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「スマホにはタイムリーなメッセージ伝達が求められている」 広告ビジネス好調のGunosy事業責任者が語る強み [インタビュー]

情報キュレーションサービス最大手のGunosy。同社は広告事業に関しても、非常に好調な推移を見せている。
業績好調の理由や同社独自の取り組み、広告配信におけるデータ活用の進展などについてGunosy取締役 広告事業本部長の長島徹弥氏にお話をうかがった。

(聞き手: ExchangeWire Japan 野下 智之)

Gunosyが先駆けたインフィード広告への取り組み

― 自己紹介をお願いします

写真1

Gunosyの取締役、広告事業本部長の長島と申します。
2005年からIT業界にいまして、以前はアウンコンサルティングで執行役員をしていました。当時は日本国内のSEM事業管轄や、海外の子会社の立ち上げなどが担当でした。2012年からはグリーでGREE Advertising.Incという子会社の立ち上げやグローバル関連の業務に携わっていました。Gunosyに参画したのは2013年8月のタイミングで、立ち上げ期から、これまでずっと広告事業に携わり、今に至ります。

― Gunosyの広告ビジネスの概要についてお聞かせください

Gunosy内の広告には運用型とプレミアムな純広告型のメニューがあります。そして、もう一つは、アドネットワーク事業があります。これらが広告事業の柱になっています。

インフィード広告に関しては、国内企業としてはまだインフィードという商品がほぼ生まれていない時期に、Gunosyは先陣をきってインフィード広告を開始しました。

スマホのインターフェイスの特性上、画面で見ることができる領域はPCと比較して限定されており、その環境下で、より効果の高い広告体験を作るためにはどうするべきなのかというのが課題の原点でした。限定されている領域だからこそ、メインのコンテンツの表現領域を阻害させない事が好ましく、且つユーザーがそれらのコンテンツを閲覧している目線の動きの中で広告も自然な形で表示を行うことが、サービスのユーザービリティ、広告効果の両方の視点から良いのではないかという話になりました。また、当時日本を含めたグローバル市場でFacebookの広告が非常に高い成長率で伸びており、彼らのプロダクトもGunosyAdsを企画する上で大きなヒントになりました。

― 広告プロダクトには、どのようなものがありますか?

プレミアム広告、運用型広告、そしてアドネットワークの3つの広告があります。
運用型の広告が売上の半分以上を現在は占めています。

プレミアム広告は、ヘッダーに表示される動画広告や記事タイアップ広告などです。社内に広告記事専門の編集部があり、企画立案から取材、Gunosyに最適化された記事作成までを行なっています。

運用型広告は、アプリや通販/コスメなどダイレクト系の広告主様から、プレミアム商品は、大手のナショナルクライアント様からの発注が多いです。

広告ビジネス好調の理由は顧客成果貢献のための環境づくり

― 広告ビジネスが好調の理由についてお聞かせください。

理由として、一番大きいのはメディアのGunosy自体が伸びていることです。ユーザーが増えるごとに広告在庫も増えていきますので。

運用型を好む広告主様はコンバージョンの取れる量と獲得効率(CPA・CPI)の2軸のバランスで出稿メディアを選ぶことが多いかと思いますが、私たちのサービスは継続して配信規模が大きくなっています。またパーソナライズを行いながら記事を配信する技術も当社の強みであり、その技術を応用して興味関心にあった広告が配信されます。運用面では、ダッシュボードの中で年齢・性別・興味クラスタなどをセグメントするのが可能で、配信ロジック×継続的な運用により広告効果を改善しやすい環境を作ることができています。配信ロジック、ターゲティング機能は常時バージョンアップを進めており、これらの取り組みが今売上を伸ばせている大きな理由だと思っています。

― ダッシュボード(管理画面)は広告代理店様にも提供しているのですか?

はい。広告代理店様にも運用していいただいています。
お客様のご要望に応じてGunosyが一部オペレーションをサポートするケースもあります。

― Gunosyのインフィード広告は、一つのクライアント様の中でも多様なクリエイティブの種類が出てくるようですが、かなり作り込んでいるのでしょうか?

そうですね、クリエイティブの制作体制が整っているネット専業の代理店と広告主様にご協力いただきながらテストを進めていった結果、一定量のクリエイティブを一定頻度で変更していくことで効果が維持・改善される可能性が高いことが分かっています。

当社では、パートナー企業に対して、スタートする段階で何本程度の広告を入稿してください、あるいは摩耗してきているのでこの頻度でこれだけ追加しましょうといった、クリエイティブマネジメントのご提案も営業活動の一環として実施しています。

― 広告代理店様に対してもクリエイティブをコンサルティングしているということですか。

はい、しています。これはGunosyの大きな特徴だと思います。

クリエイティブとロジックの改善で広告主様が1200社を突破

― 稼働広告主様が1200社を超えています。すそ野を広げるために何か取り組まれている施策などがあれば、お聞かせください。

おかげさまで非常に多くのお客様にご利用いただいています。先ほど申し上げた通り、配信ロジックの改善とクリエイティブの細かなサポートを愚直に積み重ねてきた結果がこの数字になっていると考えています。

図(クリックで拡大)

今のスマホ市場の広告主様は、ROI(Return On Investment)が重要な指標となっているパフォーマンスニーズが高いケースが非常に多いです。広告の効果が良いとわかれば、広告代理店様の間でも伝播しやすいので、営業効率もよくなります。
営業担当者もクリエイティブや運用の提案を正しく細かく行う取り組みを、大きな広告代理店様から中堅の広告代理店様まで幅広くやってきました。ロジックもよくて効果も出やすかったので、成功して件数を増やせる確度も高かったと言えます。

― ちなみに公表されている広告主様数は、サイバーエージェントのアドテクスタジオなど、バイサイドで連携されているチャネルの広告主様もカウントされているのでしょうか?

いいえ、決算説明資料で開示している数値は、当社が直接販売を行っているGunosy Adsの数値のみとなっております。アドテクの連携で外部パートナーから配信を受け入れている広告主様分は含まれていません。

― 一般的には大手広告主様向けが中心になりがちですが、貴社はロングテールの市場にも取り組みを広げているということですね?

立ち上げの段階では営業リソースが充分にかけられなかったので、お取引する代理店様をしぼった形での取組みが中心でしたが、よいプロダクトを作ることができ、その後は多方面からの問い合わせがありました。

― 広告主様の業種構成について、現状および最近の傾向などがあればお聞かせください。

直近ではアプリの広告主様に比べWeb広告主様の売上構成比が大きくなっています。オークション上のスコアの相対評価においてWeb広告が勝つことが多くなるというのが現状です。その結果先ほど申し上げたボリュームの軸での評価でWeb広告主様が増加し、売上シェアもさらに高まっています。

また、アプリゲーム系の広告市場は数年前と比較すると、だいぶ落ち着いてきている印象があります。一方で、非ゲームのアプリが少しずつ盛り上がりを見せています。
ユーティリティ系のアプリの場合、Gunosyを使っているユーザーとの親和性は高く、成果も見込めると思います。そのため、この辺の市場が増えてくると、また構成比が変わってくるのではないでしょうか。

今後当社ではリターゲティングなど、細かなターゲティングが出来るメニューを増やしていきたいと考えています。それにより、アプリ広告主様に効果的なソリューションとして、より一層ご利用いただけるような環境を作ることが出来ればと思っています。

動画広告はユーザー体験を最優先に検討

― ソーシャルメディアなどでは、インフィード広告の動画化が進んでいますが、貴社も同様の傾向が見られますか?

写真2

はい。どういう風に出すとユーザー体験としても、広告効果としても一番いいのだろうかということはつねに検討しています。ただ、現在はGunosyの中で動画のコンテンツは提供していません。過去にテストは行っているのですが、その際は期待していたほどの利用はありませんでした。動画を提供すること自体が悪かったというよりは、コンテンツの種類や見せ方・出し方の問題だろうということでそこはもう一度検討して動画に取り組む予定です。Gunosy内での動画広告は、その後になるかと思います。

一方で現在は先行してアドネットワークの方で動画機能をリリースして、徐々にアップデートを進めているところです。今年の9月に開始していて、広告枠はインフィードやプレミアムなど様々です。

― Gunosyのターゲティング広告には、どのような特徴がありますか?広告配信には、どのようなデータを活用していますか?

私たちが持っているデータは、誰が何を読んでいるといったユーザーの記事閲覧の情報がベースで存在し、それらに占いなどで入力される生年月日や天気で入力される位置情報など付属的な情報が加わっていきます。
元々代表の福島をはじめとする創業メンバーのエンジニア達が人工知能領域のエキスパートなのですが、広告だけではなく通常の記事配信にも、われわれが保有しているデータを基に、機械学習やAI(人工知能)と言われる技術を活用したアルゴリズムが設計されています。広告領域においては年齢・デモグラ・興味・関心といった類似のターゲティングは日々改善を行っていて、非常に高い精度を実現できている状況です。

位置情報を使って顧客を店舗まで運ぶ

―ターゲティング広告の配信にサードパーティーデータの活用が始まっていますが、貴社はいかがでしょうか?

検討しています。KDDIと共同で提供している「ニュースパス」というニュースアプリのデータを活用して、ユーザーと顧客の双方にとってメリットの高い広告体験を提供することができればと考えています。
サードパーティーとしてデータを提供している企業や、DMPを保有している企業の方とも今後は協力体制などを模索していきたいと考えていますが、スマートフォン上のデータと言ってもWebではクッキー情報、アプリでは端末ID情報といったように、複数のIDが存在していて、歴史の浅い領域のため、十分な情報量を集めるのが簡単ではありません。そのため、アウトプットとして活用する精度としては、満足するものが作りづらい環境でもあります。

―有効活用が期待されているデータの一つに位置情報がありますが、広告のスケール拡大や売上アップにつながるとお考えですか?

まさに2017年に取り組んでいきたいと思っていることの一つに、位置情報データがあります。
オムニチャネルの考え方としても、来店促進のためのツールとしても、スマホ上でのコミュニケーションの重要性はみながおっしゃっている通りだと私も感じています。その中でもポイントになるのは、「どこどこにいるからどういうコミュニケーションする」つまり、位置情報を使うからこそ可能な訴求やフォーマットを含めた表現を打ち出していくことだと思います。
1年以内にはその辺りの課題がクリアーされたGPSを通じたターゲティングができているといいなと思っています。

位置情報を活用した広告プロダクトは、基本RTB(Real-Time Bidding)で広告在庫を購入するケースが現状は多いと思いますが、RTBの場合在庫は理論的には無尽蔵ながらも、オークションのためやはりボリュームを担保するという点で一つ課題が生じます。また、ブランド企業様の場合は、安心できるメディアへ広告掲載を行いたいというニーズが高いと思います。その中で、スマホはPCのように多くのメディアに対して、ユーザーがバランスよく分散していないため、ソリューションを提供する企業にとっても解決しないといけない課題は多いと感じます。
とりわけアプリになると、Gunosyも含めた特定のメディアにユーザーの量や可処分時間が集中し、ユーザーの分散はWebの世界と比較して起きにくいです。
当社はその点においてはアドバンテージを持っているので、積極的に活用していきたいと考えています。

人工知能を活用し、DMPとしてデータ統合

―広告配信には人工知能の活用もされていくようですが、これに関して詳しくお聞かせください。

ターゲティングにおいてはユーザーの年齢などを推計するのに、機械学習の技術を使っています。
データの幅を広げていくと推計できるカテゴリが増えていきます。現在では、Gunosyだけでなく、子会社のゲームエイトを含め、会社として保有するアセットをDMPとしてデータ統合していこうというプロジェクトが進んでいます。

写真3その中のデータを一つ一つ繋いで、例えばゲームが好きな人だったら、こういうクラスタで配信できるようになるとか、例えば健康食品が好きそうだ、といったプラスアルファのクラスタをうまく作っていきたいと思っています。これらのアプローチの際に人工知能をうまく使いたいと思っていて、Gunosyの中の記事配信や広告配信ももちろんですが、アドネットワークやDSPにそこを応用していけると良い形になるのかもしれません。

顧客のニーズにテクノロジーで応えたい

― 広告ビジネスにおける今後のお取組みについてお聞かせください。

グローバルと比較して相対的に考えた場合ですが、日本国内は営業要素が事業の成果や売上に反映する割合が強い傾向にあると思っています。ただ一方でGoogleやFacebookのように元来持っているプロダクトの品質が高かったり、オリジナリティの高い会社でないとグローバルでの成功は難しいと考えています。
プロダクトが強いというのは、ダイレクトレスポンスのニーズが大きいお客様であれば効果が合わせやすかったり、獲得ボリュームが大きかったりする点や、ブランド企業様であれば彼らの設計するマーケティングストーリーや世界観に貢献できるような商品をタイムリーに提供できることだと思っています。そういった顧客のニーズにテクノロジーとで応えられるようなプロダクト作りを、一貫して頑張っていきたいです。

今後注力して取り組んでいきたいのは、位置情報はもちろん、データインフラの整備と、それを元にしたさらなるターゲティングロジックを突き詰めていくことです。

動画広告の活用については、現在ダイレクトレスポンス目的であれば特定のKPIにより効果を測れますが、ブランディング目的では、ナショナルクライアント様によるテストが一巡した段階であり、どのようにすれば継続的に有効的な動画広告出稿が出来るのかが業界としてまだしっかりと定まっていない状況だと思います。

現在提携させていただいているパートナー企業や業界団体と連携しながら、動画広告でブランド企業様が出稿した際の効果の測定についてしっかりと整備し、正しい動画広告をGunosyとしても販売できるような体制を作っていきたいですね。

また、最近広告主様と直接お話させていただく機会がありますが、販促・ブランディングに問わず、よりタイムリーに彼らのコンセプトに沿ったメッセージを伝えたいニーズが非常に高まっていて、デバイスとしての親和性とテクノロジーの進歩の双方の観点からスマホに期待を持っていただけているように感じます。

勿論テクノロジーだけですべてを解決するということはできません。人だからこそできる領域というのは残り続けると考えています。テクノロジーが得意な領域は最大限活用して、広告主様のマーケティングに役立てる。例えば、大量のデータを一気に処理して、それを元に傾向値を割り出すことやリアルタイムにダイナミックにクリエイティブを配信させることなどは、やはり人よりもテクノロジーを使うことに優位性があると思います。
Gunosyとしてはテクノロジー一辺倒でやっていく訳ではなく、両者の得意な領域を理解した上で、あくまで顧客課題の解決策としてこれら技術を有効に活用していきたいと考えています。

私たちがスマホ広告でできること、Gunosyでできることを広告主様にもっと伝えていきたいですね。私たちが直接啓蒙していくの然り、広告代理店様と共に啓蒙していくことが、大事だと思っています。

ABOUT 野下 智之

野下 智之

ExchangeWire Japan 編集長   慶応義塾大学経済学部卒。 外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。 2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。 2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。