例では、ゲーム以外のツールアプリなどの割合も徐々に多くなってきています。日本のメディアにおいては、そもそもスマートフォンアプリへの展開や開発に対して消極的な印象があります。その一つの要因として、広告収益性の低迷が要因であることが想定されていることが挙げられますが、今後「動画リワード広告」はじめ、アプリ上の多彩な表現力を持つ広告導入が増え、従来ユーザー課金を中心にマネタイズを考えてきたアプリでも、広告収益化が選択肢となり、開発投資を伴った品質の高いアプリが増えることが期待できると考えます。

ユーザーフレンドリーな広告開発と動画広告の標準化へ

インターネットの通信環境の向上と、端末の高機能化にともない、従来はテレビでしか実施することができなかった高いクオリティと表現力を持つ動画配信が、いまやインターネットを通じて、PC、スマートデバイスなどの端末においても、手軽に行えるようになりました。

広告主はインターネットの広告においても、手軽に動画広告の出稿ができる環境は整っており、特にテレビ離れが進む、若年層をターゲットとして、インターネット上での動画広告も積極的に実施したいという声が多く聞かれるようになりました。

今後の動画広告の本格的な普及においては、ユーザーがPCやスマートデバイスなどの端末で動画広告を閲覧する習慣が根付いてなく、ユーザビリティの観点で思うように広告在庫の開発が進んでいない点が課題であるように思います。

メディアは、動画、静止画を問わず、限られたスペースに集中して、好意的に広告の接触を行ってもらえるような実装を検討することが、今まで以上に重要になっていますが、さらにはスマートフォンアプリの動画広告事例のように、広告掲載スペースの問題だけではなく、従来であれば有償で提供する水準のコンテンツ閲覧を可能にする代わりに広告枠スペース設置する理解を得ていくなど、ユーザーとメディアのエンゲージメントを保ちつつ、広告開発を行う一層の工夫が求められています。

動画広告はインターネット広告市場において、広告単価の引き上げや、より多くのブランド広告主の出稿も期待され、大きな成長の可能性を秘めており、新しい取り組みがどんどん出てくるでしょう。今後も動画広告市場から目を離せません。

最終回となる次回は、” 実際の事例を用いた動画広告市場の分析とそこから見える未来像“についてお伝えさせていただきます。

ABOUT 立石 誠

立石 誠

株式会社 エンハンス

1975年 6月 7日生まれ、東京都出身。
2004年株式会社サイバーエージェントに入社し、広告代理事業部門においてメディア局、営業局局長を歴任、2008年株式会社マイクロアドへ転籍し、アドネットワーク、SSPプラットフォームのメディアサイドパートナーへの導入、拡大に従事した後、2014年12月に株式会社エンハンスを設立し、大手メディア運営者の収益化、データ活用を支援する「Publisher Trading Desk」事業を展開。