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ネイティブ広告は「フォーマットの1つにすぎない」 アプリへの注力を見込むCriteoの戦略[インタビュー]

 

ラストクリックを基準にダイレクトレスポンスのパフォーマンスを追及するCriteo。インターネット広告業界で注目を集めるネイティブ広告とはいわば対極にあるように思われる。
実際のところ、Criteoはネイティブ広告をどのように位置づけているのであろうか。Head of Business Development, Japan 植田 一樹氏にお話をうかがった。

(聞き手: ExchangeWire Japan 野下 智之)

― 自己紹介をお願いします。

photo1大学を卒業後、総合広告会社に入社しました。その後、数社のネットベンチャー企業での経験を経て、2008年にヤフーに入社し、検索連動型広告やディスプレイ広告のネットワークの拡大など、ビジネス開発の仕事に携わりました。そして2012年にCriteoに入社し、直接的なパブリッシャーとの広告のお取引や、国内外のアドネットワークやSSPとのお取引を担当しております。

― 貴社はネイティブ広告をどのように定義されていますか?

広告のデザインやフォーマットが、パブリッシャーの記事やコンテンツなどの提供しているサービスと同様であったり、フィットしたりしている広告を、ネイティブ広告だと考えています。ただ当社がご提供しているバナー広告と対極の位置にいるかというと、Criteoのバナー広告自体がバナー広告らしくない部分もありますので、あまり意識はしていません。ネイティブ広告はフォーマットの1つという認識ですし、特別なキャンペーン設定をしようとも考えていませんね。

― 貴社がネイティブ広告に対応されたのはいつ頃からでしょうか?

当社におけるネイティブ広告には、パブリッシャーとの直接のお取引と、SSPとのRTBを通じての掲載という2つの軸があります。RTBの方は最近始まったものですが、パブリッシャーとの直接取引は、ネイティブ広告という言葉も曖昧だった2014年の前半から始めています。大体この頃から「バナー広告だとここにはいれたくない」というお話をされるパブリッシャーが増えてきましたね。具体的にはPCサイトの記事の直下ですとか、ニュース記事の下部の関連リンクの中などです。その「バナー広告は入れたくない」というユーザビリティに対して何か広告を配信できないか、と検討を重ねた結果、現在で言うところのネイティブ広告のようなフォーマットを作成し、配信を始めました。

― そういう声にどう対応していこうかという議論は貴社の中でありましたか?

この頃から、バナー広告だと配信できない位置や、「広告っぽいバナーは入れません!」と断言されるパブリッシャーもいらっしゃったので、どうしたらお付き合いしていけるだろう、ご利用いただけるだろう、と考えました。もともと当社は広告主からデータフィードで広告の要素をいただき、バナーに作り変えて配信している会社でしたので、画像+テキストのような広告フォーマットを作成すれば配信してもらえるのでは、とまとめていった形です。

ユーザーのコンテンツ体験を妨げないためにネイティブ広告は有効

― 現在貴社が行っているネイティブ広告配信の課題点はありますか?

当社の広告配信システムは、画像をデータフィードで取得するため、もとの画像がネイティブ広告の配信サイズと異なる場合があります。些細な余白が出る程度ですが、例えば本当に正方形じゃないと配信できない場合、一片が同じでないとどんなに微妙なサイズの違いでも配信することができません。フォーマットに綺麗に合わせるために、データフィードで頂くデータの内容をどう整理するかが課題だと感じています。
整理していく上で、本音を言えば媒体社ごとのネイティブ広告用の入稿フォーマットが統一されるといいなと思ってます。でもそれは、ネイティブ広告のコンセプトとは異なった発想だとも感じているので、難しい点かもしれませんが。

― 貴社のネイティブ広告は、広告主にどのような広告効果をもたらすものでしょうか?

先程申し上げた通り、我々にとってネイティブ広告はフォーマットの1つで、特別なものではありません。ですので、バナー広告と併せて配信していますが、最終的には当社のエンジンが、バナー広告とネイティブ広告を含めて、フォーマット、枠、掲載面が最適かどうかを判断して改善していくため、広告主にとっての最大の効果はリーチが増える、インプレッションのボリュームが増えるという点だと思います。

― ネイティブ広告は貴社のビジネスにどのようなインパクトをもたらしますか?

photo2当社の主要な広告主は、ECサイトを運営されている企業様です。ECサイトではスマートフォンでの購入比率がどんどんあがっていますので、スマートフォン上でどのようにマーケティングの活動をしていくか。また、パブリッシャーはどのようにスマートフォンでの広告を収益化していくか。その2点はとても重要になってくると思います。国外だと、広告をブロックするユーザーも増えてきていますし、いかにユーザーのコンテンツ体験を妨げない広告をスマートフォン上で展開していくか、そのポイントにおいてネイティブ広告は重要な立ち位置にいます。そのソリューションをご提供できれば、当社のビジネスに大きなインパクトをもたらしてくれると考えています。

― 世の中の流れがバナー広告からネイティブ広告のフォーマットに変わっていっていますが、貴社にはどのような影響があると考えていますか?

バナー広告であれば当社が作成しますので、「このようなバナー広告を配信します」と、広告主に事前にチェックしていただくことが可能です。しかし、ネイティブ広告は要素をパブリッシャーにお渡しして、パブリッシャーがお持ちのコンテンツに合わせて作成していただく形ですので、最終的にどういったデザインになるかはパブリッシャーにおまかせする形になっています。

つまり、事前に広告主にご確認いただくことが難しいのです。更にネイティブ広告が増えれば、どんどんパブリッシャーがデザインやクリエイティブの主導権を握るようになっていくのではないかと。我々としては、広告主のパフォーマンス最適化のために、バナーのクリエイティブ最適化にもかなり力をいれていますが、そういったことができなくなっていってしまうのではないか、という懸念があります。

ネイティブ広告枠にプログラマティックな広告を配信して収益をあげてもらいたい

― ネイティブ広告に合わせたプロダクトをリリースする予定はありますか?

広告主に対しては、今のところありません。パブリッシャーに対しては、タイムライン広告やインフィード広告をお持ちの企業様に配信していただくためのソリューションをご提供しています。バナー広告で配信する場合は、広告主からデータフィードでデータをいただき、社内のクリエイティブチームでフォーマットにして配信していますが、ネイティブ広告の場合は広告主からいただいているデータをそのままパブリッシャーにお渡ししています。そのコンテンツの仕様に流し込むようなイメージです。そう聞くとネイティブ広告の方が楽に見えるかもしれませんが、ネイティブ広告の場合、後の管理に時間を割きますので、パブリッシャーに投げっぱなしということはありません。広告として入れなければいけない要素などの確認はしっかり管理しています。

― 貴社はネイティブ広告市場の発展にどのように関わっていかれますか?

バナー広告において、パブリッシャーの純広告やプレミアム広告などに競合しようという考えはありませんでした。そこはそこで、パブリッシャーがご自身のメディア価値を使って広告収益化されてるビジネスですから。ただし、それだけでバナー広告の枠が埋まり切るわけでもありませんので、その売れ残っている枠に当社のバナー広告を配信していただいて、収益化してもらいたいという気持ちでやっています。

ネイティブ広告も同様だと考えております。パブリッシャーがご自身でネイティブ広告として配信しているものと競合するつもりはありませんが、ネイティブ広告を配信できる位置にプログラマティックな広告も導入して少しでも収益をあげたい、と考えている企業様に当社をお使いいただければ、と。当社のようなネイティブ広告フォーマットも活用することで、ネイティブ広告が配信できるインプレッション自体が増えていけば、市場全体も伸びていきますので、そのような関わり方をしていきたいなと考えています。

― バナー広告とネイティブ広告でCTRやコンバージョンレートなどの違いはありますか?

もともと、当社のバナー広告はCTRが高いので、CTRだけを比べるとそこまで大差はないと思います。また、CTRには広告の位置が影響するので、単純に比べるのは難しいですね。もし仮に、単体でネイティブ広告とバナー広告を全く同じ位置にABテストで配信すれば、当社のバナー広告の方がCTRは高いでしょう。しかし現実的に考えて、ネイティブ広告はネイティブ広告のための位置に配信されるので、全く同じ位置にバナー広告を配信することはないでしょうから、1:1で比べることはできないと思いますが。

ただ、現状ではネイティブ広告の方がバナー広告よりコストが低いです。特にRTB市場では、まだ競合がそんなに多くないので、RTBにおいてバナーより少し安く買えて、結果的にCPAが低くなっているんです。これから、案件が増えるとどんどん値段が上がっていきますので、出稿するなら早い方がいいんじゃないかな、と思います。

― 最後にパブリッシャーに向けて、メッセージはありますか?

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現在配信しているネイティブ広告は、Webが中心です。当社のビジネス自体もPCのWebとスマートフォンのWebのイメージが強いと思われますし、売上自体もその通りですが、これからはアプリの時代だと思っています。アプリの収益化にどのように貢献できるかを考えると、大事になってくるのがやはりネイティブ広告です。アプリに関しては、現在はRTB経由での配信しか出来ていませんが、直接配信できるソリューションも開発中です。このように、今後はアプリへのネイティブ広告の配信にも注力していく所存です。

ABOUT 野下 智之

野下 智之

ExchangeWire Japan 編集長   慶応義塾大学経済学部卒。 外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。 2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。 2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。